映像による「レクイエム」ニ短調K.626の全て、
−全ての「レクイエム」K.626の映像のアップロードを終えて、(2017年12月現在)

−全36組の多彩なコレクションには、いろいろな映像が揃っており、全ての映像のアップロードがやっと完了した−


1、当初の頃のレクイエムの映像のデータベース、(04年8月現在)

−全13組のアップロードが完了し、このHPの最初の「総括」作業を終えて、感無量の境地である−

                         倉島 収(千葉県柏市K.449)

     2000年に自分のホームページ(以下、HP)(http://mozartian449.blush.jp/mozartian449/) を立ち上げて、1年間何をしようか考えてきた。そして、01年にD-VHSテープレコーダーによるデジタル映像の収集に切り替えてから、毎日のように日課として聴き続けていたモーツァルトの映像ソフトの紹介を、このHPのメインにしようと決断をした。それまで例えばこの「レクイエム」については、十数曲のLP、CD、LDやS-VHSテープなどによるコレクションがあっても、学生時代から続けてきた自分が聴いた印象の記録や感動をした思いなどが何一つ記録に残されておらず、非常に残念に思ってきたからである。

 着手した当初のソフト紹介では、NHKやクラシカジャパンなどの放送で新しくデジタル収録したソフトから順にアップをしており、この「レクイエム」の例では、カラヤン(87)、ベーム(71)、アシュケナージ(105)、バーンスタイン(88)の順に入手し、紹介してきた。
  一つの曲のソフト紹介が多くなってくると、HPの中に検索システムが必要になり、収集したソフトのデータベースを作成して、アップするソフトとの関連づけを整理して明確にする必要が生じてきた。この「レクイエム」については、04年8月にデータベース表をアップし、05年7月にバーンスタインの4組目のソフト紹介を終えた時点で、このHPの「映像のコレクション」を取りまとめる全体の姿が示されることになった。

  現在の最終段階の「レクイエム」の「映像のコレクション」を表示すると、末尾の表−1に示すとおり、全部で36組の収集があり、そのうち映像は21組であって、その全ての紹介がやっと完了することになった。思えばモーツァルトの作品の映像記録を出来るだけ多く集めてみようと約20年前に思い立って以来、これが最初の大曲の紹介記録の完成であった。そのため、過去に行った作文を辿りながら、「映像で見聴きする21組のレクイエム」について取りまとめを行ってみたいと考えた。


2、05年7月時点でのHPのデーターベース−4組のソフトのアップ−

  2005年7月現在での私のデータベースでは、まだ全23組しかなく、そのうち映像は9種類に過ぎなかった。初めてアップする表−1のデータベース表を見ると、まるでこの曲と私との係わりの歴史を示すように並んでおり、いろいろなことが思い出される。
 「レクイエム」の曲の最初のレコードは、ワルター・ニューヨークフイル・ゼーフリートの重量感のある古いコロムビアのLP(54)であり、初めて聴いた宗教曲でもあった。まだ大学生時代だった頃に入手している。私は器楽曲からモ−ツァルトに入っているので、オペラやミサ曲などについては、LPの時代にはこのレコードしかなく、これで十分この曲を理解できると思っていた。今思えば、モーツァルトの生誕200年を祝った記念レコードで豪華なジャケットに入った宝物のような存在であった。CD時代になってこの曲の最初に入手したCDがベームとウイーンフイルのエデイット・マテイスの歌ったもの(71)であった。この素晴らしいCDに最初に出会って、自分としては最も深く聴き込んでおり、このCDこそ最高の「レクイエム」であり十分に満足できる演奏と考えてきた。

  この私の姿勢を変えさせたのは、一つには没後200年を記念したショルテイ・ウイーンフイルのシュテファン寺院でのレクイエムのライブの映像(8-9-2)であった。この映像は、教会の没後200年の追悼ミサの式典のなかで演奏された特殊なライブ中継であったが、この映像によって、宗教音楽を理解するには、教会という場所で得られるオーケストラや合唱の深い響きが重要だと教えられた。さらに早く亡くなったオジェーと若きバルトリが歌っていたが、ソリストたちの映像による視覚的魅力が欠かせないと思うようになった。引き続いて入手したベーム(71)やバーンスタイン(88)やガーデイナー(91)などの教会における映像の素晴らしさが、この思いを私に確信させた。
  また、いろいろなレクイエムの演奏を聴かなければという刺激の一つには、版の問題があった。ショルテイの追悼ライブはランドン版であり、バーンスタインの演奏はバイヤー版であった。ガーデイナー・コープマン・ブリュッヘンなど古楽器系の指揮者は、ジュスマイヤー版をベースに自分の固有の版を使っていたが、ホッグウッドは、かなり大胆なモンダー版を使い、ノリントンはドルース版を使っていた。その他、リリングはレヴィン版を使っていたが、ごく最近のSACDのマッケラスもレヴィン版を使っている。このようにいろいろな版が出回っており、これらを一通り聞いてみようと言うこともあって、このデータベースにあるコレクションの基本が出来たように思う。しかし、この版の問題は、モーツァルトの自筆フラグメントで演奏した18番のシェペリングの演奏を聞いてから、この問題は基本的には、指揮者の裁量の領域の問題であると考えるようになっている。 

  以上のような経緯で、いろいろなレクイエムを聴きその映像を楽しんできたが、最初にデジタルに収録しアップロードしたのはカラヤン(87)・ウイーンフイルの映像(2-7-3)であった。この映像はLDで出ていたが、既発売のCDとソリストも同一で同じ時期のものであり、CDを入手していたのでLDは買わなかったが、幸いにもクラシカジャパンでカラヤン特集として放送してくれたものである。カラヤンは座って指揮をしていたが、その壮麗な美しい演奏はさすが素晴らしく、オーケストラもソリストも全てをカラヤン流にブレンドされた演奏で、映像も指揮者中心に写されていた。実に美しい演奏であったが、何故か心に響くものがなく、何となく感動を呼ばない映像であると感じていた。
  カラヤンに続いてアップしたのは、これも思いがけずクラシカジャパンによる放送の収録で、ベームがウイーンの教会でのライブ映像(3-8-1)であり、ゆっくりしたテンポで悠然としていて深い感動を覚えるものであった。この映像はCDと同じ年の12月に収録され、オーケストラがウイーン交響楽団、ソプラノがマテイスからヤノヴィッツに変更されていたが、よりテンポが遅く、教会の深い響きが印象的なものだった。また、これと同時にアップした古いLPのラインスドルフのケネデイ大統領の追悼ミサのライブ(64)も、式典の中の実用的な演奏として改めて記録に残されるべき演奏であると思った。この二つは重要なので、詳しくは(3-8-1)をご覧頂きたいと思う。



  続いてアップしたアシュケナージとN響のレクイエム(5-3-3)は、阪神・淡路震災10周年記念追悼コンサートライブ(105)であり、これも実用性を持った演奏であった。ソリストに帰国直後の森麻季さんを向かえ、神戸の地元の大合唱団による力強い合唱に特徴があり、被災した方々の思いを受けてアシュケナージが精一杯、N響を振る姿が印象的であり、大勢の被災者を追悼する最新の映像であった。 
  この演奏に続いて、アップしたものは、バーンスタインの映像(5-7-2)であり、この演奏もバーンスタイン夫人の没後10周年の追悼演奏であった。これは上表におけるLDの10と同じソースであるが、クラシカジャパンで放送されたものをデジタルで収録したものである。デジタルでは、LDよりも画像はとても見やすくなったが、音声はLDの方が生々しく感じた。この演奏は、全体としてはゆっくりしたテンポのスケールの大きい伝統的な堂々たる演奏であった。古いミュンヘンの教会で収録され、歌手陣も良く揃っており、晩年のバーンスタインの恐らく最後のカリスマ的な指揮ぶりを見ることが出来、映像として非常に魅力があるものであった。
  また、この時期に新たに入手したものにアーノンクールの新盤のSACDがあり、これにはSACDサラウンド、SACDステレオ、CD ステレオのハイブリッド盤であるほか、エクストラ・トラックがあり、パソコンでMP3の音を聞きながら、モーツァルトの手稿譜が見られるように工夫された面白い新盤てあった。演奏は矢張り古楽器色に満ちた弦や管がキラキラし特有のテンポ・リズム感を持った刺激的な演奏であり、必ずしも好きになれない新しさに満ちていた。映像ではないが、記録に留めたいものであった。

  (以上)(04/08/24)(改訂10/04/05)


3、05年8月以降にアップした4組の新しい「レクイエム」について、

 05年8月以降に放送から新たに入手した映像は、ホーネック(106)、アーノンクール(106)、スエーデン放送合唱団(106)の3種類で、いずれも生誕250年のモーツァルトイヤーの来日記念演奏であった。
 オーストリア生まれのウイーンフイルと共に育ったマンフレッド・ホーネック指揮の演奏は、キリスト教徒でない日本人にキリスト教の流儀の「レクイエム」を良く分からせようとホーネックが企画・構成・指揮をした演奏会(7-1-5)であった。グレゴリア聖歌に始まり、手紙の朗読があってフリーメーソンの葬送音楽やラウダーテ・ドミニムK.339が流れてから、レクイエムが始まって「涙の日」で中断して、アヴェヴェルムで終わるという独自色の強い演奏であった。レクイエムを楽しむ演奏ではないが、「死と再生」と副題が付いたモーツァルトの生誕250年を祈念する日本的なコンサート方式であった。
  続いて、アーノンクールの演奏は、彼の出身母体とも言うべきコンツエントウス・ムジクムとのピリオド演奏(7-2-1)であって、80歳に近い彼のこれまでの活躍の集大成となるべき円熟した境地の演奏であった。冒頭の異様とも思えるテンポの遅さに驚き、全体を通じて特有のテンポの揺れや強弱の激しい変化に戸惑いながらも、折れ曲がったバセットホルンや細いトロンボーンのくすんだ響きを確かめながら、確信を持った演奏ぶりには瞠目せざるを得ないものがあった。この映像はNHK音楽祭2006のシリーズの演奏会であり、NHKホールで収録されこの曲の前にはベスペレK.321が演奏されていた。合唱団はシェーンベルク合唱団であり、古楽器のフルオーケストラの演奏で、自分で収録した5.1CHのハイビジョン映像としては非常に状態が良く、AV的には最も気に入っている。



  また、スエーデン放送合唱団のオルガン伴奏による「レクイエム」(9-2-2)は、合唱団の合唱の美しさや力強さを楽しみ、ソリストのアンサンブルの良さを耳にする 変則的な「レクイエム」であったが、合唱の透明感溢れる質の高い演奏には注目させられた。ハイビジョンのクラシック倶楽部で収録したが、面白い試みであった。
  最後に、09年2月に最新のDVDとして入手した映像に、コリン・デーヴィス(104)のドレスデン国立歌劇場O&Cのもの(9-3-2)があった。これはフルオーケストラを壮大に響かせ歌劇場のソリストたちが参加した伝統的な規模の大きさを誇る演奏で、新しいだけに音質・画質ともに優れたものであった。このゼンパー・オーパーを総動員したDVDは、デーヴィス特有の暖かな円熟味を感じさせる新録音であり、デーヴィスの風格あるしっかりした指揮振りに乗って、ゼンパーオーパーの歌手たちや合唱団が手慣れた自分たちの舞台上で整然と歌う落ち着いた感じのする「レクイエム」であった。このDVDは音声が残念ながらPCMの2CHだけであるが、映像は新しいだけにハイビジョン並で、最高の出来映えと言っても過言でない。カラヤン・ベーム・バーンスタインの三大映像が音声・映像共に古さを感じさせるようになってきているので、それらに変わる新しいフルオーケストラの伝統的なレクイエムとしてこのDVDを推薦しておきたいと思う。


4、古いLDやS-VHSテープの画像からアップした5組の「レクイエム」について、

  新しく入手した映像の紹介が完了したので、以前から保存されていたLDやS-VHSテープの画像に、やっと着手できることになった。順不同で思いつくままに紹介してきているが、目立つのは91年の没後200年のモーツァルトイヤーを記念したものが3組もあり、ショルテイ(91)とウイーンフイルの記念すべきシュテファン大聖堂の追悼ミサの中継を始めとして、ガーデイナー(91)とバロック・アンサンブルによるバルセロナのカタルーニャ音楽堂におけるライブと、コープマン(91)とアムステルダム・バロックオーケストラによる来日記念ライブの二組のピリオド演奏があった。やはりそれぞれがオリジナルの個性を持った「レクイエム」であったと言えよう。
 残りの二つの演奏は、フロール(96)がN響と芸大合唱団を指揮した壮大な演奏も記憶に新しいし、ブリュッヘン(98)と18世紀オーケストラのピリオド演奏も非常に印象深いライブ演奏であった。

  始めにショルテイとウイーンフイルによる映像(8-9-2)は、あの聖シュテファン大聖堂における没後200年目の追悼ミサの「レクイエム」であり、衛星生中継で収録したものである。この映像は、「レクイエム」と言う宗教音楽を、追悼ミサという宗教儀式の実用音楽としての姿で実際に見聞き出来る初めての試みであり、ベーム、カラヤン亡き後にウイーン音楽界の重鎮として活躍し始めた今は亡きショルテイがウイーンフイルと合唱団を指揮する姿が目新しく、その変貌ぶりが印象的であった。この映像は、LPやCDで音として聴いていた音楽では見過ごしてしまう演奏との一体感を改めて私に気付かせると共に、あの大聖堂や華やかなミサの式典、オペラ歌手たちによるソリストたちの魅力を十分に味合わせるものであった。この映像はテープの2時間の収録時間を超え最後の一部がカットされてしまったが、後日発売のレーザーデイスクでは93分の収録時間でうまく編集されたものであった。

  続くガーデイナー指揮、イギリス・バロック管弦楽団とモンテヴェルデイ合唱団による「レクイエム」(8-5-2)も、1991年12月5日にバルセロナのカタルーニャ音楽堂で行われライブであり、このレーザーデイスクにはミサ曲ハ短調K.427「グレート」も含まれた徳用盤であった。この映像では、ガーデイナーの指揮による見事な古楽器奏法と、少人数ではあるがモンテヴェルデイ合唱団の優れたアンサンブルとは、今聴いても色が褪せぬききものであり、また、若さ溢れるボニーとオッターの二人の美人ソリストたちの素晴らしい歌唱力を味わうことが出来る注目盤と言えよう。ガーデイナーの指揮振りは、古楽奏法に徹した随処に急緩・強弱のメリハリの効いた響きを聴かせてくれ、終始、感情に溺れずに冷静に、むしろ淡々とした指揮振りを見せていた。ガーデイナーのパートナーであるイギリスバロック管弦楽団とモンテヴェルデイ合唱団は、いずれも人数は少ないが少数精鋭のプロ集団という感じであり、恐らくバッハのカンタータなどの宗教曲の演奏で鍛えられたグループで、ウイーン時代の宗教曲2曲を自信を持って演奏していた。また、バーバラ・ボニーやフォン・オッターなどは、91年頃は若さ溢れる売り出し中の年代であったろうが、自信に溢れた素晴らしい歌唱力を感じさせ、ソリスト陣の資質の高さを感じさせるレクイエムであった。



  続く映像は、トン・コープマン指揮とアムステルダム・バロック・オーケストラおよびオランダ・バッハ・ソサイエテイ合唱団による「レクイエム」(9-2-2)であり、これは私が初めて聴いた古楽器演奏による本格的な「モツレク」であった。このコープマンのレクイエムは、古楽器演奏の中でも最初期のものであり、最初に聴いたときから、オーケストラがギスギスしてテインパニーが強すぎ、テンポが早くて抑揚がなく、好きになれなかったが、ガーデイナーやブリュッヘンなど古楽器演奏に慣れた耳で改めて聞き直しても、やはり当初の印象と変わらなかった。合唱は小編成でも良かったのであるが、交響曲シリーズでもそうであったが、やはりオーケストラの響きが薄く弱いのであろう。コープマンは全身を使って細かく指揮をしていたが、呼べども答えずのように、心に届かない通り一遍のように聞こえていた。レクイエムには、欲を言えばきりがないが、もっと豊かなどっしりとした響きが欲しいし、もっと大らかな心の叫びのようなものが聞こえて欲しかった。

  クラウス=ピーター・フロール指揮とN響による「レクイエム」(8-12-2)は、1996年11月におけるN響定期第1304回であり、合唱団は東京芸術大学合唱団によるNHKホールのライブ演奏であった。N響の「レクイエム」は、このHPでは2度目であり、既にアシュケナージ(105)の演奏がアップされているが、この演奏はおよそ10年前のものであり、ソリストたちも当時有名な菅英三子、永井和子、吉田浩之、多田羅迪夫、の多彩なメンバーであった。 この演奏は、最初にイングリード・ヘブラーによるピアノ協奏曲第27番が演奏されており、フロールのヘブラーとの協演は、彼の優しさが滲み出たような指揮振りであったが、「レクイエム」では一転して指揮者の若さとエネルギーが満ち溢れた壮大な演奏であり、 N響も大編成による芸大合唱団もこれに応えるようなエネルギッシュな演奏であった。この演奏は、カラヤンやベームなどの大規模で壮大な「レクイエム」の系譜をひく国内版のイメージであり、立派なコンサートであると思った。

  最後に触れることになったブリュッヘンの「レクイエム」の日本公演は、98年3月30日、東京芸術劇場で行われたもの(8-11-2)であり、NHKの教育テレビで98年11月29日に放送されている。このコンサートの曲目は、1、フリーメースンのための葬送音楽ハ短調K.477(479a)、2、アダージョ変ロ長調K.411(484a)、3、「レクイエム」ニ短調K.626(ジュスマイヤー=ブリュッヘン版)とされていた。このブリュッヘンの「レクイエム」は、ベームやバーンスタインのものなどと同様に、とても緊張を強いる厳しいが充実した演奏であった。18世紀オーケストラという彼自身が編成した手足のような古楽器集団の見事なアンサンブルにより、古楽器特有の響きが再現されていたし、また4人のソリストを含むオランダ室内合唱団という少人数ではあるが何れも子飼いの熟達した合唱団のお陰で、アンサンブルの優れた透明な合唱を聴くことが出来た。この響きは、日本芸術劇場のホールでの演奏会形式による演奏であったことが幸いしていたかもしれない。ブリュッヘンの「レクイエム」は、彼一流のお膳立てがあり、手慣れた古楽器集団と少人数のオランダ室内合唱団を完璧なまでにコントロールした迫力あるコンサート・ライブを聴かせてくれていた。


   5、13種類の映像の「レクイエム」の演奏形態のいろいろ、

 これまで聴いてきた「レクイエム」は、ワルター(54)の最初の演奏から考えてみるとおよそ半世紀にわたる演奏の歴史と演奏形態の変遷のようなものがあると思われる。映像で最初に見られたカラヤンの演奏は、オーケストラと合唱団やソリストたちまで全体をブレンド・ミックスして、美的にレガート至上の境地で力でまとめていくタイプの壮大な演奏であった。続くバーンスタインやベームの80年代の演奏は、やはりソリストに有名なオペラ歌手を動員し、フルオーケストラや合唱団の力強さを見せつける壮大で流麗な規模の大きさを誇る演奏であったと言えよう。

 しかしこの頃から始まったホグウッドやアーノンクールなどのピリオド楽器を用いたピリオド奏法による演奏は、18世紀に演奏された音楽を現代でも生かそうとする試みであり、生き生きとしたテンポとリズム感や、小規模な古楽器の弦楽器と管楽器や合唱などとのアンサンブルの美しさを重視する奏法が強調され好かれだし、次第に勢力を伸ばしてきて定着しつつある。ここの「レクイエム」の映像でも、コープマンやガーデイナーの小規模のオーケストラや合唱団によるピリオド演奏に始まって、最近では、ブリュッヘンやアーノンクールなどの規模が大きいこの分野を集大成したような迫力のある凄い演奏すら現れてきた。

 ベーム・カラヤン以降の大オーケストラ至上主義的な系譜の演奏も充実しており、ショルテイとウイーンフイルの映像やフロールとN響の映像などに端的に見られており、最近では、アシュケナージとN響と神戸市混声合唱団による震災被災者追悼10周年記念演奏、さらには新たに追加されたデ−ヴィスによるゼンパーオーパーの演奏などがその代表例であると考えられる。

 また、「レクイエム」の理解を助ける新しいタイプのコンサートもあった。例えば、ホーネックの企画・構成した「レクイエム」を紹介するコンサートがその一つであり、これは映像がなければ、理解できないタイプの演奏であった。ブリュッヘンのライブコンサートもその例であると思われ、「レクイエム」の前に、フリーメースンのための葬送音楽ハ短調K.477(479a)と、アダージョ(管五重奏)変ロ長調K.411(484a)が演奏されて気分を高めると共に、グレゴリア聖歌の斉唱があった後に「レクイエム」が開始されるなどの工夫がなされたライブコンサートであった。

 以上の通り、アップした13種類の映像ソフトは、個人的な好き嫌いはあっても、それぞれ個性的な演奏が揃っており、それぞれが楽しめる何かを持った演奏であったと思っている。
 しかし、沢山ある映像の中から強いて個人的な好みを述べれば、09年2月にクラシカジャパンで再放送されたベームの古い映像を、今回はブルーレイデイスクに標準モードで収録してみたが、音声も画質も以前に収録したテープのデジタル録画よりも状態が良く、やはりこれが私の最も好みにあった映像(3-8-1)であると、最近、改めて考えている。しかし、新しい最近の状態の良いDVDから選ぶとすれば、コリン・デーヴィスの映像であろうか。
 また、「レクイエム」の印象が全く異なってくるピリオド楽器による演奏については、ブリュッヘンの演奏がメリハリの効いた好ましい映像(8-11-2)になっている。しかし、この演奏は日本公演のライブであるので、過去にLDかDVDで出たと記憶している映像を、是非、入手して加えたいと考えている。また、古楽器演奏ではガーデイナーの演奏も忘れることが出来ない名演であると思われる。


   6、おわりに、

 「レクイエム」のアップロードの完了に当たり、以上のとおり大まかに全映像の総括を行ってみた。これ以上の詳しいことは、それぞれのソフトの印象記をご覧いただきたいと思う。終わってみれば、自分でも馬鹿げたようなことを良くやったなという感想であるが、しかし真剣になってソフトを聴き、そのイメージが残っているうちに下手な作文をした結果であり、自分なりに苦労した産物であると考えている。これから、オペラや交響曲、ピアノ協奏曲など沢山ある有名曲の全てをこのような形で整理したいと考えているが、少しでも小生と同じように考える同好の士がおられたら幸いだと思っている。
終わりに、このHPを訪問していただいた方々にお願いがある。ここでアップした13映像は、恐らくごく一部であり、このコレクションには漏れが多いものと考えている。私自身もコリン・デーヴィスやブリュッヘンなどの指揮者によるレーザー・デイスクがあったことを記憶しており、これからも漏れを補って出来るだけ完璧なものに整備してゆきたいと考えている。そのため、もしここにない「レクイエム」の映像ソフトをお持ちの方には、メールでお知らせいただき、そのソフトを是非入手してアップしてみたいと考えている。もしそのソフトをDVDにして送付していただければ、誠に有り難いし、そのお礼として、許されるならば、13映像のうち欲しいものがあれば、DVDにしてお返しとしてお送りしたいと考えているが、いかがなものであろうか。どうか宜しくご協力いただけるよう、お願いしたいと考えている。

(以上)(09/03/24)(10/04/12)




7、補遺−1、三つの最新の素晴らしいDVDの追加、(2011年9月現在)

      2010年4月にデーヴィス指揮のドレスデン・シュターツOPの「レクイエム」の新しいDVDを入手して、全13組の映像の「レクイエム」のアップロードを完了し、「レクイエム」全体の総括を行ったばかりであるが、皮肉なことに2011年9月現在では、次の通り、1組の新しい「レクイエム」の演奏と2組の古いDVD録画が加わっている。いずれも記録に残すべき貴重な演奏が揃ったので、この総括に追加しておきたいと思う。

      最初の曲は、ミシェル・コルボの指揮とローザンヌ合唱団およびシンフォニア・ヴァルソヴィアによる「レクイエム」(10-8-1)であり、 2010年5月3日、日比谷で行われたラ・フォル・ジュルネ東京における公演をライブの中継で収録したものである。この演奏は、ショパン特集の中でショパンの遺言だった曲を聴くという趣向の中で、パリのマドレーヌ寺院での葬送再現コンサートとして演奏されたものである。私はショパンのお葬式で、モーツァルトを演奏して欲しいと言い残したことは知っていたが、このようなスタイルでマドレーヌ寺院で行われたことを初めて知った。私はコルボとローザンヌ合唱団の「レクイエム」は、モダンな響きのする現代風な演奏であって、これまでアップしてきたものとは異なる新鮮な感じがした。なお、この演奏は、この年の一月にフランスの本家のラ・フォル・ジュルネでも同様に演奏され、クラシカ・ジャパンで収録している(表-1参照)が、ソリストのテノールが入れ替わっただけで、ほぼ同じスタイルの演奏であった。



      二番目はクラウデイオ・アバドとベルリンフイルによる「レクイエム」(11-7-1)であり、1999年7月16日、カラヤンの没後10周年のメモリアル・コンサートである。何とベルリンフイルを引き連れてザルツブル大聖堂で収録された記念すべき映像であった。この映像はアバドの全体から滲み出てくる中庸を得たテンポが良く、この暖かみのある指揮ぶりには、安心して音楽に浸ることが出来た。それに加えてベルリンフイルが素晴らしく、また、スエーデン放送合唱団が少人数でありながら迫力があり、透明感のある合唱やアンサンブルの良さなどに加えて、ソリストたちの顔ぶれが最高で、まさにカラヤンお気に入りの面々が揃って実力を発揮していた。指揮者、オーケストラ、合唱団、ソリストたちと、これだけの実力ある顔ぶれが揃った「レクイエム」は、余り例がなく、期待通りに人々の思いに応えた堂々たる「エクイエムを」を聞かせてくれたと思う。



                 現在最も新しいDVDは、 このアーノンクールとウイーン・コンツエントウス・ムジクスとウイーン国立歌劇場による1981年の万聖節コンサートにおける「レクイエム」である。今回のこのアーノンクールの「エクイエム」は、矢張り古楽器によるピリオド奏法の中では最初の映像であり、その典型と言うべき新しい演奏に聞こえた。この演奏は、数ある古楽器演奏の中では最も先鋭的に聞こえる、52歳のアーノンクールのまさに挑戦的な演奏の記録であると言うことが出来よう。同じオーケストラによる彼の2006年の日本公演の映像(7-2-1)では、77歳になった彼の方でも角が取れ頑なさがなくなって、円熟味が増していたように思われる。ここに奇しくも同じ指揮者による二つの演奏が揃ったが、この演奏のどちらを取るべきかは、「音楽」として文字通り心地よく楽しんで聴くか、「音楽」に新たな緊張を強いるものを好んで聴くかの、聴くものの「音楽」に対するスタンスの違いによって、受け取り方が異なってくると思われる。

(以上)(2011/09/12)


8、補遺−2、最新のアバド(2012)と最も古いLDのデーヴィス(8400)の二つの素晴らしい映像の追加、(2013年5月現在)

     前回のアップロードに続いて1年足らずの経過のうちに、二つの重要な「レクイエム」の映像が加わった。第一の映像は、クラウデイオ・アバド指揮による2012年ルッツエルン音楽祭におけるルッツエルン音楽祭管弦楽団とバイエルン・スエーデン合唱団による最新の映像(12-12-3)である。第二の映像は、コリン・デーヴィスしきによるバイエルン放送交響楽団と合唱団による演奏で初期のレーザーデイスクによる映像として発売されていたもの(13-5-3)であるが、最近になってから偶然に入手したものである。

         第一のアバドのこの新しい「レクイエム」は、演奏会形式であったためか、前回のベルリンフイルによるザルツブルグ大聖堂での録音に較べて、より大編成のオーケストラと合唱団であったにも拘わらず全体の響きが薄く、あっさりと淡々とした感じで進む「レクイエム」であった。弦楽器がやたらに多い臨時的な編成のオーケストラが災いしていたかも知れない。しかし、前回も書いているが、アバドの「レクイエム」は、矢張り、彼の全身から滲み出てくるような中庸を得たテンポが良く、この暖かみのある指揮ぶりには、安心して音楽に浸ることが出来、今回も前回同様に、頭の下がる思いのする音楽が続いていた。
         この番組の最後で、石田衣良が従来の解釈よりも「名刺代わりに作った曲」と考えた方が未来への希望に溢れ、聴感上望ましいのではないかという感想を述べていたが、同感であった。私は前回のベルリンフイルによる大聖堂の演奏が最も素晴らしい演奏の一つと考えていたが、今回のアバドの新映像と較べても、まとまりや集中度の高まりなどの面において、前回の演奏の方が優れていると思っている。

         第二のコリン・デーヴィスの新しく入手した映像は、年代的にはアーノンクールの万聖節コンサートの「レクイエム」(1981)に次いで古い映像であった。ソリストにマテイスやシュライヤーなどの最高の人たちを迎え、合唱団も力強く素晴らしい演奏であったが、コンサート・ホールでの演奏会形式であったためか、教会の大聖堂での録音に較べて響きが薄く、あっさりと淡々とした演奏に感じたので、ここで比較の意味で デーヴィスの最新のオペラ劇場での「レクイエム」(2004)(9-3-2)を聴いてみた。前回も書いているが、デーヴィスの穏やかでゆっくりと進める彼特有の暖かみのあるまろやかな演奏の基本は変わっていなかった。新録音の方がコントラバスは4本で合唱団の人数も多かったようであるが、デーヴィスの「レクイエム」の全身から滲み出てくるような安定したテンポと暖かみのある指揮ぶりは、同じであったが、新録音のせいかオペラ劇場のせいか響きが良く、素晴らしい映像と音響に安心して浸ることが出来た。従って、このLDの「レクイエム」は、白髪でないデーヴィスを見ることが出来る唯一の映像であり、またエデイット・マテイスやピーター・シュライヤーなどの映像の少ない古い人の全盛期の姿を見たい方に、是非、お薦めできる貴重な映像と位置づけることが出来よう。 (以上)(2013/05/29)


補遺−2'、補遺−2への追記、ヘレヴェツヘのショパン追悼の推薦すべき「レクイエム」の追加、(2017年11月現在)

          補遺−3の追加後、および補遺−4の作文中に、ヘレヴェツヘのショパン追悼の推薦すべき「レクイエム」の推薦理由をアップロードし忘れていることに気がついた。それは、ヘレヴェツヘの「レクイエム」(15-9-1)を見ていただければ、一目瞭然なのであるが、あへて、ここにその理由を明記しておこう。
          ヘレヴェツヘ指揮、シャンゼリゼ管弦楽団による「レクイエム」は、入手したのは2015年なので最新DVDとしたが、録音は2010年10月17日のショパンの命日に、そしてショパン・コンクールの最中に、ワルシャワの聖十字架教会で演奏されたものである。 レクイエムの演奏と典礼が交互に行われ、追悼ミサの様子が実によく示され、典礼も日本語訳が付されているので、非常に分かりやすかったが、典礼と同時に演奏される「レクイエム」が、実用音楽として、死後200年以上経っても、生き生きとしているのに驚かされた、貴重な名演奏が残されたと思った。その上、古楽器演奏で名高いヘレヴェツヘの演奏は、穏やかな荘厳な響きの中で、しっかりした安心出来るテンポで着実に進行しており、合唱団も良く揃った深みのある合唱を繰り広げていた。また、ソリストたちも付属の資料を見ると素晴らしい経歴の方たちであり、オーケストラが指揮者と一体となって、コントラバス3本の深い響きと古楽器特有の澄んだ音を出しており、教会内の実用音楽としては、最高の出来映えであったと思われる。



          以上の結果、補遺−2、に掲げた3演奏のうち、アバドが残したルッツエルン音楽祭の「レクイエム」(2013)およびヘレヴェツヘによるショパン追悼の「レクイエム」(2010)が、追補ー3における「総括」に追加されるべき演奏として、追記しておきたい。


(以上)(2017/11/12追記)




 

表−1 「レクイエム」K.626のデータベース(完成型;2010年03月現在、追補2017年11月)
番号入手日付メデイア指揮者オーケストラソプラノ録年月メモ
58LPWalterNY-POSeefried5400C-WL-5199
2103LPLeinsdorfBoston-SOEndich6401Kennedy追悼(3-8-1)
3851223CDBohm1Wiener-POMathis7104GR-3111-12
41030617SDBohm2Wiener-SOJanowits7112CS736ch(3-8-1)
5101CDKripsWiener-POPopp7312Andante-4993
6931111CDHogwoodAcadm-AntKirkby8309periodPO-POCL-2510
7911209CDMutiBerlin-POPace8700EMI-CDM-7-63609-2
8931111CDKarajanWiener-POT.Sintow8700DG-431_288-2
91020710SDKarajanWiener-POT.Sintow8706CS736ch(2-7-3)
10930902LDBernsteinBayern-RSOMcLaughlin8807churchGR-POLG-1128
11930226VTKoopmanAms-BRQ-OMenon9105periodNHK3CH(9-2-2)
121030430LDGardinerEng.BRQ-OBonney9112churchperiod(8-5-2)
13911205VTSoltiWiener-POAuger9112200追悼ミサ付き(8-9-2)
14931111CDRillingStut-B-COOelze9112HANSSLER-COCO-75120
15931029CDNoringtonLon-CL-PLArgenta9200periodEMI-CDC -7_54525_2
16961109VTFrohlNHK-SO管英三子9611BS2CH(8-12-2)
17981129VTBruggen18cent-OYouslzdou9803periodBS2CH(8-11-2)
18102CDSperingDas neue-OMartinez10105Fragment9曲Opus111-MOP30307
19103CDMattSuddeutschesHeuvelmans10107Brill全集ME-99737/1
20103SACDMackerrasScottisch-COGritton10212LINN-CKD211
21102CDKoslerSlovak-POHajossyovaBrill-OpusBrill-99348
221050206SDAshkenazyNHK-SO森 麻季10501阪神淡路10周年(5-3-3)
10'1050719SDBernsteinBayern-RSOMcLaughlin8807CS736CH(5-7-2)
23105SACDHarnoncourt1ConcentusMSchaefer10311periodBeyerBMG-BVCD-34022
241061217SDHoneck読売日本O半田美和子10609日テレ161(7-1-5)
251061202SDHarnoncourt2ConcentusMKleiter10611periodBeyerBS103HV(7-2-1)
261080905BD5KaryusteSweden-RCHOSchreiter10612BS103HV(9-2-2)
271090211DVDDavisDresden-StOSelbig10402SemperOPH(9-3-2)
番号
281100503BD28CorbosSym-VarsoviaPerie11005Lausanne-C(10-8-1)
28'1101127BD30CorbosSym-VarsoviaPerie11001Nant-Live
291110304DVDAbbadoBerlin-POMattila9907KarajanMem.(11-7-1)
301100528DVDHarnoncourtConcentusMusWienYakar8111万聖節Con(11-9-1)
311121104HDD1AbbadoLuzern-FOProhaska112082012LuzernF(12-12-3)
321121201LDC.DavisBavarian-RSOMathis8400LD(13-5-3)
331140516HDD2グラスナーウイーン楽友協会合唱団半田美和子11212HDD(14-5-2)
341150511DVDHerrewegheChamps-Elysees-OLandshamer11010DVD(15-9-1)
12'1170317CDGardinerEng.BRQ-OBonney9112M225全集CD168(8-5-2)
18'1170317CDSperingDas neue-OMartinez10105M225全集CD168、Fragment9曲、
13'1170317CDSoltiWiener-POAuger9112M225全集CD170(8-9-2)
351171023HD-5CurrentzisMusicaEternaProhaska11707NHKBS3(17-11-1)
361171114BDMinkowskiLouvre-MOKuhmeier11701BD(17-12-2)
1'1171114CDWalterNY-POSeefried5400Walter10CDBox

注1、メデイアの覧で、VTとはアナログビデオテープであり、S-VHSの3倍速で録画している。DDまたはSDとは、デジタルビデオテープであり、DはD-VHSテープ、SはS-VHSテープに、LS-3モードで録画している。SACDは高規格CD、DVDは市販または自作のもの、BDはブルーレイデイスクである。

注2、23のアーノンクールの新盤には、SACD5.1chサラウンド、SACD2chステレオ、CD ステレオのハイブリッド盤であるほか、エクストラ・トラックがあり、パソコンに限ってMP3の音を聞きながら、モーツアルトの自筆譜(手書き譜)が見られるように工夫されている。


 



9、補遺−3、このHPの「レクイエム」K.626の映像の「総括」、および、レコード芸術誌「名曲名盤500(2015)」の推薦盤との比較考察、(2015年11月現在)

      当HPの「レクイエム」の総括は、2010年に13映像が集積したときに行なわれているが、それ以来5年を経て、現在では7映像を加えて、今では20映像の大変なコレクションになっている。これらのうちアーノンクール、アバド、デーヴィスの三人が、二つの演奏を残しているので、17人の指揮者による20演奏が記録されている。これらは、 「レクイエム」の「13映像のアップロードを終えて」とした「総括」の記録に、後日、7映像を追加しており、その末尾に表−1として全てを纏めているので、参照していただきたい。

       私が好ましい演奏として紹介しているのは、古いものではベーム・ウイーンSOのHV化された映像(1971)や新しいものではコリン・デーヴィスのドレスデンの映像(2004)などを挙げてきた。しかしザルツブルグの大聖堂で収録されたアバド・ベルリンフイルの映像(1999)やこれも教会で集録されたバーンスタインの演奏(1988)なども忘れられないオーソドックスな名演であった。古楽器演奏ではアーノンクール・WCMの来日公演記録(2006)やガーデイナー・EBOのLD記録(1991)やブリュッヘン・18COの来日公演記録(1998)、アバドの最後の演奏の「レクイエム」(2012)なども強く印象に残っている演奏であった。さらに別の感動を呼ぶ追悼ミサ付きの教会演奏も忘れがたく、ショルテイのシュテファン教会での演奏(1991)やヘレヴェツヘのポーランドの聖十字架教会でのショパン追悼記念演奏(2010)などが残されており、これらは映像であることが特別の意味を持つものであろう。

       一方、2015年の「レコード芸術8月号」で紹介された「名曲名盤500(2015)」の「レクイエム」で16のCD録音が名曲名盤としてリストアップされている。この選定方法はレコ芸独自の方式によるもので、10人の専属評論家の方々にそれぞれ3,2,1,の評点を付けた3CDを選定していただき、それを得点順に表示されたものである。以下に総得点別の順位に従ってCDを詳記していくが、指揮者名・オーケストラ名・(録音年)の他に(総得点数、推薦者数)も参考に記載した。
       1位はアーノンクール・WCM(2003)(11点、6人)、2位は次の二人であり、ガーデイナー・EBO(1986)(8点、3人)およびベーム・WPO(8点、4人)4位はアバド・BPO(1999)(5点、2人)、5位はカラヤン・BPO(1975)(4点、2人)となっていた。2人以上の推薦者があるのは、以上の5組のCDしかなく、以下の順位は1人が3点とした6位が4組、2点とした10位が2組、1点とした13位が6組となっている。
       6位の4組はいずれも(3点、1人)であり、クルレンツイス・MEO(2010)、ジュリーニ・PhO(1978)、ショルテイ・WPO(1991)、ノイマン・CKO(1990)であり、クルレンツイスが参入してきたのは驚きであるが、推薦者は一人であり起こりうる話であろう。
       10位とされた3組はいずれも(2点、一人)であり、クリステイ(1994)、バーンスタイン(1988)、フェルトホーフェン(2001)、であった。
       最後に13位とされた6組もついでに紹介しておこう。クロウバリー(2011)、コルボ(1975)、鈴木雅明(2013)、ブリュッヘン(1998)、リーブライヒ(2012)、ワルター・NYP(1956)であった。

      長文となったので、感想は簡単にしておきたいが、当HPの映像と同じ音源のものは、アバド、カラヤン、ショルテイ、バーンスタインがあり、別の音源であるがほとんど遜色ないものに、アーノンクール、ガーデイナー、ベームなどがあった。先に比較した交響曲39番に較べて、順位はともかく、非常に似かよった結果となっており、良いコレクションが出来ているものと評価しておきたい。

(以上)(2015/11/02、追加)



10、補遺−4、最新のM225CD全集による三つのCDと、クルレンツイス・ムジカエテルナ(2017)およびミンコフスキー・ルーブル音楽隊(2017)の二つの風変わりな映像の追加、ワルターの生誕200年記念の「レクイエム」のCDなど、(2017年11月現在)

4-1、最新のM225CD全集における2CD、

      最新のCD200枚による没後225年のCD全集では、重複を恐れずに、現時点での全曲が新K番号付きで録音されていることから思い切って購入したのであるが、誠に残念ながら、二つのCDが含まれていたにも拘わらず、二組ともアップ済みの映像の録音がCD化されたものであった。いずれもMイヤーの1991年の12月に収録されたガーデイナーのCD(8-5-2)とショルテイ・ウイーンフイルのシュテファン寺院の記念式典の音源を利用したCD(8-9-2)であった。いずれもレコード芸術誌などでも評価の高かったCDであり、モーツァルティアンなら必ず耳にしてきた定評のある録音であろうと思われる。
       また、18'のシェペリングのモーツァルトが自筆譜面に残したフラグメントを今回改めて聴いてみたが、古楽器奏者たちが重視しているジュスマイヤー版が、原作を忠実に生かしていると感じさせ、余り版の問題について深入りしても本質的ではないと、自分なりに思うようになっている。


4-2、最新の2017ザルツブルク音楽祭におけるクルレンツイスとムジカエテルナの「レクイエム」K.626、

        2017年の夏のザルツブルグ音楽祭のテオドール・クルレンツイス指揮ムジカエテルナと同合唱団のオペラ「ティト帝の慈悲」(17-10-1)および「レクイエム」(17-11-1)が、素晴らしい映像で日本語字幕付きで、早々に放送されて、すでにアップロード済みである。これらの映像を見ると、それぞれに新しさがあり、ザルツブルクではさぞかし話題が多かったであろうと思われた。これらの映像を見ると、第1に、クルレンツイスの指揮の姿が、実に恰好が良いことである。そして映像の撮り方も、多分にそれを意識したものになっており、ファンには恰好の話題になったのであろう。第2に、ダ・ポンテ三部作のCDで現わされたムジカエテルナのピリオド奏法の徹底ぶりが、今回は映像で確認されることとなって、改めて凄い鍛えられたグループであることを認識させられた。第3に、今までオーケストラのピリオド奏法ばかりが話題になっていたムジカエテルナの合唱団が非常に生き生きとして素晴らしく、さらにオペラ「ティト」では見事に演技するローマ市民を演じていて、歌にも演技にも強い熟達した合唱団であることが確認された。この音楽祭に初登場したこのグループのモーツァルトの二作を見る限り、クルレンツイス指揮ムジカエテルナと同合唱団は、新しい新鮮な感覚を与えて、少なくとも私の目には、これまでの評判通りの好ましい存在に感じていた。
        クルレンツイスが、ラクリモサの後半に、フラグメントのラーメン・フーガを追加していることは、残された断片が素晴らしいので、適切な試みであると考えている。


4-3、最新の2017モーツァルト週間におけるミンコフスキー指揮の「レクイエム」K.626、

−マルク・ミンコフスキー指揮グルノーブル・ルーブル宮音楽隊とザルツブルグ・バッハ合唱団および、バルタバス演出のヴェルサイユ馬術アカデミーによる馬技競演による「レクイエム」K.626ほか、2015年1月、ザルツブルグ・モーツァルト週間ライブ、フェルゼンライトシューレ、ザルツブルグ、−

このミンコフスキー指揮の2017モーツァルト週間における「レクイエム」K.626は、バルタバス演出のヴェルサイユ馬術アカデミーによる馬技共演による特別なものであり、最新のBDによる映像であった。この馬技共演を伴った宗教音楽の試みは、これで2回目であり、私は2015年と2017年のモーツァルト週間に参加したので、フェルゼンライトシューレにおける演奏・演技を、直接、ライブで見てきた。 2015年にはカンタータ「悔悟するダヴィデ」K.469による馬技共演(16-1-1)であり、 2017年の試みは、「レクイエム」ほかの演奏によるもので、既に旅行記で報告済みあった。これらの演奏は、フランスで伝統的に培ってきた謂わば馬技と音楽の総合芸術であり、やはり、音楽だけを味わう舞台とは異なるものであろう。これはやはり「レクイエム」の音楽に合わせて馬が踊る総合芸術であり、音楽が「レクイエム」であったので、騎乗者の服装や馬も黒ずくめであり、馬たちの動きも前作よりも華やかさを潜めて、厳粛な音楽に合わせて動くアンサンブルを重視したもののように見えていた。        どうやらミンコフスキー自身が馬術家であり、彼の情熱は音楽と馬に注がれてこの珍しい企画を上演したことになるが、これはバルタバスが率いるヴェルサイユ馬術アカデミーのグループの存在があって初めて可能になり、前回の成功に押されて、2度目の公演となったものであろう。私には馬の揃った踊りの評価はできないが、兎に角、音楽に合わせて美しく整った動きを見せており、とても楽しい馬と人間とオーケストラによる珍しい総合芸術を鑑賞したと実感したものであった。


4-4、ブルーノ・ワルターの生誕200年記念の「レクイエム」K.626(1954)を再び聴いて、

   ブルーノ・ワルターの10CDのBox盤を、何と税込みで1600円で入手した。モーツァルトが3CDあり、第1が交響曲第40番(1959)及び交響曲第41番(1960)のコロンビア交響楽団であり、CDで持っていたのはNYフイルであったので重複はなかった。第2がアイネ・クライネK.525(1958)、フランチェスカッテイとのヴァイオリン協奏曲第3番K.216および第4番K.218で、いずれもコロンビア交響楽団のステレオ盤であった。第3のCDは「レクイエム」K.626であり、これはNYフイルとの生誕200年を記念したモノラル録音のもの(1954)であった。

       ワルターと言えば、私が買った最初のSPレコードがウイーンフイルのアイネ・クライネK.525であり、2枚組450円*2の値段で、まさに宝物として、すり切れるようになるまで良く聴いた、高校2年生の頃の懐かしい思い出があった。年を取ると昔の思い出が大切であるが、この宝物が良い音のCDに甦って、しかも値段がもの凄く安いので、ツイ手を出してしまう。有り難い時代になったものだ。このシリーズには、懐かしいフランチェスカッテイのヴァイオリン協奏曲や、あのト短調交響曲K.550やジュピター交響曲K.551が含まれていた。いずれも私をモーツァルト好きにした原点となる曲たちであった。しかも、これには、あの懐かしい「レクイエム」K.620が含まれていた。この曲は私が大学生時代に最初に聴いた宗教曲というジャンルの曲であり、その荘厳な響きの世界に未知の広がりを感じたものであった。

        これはワルターが生誕200年を記念して録音したLPであり、素晴らしいジャケットに包まれた、未知の世界を解説してくれた心豊かなコロンビア・レコードであった。このLPレコードのカバーには、作曲家が最後に残した8小節のラクリモサの自筆譜が示されており、作曲家を偲ぶ影絵の下には、「この部屋で作曲家は亡くなった」という解説のついた部屋の絵が描かれてあった。このジャケットには、当時は想像するしかない未知の世界が描かれており、恐らく当時からモーツァルトの音楽ばかりでなく、彼の歩んだ人生そのものに、私が深い関心を持ち続けてきた遠因となった印象深い、忘れがたいレコードとジャケットであった。これらを改めて思い出しながら、CDによる新しい音で聴くことになったが、やはり「ワルターここにあり」とも言うべき鄙びた美しい音の世界があり、感無量であった。

       再びワルターの「レクイエム」を新しいCDで聴くことになって、これは映像ではないが、「レクイエム」の総括のまとめとして、私が最初に聴いたLPの「レクイエム」を、現時点で改めてCDで聴き直したこの曲の感想を述べておかなければならない。改めて聴き直してみると、やはりこの演奏は、今でもこの曲の素晴らしさや深さを伝える原点としての意義を持っていると思われた。実にゆっくりと丁寧に始まるイントロイトウスの響きはワルターそのものであり、合唱の音声が録音のせいか透明さを欠いているが、ソロは明確に捉えられており、初めのゼーフリートの堂々とした歌声や、バスのしっかりした声部に支えられたテューバミウムも実に豊かに聞えており、感動的であった。セクエンスの三つの合唱も迫力があり、ラクリモサでの悲しみも切々として聞え、大いに感動を呼ぶものがあると思われた。しかし、私が「レクイエム」をこの「ラクリモサ」で終了したいのは、このワルターのLPレコードのジャケットの8小節の自筆譜が頭から離れないせいであることに気がついた。このワルターのLPが、今でも私のこの曲への聴き方を支配していると考えざるを得ないことに気がついた。このジャケットはこれほど重大な影響力を持っていたのであった。

           ミンコフスキーの騎馬芸術の「レクイエム」が締めの映像となったが、時間的に最新の映像は、クルレンツイスの現代版の格好の良い「レクイエム」であり、この二つの類を見ない現代の「レクイエム」を象徴する映像と、奇しくもワルターのCD復刻版が、2017年を飾る贈り物となった。これからどういう世界が広がるか、ポスト/ピリオドの時代を暫く静観しながら時を待ちたいと思う。


(以上)(2017/12/15)



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