交響曲ト短調(第40番)K.550 の見較べ・聴き比べ−全体の総括−(2018年12月現在)

−全43組の演奏のうち28種類の映像を含んだ最高に多彩なコレクションであり、2016年12月に全映像のアップロードが完了していたが、総括を改めて見直したものである−


交響曲ト短調(第40番)K.550 の見較べ・聴き比べ−全体の総括−(2017年4月現在)、

              倉島 収(千葉県柏市K.449)
1、はじめに−私のホームページにおけるト短調交響曲のいろいろ−

     私のホームページ(以下HPと略)では、「映像ソフトで見るモーツァルトの諸作品」と題して、映像ソフトにより、モーツァルトの諸作品を紹介してきたが、2001年にHPを立ち上げて以来、17年目に入り大変な集積となって来た。ここでは交響曲ト短調(第40番)K.550を紹介することとしているが、私のHPにはこの曲は全体で43組も録音が集まっており、映像についても28種類に達している。これらについては2016年12月に全ての映像のアップロードが完了し、その総括も行なったところであった。
      しかし、2017年中にフェラインの機関誌である季刊「モーツァルテイアン」が100号記念号を発刊する予定になったため、本稿を私のHPの交響曲の代表例として紹介するため、「交響曲ト短調(第40番)K.550 の見較べ・聴き比べ」と改題して見直すことにした。さらに、最近、2017年3月になって入手した新モーツァル全集(M225)では、何とこの曲は4CD(ブリテン(1963)、ブリュッヘン(1991)、ヴェーグ(1994)、ミンコフスキ(2005)、)も含まれていたため、これらを加えた新しい改訂版として、より充実した内容に改める必要が生じてきた。このような経緯から、本稿に新たに着手しているが、基本はHPの各曲ごとに整備してきたデータベースを年代的にキチンと整理することが非常に重要となる。
      モーツァルトについては、1991年に没後200年、2006年に生誕250年のモーツァルト・イヤー(以下、Mイヤーと略)があり、その前後に新しい演奏活動や全集企画などの諸情報が集中するという歴史をたどってきているので、本稿においても2006年のMイヤー以前の古い収集状況から考察を始めて、2006年以降の比較的新しい映像とに分けて総括を考えていきたいと思う。


2、2006年のMイヤー以前のデータベース

−全23組の演奏のうち13種類の映像を含んだまずまずの多彩なコレクション−

     始めに2006年のMイヤーの年に、トン・コープマンのト短調をアップしたときのこの交響曲の集まり具合をチェックして見ると、下表の表-1の前半の通り、全23組の録音があり、そのうち映像は13組あり、HPにアップしていたのは、コープマンのピリオド演奏のHV映像(6-6-3)を含めて8組の映像のアップロードが完了していた。この時点では、この交響曲は録音数がトップクラスで多く、8組の映像をアップ出来たのは、著名オペラしかない情況であった。しかし、まだ未アップの映像が5組もあり、早くアップしたいと思っていたが、06年のMイヤーの影響か、その後追加された映像のアップロードが忙しかったせいか、暫く放置されていた状況にあった。ここで、表-1の前半部分を、見ていただきたいと思う。


       私のこの曲との最初の出会いは、ワルターの1953年のニューヨークフイルとの古いモノラルのLP録音であり、何年か経つうちに日本盤と米盤の2組のLPがあった。CD時代になって当時のワルターのCDシリーズにも手を出しており、最近はこのCDで昔の印象を確かめている状態にある。その後、グラモフォンから輸入盤のLPで、ベーム・ベルリンフイルのモーツァルト交響曲全集が出てから、この一連のレコードが私の交響曲の定番となっていた。
       その後、CD時代になって後期6大交響曲を収録したクーベリック・バイエルンのCD(1980)が出て、私の最も安心して聴ける定番となった。有名なホグウッドの交響曲全集については、私はCDに復刻されてから88年に全集として改めて一括購入しており、この新鮮な古楽器演奏の響きが忘れられないものになっている。しかし、プラーハ以降の4曲については、古楽器臭が強く、伝統的な演奏に較べてもの足りず、必ずしも好きになれず今日に至っている。この全集にはクラリネットを加えた第二版も収録されており、比較して聴くことが出来る。これらのシンフォニーの全集を入手してからは、或いは、映像に関心を持つようになってからは、この曲を自分で単独にCDで求めることは少なくなり、もっぱら、エアチェックによってコツコツと蒐集する方針に切り替えてきて、06年のMイヤーを向かえることとなった。 



表−1、交響曲ト短調K.550(第40番)のデータベース、
番号入手日付メデイア指揮者オーケストラ録年月メモ
158LPWalter1NY-PO5302C-WL-5104
1'58CDWalter1NY-PO5302SONY
21041103SDBohm1Wien-PO6401Innsbruck(4-12-3)
370LPBohm2Berlin-PO6900全集
41000709VTBohm3Wien-PO7300736CH
4'1030102SDBohm3Wien-PO7300736CH(3-2-1)
580LPHogwood1Acient-Acd80?LP単独
6880601CDHogwood1Acient-Acd78-85全集
7860405CDKubelikBayern-RSO8009
8971011CDHarnoncourt1RoyalconcgO8306 
9990627VTSuitnerNHK-SO8401BS11V-2
10960927CDBruggen18cENT-O8500
11102CDHaenchenNethld-CO8700
12980927VTGermettiSuttotgart-O9100 736CH(15-12-1)
131010421SDHarnoncourt2Europe-CO9100736CH(1-4-1)
14911010VTKoopmanAMs.Brq.-O9106NHK全集
15911006VTMuti1Wien-PO910891SalzF736
16940220VTGoldberg水戸-CO9304LastConcert(14-4-2)
171021212SDMehtaMunhen-PO9500736CH(2-12-2)
18950423VTOrpheus-CO9501NHK教育TV(15-11-1)
19951022VTPrevin1NHK-SO9510BS11(13-3-2)
20990509VTMuti2Wien-PO9905日本公演3CHV-2(14-8-1)
211010701SDHogwood2Acient-Acd10106NHK3CH(1-7-1)
221020903SDArbrecht読売日本SO10203BS141HV(2-11-2)
231030725SDBermeltNHK-SO10305BS102CH1491定期(3-9-2)
14'1060402SDKoopmanAMs.Brq.-O9106NHKBS103CH(6-6-3)
12345(06年06月当時)
241061124SDDLuidgeWiener-SO10611NHKBS103CH-HV(7-1-1)
251061126DVDHarnoncourt3Wiener-PO10611NHK3CH(7-3-1)
261080116SDSalemkourBerlin StaatsOPO1060127CS736CH(8-2-2)
271080523BD02ScherenbergerNHK-SO10803BS102HV5.1CH(8-5-1)
281091122BD20Previn2NHK-SO 10910BS103(10-1-1)
291100226BD25SuitnerNHK-SO 8401BS102(10-6-1)
301100226CDSuitnerStaatskap-Dresden760028以降全集CD5
311100401CDNorringtonStuttgart-RSO10600Essential全集CD6EMFlive
321100317BD26延原武春 Telemann-CO10911Period(11-3-1)
331091213BD22GiuliniNew-Philh-O6400CS736(12-9-1)
15'1121028LDMuti1Wiener-PO910891SalzF.LD(13-4-1)
341130111CDKlempererPhilharmonia-O54-708CDset
351131215HD-2RattleBerliner-PO11308HDDCS736(14-1-1)
361141012HD-2BlomstedtNHK-SO11409HDDBS103(15-2-1)
371150511HD-1HarnoncourtWCM11407 HDDCS736(15-6-1)
4”1150511HD-1Bohm3Wien-SO6900736CHHV化(15-7-1)
381160922BDCHLangreeBerlin-PO11301BDCH(15-8-4)
391160922BDCHPinnockBerlin-PO10810BDCH(16-12-1)
401170317CDBrittenLondon-SO6312M225全集CD101
411170317CDBruggen18thCentury-O 9109M225全集CD60
421170317CDVeghCamerata-Acad9410M225全集CD92
431170317CDMinkowskiMusis du Louvre10510M225全集CD61
441171126HDD-5鈴木秀美リベラ・クラシカ11711NHK-HD-5(18-1-1)
451171114CDWalter2Columbia-SO195910CDBox盤
461180625HD-2NelsonsGevanthaus-O11803NHKBS3(18-12-2)
123456
(注1)メデイアの覧で、VTとはアナログビデオテープであり、S-VHSの3倍速で録画している。DDまたはSDとは、デジタルビデオテープであり、DはD-VHSテープ、SはS-VHSテープに、LS-3モードで録画している。SAは高規格CDのSACDを意味している。DVDは市販または自作のDVDを意味している。BDは市販または自作のBDを意味している。最近は、ハードディスクHDDに録画しており、HD-1からHD-5にわたり収録されている。また、BDCHは、ベルリンフイル・デジタル・コンサート・ホールの略で、これがソースのソフトである。
(注2)メモ欄の括弧内の数字は、例えば(16-12-1)では2016年12月号の1番目にアップしたファイル名を意味し、このHPのトップの検索欄に16-12-1を入力すると、検索が可能である。


      HPを始めた2000年ころより映像で交響曲を見るようになって、モーツァルトのシンフォニーにおける楽器編成や木管楽器や管楽器の扱いに関心を抱くようになり、また、ベームの時代の古いフルオーケストラ規模の演奏と最近の小編成の演奏との違いが気になるようになった。さらに、古楽器の演奏もホグウッドや映像でもコープマンのものが全集の形で見られるようになり、時代が変わってきた。このト短調交響曲については、当時は私はなかなかこの変化についていけず、ホグウッドの演奏は何とか私の耳には受け入れ可能であったが、アーノンクールやコープマンのような速いテンポの薄っぺらな感じのせこせこした演奏はどうしても好きになれずにいた。さっぱり進歩がないのかもしれないが、私には今でもベームやクーベリックの大編成のおおらかな演奏がお気に入りになって時々楽しんでいる次第である。
(以上)(06/06/30)


      ト短調交響曲の第1号の映像は、表-1の8番目のアーノンクール2の映像(1-4-1)であり、91年のMイヤーのヨーロッパ室内オーケストラとの演奏であった。これは、最初に聴いたロイアル・コンセルトヘボウオーケストラを指揮したテルデックのCD(1983)の印象ほど尖鋭ではなかったが、これまで親しんできた伝統的演奏とは異なるものであった。続く2番目にアップした映像が、ホグウッドの来日記念(2001)の映像(1-7-1)であり、これも古楽器演奏でCDと同じ編成であって、いずれも定評のある演奏であったので、時代の変化をこれらの映像で確認していたのかも知れない。3番目、4番目の映像は、アルブレヒトと読響(2002)の特集映像とメータとミュンヘンフイル(1995)の映像であり、やっと第5番目にベームとウイーンフイルの映像(1973)がアップロードされたが、これら3組の映像のファイルは、残念ながら、ジオシテイにより割愛されてしまっている(HPのファイルマネージャーの更新の際に機械的に削除された)。このベームの映像は、その後HV映像に甦り、最近になって(15-7-1)として、再度、アップしているが、この6本のコントラバスを擁したフルオーケストラによるオーソドックスな暖かみに溢れたベームの演奏は、今でも語りぐさになっていると思われる。

      続いてバーメルトとN響によるHV放送が第6号の映像(3-9-2)であり、第7番目の映像が、コープマンのNHKがアナログのHV規格で収録した来日交響曲全の映像(6-6-3)であった。これは若い頃のシンフォニーは古楽器演奏に合っていたが、さすが三大交響曲となると、物足りなさを味わいながら、アップロードしていた。

      以上が2006年Mイヤーのころの私のデーターベースの情況であるが、91年Mイヤーの記念演奏のムーテイ・ウイーンフイル(1991)やジェルメッテイ・シュトゥットガルト(1991)のなどのLD演奏などが未アップであり、さらに自分で録画したVHSのゴールドベルクと水戸室内楽団(1993)、オルフェウス室内楽団(1995)、ムーテイ・ウイーンフイルの来日記念演奏(1999)などが、アップロード出来ない状態で、完成にはほど遠い情況にあった。


3、2006年Mイヤー以降のこの曲の収集状況と見較べ・聴き比べ、 

      これから紹介する06年Mイヤー以降にアップした数々の映像は、数が多いのでいくつかのパターンに分類してそれぞれのソフトを略記するすることにした。各映像の詳細は、写真入で別添ファイルに述べているが、例えば、括弧書きの(7-1-1)の意味は、2007年1月号の1番目にアップしたファイルの意味であり、7-1-1を小生のHPのトップで入力すると、検索していただけるようになっている。


1) 生誕250年Mイヤーに収録された3つの映像、 

  2006年のMイヤーにおいて、これを祝福するコンサートの映像が着実に増加しており、上記の表のデータベースでは24〜26番の3組がこれに当たる。その第一は、NHK音楽祭2006におけるファビオ・ルイージ指揮のウイーン交響楽団によるオール・モーツァルト・コンサートのフィナーレで演奏された映像(7-1-1)があり、NHKホールで収録された5.1CHのHV映像で、極めて斬新な感覚を持った穏やかな明るい疾走ぶりのト短調交響曲を聴くことができた。その第2は、 77歳のアーノンクールとウイーンフイルの来日記念の三大交響曲のコンサートであり、これもサントリー・ホールでの5.1CHのHV映像(7-3-1)であった。ウイーンフイルを自在に操り、ピリオド奏法で彼独自の個性的な指揮をする姿を見ながら、大規模オーケストラの充実した響きを確認することが出来た。
         以上の二つが海外のオーケストラの来日記念演奏であったに対して、第三は生誕250年祝賀コンサート・イン・ベルリンと称する06年1月27日、ベルリン国立歌劇場でのベルリンフイルによるもので、バレンボイムが23番のピアノの協奏曲とともに弾き振りをする予定であった。しかし、急病のために、急遽、 ピアノと指揮の二役を若き指揮者サレムクールが代役をするという祝賀コンサートの演奏(8-2-2)であったが、全体を早い軽快なトーンでこの曲のメランコリックな曲調などを余り意識しない、ごく自然に疾走させた新人らしい明るい健康的なト短調シンフォニーとして印象に残っている。


2)  N響と外来の指揮者たちによるト短調シンフォニーの6つの映像、

           06年Mイヤー以降は、暫くN響と外来の指揮者たちの演奏が続いたが、これからはほぼアップロードした順に紹介を続けて行こうと思う。その第一は、 オーボエ奏者として有名だったシェレンベルガーによるN響定期とのオール・モーツァルト・プログラムのフィナーレで演奏されたもの(8-5-1)であった。この演奏はオーボエが活躍する第一版を使い、全体的に古楽器奏法のようにテンポが非常に速く、暗さよりも颯爽とした軽快さを感じさせ、重厚な演奏が多い普段のN響とはひと味異なった驚くほど早いテンポの繊細で軽やかな演奏が行なわれていた。
続く演奏は、09年10月28日にサントリーホールでのプレヴィンとN響によるN響定期の彼の三大交響曲(K.504、543、550)の演奏(10-1-1)である。プレヴィンのゆっくりとしたテンポでじっくりと優雅に歌わせる指揮振りは老ベームにも通ずるものがあり、80歳に達した彼の持つ穏やかな心温まる演奏は、中規模なオーケストラ編成で、弦楽器と管楽器のアンサンブルの美しさを強調した手慣れたN響を通じて自然に滲み出て来たものと思われた。ピリオド奏法のように押しつけがましい所がなく、自然に浸ることが出来るところが聴くものの気持ちを穏やかにさせ、聴いた後の後味の良さに繋がっているものと思われる。

続いて2010年1月にスイートナーが亡くなったため、 スイートナー追悼記念番組としての放送を収録したものであり、彼の三大交響曲の演奏(10-6-1)で、これは1984年1月11日、第919回N響定期演奏会のNHKホールのライブ録音であった。スイートナーの演奏は、テンポが良いばかりでなく壮麗で豊かな感じがする後味の良い素晴らしい演奏であると思ったが、クラリネットが入った第二版を採用し、この曲だけコントラバスを3本に減らしていたが、それでも全体が重々しく感じられた。しかし、当時のN響としてはなかなか充実したしっかりした良い演奏をしていると感心した。

        ここまで来て、N響によるト短調シンフォニーは、全部で6種類あるので、続けて残り3曲を紹介し、N響の演奏を纏めておくことにしよう。一番古い演奏は、先のスイートナーの1984年の演奏であったが、続いて次ぎに古い演奏は、1995年10月19日の第1272回定期公演記録で、NHKホールでのプレヴィンとNHK交響楽団によるオール・モーツァルト・コンサート(13-3-2)であった。この日はセレナードト長調K.525とジャン・フイリップ・コラールのピアノ協奏曲第23番イ長調K.488などと名曲が並び、この交響曲ではやはり初版を用い、コントラバスが4台に追加されていた。プレヴィンの優雅な演奏スタイルには、ごく自然な姿で絶妙なアンサンブルの良さが漲っており、安心して音楽に浸れるばかりでなく、聴いた後の後味の良さにも繋がっているものと思われた。しかし、プレヴィンの先の10-1-1の新しい演奏の10年以上前の演奏であり、比較すると今となっては古さを感じさせる演奏であった。

        次ぎに古い演奏が、2003年6月25日のマテイアス・バーメルト指揮の第1491回N響定期公演のオール・モーツアルト・プログラムであり、サントリーHで収録(3-9-2)されていた。スイス生まれのモーツァルトが得意なバーメルトは、古いモーツアルテイアンにはテンポが良く、歌わせ方もピッタリで、安心して聴ける指揮者であり、オーボエとフルートを使用した第1版で、ベースが4本と言う規模で軽快に演奏していた。この曲の始まりは、余り早くない小気味よいテンポでさりげなく始まり、爽快さがいつも漲っていたが、ハッとするほど暗い表情を見せたり、もとの落ち着いた端正な姿になったりと表情の豊かな演奏であった。しかし、指揮者にはお気の毒であったが、メヌエットのトリオで、終わりにホルンが最後の大事な音を外し興を削いでしまっていた。

        最も新しいN響のト短調シンフォニーは、 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮によるもので、2014年9月19日にN響定期第1788回として、チャイコフスキーの交響曲第5番と共に収録(15-2-1)されていた。この演奏だけは、オール・モーツァルト・プロでないが、この定期演奏の前後に第39番と第41番を演奏しているので、指揮者の考え方と意欲を買いたい演奏であった。やや早めのテンポの良い緊張感に溢れた演奏であり、丁寧に繰り返されている真面目で格調の高い響きをしみじみと味わって、快い気分になっていた。88歳という高齢でありながら、衰えは少しも見せず、かくしゃくとした元気な指揮振りを見せていた。映像のお陰で、最新の画像と音質で格好の良い指揮振りを見ることが出来たし、安定感ある生き生きとしたフレッシュなト短調シンフォニーを聴いて満足であった。

        以上の6種類のN響の演奏を聴いて、このオーケストラはどの指揮者とも良く調子を合わせて標準以上の演奏が出来る素晴らしい団体であると思った。これらの演奏のうち、スイートナー(1984)の演奏は、古き良き時代のしっかりした代表的な演奏であると思ったし、プレヴィン(2009)の演奏は、中規模なオーケストラ編成を生かした弦楽器と管楽器のアンサンブルの美しさを強調した穏やかな演奏であり、またブロムシュテット(2014)の演奏は伝統的な演奏をベースにしてピリオド奏法的の良いところを取り入れた現代的な演奏に思われ、これらは今の時代の映像を代表する優れた演奏であると思われた。


3) 1991年没後200年Mイヤー時に収録された3つの記念コンサートの映像、

        1991年没後200年Mイヤーの年に開催された記念コンサートは多かったが、中でもトン・コープマンとアムステルダム・バロック・オーケストラによる交響曲全曲の来日公演記録は偉業(6-6-3)であり、当時は、古楽器演奏はまだ珍しく、特にこの演奏は小規模なのが特徴であった。コープマンはやはり古楽器によりこれまでと異なった響きの世界を目指していると思われたが、確かに弦楽器と木管楽器の絶妙なバランスの響きなど細かな所で敬服せざるを得ない部分も多かったが、全体的にとにかくテンポの早さと弦楽器の鋭いぎすぎすした感じが耳にまとわりついて、伝統的な演奏に比較すると、自分の耳には心地よさや楽しさを伝える部分が少ないように思われ、折角の全集なのに残念に思うことが多かった。

          第二の演奏は、ムーテイ指揮ウイーンフイルのオール・モーツァルト・コンサートであり、1991年7月28日のザルツブルグ音楽祭において祝祭大劇場で収録されたLDによる映像(13-4-1)であり、デイヴェルテイメントニ長調K.136と「ジュピター」交響曲とがカプリングされた、素晴らしいLDであった。ムーテイの演奏は、第二版を使用しイタリア風のテンポの良い緊張感に溢れた指揮振りにより、颯爽と流れるこの曲の良さとウイーンフイルの巧さと優雅さとを味わせてくれたし、彼自身のイタリア的音楽性とウイーンフイルの持つ伝統的な優雅なモーツァルト演奏とを融合させ、本格的な堂々たる正統派の重厚な充実した響きを聴かせてくれた。



          第三の演奏は、ごく最近にアップロードしたジェルメッテイ指揮のシュトゥットガルト放送交響楽団による91年シュヴェツインゲン音楽祭でのロココ劇場の演奏(15-12-1)で、久しぶりで穏やかな落ち着いた感じの第40番ト短調の交響曲を聴いた。映像は古くて暗くて最低であるが、今では聴けなくなった鄙びた感じのベーム以来の伝統的な演奏であり、懐かしい演奏を楽しむことができた。ジェルメッテイは、クラリネットを含む第二版を使用し、やや早めのテンポを最後まで崩さずに、軽やかな手慣れた指揮振りでオーソドックスに進んで、駆け上がるように疾走する弦楽合奏の軽快さが溢れた演奏であった。


4) 個性に溢れたいろいろなト短調シンフォニー、

       多くの映像の中には、非常に個性に溢れたいろいろな演奏が含まれていたので、これらを個別的に紹介してい行きたい。第一は懐かしいシモン・ゴールドベルグと水戸室内管弦楽団による演奏(14-4-2)で、彼の追悼特集ドキュメンタリ−に含まれていた1993年4月19日の水戸市立文化会館における演奏であった。彼はフルトヴェングラーとベルリンフイルのコンサートマスターとして、若くして全盛時代を築き上げ、アンサンブル奏者として活躍を遂げたが、ユダヤ人であるが故に戦前・戦後と不遇の目を重ね、最後に日本に永住の地を見付けたが、自分のリサイタルを前にして急逝するという薄幸なヴァイオリニストであった。ゴールドベルクの演奏は、出だしはやや早めのテンポであったが、標準的なテンポを崩さずに、軽やかな手慣れた指揮振りで、最後までオーソドックスに進んで、明るい軽快なシンフォニーであった。師のフルトヴェングラーが残した録音のこの曲とは明らかに異なる彼自身の演奏であり、仲間の水戸室内管もアンサンブルが良く、指揮者と一体になった期待に応えた立派な演奏であったと思う。

          第二の個性的な演奏は指揮者なしのオルフェイス室内権限楽団の演奏であり、1995年1月30日のサントリーホールでの来日公演のもの(15-11-1)である。この楽団の弦楽合奏の軽やかで透明感のある爽やかな演奏ぶりに感動を覚えたが、「どうして指揮者がいないのか」という問いには、「全員が指揮者なのです」という答えが跳ね返ってくるようだ。指揮者なしで全員が一体となって演奏する姿は格別なものがあり、さらに管と弦のアンサンブルの良さなどがひときわ目立ち、この合奏団でなければ味わえぬ美しさがあった。

         第三は延原武春指揮の「洋館に響くモーツァルト」と題するテレマン室内オーケストラによる演奏(11-3-1)であり、明治時代に建てられた木造の洋館の大阪倶楽部で2009年11月30日に収録されていた。演奏は指揮者のピリオド奏法への意気込みは良かったが、残念ながらオーケストラがやや技量不足で、早いテンポのピリオド奏法の軽快さはあっても、やや不揃いのところがあり、音の響きも薄く、今一つ楽しい豊かさを味わうことが出来ず、もどかしさが残された。


           5) 後期三大交響曲として演奏されたト短調シンフォニー、

        初めにサイモン・ラトルとベルリンフイルの後期三大シンフォニーの連続演奏記録であり、2013年8月28日にルツエルン・カルチャー&コンヴェンションセンター・ホールで演奏されたもの(14-1-1)である。ラトルのきびきびとしたピリオド奏法による指揮振りが良く目立ち、新鮮な印象を受けた。三曲をまとめて聴くと、それぞれが独立した名作だけに、極めて充実感があり、39番では早めのテンポで軽快に進めており、ベルリンフイルの響きも壮麗で豊かな感じがする後味の良い素晴らしい演奏であると思った。40番では冒頭の爽やかな速いテンポの壮麗さが一貫して全体に及び、明るく疾走するト短調の雰囲気であった。最後の41番は、最初から堂々として力で押すタイプの仕上がりを見せ、さすが伝統あるベルリンフイルの響きであると思わせる壮大なフィナーレを持った、総仕上げのジュピター交響曲になっていた。アバド、アーノンクール、マリナーなどの死によりモーツァルト演奏家が少なくなった現在、ラトルのモーツァルトの管弦楽曲やオペラなどの分野での活躍が、今後、非常に期待されている。



        続いてニコラウス・アーノンクール指揮ウイーン・コンツエントウス・ムジクスによる三大交響曲の連続演奏であり、2014年7月5日にグラーツのシュテファニエンザールで収録されたシュテイリアルテ音楽祭2014の演奏(15-6-1)である。今回のアーノンクールのウイーン・コンツエントウス・ムジクスとの小規模な楽器編成による3曲の連続演奏会であったが、各所で彼独自のオリジナルなアクセントのついたピリオド演奏であり、休みなく3曲が連続演奏されるなど、非常に密度が高く緊張感がみなぎる格調の高い充実した古楽器演奏であった。どうやら「器楽によるオラトリオ」と、最近、彼自身が名付けている演奏の実験的な試みで、この映像では成功のように見受けられたが、形を重視する余り、休憩がないなど観衆に負担を強いているのではないかという心配もあった。アーノンクールは、前回のウイーンフイルとでも、また前々回のヨーロッパ室内楽団でも、クラリネットの入った第二版を使っていたが、いずれもこの曲の始まりは、暗い翳りを持ったモルト・アレグロの厳しい始まりであり、彼がこの曲のテンポの遅い幸せそうな指揮振りに反発を感じてウイーン交響楽団のチェリストを退団したという逸話があるくらい、この曲の冒頭の運びには神経質になっていたように見えた。今回の演奏においても、提示部の繰り返しを行うときや展開部に入る冒頭などでパウセを置いて入ったり、メヌエットが早すぎるなどアーノンクール独自の指揮振りが相変わらず気になり、全体として、最後まで明るさが見えない厳しいト短調シンフォニーのように聞えていた。

           最も新しい三大交響曲の演奏は、N響のト短調シンフォニーのところで述べたヘルベルト・ブロムシュテット指揮によるN響定期のもので、2014年9月のN響定期第1787〜9回として、チャイコフスキーの交響曲第4番〜第6番と共に演奏(15-2-1)されていた。この演奏だけは、オール・モーツァルト・プロでないが、この定期の前後に第39番と第41番を演奏しているので、時間的に連続していないが、この指揮者の三大交響曲としての意欲を買いたい演奏であった。
       第39番のブロムシュテットの演奏は、非常に後味が良い演奏であり、テンポ感が良く、堂々とした正面から取り組んだ大きな演奏で、繰り返しも抵抗なく、落ち着いたしっかりした譜面通りの演奏をしており、ピリオド奏法の新しい感覚と正統的な演奏とを上手く重ね合わせた豊かなものを感じさせていた。ト短調シンフォニーについてはやや早めのテンポの良い緊張感に溢れた演奏であり、丁寧に繰り返されている真面目で格調の高い響きを味わうことが出来、安定感ある生き生きとしたフレッシュなト短調シンフォニーを聴いて満足であった。「ジュピター交響曲」については、全楽章を通じて、ブロムシュテットの終始一貫してオーソドックスな重厚な進め方、各声部のアンサンブルの良さ、良く旋律を歌わせる指揮振りなどがとても印象的であり、第三・第四楽章の繰り返しなども含めて、他に例が少ない素晴らしい演奏であったと思う。N響は30年以上も付き合って来た豊かな指導者を得て、実に伸び伸びと演奏しており、海外の著名なオーケストラにも遜色ない立派な演奏を残してくれたと思う。



        続く演奏は、これまでのような三大シンフォニーの連続演奏会ではないが、最新のクラシカ・ジャパンよりカール・ベーム指揮の三大交響曲、すなわち、ウイーン交響楽団による交響曲第39番変ホ長調K.543(1969)のスタジオ録音、およびウイーンフイルによる交響曲第40番ト短調K.550&交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」(1973)のウイーン楽友協会ホールにおけるライブ映像がセットで連続放送され、最新のHV映像であったためアップロードし直したもの(15-7-1)である。1894年生まれのベームが75歳および79歳の頃に残した二種類の映像であり、いずれも古さを感じさせる映像であったが、今回、HVリマスターによる映像となって新たに甦った。三曲をセットで通して聴いたため、ここに位置付けてみたが、指摘した以外は全ての繰り返しを省略し、ゆったりとした遅めのテンポで、6本のコントラバスを擁したフルオーケストラによるオーソドックスな暖かみに溢れた演奏であり、当時のウイーンの伝統的な演奏スタイルを物語る貴重な映像であろうと思われた。
        ベームの第39番の演奏は、非常に後味が良い爽やかな演奏であり、テンポ感が良く、堂々とした正面から取り組んだ大きなゆったりした演奏で、落ち着いたしっかりした譜面通りの演奏をしており、これがウイーンのモーツァルトの伝統的な豊かな響きであり、正統的な演奏であるとしみじみ感じさせていた。第40番においては、久しぶりでややゆったりした遅めのテンポで流れるように進行するト短調シンフォニーを聴き、落ち着いた爽やかな気分をしみじみと味わっていた。ライブの本格的な公演で大きな拍手で迎えられて指揮をするベームのお元気そうな姿を見て、これが老ベームが79歳になって到達したウイーンの伝統的な奏法におけるご自身の総仕上げの演奏であろうと考えていた。また、ジュピター・シンフォニーでは、 ベームは、一切の繰り返しを全て省略し、実に穏やかなテンポで入念に演奏しており、第二楽章、メヌエット楽章でも落ち着いてしっかりと進めており、最後のフィナーレにおいても、終始一貫して正面から堂々と取り組む姿勢を見せ、最後に見事な盛り上がりを見せて壮麗な世界を築き上げていた。このような演奏ぶりは、普段からのたゆまぬ厳しいウイーンフイルとの付き合いから生じたものであり、特にベームの信条とも言えるオーソドックスな伝統的な進め方や、各声部のアンサンブルの良さ、良く旋律を歌わせる指揮振りなどによるものと思われる。このようなどっしりした伝統的な演奏は、今ではライブでは演奏されなくなり、この残された映像やCDなどでしか聴けなくなったが、このHVリマスターによる映像は、新しい映像と見間違うほど鮮明さが残されており、今では貴重な遺産として永遠に残されるものと思われる。


6) 残された有名指揮者たちの演奏記録によるト短調シンフォニー、

          古いS-VHSのテープに収録された過去の有名指揮者の演奏によるト短調シンフォニーがいくつかあるので、ご紹介しておこう。その第一は、カール・ベームとウイーンフイルによる1964年1月26日「インスブルック冬季オリンピック開会式典コンサート」と称する白黒の古い記念映像(4-12-3)であり、この映像はト短調シンフォニーとベートーヴェンの第7交響曲が収録されており、元気な頃の巨匠の姿を偲ぶことが出来る記念すべき珍しい映像であった。このインスブルックにおけるウイーンフイルとの白黒の映像は、最も若い頃のベームの映像として興味深く拝見したが、録音に慣れていない演奏会ライブのものであり、収録状況はイマイチで、ト短調交響曲を品良く演奏はしていたものの、これまでの映像や録音に代わるような特別なものではなかったように思った。


          第二はカルロ・マリア・ジュリーニ指揮ニュー・フイルハーモニア管弦楽団の交響曲第40番ト短調K.550(1964)であり、これはクラシカジャパンの「20世紀の巨匠たち」のシリーズで2009年に収録した白黒のモノラルの映像である。これは白黒の暗い画像であるが、ジュリーニは50歳、おでこは広いが痩せてスマートな身体つきで、若若しいすっきりした指揮振りを見せていた。この演奏は、テンポの良い生き生きとしたフレッシュな演奏であり、久しぶりで軽快な緊張感に溢れた第40番ト短調の交響曲を聴いて、しみじみとこの曲の良さを味わっていた。考えて見れば、彼はこのHPは2度目の登場であり、脂ののりきった円熟味を増す時期であることに気がついた。映像のお陰で、かねて評判の格好の良い指揮振りを見ることが出来た。


7)、 最新のベルリンフイル・デジタル・コンサート・ホールによる2つのト短調シンフォニー、

       ここ数年前から、ベルリンフイル・デジタル・コンサート・ホール(BDCH)のアーカイブを半年ぐらいおきにチェックするようになり、新しいソフトを発見することが多くなった。このアーカイブの中から、2008年のまだ新しい映像であるが、トレヴァー・ピノックの指揮した第25番と第40番の二つのト短調の演奏(16-12-1)を発見した。ピノックは、第25番はチェンバロを弾きながら指揮をしていたが、第40番ではチェンバロを使わずに、彼なりのピリオド奏法で演奏していたのが印象に残っている。ピノックは、コントラバスを3台用いた中規模の編成としており、第40番ではクラリネット版で演奏していた。全体としては、速めのテンポに昔の伝統的な演奏と異なった感慨をおぼえつつも、爽やかさに満ちており、古楽器奏法の良いところをモダンなオーケストラに上手く適用して新鮮味を強めていたように思った。



                   このBDCHによる第二の演奏としては、ベルリンフイルというモダン楽器の王者に対して、ピリオド奏法で挑戦するルイ・ラングレ指揮のベルリンフイルの映像で、2013年1月25日のベルリン・フィルハーモニー・ホールでの演奏(15-8-4)である。とはいえ、ベルリンフイルはサイモン・ラトルによりピリオド奏法に熟達しており、前に聴いた同じベルリンフイルのラトルの演奏と非常に近いものを感じていた。クラリネットが入った第二版を採用し、コントラバス3台の同じ規模のオーケストラで、繰り返しを省略しないところまで同じような印象を持った。映像をよく見ると、ラングレの譜面なしで自由に体を動かして、両腕の振りと顔の表情でも指揮をする細身のスマートな姿が印象的で、憂いを帯びたト短調シンフォニーは全く淀みなく進行し、明るく疾走するオーケストラの流麗な動きが全体にみなぎっており、ベルリンフイルを思い通りに充分に鳴らせているように思われ、これは素晴らしい新しい演奏だ感じさせた。


8)、最近購入したM225全集における4種類のCDによるト短調シンフォニー

      モーツァルト没後225周年記念の新CD大全集(以下、M225と略称)は、モーツァルテウム財団の協力を得て、新しい作品目録「K-Book」に基づいた新企画のCD全集である。交響曲については、トレヴァー・ピノックとイングリッシュ・コンサートの交響曲全集(1992-94)を中心とし、後半の31番以降をガーデイナー・ピノック・ブリュッヘンが分け合い、ホッグウッドが全体を補う形で古楽器演奏でCD10枚により編集されており、主要作品の代替演奏がCD6枚に収められていた。肝心のト短調交響曲については、驚いたことに、この曲はモダン楽器演奏2組、古楽器演奏2組による4CD(ブリテン(1963)、ブリュッヘン(1991)、ヴェーグ(1994)、ミンコフスキ(2005)、)が用意されていた。そのため、CDの演奏ではあるが、ここでまとめて簡単に紹介する必要が生じてきたと思われる。

       編集者の意向に沿うこの曲の本命の古楽器演奏は、第41番「ジュピタ−」と組み合わされたフランス・ブリュッヘンと18世紀オーケストラによる演奏(CD60)であろうが、この演奏はこの曲と真正面に取り組んだ骨太の本格的ピリオド演奏であり、第1・第4のアレグロやメヌエットのテンポは早めであるが、しっかりと均衡の取れた堂々たる風格のある存在感のある演奏となっていた。一方のモダン楽器による伝統的奏法の代表としてはベンジャミン・ブリテンとロンドン交響楽団(CD101)の演奏および、やや小規模なオーケストラのシャンドル・ヴェーグとカメラータ・アカデミカ・ザルツブルグによる演奏(CD92)が選ばれていた。前者はゆっくりしたモルト・アレグロで始まり、堂々と落ち着いて進行する本格的な伝統的な演奏と思われたが、後者は非常に遅いテンポで始まり、少数の弦楽合奏でゆっくりと進むアンサンブルを重視したスタイルとなっており、同じ伝統的スタイルでもかなりの違いがあった。
       また、最近の古楽器奏法の代表例としてのマルク・ミンコフスキーとルーブル宮音楽隊による演奏(CD61)は、もの凄く早いテンポのモルト・アレグロで始まり、疾風のように一気に颯爽と弦楽合奏が進行しており、同じ古楽器奏法でもブリュッヘンと一線を画した演奏のように聞えていた。以上のように、4種類の演奏は、それぞれ特色のある演奏が選ばれており、ここに紹介しておくことは意義のあることと思われた。


3、オーケストラの規模別・演奏形態別の演奏のグルーピングの検討と全体のまとめ、

       ト短調シンフォニーを聞きながら、このシンフォニーの演奏にはどんな形態があるかを考えて見る。現代の演奏では、まず、オーケストラの楽器の種類が問題となり、モダン楽器のオーケストラの演奏であるか、古楽器によるピリオド奏法かどうかが大きな別れになり、モダン楽器のオーケストラでも、ラトル・ベルリンフイルのようにピリオド奏法であったり、ベームやスイートナーのように伝統的な奏法であったり、ピリオド奏法の普及と共にその良いところが目立つモダン楽器のオーケストラ演奏も多い。この曲の演奏には、オーケストラの規模が非常に重要であり、表−2では、CBと略記して、コントラバスの数でオーケストラの規模を現している。コントラバスが1台であれば、オーケストラの総人数がおおむね20人未満、2〜4台であれば30人〜60人、5台以上であれば60人以上というように、オーケストラの大きさを表すことが出来る。さらにこの曲にとって版の種類が重要であり、表−2のように、Aの初版か、Bのクラリネットを含んだ第二版かが意味を持つことがある。これは指揮者の好みの問題が左右するが、版の区別をそれほど意識しなかった古い演奏かどうかなどが推定できる。また、古いCDなどでは、古楽器演奏の影響を受けているかどうかなど、演奏した年代が重要であり、表−2には、版の種類ABの別、CBの数、指揮者名に加えて年代を記載しているので、改めて表をご覧いただきたい。

        表-2をじっくり眺めていただくと、1のモダン楽器のオーケストラで伝統的奏法の演奏グループは、全てが90年代以前の録音になっており、オーケストラの規模もCBが4台以上の大規模な構成になっているが、中にはCBが2台の室内楽団の演奏もある。このグループの代表的な演奏は、ベーム・ジュリーニ・スイートナー・ジェルメッテイなどの演奏がある。 続いて2のモダン楽器のオーケストラであり伝統的な奏法の指揮者であるが、その指揮振りにはピリオド奏法の影響が現われていると思われる演奏形態であり、これらを代表する最近のムーテイやブロムシュテッドやプレヴィンなどの古い方々は明らかに昔と変わってきていると思われ、現在活躍している指揮者の殆どは、この範ちゅうに属している。



表-2、オーケストラの規模別・演奏形態別の演奏のグルーピング、
CBの数1M楽器・伝統的演奏2M楽器・ピリオド奏法の影響3M楽器・ピリオド奏法4古楽器・ピリオド奏法
5台以上A5ベーム64B5アーノンクール106
5台以上A6ベーム73◎
4台B4ジュリーニ64B4ムーテイ99
4台B4スイトナー84A4バーメルト103
4台B4ジェルメッテイ91◎A4サレムクール106
4台B4ムーテイ91○A4ルイージ106
4台A4プレヴィン95A4シェレンベルガ108
3台B3アーノンクール91
3台B3ラングレ113○B3ラトル113○
3台B3ブロムシュテッド114◎B3ピノック108○
2台A2ゴールドベルグ93A2プレヴィン109○B2アーノンクール114○
2台B2ホグウッド100
1台BIオルフェイス95B1コープマン91
1台A1延原武治109
(注)表中、記号の◎は、自分の好みとして最も望ましいものであり、◯は望ましいものである。


                 3のモダン楽器のオーケストラでピリオド奏法の演奏は4例であるが、アーノンクールは、ウイーンフイルとの協演とヨーロッパ室内楽団との協演の例である。また、他の2例はいずれもベルリンフイルの例であり、指揮者はラトルとピノックである。また、4の古楽器オーケストラによるピリオド奏法の演奏は4例であり、指揮者は4人となっている。
        版の違いについては、これまで指揮者の好みで選定されると考えてきたが,最近のピリオド奏法による演奏では、クラリネットを含む第2版が使われることが多い。

        最後に、交響曲第40番ト短調K.550の映像のまとめとして、必ず聞かれるどの映像が望ましいかということについて、全体のまとめとして独断と偏見を持ってお答えしなければならない。この私なりの答えがこの表の中に示してあるが、◎自分の好みとして最も望ましいものと、◯望ましいものの二つの記号で表示しておいた。理由はこれまで散々述べてきたので、ここでは繰り返さないが、2000年以前の伝統的な大規模な演奏については、ベーム73およびジェルメッテイ91を挙げておいた。最近は、モダン楽器のオーケストラでピリオド奏法の影響が強くなっている演奏が多いが、それらの中では、◎として、私の好みが強いがブロムシュテッド114を選び、準推薦の◯として、プレヴィン109とラトル113とラングレ113とピノック108を選定している。また、古楽器演奏については演奏数が少ないが、アーノンクール114を◯として選定している。しかし、このような評価は、時とともに、その時の状況や気分により変化するものであることを附記しておくことにしたい。


                          5、あとがき、

        見較べ・聴き比べの対象となる映像が表-2に示す25組にも達する曲は、器楽曲では最大に近いと思われるので、そのような例としてこのト短調交響曲を選んだ訳であるが、当初から余り明確な方針を決めずに自然体でアップロードを行なってきたので、全体をまとめる段階になって苦労をした。しかしながら、この曲の場合には、表-2の通り比較検討する枠組みが設定できたので、かなり恣意的で自分の好みを押しつける形ではあるが、何とかまとめることが出来た。HPの対象にしている約300曲近い曲について、このような総括作業を1曲・1曲行なっていくのは大変な作業を伴うが、楽しみながら時間をかけて実施して行きたいと考えているので、ご意見をいただくなど応援していただければ、まことに有り難いと考える。


(以上)(2017/04/17) 



追記−1、2017年4月以降の新ソフトの追加、

1−1、鈴木秀美とリベラ・クラシカのト短調交響曲、

(表−2、への追記項目、4古楽器・ピリオド奏法、CB2、C(第3稿)鈴木117◯、)

          今回新しく収録した鈴木秀美とリベラ・クラシカによるト短調シンフォニーの映像(18-1-1)による演奏は、全体として速めのテンポの古楽器風の奏法で、モダンなオーケストラと異なった感慨をおぼえつつも、爽やかさに満ちており、澄んだ感じの新鮮味溢れる響きを聴かせてくれていた。13年ぶりでこのオーケストラの演奏を細かく聴いてみたが、明らかにこの間で大きな成長を遂げており、どの曲においてもアンサンブルの優れた円熟した演奏を聴かせてくれており、弾むような軽やかな疾走感が全体を通じ支配して、実に聴き応えがあったコンサートであった。
                   なお、この演奏の冒頭に、2014年に第1稿のオーボエ版に弦楽器の部分に追加修正した第3稿とも言うべき譜面が発見されて、今回の演奏はその譜面に基づいた演奏であると解説されていたが、自分では残念ながら確認できなかったほど、微細な変更であろうと考えられる。

(以上)(2018/01/06追記)


1−2、最新のアンドリス・ネルソンズとライプチヒGHOによるト短調交響曲(2018)、

          この映像は、ベルリンフイルで活躍していたラトヴィア出身のアンドリス・ネルソンズがライプチヒのゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターに就任した記念のコンサート(18-12-2)であり、交響曲第40番ト短調K.550とチャイコフスキーの悲愴交響曲を演奏していた。相変わらず、颯爽とした姿を見せて生きのよい疾走するト短調交響曲のイメージの演奏をしており、クラリネットが入った第2版を用い、コントラバスが4台の重厚な布陣で指揮をしていた。 ネルソンズはベルリンフイルでは駆け出しの指揮者のように見えていたが、このゲヴァントハウスの定期では、髭ずらのスマートな格好の良い指揮者にすっかり様変わりしており、まるで一回り大きくなったような気がしていた 。

(以上)(2018/12/10)



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