ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414の見較べ・聴き比べ、

−全23組中に映像が6組しかないが、それぞれ多彩な特徴ある演奏が記録されており、新しい録音が少ないけれども、とりあえず、全ての映像のアップロードが完了している−


ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414の見較べ・聴き比べ(2017/04/10現在)

              倉島 収(千葉県柏市K.449)
1、はじめにー私のホームページにおけるこの曲のいろいろー

    私のホームページ(以下HPと略)では、「映像ソフトで見るモーツァルトの諸作品」と題して、映像ソフトにより、モーツァルトの諸作品を紹介してきたが、2001年にHPを立ち上げて以来、17年目に入り大変な集積となって来た。ここでは、ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414のCDや映像のコレクションの概要を述べ、集められた映像ソフトを自分なりに見較べ・聴き比べた結果をご報告しようとしたものである。


2、当初の頃(06年5月30日)のピアノ協奏曲第12番イ長調K.414のデータベース、(2006/05/30現在)

  私のHPのデータベースでは、2006年6月現在で、この曲は以下のように全17組であったが、そのうち映像は4組しかなく、今回アシュケナージの古い映像が再放送されて、初めて映像のコレクションに登場したものである。他の映像には、ペライアの弾き振り、ヴェーグとシフのモーツァルテウムのもの、カツアリスのN響との録画など、興味あるものが含まれているので、早くご紹介したいものと考えていた。 

  この曲は、第11番ヘ長調K.413(387a)、第12番イ長調K.414(385p)、第13番ハ長調K.415(387b)として、1782年の末から1783年の初めにかけて作曲したもので、ウイーンに生活を始めてピアノ演奏と作曲で生きていこうと、83年の春の予約演奏会のために書かれたものであった。これらの演奏会の成功によって84年からピアノ協奏曲の多作が始まるので、これら3曲は先駆的作品として当時のウイーンの聴衆の好みに合わせた作品と言わなければならない。ケッヒェルの第6版では、アインシュタインが3曲のうちこの曲が先に書かれたという見解を取ってK番号がカッコ書きのように若くなっていた。

  この曲の私の最初のレコードは、ゲザ・アンダとモーツァルテウムの古いLPであり、今でもこの曲の基本的な演奏の1つであると考えているが、アンダのCDの全集のBOX盤が出て、音がすっかり甦った。CD時代に入って最初期に購入したアバドとゼルキンのピアノ協奏曲K.466は忘れられないが、このコンビがこの12番を裏面に収録していた。従ってこの曲の2曲目として、ごく自然にお気に入りになった。
  その次にはコラールが、協奏曲のピアノ四重奏版として6曲を2枚のCDに収録したものを求めていた。これは、好き嫌いはともかく、他に録音がないので貴重なものと言わなければならない。続いて4番目にS-VHSでレーザーデスクからコピーしたものが、今回アップしたアシュケナージの弾き振りであり、この曲の初めての映像であった。そのほかにもバレンボイムとイギリス室内楽団の初期の演奏などは、とても安心出来る魅力ある演奏であった。
  この頃から、放送があれば必ず収録するようにしてした筈であるが、映像が4種類しかないということは、他の有名な協奏曲と比較して演奏機会が少ないからと言わざるを得ない。CDでいろいろ集めているが、この曲は私が好きな第14番変ホ長調とペアになっていることが多いからではないかと思われる。

 
表-1 ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414のデータベース、(2017/03/10現在)

番号入手日付メデイア指揮者オーケストラピアニスト録年月メモ
79CD(Anda)Cam-ACDOAnda6600CD全集
990227CD(Barenboim)English-COBarenboim6803
941211CDHagerSalz-MozarteumEngel7500
101CD(Perahia)English-COPerahia7600CD全集
990623VT(Perahia)English-COPerahia7700CS736CH(13-6-2)
102CD(Pollini)Wiener-POPollini8100LiveーORF
831001CDAbbadoLondon-SOSerkin8200K.466
100CDGardinerEngBarq-SBilson8400Fortepiano全集
970814CDVeghCam-ACDOSchiff8612
10940331VTVeghCam-ACDOEickhorst8900LDコピー(16-5-1)
11900730CDQuintet-VMuir-QCollard8900QuintetーV
12910601VT (Ashkenazy)Royal-POAshkenazy9100On tour
13102CDFreemanPhilh-OHan9200CD全集
14941016CDHogwoodAcad.A.MLevin9400
15950114VTMundNHK-SOKatsaris9600NHKBS2CH(16-6-2)
161010212CDBeermannBamberger-SOKirschnereit9910K.449
171041001CDCodaly Quintet渡辺陽子10401Quintet+Base
12'1060320SD (Ashkenazy)Royal-POAshkenazy9100On tour DVD(6-5-3)
1234567
181080707CD(Hoffmann) PleyelTrioWienJugovic10603Forte-P-Quintet
19108CDHogwoodAcad-AncientMLevin93-98P協選集(全19曲)
201100317BD26延原武春Telemann-CO高田泰治10911Period(11-3-1)
211100320BD38(Eschenbach)Paris-OEschenbach1100270歳の誕生コン(11-6-1)
221111020CD(小倉貴久子)桐山-Q小倉貴久子11110日本M協会例会
12'116BD(Ashkenazy)Royal-POAshkenazy9100On tour BD(6-5-3)
231170317CD(Frankl)Solists of Eng.SOFrankl9100M225全集CD192(11〜13)
14’1170317CDHogwoodAcad.A.MLevin9400M225全集CD80
(注)メデイアの覧で、VTとはアナログビデオテープであり、S-VHSの3倍速で録画している。DDまたはSDとは、デジタルビデオテープであり、DはD-VHSテープ、SはS-VHSテープに、LS-3モードで録画している。SAは高規格CDのSACDを意味している。DVDは市販または自作のDVDを意味している。BDは市販または自作のBDを意味している。最近は、ハードディスクHDDに録画しており、HD-1からHD-5にわたり収録されている。

  以上のデータベースを見て、ブレンデル盤、ヘブラー盤、内田光子盤、シュミット盤などCDの全集盤が出ているのに欠落しているものがあるのに気が付いた。
  なお、最後に第14番変ホ長調とペアになっていたコダーイ四重奏団と渡辺陽子による演奏が、素晴らしいピアノと弦のアンサンブルが聴かれお気に入りになっている。モーツァルトの時代には、このように弾かれることが多かったのではと考えさせる素敵なCDであった。 


  アシュケナージのオン・ツアーの映像がデジタル映像でアップロード(6-5-3)して、このデータベースが出来てから、新規に放送で録画したフォルテピアノによる映像(109)やエッシェンバッハによる70歳の記念コンサートの映像(110)が、次々にアップロードされてきた。そのため、古いS-VHSテープに収録された古い映像のアップがなかなか進まずに放置されてきたが、今回のカツアリスの古いテープの映像のアップロードで全て終了し、全6曲と少ない映像であるが、このデータベースは一応の完成をみた。そのため、これで当初の頃のデータベースはこれで完了することとし、この曲の映像の全体としての「総括編の作成」は、以下の3、および4、のとおり、別途、作表してから整理を行なうこととした。
(以上)(06/05/30)(2014/07/03改訂)


3、各映像の収録年別の整理、

     以上の全23組のデータベースから映像のみを取り上げて、改めて映像の収録年(古さ)の順に整理を行なうと、表-2のとおり整理できる。この表に従って、各映像をアップロードされた内容をふり返って要約して、各演奏の特徴について触れてみる。

  はじめに登場するのは、 名人マレイ・ペライアの演奏であり、1977年に収録されLDで発売されたもので、収録曲は第20番ニ短調と第12番イ長調の2曲(13-6-2)であった。映像はライブではなくスタジオ録音で、イギリス室内楽団と入念に指揮振りの形で演奏したものであるが、指揮にも独奏ピアノにも、やや神経質ないかにも慎重な演奏ぶりが見られ、観客がいないスタジオであるのに丁寧すぎ固さが目立つ弾き振りであった。まだ、若さが見られる演奏振りで、最近の彼はライブにおいてもこの映像を超える演奏を行なうことが出来るものと思われる。


表-2、ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414の各映像の収録年別の整理、(2016/08/02現在)
番号アップ番号指揮者ソリスト(録年) オーケストラCB数ソースメモ
13-6-2(ペライア)ペライア(77) イギリスCOLD弾き振り
16-5-1ヴェーグアイクホルン(89) カメラータVHSアンサンブルの良さ
6-5-3(アシュケナージ)アシュケナージ(91)ロイヤルPOLD,BD弾き振り
16-6-2ムントカツアリス(96) N響VHS名人芸・カデンツア
11-3-1延原武春高田泰治(09) テレマンCOBDフォルテピアノ+古楽器O
11-6-1(エッシェンバッハ)エッシェンバッハ(110)パリ管OHDD弾き振り



     表-2の二番目に登場する映像は、シャンドル・ヴェーグ指揮のカメラータ・アカデミカ・ザルツブルグとピアニストのコンスタンツェ・アイクホルンによる演奏であり、1989年にモーツァルテウム大ホールで収録(16-5-1)されたもので、ソースはORFのアマデオMY1991年における室内楽シリーズのLDによるものであった。この演奏では、新人に近い若いピアニストであったにも拘わらず、ヴェーグの心温まる明るいオーケストラに乗って、オーケストラの一員のように実に軽快に、あるときは瞑想的にピアノが駆け巡り、素晴らしいアンサンブルの良い、いかにも爽やかな響きの演奏をみせていた。ヴェーグは 繊細な響きをもつ各楽章の一音一音を大事にして、丁寧に指揮をしていたし、カメラータ・アカデミカもこれに応えるように、若いモーツァルトの意気込みが伝わってくるような颯爽とした演奏をしていた。



      第三番目に登場する映像は、クラシカジャパンのピアノ協奏曲特集として放送されたものであり、この映像は91年のモーツァルトイヤーの際に発売された「モーツァルト・オンツアー」と題したレーザーデイスクのピアノ協奏曲シリーズに含まれていたものであり、ウラデイミール・アシュケナージがロイヤルフイルを弾き振りしたもので、ロンドンのハンプトン・コート・パレスで収録されたもの(6-5-3)である。アシュケナージは、指揮とピアノで大忙しであったが、表情はいつも冷静で、淡々として無表情であったが、ピアノの音は確実で美しい。特に、ピアノの弱音の扱いなどに、彼らしい神経が行き届いており、一方の指揮振りも手慣れた感じがしており、さすがと思わせる華麗そのものの弾き振りに見えていた。最近、この協奏曲シリーズがBD化され、連続して演奏を楽しめるようになったが、HV化の技術により、音も画像もハイビジョン並みに甦っており、改めて若いアシュケーナジの素晴らしさを味わった。

      続く第四番目の映像は、名ピアニストのシプリアン・カツアリスとウーヴェ・ムント指揮のNHK交響楽団との顔合わせによる演奏(16-6-2)であり、カツアリスの名人芸的な協奏曲のがっしりした側面とピアノとのアンサンブルの優れたサロン的側面とを併せ持ったしたたかな演奏であり、カツアリスのソリストとしてカデンツアやアインガングを重視する姿勢が面白く、第二楽章ではオリジナルな即興的な長いカデンツアを初めて聴くことができた。N響の面々もコントラバス4台の大規模な布陣であり、ヴィルトゥオーソ的なカツアリスのピアノと向き合ったり、第二楽章の独奏ピアノのつぶやくような珠玉のような美しいフレーズとオーケストラが溶け合った美しいアンサンブルの世界があったり、N響との相性の良さを物語っていた。



    第五番目の映像は、新しいHVの映像で、延原武春指揮のテレマン室内オーケストラとフォルテピアノが高田泰治による演奏(11-3-1)であり、これまでとがらりと変わり、小編成のピリオド楽器の特徴が良く出てテンポも良くまずまずの演奏を楽しめた。木造の洋館でフォルテピアノを前にして、オーケストラはオーボエとホルンが省略され、弦五部の7人で構成されていた。平土間で古楽器とフォルテピアノの響きが美しく交錯し、古い洋館でのサロン的な響きがきこえて、楽しい思いをした。このような美しい響きが得られるなら、欲を言えば第一ヴァイオリンとフォルテピアノがもう少し滑らかに弾かれておれば、もっと素晴らしいアンサンブルが得られたものと思った。

      最後の最も新しい映像は、最近は指揮者として著名なクリストフ・エッシェンバッハが、手慣れた手兵のパリ管弦楽団を相手に第12番と第23番のアンサンブル重視の曲を弾き振りしたもの(11-6-1)であった。エッシェンバッハは、さすが老練なヴェテランで、指揮にも独奏ピアノにも、いかにも爽やかな演奏ぶりをみせ、時には笑顔を見せるなど豊かな表情を見せ、彼のピアノにも指揮にも余裕がある自在なもので、パリ管弦楽団の木管楽器がとても良く響き、まさに弾き振りの見本のような楽しげな70歳の誕生コンサートであった。

     以上、このピアノ協奏曲の6種類の映像の演奏の内容について、コンパクトにその特徴を述べてきたが、楽章ごとの演奏の詳細内容については、別のアップファイルをご覧いただきたい。時系列的に整理してきたが、最初の4種類の前世紀の演奏と、後半の今世紀になって収録された2種類の映像との間には、画像と音声面において、ハイビジョンの時代になって、格段の違いあることをご報告する必要があろう。



4、各映像の演奏形態別の映像の整理、

     続いて、このピアノ協奏曲第12番イ長調は、ウイーン時代の当初に作曲された作品であり、モーツァルトはオーケストラとの協奏曲としてばかりでなく、室内楽的な演奏も可能であるように作曲されていることが特徴である。そのため、オーケストラの規模別に、私はその指標としてコントラバスの台数で区別しているのであるが、表-3のようにその特徴を整理してみた。6種類の演奏には、フルオーケストラ(CB4台)によるコンチェルタントな堂々たる演奏から、アンサンブルを大切にする室内楽的な演奏(CB1台)まで、ピラミッド的に整理されており、それぞれの演奏の特徴を、垣間見ることが出来そうである。
 

         
表-3、ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414の各映像の演奏形態別の整理、(2016/08/02現在)
オケの規模(CB数)オーケストラピアニスト(録年)特徴など
フルオケ(4)NHK交響楽団カツアリス(96)◯本格的な協奏曲、カデンツアの面白さ
フルオケ(3)パリ管弦楽団エッシェンバッハ(110)◯弾き振り、大ヴェテランの味わい
中規模(2)ロイヤルフイルアシュケナージ(91)◯初期の弾き振り、若さと緊張感・繊細感
中規模(2)イギリス室内楽団ペライア(77)スタジオでの弾き振り、若さと生真面目さ・緊張感
20人弱小規模(1)カメラータ・アカデミカアイクホルン(89)◯一体感・アンサンブルの良さ
弦5部7人(1)テレマン室内オーケストラ高田泰治(09)フォルテピアノ・小編成のピリオド楽器
弦5部5人(1)コダーイ・カルテット渡邊陽子(04)モダンピアノの煌めくようなパッセージ・アンサンブルの良さ
弦4部4人(0)桐山アンサンブル小倉貴久子(111)フォルテピアノのきめ細かい動きと美しい響き。展開部のテンポ感の良さなど
(注)◎印は最高の映像、◯印はとても優れた映像を意味する。


      表-3を見ていると、協奏曲としてコンチェルタントに堂々と前向きに演奏するには、やはり専属の指揮者がしっかりとオーケストラを動かし、ピアニストはヴィルトゥオーソ的にオーケストラと立ち向かう姿勢が必要であろうが、その例がN響とカツアリスの演奏に現れていた。ピアニストがモーツァルトが行なったようにオーケストラを弾き振りする演奏は、三人の名ピアニストのペライア、アシュケナージ、エッシェンバッハの演奏に見られていたが、いずれもオーケストラとの一体感があり、緊張感に満ちた演奏が行なわれていた。
      一方、ヴェーグとカメラータの演奏は、ピアニストがオーケストラの一員のような立場のせいもあって、実に一体感に満ちたアンサンブルの良い演奏を行なっており、この曲のセレナーデ風の持ち味を発揮する演奏であった。最後に、弦五部7人によるピリオド演奏とフォルテピアノによるテレマン室内楽団の演奏は、実に古楽器的な新鮮な響きを見せており、この曲の新たな良さを見出してくれたように思われた。

      終わりに、必ず皆さんに聞かれる質問に答えなければならない。結局、どの映像がいいかということであるが、全く完璧な映像はなかなか見つけることが出来ないので、◎印の演奏はなく、◯印の優れた演奏、どれを取ってもこの曲を楽しむことの出来る映像は、4種類もあり、お好みの演奏家のものを選択すれば良いと言うことになろう。

      表-3の末尾に、映像ではなくCDなのであるが、私の大好きな室内楽的演奏の代表例として、最後に渡邊陽子とコダーイ・カルテットによるモダンピアノの煌めくようなパッセージの美しさと弦とのアンサンブルの良さで、新鮮な響きを見せた演奏を追加しておきたい。また、古楽器演奏の代表例として、小倉貴久子のフォルテピアノと古楽器アンサンブルによる演奏も、ライブではあるが、ピアノの美しさとアンサンブルの良い見事な演奏例として挙げて結びとしたい。この演奏は、日本モーツァルト協会の例会の記録である。


4、あとがき、−6種類の映像を見終わってー

      大好きな曲のコレクションのまとめを行なうに当たって、私の感じたままの好き放題のやり方で、ピアノ協奏曲第12番K.414の映像の「総括」作業を行なってみた。有名曲のように数が多いと、私の頭の中で整理がつかなくなり、うんざりしてしまうのであるが、珠玉のような6演奏と数が少なければ、楽しみながらパソコンに向かうことが出来るものである。好き勝手なことをやっていることをお詫びして、お目に触れることを期待しながら筆を置く。

      本稿はフェラインの機関誌「モーツァルテイアン」の100号記念のために、投稿を試みたものであり、既に完成させてHPにアップしたものに、普段は写真などが許されないので、最小限の写真を加えたりして修文したものである。100号のためにおよそ30年を要しているが、これもお世話になっている先生方や関係者のお陰と御礼申し上げる。


(以上)(2017/04/10)



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