1-8-1、アーノンクール指揮の「ドンジョバンニ」、フリム演出、チューリヒ歌劇場、2001/03年


、(BS102CH、ギリフリー、ポルガー、I.レイ、バルトリ、サッカ、ニキテアヌ、ウイドマー、サルミネン、D-VHSテープでLS3モードにより収録、)

1-8-1、アーノンクール指揮の「ドンジョバンニ」、フリム演出、チューリヒ歌劇場、2001/03年、

(BS102CH、ギリフリー、ポルガー、I.レイ、バルトリ、サッカ、ニキテアヌ、ウイドマー、サルミネン、D-VHSテープでLS3モードにより収録、)
 



 5月分で紹介した「コシ」に引き続いて、アーノンクール指揮、フリム演出、チューリヒ歌劇場の「ドンジョバンニ」の映像を見た。本年3月に上演された新しいライブ映像である。私は「コシ」の紹介で、「若々しい雰囲気を持った現代風の新しい「コシ」が誕生した」と書いたが、この言葉はそっくりこの「ドンジョバンニ」にも当てはまる。
 「コシ」の4人の恋人たちは歌・演技とも良くやっていたが、この若々しい4人がそっくり出演している。フリム演出は、「コシ」同様にとても簡素であり、全体的に暗い演出や衣装などは伝統的な演出とも思えたが、細かく見ると、例えばドンジョバンニの髪が長髪で後ろに束ね、バーバリー姿で劔の代わりにナイフを持っていたり、レポレロが小さなリュックを背負って同様に長髪で、コインよりお札の方が好きであったりして、現代風の若者の象徴的なスタイルを暗示したりしているが、それがごく自然な形であったからである。

 序曲の冒頭の重々しい二つの暗い和音が、テインパニーの音を含めて古楽器的なアーノンクールの音として異様に響いたが、それ以降の音楽全体は、彼が昔のチューリヒ歌劇場管弦楽団との「後宮」「イドメネオ」「魔笛」などのCD録音で見せた伝統に対する挑発的な感じの音作りでなく、やや古楽器的響きがする程度のむしろ新鮮な感じのする節度ある響きであった。私はアーノンクール指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の1988年のテルデックの「ドンジョバンニ」のCDを持っているが、このCDも「魔笛」などとは異なった極端な音作りではなく、伝統的な演奏に古楽器的な味付けをしたような感じであった。新しい映像では、基本的にこのCDと同じような演奏であり、前回の「コシ」でも全く同様であった。昔のアーノンクールとチューリヒ劇場によるモーツアルトのオペラの登場があまりにも私たちには衝撃的であったが、アーノンクールも、オーケストラによって、曲種(ブッファ)によって、録音年代によって演奏スタイルが変わってきたようである。

 この映像で全体的に感じたことは、横長ワイドなデジタル効果の大きいきれいな画面であったが、登場人物のクローズアップが非常に多くそれがこのオペラの理解にとても効果的であったことである。このオペラは舞台が全体に暗く登場人物だけにライトを当てて目立たせる舞台が多いが、カメラワークの向上で画面いっぱいに主役の表情がクローズアップされると、もの凄く迫力があった。恐らく劇場で遠い席から見ているよりも、映像の方が遙かに表情がよく分かり、理解し易かったであろう。恐らくこのことを登場人物はみなよく心得ていて、全員の表情が非常に豊かであり、過去の映像に比しこの点でうまさを感じた。以下は細部で気づいた事柄である。

 第1幕は幕が下りたまま、幕前の狭い場所でレポレロのポルガーのモノログで始まる。すぐにドンジョバンニのギルフリーとドンナアンナのレイとの揉み合いがそこで始まり、やがて巨漢のサルミネンの騎士長との果たし合いとなるが、何とこのドンはナイフで騎士長を倒してしまう。レポレロの人の良さそうな顔つき、ドンナアンナの必死の表情、騎士長の怖い顔、ドンの不敵な表情などがクローズアップで迫ってくる。初めからこの映像はすごい迫力だ。

 やがて舞台の中央でエルヴィーラのバルトリが侍女を従えて登場し、ドンを見つけたら心臓をえぐり出してやると凄い表情で激しく歌う。レポレロの「カタログの歌」で怒りが収まったようだが、厚いカタログから恐らく自分を書いた部分を引きちぎって、胸にしまう動作は何を意味するのだろうか。

 農民と一緒にツエルリーナのニキテアヌが登場するが、この人は実にコケテイッシュな役が上手な人だ。「どうしよう。逆らえないわ。行きましょう。」の場面も実感がこもっていた。やがて、ドンナアンナが「あの男だ!」と父を殺し自分を襲った男に気づいたときの告白の表情も、真に迫っていた。フィナーレに入り、三人のマスクの人の見事な合唱、ヴァイオリンやチェロを舞台に上げて演奏する華麗なメヌエットの美しさ、ピストルで皆に迫られて万歳するドンの情けない表情などは、なかなか見応えがあった。

 第2幕に入り、ドンはマンドリンを弾かせながらカンツオネッタを歌ってエルヴィーラの侍女を口説くが、この侍女は窓辺でこの歌に応えて裸になってドンを誘うのは、始めて見る新演出であった。また、レポレロが皆に許しを請う場面の後、第21曲のオッタービオのアリア及び第21曲b(ウイーン追加曲)のエルヴィーラのアリアには、凄い拍手があった。どちらも凄い熱唱であった。

 フィナーレの食事の場面では、管楽8重奏が舞台に出てきて腕を披露する。高い台の上の騎士長とドンとのやり取りは凄い迫力があり、地獄落ちの場面まで全く目を離せない。
 最後の「あの悪党はどこへ」の6重唱は、地獄落ちの余韻を残しながらも、平和なうちに進むが、舞台の奥をよく見ると、何と正装したドンがこの6人をあざ笑うかのように、赤いドレスを着た美女を口説いているではないか。

 閉幕後の拍手は、やはりバルトリがもの凄い人気であった。演奏後のアーノンクールへの拍手ももの凄く、まさにこの劇場の主人公と言った様子であった。演出もよく見るといろいろ変化があり、音楽もいきいきとしており、ドンを初めとして皆さんが良い演技をしているので、この「ドンジョバンニ」は大成功といって良いのではなかろうか。

(以上、)(2001/09/08)



目次2にもどる
目次1にもどる
私のホームページへ


このページは GeoCitiesです 無料ホームページをどうぞ