ペーター・マークの訃報


ペーター・マーク(Peter Maag)の訃報、

 4月21日の夕刊に、歌劇「アイーダ」をオペラ劇場で指揮をしていたシノーポリが、20日夜、第3幕の演奏途上で、突然、意識不明になり、指揮台から崩れ落ち亡くなったという報道がなされた。詳しい病状や死因はまだ解っていないようであるが、ドイツ・ザクセン州立のドレスデン歌劇場管弦楽団の現役の首席指揮者であるだけに、この話題は極めて大きなものがある。私の見た朝日新聞では、「シノーポリ氏急死」−アイーダ第3幕、指揮棒が止まった−という大きな活字で写真入りで扱われていた。誠に劇的な話である。彼は、日本でもたびたびオペラを振っていた指揮者であり、まだ54歳の若さで、ザクセン州立歌劇場の音楽総監督を03年から就任する予定であっただけに、オペラ界全体に影響を与える衝撃的なニュースとなった。

 一方、その記事の真下にある死亡欄には、小さい字で、『ペーター・マーク氏(スイス出身の指揮者)16日、イタリア北部のベロナで、ガンのため死去。81歳。20日に葬儀が行われた。』 という記事があった。報道内容の全文を紹介すると、『 60年代にロンドン交響楽団を指揮したモーツアルト、メンデルスゾーンの演奏で名声を確立。その後ウイーンのフォルクスオーパー 、スイスのベルン交響楽団などの首席指揮者を務め、東京都交響楽団の定期招聘指揮者だったこともある。62年に初訪日。この5月にも訪日演奏が予定されていた。』 とある。
 われわれクラッシック音楽フアンにとっては、この二つの報道は、誠に残念な話である。心から哀悼の意を表したいと思う。

 モーツアルテイアンにとっては、 ペーター・マーク氏の死は、余り最近の活躍事情を知らないだけに、シノーポリのような話題性はないかも知れないが、やはり衝撃的な話である。この記事にある60年代のロンドン交響楽団の時代に、マークはモーツアルテイアンにとってかけがえのない宝石のようなLPを残してくれた。私は、これらのLPによって、モーツアルトの幅広い小品の素晴らしさについても教えられ、結果的にモーツアルト一筋にのめり込むきっかけを与えてくれたような気がするからである。

 連休の初日に、マークの古いLPを引っ張り出し、久しぶりで聴いてみた。マークのレコードは、新旧合わせて次の通りであった。

1、「モーツアルト・アーベント」;ロンドン交響楽団、Lon.SLC-1038 四つのオケのためのノットルノK.286、セレナータ・ノットウルナK.239、歌劇「ルチオ・シルラ」序曲K.135、「エジプト王 タモス」間奏曲K.345、
2、「フリーメイソンのための音楽全集」;ウイーン・フォルクスオーパー管弦楽団/合唱団、 VOX.HRS-1522-3-VX、(CD;VOXBOX-CDXー5055、輸入盤)
3、「解放されたベトウリア」K.118、Orchestra da Canera di Padova e del Veneto,DENON−CO-79945-46、(15-21、June、1991)



マークのモーツアルトが素晴らしいという印象は、最初のLONDON盤であり、このレコードでしか殆ど聴けない珍しい曲が4曲入っていた。この珍しい2つのセレナードを何度聴いたであろうか。この人は必ずモーツアルトの素敵な曲を沢山録音してくれるに違いないとそのころ期待したものである。余り鮮明に撮れなかったが、当時としては思わず見とれてしまう斬新なジャケットを見ると、古いモーツアルテイアンはみな同じような思いをマークに寄せたのではなかろうか。

 72年7月、日本コロムビアから発売されたVOX原盤の「フリーメイソンのための音楽全集」は、全17曲からなる全集であり、海老沢先生により解説がなされている。当時、紙の上の抽象概念でしか理解できなかったフリーメイソンの音楽が、始めて聴けたレコードであり、やはりこのレコードでしか聴けない曲がいくつも入っている。2枚組で2000円の廉価盤であったが、演奏が素晴らしいばかりでなく、録音がとても良く、木管楽器やチェレスタの音に思わず聞き惚れたものである。このレコードのK.617とK.618は、何度聴いたろうか。こういう小品集のレコードを手にすると、モーツアルトの全ての曲を聴いてみたいと思わざるを得なくなる。そういう若き日の想い出のレコードであるが、VOXの廉価盤のCDが数年前店頭で偶然見かけ、かけがえのないものとして購入したので、最近ではこのLPを取り出すことは余りなくなった。

 このころ輸入盤でモーツアルトの後期のシンフォニーがBOX原盤であったと思うが、私はワルター、ベーム、クーベリックなどの名盤を持っていたので、今のようにゆとりのなかった当時は、あえて求めようとしなかった。もし、今CDに復刻されれば、是非聴いてみたいと思う。

 K.118はDENONレーベルのDDDの91年の比較的最近の録音で、輸入盤のカタログを見ていてマークの名があったので、珍しいと思い取り寄せたものであり、国内盤は何時発売されたものか分からない。この曲は、めったに演奏されることもなく、CDではチラリオ盤の古いものしか持っていないので、このマーク盤は貴重である。しかし、ロンドン盤で見せたようなみずみずしい溌剌としたモーツアルトではなくなっている。しかし、このような珍しい曲を録音で残すのであるから、この人は、最後までモーツアルトの作品の演奏にこだわった方だと思わざるをえない。

 古い演奏家の訃報を聞くたびに、いつも残念に思う次第であるが、マークのように若いころあこがれを持った人が亡くなると、胸が締め付けられるような気がする。それだけ当方も年をとったと言うべきなのだろうか。謹んでご冥福をお祈りする次第である。

(01/05/03)


目次にもどる
私のホームページへ


このページは GeoCitiesです 無料ホームページをどうぞ