ケッヒェル番号へのこだわり


ノイエ・ケッヒェルに期待して

ケッヒェル番号へのこだわり

  目 次
1、まえがき
2、K番号の改訂の方向
3、独立した2つの曲として扱われ、それぞれがK番号を持つもの
4、K番号を持つ原曲に対し、K番号を持たぬ自身の改作、編曲または代替曲があるもの
5、K番号を持つ原曲に対し、自身が編成替えまたは編曲を認めていたもの
6、K番号を持つ原曲に対し、K番号を持たぬフラグメント(習作)があるもの
7、モーツアルト作品の他人の手による補作や編曲
8、おわりに


1、まえがき

 モーツアルトの全作品を聴いてみたいという願いは、モーツアルテイアンを自負する人々の心からの願望である。コレクションが進み、K番号が次第に満たされてくると、たとえ断片であっても、録音された曲(演奏家が弾いてみたいと考えた曲)は、コレクションの中に含めたいと努力してみたくなるものである。CD時代が進み、フイリップスからCDによるモーツアルト全集が刊行された。しかし、全集とされていても、それでもまだ、K番号の中には、未録音・未収集の曲が沢山含まれている。
 現行の第6版のK番号システムは、年代的な意味で、研究の進展とともに次第に矛盾が目立つようになったが、このシステムは、断片曲も含めてパソコンでコレクションを整理するには、極めて都合が良い。私はこのK番号システムを基本にして、レコードの収集システムを作成しているので、まだ未収集の曲は直ぐ分るようになっており、これからも新しい録音に注目しながら、大好きなモーツアルトの曲を集めて行きたいと思っている。しかし、数年前からK番号システムの改定の動きがアナウンスされ、その完成も近づいてきたと考えられるので、多いに期待が高まるとともに、自分なりに構築してきたデータベースを新たに作りなおす必要を感じている。


2、K番号の改定の方向、

 ザスロウ教授が全世界のモーツアルテイアンの期待を集めて、ケッヒェルの作品目録の改定作業に着手してから、数年たつ。少なくとも私には、同教授による「ノイエ・ケッヒェル」以降の新しいニュースはないが、同文に載せられたK番号の改定の方向についてはまったく異論がなく、大いに期待を持って静観している。
 しかし、1964年の現行の作品目録には、モーツアルトの各曲の原典資料について、膨大な集積があり、また編曲、改作、偽作などの付録についても素晴らしい集積があって、単にK番号の並べ替えばかりでなく、これらについても新しい知見が追加されることを真に期待している。恐らく、改訂版は英語で記述されるであろうから、われわれにとって今まで以上に、身近なものになるものと信じている。

   ザスロウ教授の改定に当たっての基本的考え方は、別添の仮訳、「ノイエ・ケッヒエル(1996)」に示されているが、ここで要点だけをまとめておこう。

1、ケッヒェルのオリジナルなナンバーリングに立ち戻る。
2、モーツアルトの真作でないものを除外する。
3、完成作品の目録とし、未完のものは付録に移動する。
4、1937年以降に追加されたスケッチ、草稿、断片などを、整理して付録に戻す。
5、年代的に問題のあるものには、アスタリスク*を付し、修正年代を付記する。

 ザスロウ教授は、これが現段階での実行可能な折衷案と考えておられ、この考え方は、十分納得できるものである。

 さて、われわれモーツアルト作品のレコードによるコレクター側においても、最近の多様化したCD録音により、さまざまな録音例が目立つようになり、作品目録上、矛盾があるような例に気づくことがいくつか生じている。そのため、改訂版が示された時にどのような対応がなされるか、興味深く思っている。
その問題の中心は、モーツアルトのオリジナルな作品の編曲の取り扱いであり、特にモーツアルトの自身の編曲とされているものは、自身が手を下したものであるから、K番号システムの中に例えサブナンバーでも良いから、明確に取り上げて欲しいという期待がある。
 私は1991年に、「モーツアルト自身の編曲とK番号」と称して、これらに関して小文をフェラインの機関紙に投稿して、コレクターを悩ませる幾つかの事例と目録改定への期待を述べたことがあるが、その後に、新全集が入手できたり、フイリップスのCDモーツアルト全集が発刊されたりして、さらに情報量が増加してきた。そのため、今の時点で、重要と考えられるものについてご報告し、K番号の改定でどう扱われるか、注目して行きたいと思う。


3、独立した2つの曲として扱われ、夫々がK番号を持つもの

 モーツアルトがオリジナルな曲を作曲し、それを自身の手で他の演奏機会のために別の曲に編曲した有名な事例として、ハ短調ミサ曲K427(417a)とオラトリオ「悔悟せるダビデ」K.469 およびハ短調ナハトムジークK388(384a)とハ短調弦楽五重奏曲406(516b) の二つがある。これらは、明らかにモーツアルトの改作の意図が明確な例とされ、夫々が独立したK番号を持っている。モーツアルト自身の自筆作品目録では、K.469についてはNo6およびNo8の追加アリアのみが記載され、オラトリオとしての記載はなく、また、K.406の五重奏曲は記載されていないので、ケッヒェルがあえて目録に追加したものである。しかし、ザスロー教授の新しい考え方では、オリジナルな曲であるハ短調ミサ曲は未完成曲として附録扱いになるので、完成曲リストには編曲されたオラトリオK.469だけが記載されることになるのかどうか、気になるところである。またK.406の五重奏曲は、そのまま生かされるのか、もし生かすとすれば、後述する他の編曲との整合性をどう確保するのか気になるところである。

   また、他の例としてバイオリン・ソナタでは、43番ヘ長調K.547の第2楽章も第3樂章も、同一曲がピアノ独奏曲として存在しており、前者はピアノソナタ楽章ヘ長調K.547a(Anh135) と、後者はピアノ変奏曲K.547b と変奏の一部を除きほぼ同一であり、それぞれがK番号をもっている。しかし、K.547がバイオリン・ソナタとして自筆作品目録で記載されているので、K.547がオリジナル曲として新しい目録に載り、ピアノ曲の方は付録にまわされることになろう。いずれにせよ、このように原曲に対し改作や編曲があっても、独立した2つの曲として扱われ、夫々にK番号がついていれば、比較的混乱はなく、コレクターを悩ませることはない。たとえ付録の扱いになっても、1937年以降に追加された番号をどこかに残して欲しいというのが、コレクターの意見である。


4、K番号を持つ原曲に対し、K番号を持たぬ自身の改作、編曲または代替曲があるもの

 このパターンの最も著名な改作の例は、オーボエ協奏曲K314(285d)に対するフルート協奏曲第2番であり、現在では、パウムガルトナーの研究の結果、オーボエ協奏曲が原曲でフルート協奏曲が自身の編曲とされているが、第6版では「フルート(オーボエ?)協奏曲」とされている。モーツアルテイアンにとっては、どちらもモーツアルトの作品に変わりがないし、現実にオーボエにもフルートにも沢山の録音例があることから、フルート協奏曲については、K.314-1などとサフイックスでも付けて処理して頂けばよいと願っている。

 同じK番号で異なった編成の演奏があるのはコレクター泣かせである。この例には枚挙に暇はないが、幾つか例をあげれば、例えば、3台のピアノのための協奏曲第7番K.242には、2ピアノ用の版があり、CDではブレンデル盤で聴くことが出来る。3人で弾く機会が少ないので、2人用に編曲したのであろう。シンフォニーではホグウッドのCD全集では、いろいろな事例を聴くことが出来る。第一は改作の例で、パリ交響曲K.297(300a)の第一・第二楽章に異稿版がある。第二は編曲の例で、ト短調交響曲K.550にはクラリネットを追加した第二版がある。第三は代替曲がある例で、第14番イ長調K114のメヌエットおよび第19番変ホ長調K.132のアンダンテに独立した別の曲がある。

 ウイーン時代にクラリネットを追加した例は、ト短調交響曲の他にも2台のピアノ協奏曲K.365(316a)やハフナー交響曲K.385(セレナードの原曲の改作)などがある。オペラでもイドメネオにウイーン版があり、アリアの追加曲に別のK番号が付されているので要注意である。有名曲ではキチンと解説されることが多いので、余り問題はないが、上記の代替曲の例などでは、別にK番号が付されていないと、コレクションから漏れる恐れがあるので、やはりサブナンバーをつけてもらう方式が望ましいと思われる。


5、K番号を持つ原曲に対し、自身が編成替えまたは編曲を認めていたもの

編成替えの最も一般的な例は、ホグウッドによるシンフォニー全集にある様に、セレナード等の多楽章の原曲に対し3・4楽章のシンフォニーとして演奏したものがある。また、初期のバイオリンソナタは、ピアノソロで演奏することも、これにバイオリンばかりでなく、フルートやチェロで助奏することも許されたであろう。また低音のバスは指定がなければチェロと同じ扱いであったから、後世の演奏者にかなりの自由度が許される。著名なアイネクライネK525は、弦楽四重奏とバスの五重奏であるが、これを弦楽合奏で演奏しても良かったであろう。同様に初期の弦楽四重奏をデイベルデイメントとして、反対にK136などのデイベルデイメントを弦楽四重奏として演奏しても許されるであろうし、優れた録音例もある。

 以上のような種類の曲は、楽器を変えたり、編成替えしたりした録音例が出てきても当時の慣習から余り驚かないので、番号付けの必要はないと思われるが、最近これら以外の新しい録音例が出てきている。第1の例は、「後宮」の木管合奏のモーツアルト自身の編曲(POCL-1019)とされるもの であり、この曲は、1782年 7月20日づけの手紙で本人が編曲することを予告しており、従来、他人の編曲とされていたものが、総譜の検討の結果、自身の作ではないかとされたものである。

 第2の例は、コラールのピアノによるピアノ協奏曲のP五重奏化(EMI CDC 7 49791 2) であり、第一集(No12,K414; No13,415;No6,238) 第二集(No11,K413;No 8,246;No14,449) に6曲が収録されている。K449については、自筆作品目録の第1曲として名高いが、自身の手で括弧書きで(2オーボエ、2ホルン使用任意)と書かれており,本来、4部の弦楽による室内楽的な協奏曲であることを本人が認めている。また、K413-415の3曲については、新聞の出版予約頒布の広告文の中で、「大編成の管弦楽でも、四重奏だけでも演奏できる」とあり、本人が認めていたことを根拠にしている。

 第3の例は、クラリネット三重奏曲K498のバイオリン版であり、クレーメルの録音 (DG 415 483-2)で聴くことが出来る。自身の作品目録ではクラリネットで作曲されているが、1788年アルタリア社から出版されたときのタイトルが「フォルテピアノ、バイオリン、ビオラのための三重奏曲、ただし、バイオリンパートはクラリネットに変えても良い」とされていたため、誤解されてきた。最近はクラリネットで弾かれることが殆どであるが、本人が認めていたので、バイオリンで弾かれてもおかしくない。好みの問題であろうが、バイオリンで弾かれると、華やかさは無くなるが、落ち着いた奥深い内容のある室内楽曲に変わるように思われる。

 第4の例は、クラリネット四重奏曲と称する3曲の存在がある。原曲はVソナタK378(317d),K374f,およびP三重奏曲K496で、モーツアルトの名で1799年にアンドレが作品79,No1-3, として出版した。ケッヒエルもAnh.170 としていたが、第6版ではAnh.B とされている。クレッカーという人のクラリネット(TELD 8 43046ZK)で聴くことが出来、素晴らしい編曲になっているのに驚かされる。出版年がせめて生存中であれば、自身が認めた曲としての要件をクリアしようが、この種のまぎわらしい編曲が他にも多くあるようであり、新しい改定でどのように扱われるか興味深いものがある。

 これらは、コレクターとして一聴に値すると考えたので、演奏例としてレコード番号も紹介した。編曲、楽器の振替え、編成替えをもっと厳密に区別する必要はあろうが、録音例が多いものについては、サブナンバーでも付けてもらえれば整理しやすいと思われる。


6、K番号を持つ原曲に対し、K番号を持たぬフラグメント(習作)があるもの

 フラグメントであっても、最近は、独立して演奏される曲が増加してきた。しかし、フラグメントと一口に言っても、ヾ粟した原曲の習作ばかりでなく、¬ご阿任△襪、意図の明確な断片、L榲がはっきりしない単なる断片、っ韻覆襯好吋奪祖度に止まるものなど多様であるが、第6版では殆どの曲が原曲や年代と関係づけられてK番号が付されている。しかし、なかには、K番号を持つ原曲に対し、K番号を持たぬフラグメント(習作)が録音されているので注意が必要である。

 その第一の事例は、ピアノソナタK284(205b)には、第一楽章に未完の初期の習作がありK番号が付されていない。断片曲を集めたクロムランクのもの、また、エッシェンバッハのピアノソナタ全集で、それぞれ、聴くことができる。第二の事例は、ミラノで書かれた弦樂四重奏曲第三番K156(134b)の第二楽章アダージオに習作の異版があり、イタリア四重奏団の録音例がある。第三の事例は、最近話題の多いホルン協奏曲第一番K412u514(386b)の第二楽章の未完の異版がこれに相当する。作曲年代の問題および原曲がジェスマイヤーの作であるか否かを含めて、現在、この曲の作品目録としての最終見解が求められているのであろう。

 これら3曲は、3、4、5、で述べた改作・編曲ではなく、未完の習作の例であるが、K番号がない点が問題であるので例示した。われわれは録音されなければ気が付かないが、この種の未完の習作には、他にも未録音の隠れた例が沢山あると思われる。


7、モーツアルト作品の他人の手による補作や編曲

 他人の手による補作や編曲をモーツアルトの作品と思い込んで聴いていた各曲が、 ノイエ・ケッヒェルでは、未完成作品として明確にされるので、コレクションの整理の仕方が変わるかも知れない。未完成作品の代表的事例は、レクイエムやハ短調ミサ曲などがあるが、未完成となると補作者が誰であるかが問われることになり、著名な補作にはサブナンバーで整理することになろうか。最初の補作者であるジュスマイヤーやピアノ曲など小編成の曲の補作が多いシュタートラーなどが、改めてクローズアップされるのは間違いないであろう。

 LP時代以降において、未完成曲の補作を積極的に進めてくれたエリック・スミスには、モーツアルテイアンは大いに感謝しなければならないだろう。彼の補作曲は殆どが、フイリップス全集に収められている。また、近年K.297BやK.416fなどを研究・補作してくれたレヴィン教授も注目される。これらの曲は、他人の補作・編曲と言うことを充分に理解した上で、未完成作品の意義を考え、モーツアルトの香りを嗅ぐ位の気持ちで楽しむのが良いであろう。しかし、中には素晴らしいものも含まれているので、コレクターには大変な喜びとなる。

 フラグメントのレコーデイングには、モーツアルトが残してくれた譜面通り演奏し、中断してしまうものと、補作された譜面により全曲を通して演奏するものとの2種類ある。素人には、譜面だけでは音像が浮かばないので、両方あればとても都合がよい。しかし、後述するスミスのように、モーツアルテイアンの心情を感じながら編曲してくれれば大変有り難い。フラグメントの優れた補作や編曲は、学問的な研究成果ではないかもしれないが、第6版同様に、本文に明記して頂きたい。


  8、おわりに、

 第6版以降に発見されたK.番号のない自作の曲がいくつかあるが、これらもどのようにナンバーリングされるか大変興味がある。さらに、全体を通じて、多くの最新の研究成果がどう反映されるかも期待の大きい部分である。最後に、第6版は30年以上も長い間関係者に定着してきたシステムであり、全ての資料や関係書の基本とされてきた歴史があるので、新しい番号システムの体系と互いにリンクされ、すぐ変換が可能なように工夫されていることが望まれる。例えば、旧システムで入力された文書のK番号を、自動的に新システムに変換するソフトなどがあれば大変有り難いと思うが、いかがなものだろうか。
                                                   (2000/11/19)


(参考文献)

1、「ノイエ・ケッヒェル(仮訳)」ニール・ザスロウ(1996)、季刊「モーツアルテイアン」第26号(1998.9)、

2、「モーツアルト自身の編曲とK番号」倉島 収(1991.4) 、「モーツアルテイアン・レター第70号(1991/7/5)」、

 

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