モーツアルトのピッチカートのさまざま


私のピッチカート・ベスト10

モーツアルトのピッチカートのさまざま
全体の構成 
1、まえがき
2、ピッチカート関連曲
3、ピッチカートを含む曲のリスト
4、ピッチカート演奏のさまざま
5、さまざまなピッチカートのまとめ


1、まえがき

 モーツアルトの数多い作品の中には、彼特有の爽快なアレグロ、優雅なアンダンテ、楽しいメヌエットなど特徴ある素晴らしい楽章がある。また楽章の一部を取っても、木管などのオブリガートであるとかピッチカートなど、彼ならではの特徴ある素晴らしい部分があり、これらは色々な切り口で捕らえることが出来よう。しかし、ピッチカートについては、どれをとっても印象深いものが多く、また、ほぼ全てのジャンルにわたっていろいろな形で使われている。

 平成11年4月のフェラインの例会で、さまざまなピッチカートの曲を聴きながら、その素晴らしさをご紹介する機会に恵まれた。本稿はその資料として取りまとめたものであり、出来る限り多くのピッチカートの曲をリストアップし、その使われ方の典型例を整理しながら、モーツアルトの素晴らしさの一端に触れようと試みたものである。


2、ピッチカート関連曲、

 ピッチカートの素晴らしさについては、約10年前のモーツアルテイアン・レター61号(1990・7・27)に「ピッチカートへのこだわり」という三石玲子氏(東京)による非常に新鮮な素晴らしいエッセイがある。当時から小生もこの感性の豊かなピッチカート礼賛の意見に全く同感であったが、曲の選定にやや直感的・部分的な記述があると思われたので、いずれ網羅的に関連曲全体をまとめておく必要があると考えて、ピッチカートがある楽章に気づくたびに、自分なりに属啓成先生の本やCDの解説書などに記録をつけてきた。本稿は、それらを集大成しようとかなり前から着手したのであるが、大変な労力が必要なので、例会の講演という大目標に間に合うように作業を続けてきた。細かく考えると、ある意味では、素人にしか出来ないエンドレスに近い作業でもある。

 昔と異なって現在では、モーツアルトの新全集(赤本のスコア)によって、聴感上の記録をスコアによって確認することが出来るようになっている。そのため、労を厭わなければ、全ての曲の中からピッチカートの部分を取り出すことができ、体系的に整理することが可能になっている。しかし、ここで扱うピッチカートの定義を、仮に新全集のスコアでピッチカートの指定があるものなどと定義すると際限がなくなるので、原則としてPizz.記号が2回以上繰り返されて、その部分が曲として一応のまとまりがあり印象に残るものを取り上げることにした。この定義により、例えば変奏曲(これもすべての分野にわたり分布している)の変奏の部分でピッチカートの部分が時々出てくるが、リストから削除されたものが出てくる。また、アレグロ楽章などで部分的に主題を強調するための短いピッチカートなども除かれることになるが、印象に残るものを重視したのでリストへの採否はやや主観的になっている。

 CDを聴きながら、そして時にはスコアでチェックしながら、ピッチカートの部分を確認する作業を行ったが、個人の力では、注意力の限界と時間の関係で漏れがあるものと思われ、今後、いろいろなご意見・ご指摘をいただければ幸甚である。その一方、CDを聴いてピッチカートであると思いこんでいた曲が、実はスコアには記述されていないという思い違いや聞き違いも数曲あった。思い違いとは単純な記憶違いであったが、聞き違いは、ベースのピッチカート伴奏とスタッカート伴奏とが、レコード録音では同じように聞こえて区別ができなかったものであった。


3、ピッチカートを含む曲のリスト

 以上の整理により、ピッチカートが含まれる曲のリストをジャンル別にリストアップすると以下の通りとなる。曲数は、K番号の数で数えて約80曲(約13%)になった。曲数が多いのは、やはり協奏曲、シンフォニー、デイヴェルテイメントなどの機会音楽、オペラのアリアの分野に多い。なお、リストには小生なりの感覚で、極上の作品、ピッチカート・ベスト10と考えられるものとそれに準ずるものに、それぞれ、★★印及び★印をつけてある。いずれも、例会で発表する際に必ず要求されるので、独断と偏見により事前に選定したものである。実際には、これも大変な作業であって、20曲選定しようとして、甲乙つけられず、最終的に25曲になってしまったものであるが、楽しい作業であった。会員の皆さんは、どのように聴かれるか、感想をお聞かせ願えれば幸甚である。


1)、協奏曲、

1.  ピアノ協奏曲第2番K.39第2楽章アンダンテ(ショーベルト、ソナタOp.17.2)
2.  K107-1,第3楽章、メヌエットのトリオ★、(C.バッハ、ソナタOp.5.2)
3.  第6番K.238、第2楽章、アンダンテ、冒頭の主題、
4.  第9番K271「ジュノム」、第3楽章、ロンド、中間部メヌエット★★、
5.  第10番K.365(316a)「2台のP」第1楽章アレグロ第2主題、
6.  第11番K413(387a)、第2楽章、ラルゲット、冒頭より★、
7.  第12番K.414(385p)、第1楽章、アレグロ第2主題、ピアノの伴奏、
8.  第13番K.415(387b)、第3楽章、アレグロ最終アダジオ、
9.  第15番K450、第2楽章、アンダンテの第2変奏、
10. 第17番K.454、第3楽章、アレグレットの最終部、
11. 第21番K.467、第2楽章、アンダンテ、「短くも美しく燃え」★★、
12. 第22番K.482、第3楽章、アレグロ、中間部、
13. 第23番K.488、第2楽章、アダージョ、最後の十数小節、
14. 第27番K.595、第1楽章アレグロ中間部、
15. ピアノとオケのロンドK.382、第3部アレグロ最終部分、
16. ヴァイオリン協奏曲第3番K.216、第2楽章★、第3楽章ロンド中間部、
17. ヴァイオリン協奏曲第5番K.219、第3楽章、ロンドの中間部、
18. ヴァイオリン協奏曲第7番K.271a、第2楽章、アンダンテ★、
19. ヴァイオリンとオケのロンドK.373中間部、
20. ヴァイオリンとビオラの協奏交響曲K.364(320d)第1楽章アレグロ第2主題、
21. 4つの管楽器のための協奏交響曲K.297b、第3楽章★★
22. フルートとハープの協奏曲K.299(297c)、第1楽章アレグロ第2主題、第3楽章ロンド第2主題、
23. フルート協奏曲K.313(285c)第2楽章アダージオ★、
24. フルートと弦楽のためのアンダンテK.315(285e)、

2)、室内楽、

2-1、ヴァイオリンソナタK.14、第3楽章第2メヌエット「鐘」、
2-2、ヴァイオリンソナタK379(373a)、第2楽章の第5変奏、
2-3、ヴァイオリン変奏曲K359(374a)(羊飼いの娘)、第11変奏、
2-4、ピアノ三重奏曲第1番K254、第3楽章ロンドの中間部、
2-5、フルート四重奏曲K.285第2楽章★★、
2-6、弦楽四重奏曲第15番K.421(417b)第3楽章トリオ★、
2-7、クラリネット五重奏曲K.581、第1楽章、第二主題★、第3楽章、メヌエット第2トリオ最後部、
2-8、ホルン五重奏曲K.407(386c)第1楽章アレグロ第2主題、
2-9、弦楽五重奏曲第4番K.516、第4楽章序奏部アダージョ、
2-10、弦楽五重奏曲第5番K.593、第3楽章メヌエットのトリオ、

3)、デイヴェルテイメント等、

3-1、カッサシオンK.63、第3楽章アンダンテ★、
3-2、カッサシオンK.99(63a)、第3楽章第1アンダンテ、
3-3、セレナーデ第1番K.100(62a)第6楽章第2アンダンテ、
3-4、デイヴェルテイメントK.136、第1楽章アレグロ展開部、
3-5、セレナーデ第5番K.204(213a)、第7楽章アンダンテイーノ、
3-6、セレナーデ・ノットルナK.239、第1楽章展開部冒頭、第3楽章ロンド後半の一部、
3-7、デイヴェルテイメント第10番K.247、第5楽章メヌエット★、
3-8、セレナーデ第7番ハフナーK.250(248b)第2アンダンテ1回のみ
3-9、デイヴェルテイメント第15番K.287(271H)、第2楽章、アンダンテ第6変奏(最終)、第4楽章、アダージョ★、
3-10、セレナーデ第9番ポストホルン第3楽章アンダンテ、第6楽章メヌエット第2トリオ、
3-11、デイヴェルテイメント第17番K.334(320b)、第1楽章、アレグロ第2主題、第2楽章、変奏曲、第5及び第6変奏★、第3楽章、メヌエット★★、
3-12、セレナード第10番K.361、第4楽章メヌエット第2トリオ、

4)、宗教曲、

4-1、リタニアK.243、7曲目Viaticum、
4-2、ミサ曲ハ長調K.259、オルガンミサ、第6曲AgnusDei、
4-3、ミサ曲ハ長調K.317、戴冠ミサ第6曲AgnusDei★★、(フィガロ第3幕)
4-4、ミサ曲ハ長調K.337、荘厳ミサ第3曲クレド中間部第6曲AgnusDei★(フィガロ第2幕)
4-5、第一戒の責務K.35、第7曲アリア(アレグロ、テノール)

5)、オペラ、

5-1、「アポロとヒヤチントス」K.38、第8曲アンダンテ(2重唱)、
5-2、「ラフィンタ・センプリチェ」K.51(46a)、第7曲アリア(アレグロ、ポリドロ)第15 曲アリア(アンダンテ、ロジーナ)、第17曲アリア(アダージオ、ポリドロ)、
5-3、「ルチオ・シッラ」K.135、第22曲アリア(アンダンテ、ジュニア)、
5-4、「女庭師」K.196、第11曲カバチーナ(アンダンテ、サンドリーナ)、
5-5、「ツアイーデ」K.344、第3曲、ツアイーデのアリア、
5-6、「イドメネオ」K.366、第7番アリア(イダマンテ)、第9番合唱中間部ソプラノ2重唱、第26番カバチーナ(イドメネオと合唱)、
5-7、「後宮」K.384、第4番アリア中間部(ベルモンテ)、第18番ロマンス(ペドリオ)
5-8、「フィガロ」K.492、第3番カバチーナ(フィガロ)、第12番アリエッタ(ケルビーノ)★★、第24番カバチーナ(バルバリーナ)、第27番アリア(スザンナ)、
5-9、「ドンジョバンニ」K.527、第16番カンツオネッタ(ドンジョバンニ)★、第21番アリア(オッターヴィオ)、
5-10、「コシファントッテ」K.588、第5曲アリア(アルフォンゾ)、第9曲アンダンテ(5重唱)★、 第10曲アンダンテ(3重唱)★★、 第31番フィナーレ(ラルゲット147小節、4重唱)★、
5-11、「魔笛」K.620、第20番フィナーレ(アンダンテ286小節、2重唱)、

6)、コンサート・アリア、

6-1、K.272、アンダンテイーノ(ソプラノ)、
6-2、K.383、アンダンテ(ソプラノ)、
6-3、K.418、アダージョとアレグロ(ソプラノ)★★
6-4、K.577、ロンド(ソプラノ)中間部、(第一Vのみ)
6-5、K.625(592a)、二重唱(ソプラノ、バス)中間部、

7)、シンフォニー、

7-1、旧43番K.76(42a)、第2楽章アンダンテ、
7-2、6番K.43、第2アンダンテ、
7-3、新ランバッハ、第2楽章、アンダンテ(レオポルド)、
7-4、ミトリダーテK.87、序曲第2楽章、
7-5、18番K.130、第2楽章アンダンテ、
7-6、20番K.133、第2楽章アンダンテ ★★、
7-7、27番K.199(161a)、第2楽章アンダンテイーノ、
7-8、24番K.182(173dA)、第2楽章アンダンテイーノ、
7-9、シンフォニーニ長調(セレナーデ第5番K.204(213a))第4楽章アンダンテ第2主題
7-10、31番パリK.297(300a)第1楽章第2主題、
7-11、36番リンツK.425第2楽章アンダンテ第2部、
7-12、38番プラーハK.504第1楽章第2主題経過部、
7-13、39番K.543、第1楽章アレグロ第2主題後半、
7-14、41番K.551ジュピター第1楽章アレグロ第3主題、

8)、その他、

8-1、レ・プテイリアンK.299b、ラルゲット(オーボエ)No11★、アダージョNo13、
8-2、7つのメヌエット、K.61b、第6曲トリオ、
8-3、コントルダンスK.101(250a)、第2曲アンダンテイーノ、
8-4、12のドイツ舞曲K.586、第7曲トリオ、
8-5、ドイツ舞曲K.605第2曲トリオ、
8-6、行進曲ハ長調K.214、中間部、
          8-7、エジプト王ターモスへの音楽、K.336a、第7曲アンダンテ、


(註)本表は、季刊「モーツアルテイアン」31号に掲載したときよりも、5曲追加されている。


4、ピッチカート演奏のさまざま

約80曲に及ぶリストアップされたさまざまなピッチカート演奏の中から、選り抜きの素晴らしい曲を、例会で十分堪能していただけるように、さまざまな使われ方のパターンを独断と偏見により分類し、典型的・代表的な事例を例示してみた。そして、各曲をこの順番にカセット・テープに収録し、試聴していただいた。

A)、オペラの恋のアリア(典型例、フィガロ、第12番、ケルビーノのアリア)、
 ギターやマンドリンの伴奏を擬したピッチカートで恋のアリアやセレナーデを歌うオペラの場面(アリエッタ、カンツオネッタなど)にみられる。他のオペラの例として、ドンジョバンニの第16番や「後宮」の第18番などがある。

B)、協奏曲のアンダンテ(典型例、P協奏曲第21番第2楽章、)
 冒頭から美しく歌う弱音器付き合奏を、控えめであるが低弦でしっかりと支える伴奏として現れ、途中からソロ楽器が加わって、見事な協奏による美しい緩徐楽章を形づくる。他の例には、ピアノ協奏曲第11番第2楽章、ヴァイオリン協奏曲第3番第2楽章、フルート協奏曲K.314の第2楽章などの例があるが、どれもとても美しい。

C)、ロンド楽章の中間部(典型例、P協奏曲第9番第3楽章、)
ロンドの最終楽章で、ABACABAのCの部分で、大きな変化を意識的に与えるため、ゆっくりとした美しい部分が現れる。この曲のように、かなり長く独立したような感じのものと、ヴァイオリン協奏曲第3番第3楽章、ロンドK.373の中間部など単に変化を与えるだけの短いものとがある。

D)、オーケストラのアンダンテ(典型例、交響曲20番第2楽章、)
弱音器を付けた弦楽合奏に、低弦がギターの伴奏を思わせるピッチカートによりサポートするもの。シンフォニー、セレナーデ、デイヴェルテイメントのアンダンテ楽章などに共通してみられ、さらにフルートやオーボエなどの美しいソロが見事な伴奏をみせる場合も多い。

E)、協奏曲やオーケストラ曲などのアレグロ楽章(典型例、デイヴェルテイメント17番K.334第1楽章アレグロ第2主題、)
アレグロの華やかな第1主題に対して、弾むようなピッチカート伴奏を持った第2主題が活躍するもの。ヴァイオリンとヴィオラの協奏交響曲第1楽章の第2主題、フルートとハープの協奏曲第1楽章第2主題、交響曲第39番第1楽章の第2主題、クラリネット5重奏曲第1楽章第2主題など素晴らしい曲例がみられる。
なお、アレグロ楽章には、これらの第2主題に限らず、展開部などでも部分的・断片的に多様なピッチカートが現れる。この種のものは,アンダンテ楽章のように当初からメモを残していなかったので、リストにもれが多数あると思われる。

F)、変奏曲楽章の一部(典型例、デイヴェルテイメント17番K.334第2楽章変奏曲、第5及び第6変奏、)
変奏曲楽章の中で、やはり変化を与えるためか、後半部の変奏としてピッチカートが用いられることが多い。この曲には、珍しく2つの変奏部に現れ、第5変奏では部分的に、第6変奏では冒頭から主題を奏でる。なお、変奏曲には、再現のない一回限りのピッチカートの例があるが、印象的でないものはリストでは省略している。

G)、オーケストラのメヌエット(典型例、デイヴェルテイメント17番K.334第3楽章)
 メヌエットの主旋律に用いられた珍しい例である。曲はモーツアルトを代表する有名なメヌエットである。

H)、メヌエットのトリオ(典型例、P協奏曲K.107-1、第3楽章メヌエットのトリオ、)
  メヌエットのトリオには非常によく使われている。また、ドイツ舞曲の中間部などにも使われている。いずれも、前後の曲想や他曲との変化を意識して使われたものであろう。また、この曲の原曲はC.バッハのピアノソナタで、モーツアルトが協奏曲に編曲したものであるが、自身の編曲であっても他人の作という意味で新全集(赤本)には含まれていない。

I)、宗教曲の例(典型例、戴冠ミサ曲K.317アニュス・デイ、)
 フィガロの第3幕伯爵夫人のアリアにそっくりで、モーツアルトの宗教曲は世俗的すぎるとの批判の原因となった余りにも美しい曲。宗教曲の他の曲例としては、荘厳ミサ曲K.337のアニュス・デイには第2幕の伯爵夫人のアリアに似たものがあり、また、オルガン・ミサ曲のアニュス・デイも、同様に素晴らしい祈りの音楽である。また、リタニアでは、アニュス・デイと異る力強いピッチカートの例がある。

J)、コンサートアリアの例(典型例、K.418「あなたに明かしたい、おお、神よ」、)
 アロイジヤのために書かれたコロラチューラの技巧曲。コロラチューラと哀調を帯びたオーボエのオブリガートと低弦のピッチカートとが類い希な素晴らしい調和をみせる。他のコンサートアリアには、ドウシェク夫人に捧げられたK.272や同じくアロイジアのためのK.383などがある。

K)、室内楽の例(典型例、フルート四重奏曲K.285第2楽章、)
 室内楽にも美しいピッチカートの例が多い。弦楽四重奏曲K.421のメヌエットのトリオ、弦楽五重奏曲のK.516やK.593、クラリネット五重奏曲、ピアノ三重奏曲K.254、ヴァイオリンソナタK.379などにも様々な形で見つけることができる。

L)、疑わしい作品の例(典型例、4つの管楽器のための協奏交響曲K.297b、第3楽章変奏曲、)
この曲は、アンダンテイーノの主題による変奏曲であり、新全集では“疑わしい”作品に含まれており、赤本にはない。しかし、この楽章のピッチカートの扱いには、とても楽しいものがあり、一度聴いたら忘れられない曲である。変奏の主題がピッチカートで始まり、第3、第7、第8、第10変奏に現れる。この曲と同様に、赤本に含まれていない“疑わしい”ものの曲例としては、ヴァイオリン協奏曲第7番K.271aの第2楽章アンダンテなどがある。

M)、オペラの中のピッチカートの例(典型例、コシファントッテ第9曲、第10曲)、
 リストにあるオペラの中から、フィガロ、コシファントッテ、ドンジョバンニ、魔笛の順に、よく聴かれるピッチカートの含んだアリアを、メドレー風にテープに抜粋・収録した。

N)、最初期のピッチカートの例(典型例、ヴァイオリンソナタK.14、第3楽章、)
 この曲がピッチカートを用いた最初の曲のようである。ついで第一戒の責務K.35やそれに続く幼い頃のオペラにも見うけられる。また、P協奏曲の編曲の例、カッサシオンや初期のシンフォニーなどの緩徐楽章に頻繁に用いられるようになり、次第に完成度が高くなったように思われる。


  5、さまざまなピッチカートのまとめ、

 以上のA)からH)にピッチカートが使われる代表的なパターンとその典型的な使用例を紹介した。また、I)からN)では、色々な曲種でピッチカートが使われている事例を示した。これらを整理しているうちに、ピッチカートを含む曲は、大雑把に分けて3つの軸に分類して、その使われ方を整理することができると考えられる。

 第一の軸は、ピッチカートが出てくる楽章の種類である。例えば、アレグロ、アンダンテ、アダージオ、メヌエット、ロンドなどの楽章の形であり、更に器楽曲であれば、変奏曲、ドイツ舞曲、コントルダンス、行進曲など、また歌曲であれば、アリア、アリエッタ、カバテイーナ、カンツオネッタ、アニュスデイなどの曲の形をイメージする。

 第二の軸は、ピッチカートが現れる楽章内の位置である。冒頭の序奏部や楽章全般にわたり出てきたり、第2主題の一部に使われたり、メヌエットのトリオなど楽章の中間部に使われたり、さまざまである。

 第三の軸は、その楽章の楽器構成である。ピッチカートは、二重奏から五重奏までの室内楽にもオーケストラにも現れ、ソロ楽器の独奏を伴奏することが多い。ヴァイオリン族が弱音器をつけることも多く、さらに木管の優雅なソロが加わったりする。ソロの楽器としては、協奏曲などのソロ楽器の場合のほか、オペラでは、ソプラノやテノールのソロがあったりする。その際、オーケストラの一員としてオーボエやフルートのオブリガートがソロの楽器と見事に調和することが多い。そして多くの場合、ピッチカートはこれらのソロ楽器を低弦で支える伴奏の役割を果たしている。


   以上、独断と偏見により、ピッチカートの素晴らしさについて考察してきたが、冒頭でも述べたように、モーツアルトの素晴らしさを見つけ出す切り口にはいろいろある筈である。作業をしながら思いついたことは、オペラなどで各楽器のソロが活躍するオブリガートの部分であるとか、分野を問わず出てくる変奏曲の形式を聴き比べて整理してみるとか、時々出会って感銘を受ける例えばシチリアーノの楽章を取り上げ他の作曲家の有名曲と比較するなど、フェライン会員でなければ出来そうもないモ−ツアルトの楽しみ方がいろいろありそうである。どなたか引き続いてご検討いただければ幸いである。

(以 上)

(1999年8月20日)「モーツアルテイアン」第31号に掲載
(2000年8月23日)改定。

(参考文献)
1、モーツアルト新全集各巻、
2、属 啓成、モーツアルト、歌曲編、器楽曲編、
3、三石玲子、モーツアルテイアン・レター61号、(1990・7・27)、

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