(最新入手のDVD;ウエザー=メストとチューリヒ歌劇場の「コシ・ファン・トッテ」)
10-9-3、ウエザー=メストとチューリヒ歌劇場による「コシ・ファン・トッテ」K.588、ベヒトルク演出、2009年、チューリヒ歌劇場ライブ、

−メスト・ベヒトルクのコンビによる三部作では、この「コシ」が最も意気が合っており、リブレットに忠実な全曲演奏という初めての試みや最後の思わぬ劇的な終末という演出面の特徴があって、メストの軽快な音楽の進め方により随処で重唱とオーケストラのアンサンブルの良い音楽が鳴り響き、このオペラ特有の美しいメロデイが満ち溢れていた−

(最新入手のDVD;ウエザー=メストとチューリヒ歌劇場の「コシ・ファン・トッテ」)
10-9-3、ウエザー=メストとチューリヒ歌劇場による「コシ・ファン・トッテ」K.588、ベヒトルク演出、2009年、チューリヒ歌劇場ライブ、
(配役)フィオルデリージ;マリン・ハルテリウス、ドラベラ;アンナ・ボニタテイブス、デスピーナ;マルテイナ・ヤンコーヴァ、フェランド;ハビエル・カマレナ、グリエルモ;ルーベン・ドロール、アルフォンゾ;オリヴァー・ヴィドマー、
(2010年8月7日、ARTHAUSーMUSIK、DVD-101495、2枚組、5.1CH、) 

   この映像は、8月に秋葉原で購入した最新の輸入DVDであり、最近活躍が著しいウエザー=メスト指揮のチューリヒ歌劇場の映像で、日本語字幕付きの5.1chサラウンドであったので、即座に入手したものである。これでメスト・チューリヒ歌劇場・ベヒトルク演出のダ・ポンテ三部作の最新映像が完成した。彼らは、現在、小沢征爾の後を受けてウイーンの国立劇場と言う舞台を得て、活躍が期待されている。このチューリヒ歌劇場は、先にアーノンクール・フリム演出でダ・ポンテ三部作を完成させており、伝統的にモーツアルトオペラを得意にしているオペラ劇場のようである。
    この映像は、一見したところ、他の三部作と同様に、明るい現代風の演出であり、見事に左右対称に設えた舞台の上で恋物語が演じられているようであるが、非対称なものには「何か」が仕組まれているようなので、注意して謎解きをする必要がありそうである。また、通常の舞台では省略されている第7番の男同士の二重唱や第24番のフェランドのアリアなどが収録されているので、これも注意して見たいと考えている。さらに、私の好きなマリン・ハルテリウスがフィオルデリージを演じているので、彼女の伯爵夫人、ドンナ・エルヴィーラに続く役として、期待を持って見届けたいと考えていた。



    ウエザー=メストが拍手とともに入場し、一礼してゆっくりと序曲が始まった。オーケストラの総奏のあとオーボエのソロがクリアーに響き、コシ・ファン・トッテの特徴ある和音が鳴り響いた序奏の後に、プレストで軽快に序曲の主部が始まり、画面はメストの姿とオーケストラの演奏を追っていた。再びコシ・ファン・トッテの和音が鳴り響いて序曲が軽やかに終わるが、オーケストラでは続いて第一曲目の前奏が始まり、舞台ではカツラを着けた白い軍服姿の二人の兵士が白髪の老人と言い争いを始めていた。録音のせいかこの三重唱の弦の伴奏が実に軽快で揃って美しく聞こえていた。そして二曲目に入り「剣を抜け」と若い二人がアルフォンゾに迫っていたが軽くいなされ、相手は人間の女性だと答えると、「女の貞節なんてアラビアの不死鳥と同じだ」と言われていた。いきり立つ二人に対し、アルフォンゾは証拠はあるかと開き直ると、しどろもどろの返事。頃を見て「賭けようか」を合図に男三人は一気に合意に達し、第三曲目では「素晴らしいセレナード」を歌う三重唱となって、互いに自分が勝った積もりで乾杯をして喜んでいた。



    場面が変わって美しい若い女二人が登場。中央に大きな木のあるお屋敷で二人がノートに恋人の似顔絵を描きながら、幸せ一杯の表情で二重唱が始まった。恋をしている幸せなお揃いの美しい姉妹で、今朝はふざけたいなどと喜んでいると、アルフォンゾが様子を見ながら登場し、泣きながら二人に近づいて、「王の命令で出征だ」という。驚く女二人に「アミーチ」と男二人を呼んで、悲しみの五重唱が始まった。「剣で胸を刺してから行ってくれ」と嘆き悲しむ姉妹を見て、男二人は大喜びし、「行かないで」の大合唱から別れの五重唱になって涙していた。そして、男二人は女二人に愛の神が加護してくれると「泣かないでくれ」の第7番の二重唱を歌い出した。この曲はいつも省略されるので、初めて聞くアリア。二人は悲しむ女二人を激励し、喜劇を楽しみながら悠々と非常に珍しい二重唱を歌っていた。



      そこで太鼓が鳴り響き、「軍隊万歳!」の合唱が始まった。制服を着た合唱団が威勢よく登場して元気よく歌っていたが、悲しむ女二人を前に出征する男二人は指揮をしたり踊り始めたり陽気であった。「苦しくて死にそう」という女二人が真面目な顔で、「毎日、お手紙書いてね」と歌い出すと、男二人は嬉し泣きしながら愛の5重唱となった。ピッチカートの響きが最高の美しいこのアリアの中で、アルフォンゾ一人がブツブツと可笑しさを噛みしめているようだった。再び太鼓とともに合唱が始まって、出征と聞いてからあっと言う間に、男二人は恋人たちを置いていなくなってしまった。残された女二人は、悲しみながら「風よ穏やかに」と祈るような三重唱を歌い出してこの上なく美しい別れの歌になっていたが、アルフォンゾは後半から「わしも役者だな」と一人で応援してくれた合唱団の人達に小遣いを渡しながら次の作戦を練っていた。



       そこへデスピーナが元気良く登場し、コッソリとチョコを味見していると、お嬢さん二人が凄い剣幕で登場し、ドラベラがデスピーナに「お下がり」と当たり散らし、半狂乱になって「不安でどうしよう」と凄い形相でアリアを歌っていた。デスピーナは「恋人たちが戦場に行った」と聞いて、心配しなくても良いと二人を慰め、「男や兵隊に貞節を求めてもしようがない」とアリアを歌って言い聞かせていたが、その様子をアルフォンゾは覗き見していた。
    アルフォンゾはデスピーナを味方にして作戦を練ろうと、金貨を渡してデスピーナに協力を求め、若い男二人を紹介したいと持ちかけると、彼女は直ぐに乗ってきた。鬚を付け、異国人風のガウン姿でグリエルモとフェランドが登場したが、デスピーナは二人の変装に気がつかない。そこでアルフォンゾはデスピーナに二人を紹介し、挨拶の四重唱になったところでお嬢さん二人が登場したので、怒りと許しを乞うおかしな六重唱に発展していった。お嬢さん方の怒りが激しいので、アルフォンゾは新入りの男二人が親友であることを見せつけたが、それでも彼女らの怒りは納まらない。男二人は頭に乗って「アモーレ」と口説きだしたので、女二人は逆上して、フィオルデリージが「私たちの貞節は、岩のように揺るぎもしない」と高らかに歌い出した。彼女の毅然たる態度に男二人は安心した様子であった。そしてグリエルモがヴァイオリンの伴奏でさらに彼女らの愛を求めて歌い出したので、女二人は逃げ出してしまった。二人は勝ったとばかりに大笑いをしながら三重唱が歌われていた。そしてフェランドが「愛のそよ風よ」とウラウラの愛の歌を歌い出して一休みとなっていた。


    フィナーレの前にアルフォンゾとデスピーナはもう一押ししようと次の作戦を立てていたが、デスピーナは男二人がお金持ちと聞いて張り切っていた。フィナーレに入ってお嬢さん二人が登場して美しい前奏に続いて「たった一時で運命が変わってしまった」と嘆きながら二重唱を歌っていた。そこへ、突然、毒を飲んだと大騒ぎとなり、男二人が苦しみながら倒れ込んでいた。女二人は驚いてデスピーナを呼ぶと、彼女は男二人を優しく介抱するように命じ、自らは医者を呼びに行った。残された女二人は倒れている男二人に近づき、脈を取ったり呼吸を調べたり、介抱し始めた。

    そこへデスピーナが扮するお医者さんが駆けつけ、服毒の様子を確かめてから、メスマーの磁気療法の磁石棒を手にして、男二人のお腹めがけて施すと、二人は痙攣しながら動きだし、繰り返すうちに体を震わせながらやっと立ち上がった。そして辺りを見渡してから女二人を確かめつつ近づいて、抱きしめようとしやっと捕まえてからしつこくキスを求めだした。逃げるのに精一杯だった女二人の怒りは頂点に達し、大騒ぎの六重唱になって、女二人は逃げ出してしまうおふざけとお笑いの終幕になっていた。






    第二幕に入って、デスピーナは二人のお嬢さん方の出征した恋人たちを思う頑くなな心を癒やそうとしきりに努めており、ワインを持ち出してきて、明るく「女も15歳になれば」と歌い出し、アレグレットになってからワインを二人に注ぎながら「男の心を掴むには」と恋の手管のお説教をしていた。デスピーナが去ると少し酔いが回ったドラベラが、デスピーナの軽薄さに驚きながらも少し楽しんでみようかと、フィオルデリージを誘うように「私はあのブルネットの方が良いわ」と歌い出した。そうするとフィオルデリージもそれに答えて「私はブロンドの方にするわ」と明るく歌って楽しい二重唱となり、デスピーナの教えのせいか、酔いが回ったせいか次第にほぐれてきた。二人の顔にやっと笑顔が戻り、これで互いの恋人を取り替えて、悲しむより楽しもうという姿勢が見え始めた面白いアリアであった。







    そこへアルフォンゾが「さあ、お嬢さん方」と迎えると、木管楽器による前奏が聞こえ始め、キューピットが姿を現し、何かが始まりそうな雰囲気になってきた。お嬢さん方が席に着くと、木管のセレナードが始まり、花束を持った男二人が恥ずかしそうに「微風よ、わが思いを愛しい人に届けてくれ」と二重唱を歌い出し、合唱団も厳かに歌い出して四人が着席して雰囲気は出来たが、四人とも言葉が出ない。女性たちは余裕があるが、二人の男達は震えて声が出ず、呆れたアルフォンゾがドラベラの手を取ってグリエルモに「お手をどうぞ」と歌い出し四重唱が始まった。デスピネッタも言い聞かせるように「過去のことは忘れましょう」と歌って四人を仲直りさせて、後はお任せよと退場していた。
    残された四人が隣り合わせて、片言ずつぎこちなく話し始め、フィオルデリージがこの綺麗な小道を散歩しましょうとフェランドと席を立つと、グリエルモが心配そうに追いかけていた。一方のドラベラは、グリエルモが思い切ってこの小さな贈り物をと差し出すと、始めは受け付けなかったが、グリエルモが「愛しい人よ」と歌い出すのを待ちかねたように彼女は応え始め、執拗な誘いと高価な品物を見せられて、最後には「お受けしますわ」となってしまった。そして彼女も「愛しい人よ」と歌い出した。ウットリしているうちにここに付けさせて下さいとロケットを新しいものに交換させられて、二人は愛を確かめるように抱き合ってしまい、最後には深いキスとなって愛の二重唱が結ばれていた。







    一方、フィオルデリージは蛇がいたのよと逃げてきて、フェランドに私の心の平和を乱さないでくれと強い求愛を避け、身を隠してしまった。そこでフェランドは「これぞ女の魅力」とフィオルデリージに愛を求めるアリアを歌い出し、自分の心の内を強くさらけ出していた。このアリアは、第24番目のフェランドの初めて聞くアリアであり、情熱を込めたアリアであった。(このアリアは、モーツアルトの草稿に、省略して先へ進むように指定されているので、通常の上演では省略されていた。)フィオルデリージはこのアリアを隠れて聞いて、次第にフェランドに心惹かれるようになってきた良心の悩みをレチタテイーボで強く歌い、ついに「愛しい人よ、お許し下さい」と新しい恋人に惹かれていく自分を許してとゆっくりと歌い出した。そしてロンドに入って二つのホルンが活躍し始めて、突如として苦悩の叫びを上げる高い声を出したりして、心が揺れる自分を戒めるアリアを歌っていた。フェランドは彼女が歌うこの苦悩するアリアを聞いて、フィオルデリージは貞節だと信じ、「われわれは勝ったぞ」と喜び、グリエルモと万歳をしていた。



    そしてフェランドは、グリエルモに対して「僕のドラベラはどうだった」と聞いて、ドラベラのロケットを見せられ即座に「僕の絵だ」と半狂乱になった。「神よ、こんな短い時間に」と嘆き悲しみ、どうすればいいと悩みながら「僕に忠告してくれ」と泣き叫んでいた。グリエルモは「女性たちよ」とアリアを歌い出し、「皆さん方はよく浮気をする」とタンテア・タンテアと節を付けて女性たちの裏切りを怒って、フェランドを慰めていた。残されたフェランドは、信じられないと怒り、浮気な女を追放するぞと激しく悩み、悲痛な声でカヴァテイーナを歌い出したが、ドラベラに裏切られ踏みにじられても、なお、彼女を好いている自分を見出し、絶望的であった。
    そこへアルフォンゾがブラーボと言いながら登場し、男二人にまだ賭の結末はついていないと次の手を考えていた。一方の女二人の方はデスピーナがドラベラの成功を誉めていると、フィオルデリージが現れて「自分はブロンドが好きになっている」と告白し、「あの出征した恋人たちをどうするの」と大荒れで自分を怒っていた。そこでドラベラは、新しいロケットを見せながら「恋は盗人」と歌い出し、戦争で死んだらお終いだから、諦めた方がよいとロンド風のアリアでフィオルデリージをそそのかしていた。



   しかし、フィオルデリージは私は違うと考え、デスピーナを呼んでグリエルモの軍服を取り寄せ、軍服を着て戦場に行って彼の後を追おうと悲壮な決意をした。そして「もう少しの辛抱」で戦場に行けると歌い始めたところに、フェランドが必死の形相で現れ、愛を訴えて「許されなければ剣でこの胸を突き刺してくれ」とフィオルデリージに訴えた。「力がなければ手を貸そう」とまでフェランドが死を覚悟で懇請するので、彼女はついに「あなたの勝ちよ」となり、オーボエの悲しげなすすり泣きに似た一泣きとともに、二人は最後には抱き合ってしまった。グリエルモはこの場面を始めから心配しそうに見ていたが、最後の場面を見て激昂しアルフォンゾに食ってかかるが、そこへ現れたフェランドの得意げな顔を見て、二人は姉妹の裏切りに逆上していた。アルフォンゾは賭けに敗れた男二人をなだめながら、結婚式を挙げようと企て、「皆は女を責めるが、私は許したい」と歌い出し、三人は序曲で歌われた「コシ・ファン・トッテ」を声を揃えて復唱していた。そしてデスピーナに結婚式の準備を命じていた。





       フィナーレは軽快な序奏が走り出し、デスピーナの動きに合わせて合唱団も結婚式の準備で大忙しであった。格好がつき出すと合唱団が祝福の歌を歌い出し、新郎新婦が席について四重唱でデスピーナに感謝をし、彼女もそれに応えていた。そして二組の夫妻がそれぞれ祝い合った後に全員で乾杯しようとして、始めにフィオルデリージが歌い出すとフェランドが加わって二重唱になり、さらにドラベラが加わってカノン風に美しい三重唱が続いていた。しかし、グリエルモは一人横を向いてブツブツ歌っており、信頼していたフィオルデリージに裏切られたショックの大きさを物語っていたが、彼は部屋の片隅にあった毒薬のビンを見つけてしまい、何を思ったのか手にしていたグラスにそれを注いでいた。そこへデスピーナが変装した公証人が登場し、結婚合意書を賑やかに読み上げてサインをしたところに、恋人たちが出征したときの合唱の声が聞こえてきた。驚いたアルフォンゾが様子を見に行って、出征した恋人たちが帰って来るという。さあ大変。女二人はそこにいたアルバニアの恋人たちを隠し、真っ青になってアルフォンゾにすがりついていた。そこへ軍隊服の恋人たちが元気に登場した。

 


        男二人は青ざめて声も出ない女二人の様子がおかしいので不思議に思っていると、公証人を発見し、結婚合意書を見つけて大いに怒り、女二人に詰め寄っていた。女二人とデスピーナは平謝りで剣で突いてくれと大慌て、アルフォンゾが悪いと気がついたところへ、男二人がアルバニア人になって現れたので、男たちに騙されていたことに気がついた。張本人のアルフォンゾが、甘い男の恋人たちが勉強したので許してやってくれと女二人に謝ったので、「ひどい人」と恋人たちは元の鞘に戻って愛の歌を歌っていた。



音楽のテンポが変わり最後の場面を6人全員の六重唱となって、自然体で机の上のグラスを手にして全員で乾杯していたが、フィオルデリージが飲み込んだグラスには毒薬が入っていた。飲んでからおかしいとフィオルデリージは気がついたが、時すでに遅し、フィオルデリージが倒れて横になり、皆が気がついて驚いたところでこの劇は幕となっていた。最後の最後に、思いがけぬ騒然とした場面が用意されて、唖然としている間に終わる奇抜な「コシ・ファン・トッテ」の新しい舞台であった。

   このフィナーレでは、原作のように元通りの幸福な恋人たちに戻らずに、最も貞節であったフィオルデリージの死という思わぬ悲劇で幕を閉じたが、その伏線には貞節であると信じていたフィオルデリージに裏切られたグリエルモの大きなショックがあった。この二人は、この劇ではたとえこのように死に別れなくとも、元の鞘に戻ることはなかったと思われ、この結末は、この劇の本当の怖さを舞台の上で思い切った形で表現したものであり、まさに演出者ベヒトルクの機知の勝利と言えよう。

   このように新しい展開を見せたこのメスト・ベヒトルクのコンビの第三作目は、「フィガロの結婚」や「ドン・ジョバンニ」で見せたモダンなスタイルとは共通しており、きめの細かい音楽造りとリブレットに忠実な省略のない演出なども共通していたように思う。メストの軽快な音楽の進め方は序曲から始まっており、随処で重唱とオーケストラのアンサンブルの良い音楽が鳴り響き、このオペラ特有の美しいメロデイが満ち溢れていた。この映像で新たに試みられていたことは、初演時に時間短縮のため草稿を変更したとされる第7番の男二人の二重唱と第24番のフェランドのアリアが加わっており、これらは初めて耳にする曲であった。それに加えてリブレットも丁寧に扱われ、結果的に3時間20分(200分)を要していることがこの映像の特徴であり、省略のない丁寧な演奏が持ち味になっていた。

   演出面でも土壇場の逆転劇以外にも、最後まで中央に大木がある左右対称の舞台にこだわりを見せた演出や、随処でユーモアのある新しい動きや試みが行われて笑いを誘う演出に新鮮さを感じさせていた。ただし、日本語字幕の問題であろうと思われるが、フィオルデリージが妹でドラベラが姉のような表現になっていたのが気になった。    今回の歌手陣では、矢張りハルテリウスとデスピーナのヤンコーヴァが、歌も演技も素晴らしく安心してみておれた。ハルテリウスはブロント役(92)で登場して以来注目してきたが、今回のフィオルデリージで大役の全てをこなし、メスト・ベヒトルクのコンビで伯爵夫人とエルヴィーラを歌って、今や大ヴェテランのスターになっていた。また、ヤンコーヴァは、これまでこのコンビでツエルリーナとスザンナをこなしており、今回もそうであったが、特に動きの良い行動力ある歌と演技が売り物のように見えた。男性陣ではアルフォンゾのしたたかな存在感とフィオルデリージの相手役のグリエルモのルーベン・ドロールの体当たり的な歌と動きが特に目についた。また、フェランドも新しいアリアを二つも歌うという活躍を見せ、フィオルデリージとの二重唱でも頑張りを見せていた。

   メスト・ベヒトルクのコンビによる三部作では、いずれもモダンな感じの新鮮な舞台を見せていたが、この「コシ・ファン・トッテ」が一番意気が合っていたと思う。また、リブレットに忠実な全曲演奏という初めての試みもあり、最後の劇的な終末という演出も新しい試みなので、これらは他の映像にはない特徴として存在感を持った映像の形で、今後に語り継がれるものと思われる。ただし、全体で200分を要しているので、ドタバタ劇の部分などでやや冗長さを感じさせていたのが残念であった。

(以上)(2010/10/16)


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