(最新収録のBD録画報告;プレヴィン80歳のN響記念番組、K.491&K.478)
10-9-1、アンドレ・プレヴィンのN響弾き振りのピアノ協奏曲ハ短調第24番K.491およびピアノ四重奏曲ホ短調第一番K.478、堀正文、佐々木亮、藤森亮一、2009年9月、京都、

−このピアノ協奏曲ハ短調K.491も、ピアノ四重奏曲ホ短調K.478も、プレヴィンが自らのペースで指揮やリードをし、自らのピアノで自らの音楽を語ったプレヴィン独自の世界の演奏であり、どの部分にもゆとりのある穏やかな音楽が流れ、まさに80歳に近い巨匠だから到達できたであろう暖か味の溢れた豊かなアンサンブルの世界であった−

(最新収録のBD録画報告;プレヴィン80歳のN響記念番組、K.491&K.478)
10-9-1、アンドレ・プレヴィンのN響弾き振りのピアノ協奏曲ハ短調第24番K.491およびピアノ四重奏曲ホ短調第一番K.478、堀正文、佐々木亮、藤森亮一、2009年9月、京都、
(2010年1月15日、NHK地上D021、芸術劇場による放送をBD-23にHEモードで収録)

   9月号のソフト紹介予定の最初は、最新ソフト紹介としてNHKが芸術劇場で放送したNHK交響楽団の名誉指揮者アンドレ・プレヴィンの80歳を記念した、ドキュメンタリー風の映像であった。80歳を超えてもなお音楽への情熱が衰えないプレヴィンを追って、彼が好きだという京都の日本庭園を持つ宝厳院を訪れ、プレヴィンの経歴紹介や独特の語りとともに庭園風景が映し出されていた。音楽はプライベートなスタジオ・コンサートで、プレヴィンの弾き振りでピアノ協奏曲ハ短調第24番K.491を演奏し、続いてプレヴィンのピアノおよび堀正文、佐々木亮、藤森亮一のN響メンバーで、ピアノ四重奏曲ホ短調第一番K.478を演奏したものである。これらの曲は、プレヴィンはお得意で、若いころから彼のピアノを弾く映像が残されており、K.491は5度目(N響とは3度目)、K.478は2度目の映像になっていた。しかし新しい映像はハイビジョンの近撮のスタジオ映像のためか写りも音も極上で、プレヴィンの円熟した姿がつぶさに捉えられており、曲が良いので極めて楽しめるものであった。


    最初の曲は、ピアノ協奏曲ハ短調(第24番)K.491であり、第一楽章はハ短調の暗いアレグロ楽章、第二楽章はラルゲットの珍しいロンド形式、第三楽章はハ短調の変奏曲形式で出来ている。ホールの中央にピアノが置かれ、プレヴィンは正面に背を向けて座り、オーケストラがピアノを囲むように左右に並び、木金管グループとテインパニーが中央にピアノと向かい合うように並んでいた。コントラバスは2本であり、中規模のオーケストラの布陣であった。金色の壁と正面の庭木の絵が素晴らしい背景となっていた。
           第一楽章はオーケストラにより重々しく始まるが、プレヴィンの指揮は非常にゆっくりしており、長い第一主題もむしろ穏やかに響き、右手で軽く指揮を取りながら明るく第一主題が進められていた。独奏ピアノによるアインガングは、ゆっくりと丁寧に高音を際立つように弾かれてから、ピアノで第一主題を提示して、オーケストラと競い合うように速いパッセージでどんどん進む。やがて満を持して現れた第二主題が独奏ピアノで玉を転がすように現われ、ピアノがひとしきり速いパッセージをこなしてから、オーボエとクラリネットが順に新しい副主題を導入しピアノが繰り返して、提示部の結びとなるピアノとオーケストラによる盛り上がりを見せていた。プレヴィンは背中を丸めてピアノの鍵盤を見つめながら確かめるように丁寧にピアノのパッセージをこなしていた。
  展開部もアインガングの主題で始まるプレヴィンのピアノで始まり、早い技巧的なパッセージも何とかクリアーして、管弦楽と掛け合いながら盛り上がりを見せていた。プレヴィンは、左右の手が空くとその手を挙げて指揮をしようとリズムを取っており、それがクセのように見えるのは、指揮者としての執念かと思わせた。再現部では、ピアノが加わって第一主題に続き、副主題・第二主題と順序を変えて再現されたが、プレヴィンのピアノと木管やオーケストラとのアンサンブルがとりわけ美しく響いていた。カデンツアはプレヴィン独自の即興的な気ままなものに聞こえた。作曲の才のあるプレヴィンの暖かみのあるオリジナルな長いカデンツアであった。


    第二楽章ではプレヴィンの独奏ピアノがひとりで呟くようにラルゲットのロンド主題を歌い出し、澄みきった透明なピアノの世界を醸し出し聴くものをウットリさせる。やがて、オーボエとファゴットが初めのエピソードを語りだし、ピアノが主題を変奏しながらこの対話に加わって、これにオーケストラも加わって対話の輪を広げ、ピアノとオーケストラが渾然一体となった響きを見せ、プレヴィン独自のアンサンブルの世界のように聞こえた。二度目のロンド主題の後でも、2本のクラリネットとファゴットとが新しいエピソードを奏でピアノやオーケストラと混ざり合って夢のような美しいアンサンブルの世界を繰り広げた。この楽章の素晴らしさは、老境に達したプレヴィンならではのアンサンブルの美しさにより、比類ない世界へと高められたように感じられた。
    フィナーレでは変奏曲の主題がオーケストラで威勢良く始まった。プレヴィンは早めのテンポを取り軽快に主題が繰り返されていた。最初の変奏は独奏ピアノが早いテンポで変奏を行うもの、続く第二変奏では木管が主題を示し、ピアノが追いかけるように早いパッセージでフォローしていた。第三変奏では付点リズムによるピアノが力強く弾かれ、オーケストラが堂々と交替して進んでいた。第四変奏ではクラリネットが新しい主題を奏でピアノが競い合うように引き継いでいた。第五変奏ではピアノが対位法的に呟くように主題を歌う面白い変奏。ここではプレヴィンのピアノの動きが印象的であった。第六変奏ではオーボエが新しい主題を提示してピアノがこれを反復していた。また、第七変奏では主題通りのオーケストラに独奏ピアノが華やかに飾り付け、終わりには短いカデンツアまで用意されていた。最終変奏は八分の六拍子とリズムが変わり、ピアノが活躍しながらそのままコーダに入り、明るくオーケストラで終結していた。




    このピアノ協奏曲ハ短調は、プレヴィンが自らのペースで指揮をし、自らのピアノで自らの音楽を語ったプレヴィン独自の世界の協奏曲であった。どの楽章もゆとりのある穏やかな音楽が流れ、まさに80歳に近い巨匠だから到達できたであろう暖か味の溢れた豊かなアンサンブルの世界が繰り広げられていた。プレヴィンは、07年9月8日、NHKホールでのN響定期第1595回でもこの曲を弾いていた(8-4-1) が、今回は聴衆のいないプライヴェートなコンサートであったので、前回よりも一層、プレヴィンの持ち味が加速されており、むしろプレヴィンの気ままさが現れたような演奏になっていた。




    第二曲目のピアノ四重奏曲第一番ト短調K.478は、同じホールの中央にピアノが置かれ、ピアノの前にN響のメンバーの三人が並んで演奏されていた。プレヴィンの演奏はこのHP2回目であるが、前回は2000年のモーツアルト週間でウイーンフイルのコンサートマスターのキュッヘル氏他と組んで、第一番・第二番を収録したもの(1-3-2)であった。このソフト紹介は01年3月に初めて開始した思い出のものであり、まだソフト紹介のパターンが定まっていない頃のお粗末なものであったことを思い出す。今回の演奏は、プレヴィンがくつろげる仲間として選んだN響のコンサートマスターの堀正文ほか、ヴィオラの佐々木亮、チェロの藤森亮一の各氏は、10年前のウイーンフイルの仲間たちと同じように協演を楽しめる仲間たちであるとプレヴィンは考えたのであろう。プレヴィンのピアノは実に生き生きとしており、N響の皆さんもピアノとのアンサンブルを楽しんでいるかのように伸びやかに聞こえた充実した演奏であった。









    ピアノ四重奏曲第一番ト短調K.478の始まりは、ト短調の冒頭のユニゾンの強奏とピアノによる2オクターブを駈け下りる音階の第一主題で始まる。力強い運命の動機のような強奏の後に飛び出すピアノが印象的で、暗い主題であるがプレヴィンはピアノの最高音を高く響かせて生き生きとした流れにし、弦楽合奏が息の合った合奏をしていた。運命的な暗い主題が一頻り続いた後に、ピアノで導かれる穏やかな第二主題によってやや明るさを取り戻し、これに応えるような軽快なリズムを持つ弦の合奏が続いて、ピアノに引き継がれ、ピアノと弦の目まぐるしい応答によって盛り上がりを見せ主題提示部が結ばれていた。プレヴィンはここで丁寧に提示部全体の繰り返しを行っていた。
    展開部では第一主題の動機がピアノで繰り返されると更に勢いを増し、ヴィオラの後に二小節遅れて第一ヴァイオリンが続くカノン風の新しい展開部のモチーブが提示され、次第に緊張を増して高まり、いつの間にか再現部へと移行していった。ここではプレヴィンのピアノがますます流暢に全体をリードするようになり、N響のメンバーたちがソリストのように自在にピアノに合わせて伸び伸びと弾いており、終始、暗さを吹き飛ばすような勢いに見えた。



   第二楽章はアンダンテの伸びやかな楽章であり、どうやら展開部のないソナタ形式のよう。ピアノのソロで始まる美しい第一主題で始まり、引き続き弦の三重奏とピアノが美しく対話を繰り返す。経過部を挟んで歌うような単純な旋律の第二主題が現れて美しく流れてから結びのような旋律が繰り返されていた。その後に弾かれるモーツアルト特有のピアノの分散和音が実に美しく印象に残り、何時の間にか、冒頭の第一主題に戻っていた。気をつけて聴いていると、この美しい呟くようなピアノの分散和音は、プレヴィンのお得意の弦楽器とのアンサンブルのベースでもあり、第一主題と第二主題の間でも流れていて、この楽章の全体を特徴づけていた。
    フィナーレはロンドと書かれたピアノで軽快に始まるロンド主題が活躍するロンド楽章のようだが、ソナタ形式の形を借りたロンドであろうか。ロンド主題の後にピアノが先導し、弦楽合奏が華やかに後を追いながら、新しいエピソードが次々と颯爽と登場する華やかな曲。再びロンド主題に戻ってから、良く聴くとまるでソナタ形式の展開部のようなピアノの力強い響きとともに複雑な部分が入り込むが、後半は第一・第二エピソードがまるで再現部のように次々に顔を出し、ロンド主題の後に派手なピアノ中心のコーダで結ばれていた。矢張りこの曲は、終始、難解な曲に聞こえてしまう曲のようだ。プレヴィンの軽快なピアノに乗って、弦のソリストたちは、颯爽と弾きまくり、一気に力強く終結していた。



   非常に後味の良い二つの名曲を同じホールで続けて聴いて終わりかなと思っていたところへ、プレヴィンへの車の中の取材があり、プレヴィンは、自分は指揮と作曲とピアノに常に係わっていたいと抱負を語っていた。驚いたことに80歳の現在、二作目のオペラを作曲しているそうである。また、これまでに50作の映画に曲を付けたと語っており、その実績と意欲には経緯を表したいと思う。この番組では、ピアノ協奏曲とピアノ四重奏曲の指揮とピアノが終わったので、最後に得意にしている作曲の証しと言うことか、ソプラノのための歌曲「サリー・チザムのためのビリー・ザ・キッドの追想曲」を自らのピアノ伴奏で演奏してくれた。ソプラノは若くて初々しいエリザベス・テイラーであった。現代的な上品そうな明るいジャズ風の曲で、このような感覚で作曲できることは映画音楽などには向いているなと感心させられた。



    写真で見るように歩き方は衰えたが、椅子に座って指揮をしたりピアノを弾いたりする様子は、まだまだお元気であり、何時までもこの熱意を持って、ご自分の信ずる音楽の道を進んでいただきたいと思った。音楽をする人達、特に指揮者は、高齢な人が多いが、今回は80歳の記念番組である。何時までN響の名誉客演指揮者のポストにおられるか分からないが、85歳、90歳などと続けていただきたいと思った。

(以上)(2010/10/04)


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