(懐かしいDVD;レヴァインとバトルのニューヨーク・メットの「魔笛」)
10-8-3、ジェームス・レヴァインとNYメトロポリタン歌劇場の「魔笛」、オリジナル演出ジョン・コックス、1991年2月ライブ収録、ニューヨーク、

−この「魔笛」は映像としては実に明るいアメリカ的な感じの子供たちが喜びそうな開放的な舞台であった。この映像はタミーノのアライサと、パミーナのバトルの人気コンビにより、この歌劇場の空前のヒット作品であったようである。今回の2度目の「魔笛」のDVD化も素晴らしい効果を上げており、また、音質面でもこのDVDは非常に成功しているものと思われる−

(懐かしいDVD;レヴァインとバトルのニューヨーク・メットの「魔笛」)
10-8-3、ジェームス・レヴァインとNYメトロポリタン歌劇場の「魔笛」K.622、オリジナル演出ジョン・コックス、1991年2月ライブ収録、ニューヨーク、
(配役)ザラストロ;クルト・モル、夜の女王;ルチアーナ・セッラ、パミーナ;ヤスリーン・バトル、タミーノ;フランシスコ・アライサ、パパゲーノ;マンフレート・ヘム、パパゲーナ;バーバラ・キルダフ、その他、
(2002年2月4日、グラモフォン、DVD、UCBG-1005、)

      8月分の終わりを飾る懐かしい初期のDVDであるレヴァイン指揮の91年のNYメットの「魔笛」は、さすがメトロポリタン歌劇場だと見る人を驚かせた大仕掛けの「魔笛」であった。レヴァインの「魔笛」は、ポネルとウイーンフイルによる82年ザルツブルグ音楽祭のもの(9-5-3)および、06年ニューヨーク・メトの世界同時配信(061230)によるレヴァインのライブ公演(8-1-3)の三種類となっており、二組はアップ済みであった。私は最初の「魔笛」が最も印象に残っており、カラヤンに見出されてこの音楽祭で成功を見せて一躍その名を轟かせたレヴァインの記念碑的な映像であると思っている。しかし、久し振りで見る91年のものは、メトロポリタン・オペラがモーツアルトの没後200年を祈念して盛大な新演出上演をライブ収録したものであり、当時の美術界を代表するデイヴィッド・ホックニーのステージ・デザインが大きな話題を呼んだとされていた。一見したところ映像も音響も凄く迫力のあるDVDであり、クルト・モル、バトルとアライサなどが出ているので楽しみな映像であった。



    映像では広い歌劇場内を写しだしているうちに拍手と共にレヴァインが入場して序曲が始まったが、実にゆっくりとした明快な三和音が鳴り響き、レヴァインの指揮振りが映し出された。これと対照的に弦の刻むような速い動きで軽快に序曲が進行し始めると、軽快なアレグロの序曲に乗って画面にはメルヘン風の派手な絵やモザイクが現れ、出演者などの紹介もギリシャ風を暗示する背景や象形文字により行われていた。序曲が終わりに近づくと再びレヴァインが現れ、序曲の拍手を受けてから、幕が開くと明るい岩山の舞台ではタミーノが大口の怪物に追われていた。タミーノが悲鳴を上げて倒れると、岩山の陰から槍を持った黒装束の三人侍女たちが怪物を囲み、槍で怪物を倒してしまっていた。



         彼女らは気を失っているタミーノを囲み、気高い王子の姿に見とれながら賑やかな三重唱が続いたあと、三人一緒に女王様に報告に出掛けた。タミーノが気がついて岩山に隠れていると、鳥の帽子を被り鳥を抱いた動きの良いパパゲーノが笛を吹きながら現れ、身軽に体を動かしながら鳥刺しの歌を元気に歌っていた。王子と初めて出合い、怪物を倒したのはこの俺だと言うことになって、三人の従女が手渡した、ワインが水に、パンが石に、イチジクが口鍵に、と化ける様子がクローズアップで現れて、会場は喜んでいた。



    三人の従女からパミーナの絵姿を渡されて、タミーノは「絵姿のアリア」を歌うと、雷鳴とともに岩山が二つに割れ、夜の女王が現れて、月夜の暗闇の星空の中でタミーノに歌いかけた。コロラチューラは劇的であり、後半の早いロンドで声が良く伸び、最高音も見事に決まって、セッラは絶好調の夜の女王を歌って大拍手であった。



魔法の笛と銀の鈴を手にしたタミーノとパパゲーノが、三人の従女と五重唱を歌い、続いて雲に乗った三人の童子に導かれて二人はパミーノを探しに出発した。舞台は一変して明るくなり、モノスタトスがパミーナを虐めており、パミーナが気を失っていた。そこへパパゲーノが現れて、やがてパミーナとパパゲーノの二重唱が始まるが、パミーナのバトルの表情が良く、実に美しい二重唱になっていた。どうやら、この「魔笛」の楽しいメルヘンの世界に魅せられてしまったように感じさせられた。





    フィナーレに入って場面は三つの神殿の前、タミーノが雲に乗った三人の童子に導かれ、神殿の前で弁者と禅問答を繰り返していた。タミーノは弁者の言い分を理解が出来ず不安になったが、パミーナは生きているという合唱の声に勇気づけられ、感謝して「魔法の笛」を吹き出すと動物たちが現れて踊り出し、やがてパパゲーノの笛がこれに答えるようになった。パパゲーノもパミーナとともに現れたが、モノスタトス一行に囲まれて絶体絶命のピンチ。





    しかし、銀の鈴が素敵な音を響かせるとモノスタトスと仲間達は踊り出して逃げ去り二人は助かった。そのうちに状況は一変し、テインパニーとトランペットの強奏による行進曲に乗って万歳の合唱の声とともにライオンの馬車に乗ってザラストロが登場していた。パミーナは正直に真実を告白し、事情を説明した。ザラストロの声は凛として声量があり堂々と響き渡り、優しさもあって貫禄十分。ここでモノスタトスのお陰で、タミーノとパミーナが初めて顔を合わせることになって、互いに確かめ合って第一幕が終了していた。




   第二幕はオーケストラによる重々しい厳かな響きの行進曲で始まり、舞台では僧侶達が入場していた。ザラストロが挨拶をし質疑があって、やがて厳かに響き渡る三つの和音が繰り返された。ザラストロがピラミッドが見えるエジプト風の広場を背景に歌うイシスとオリシスの神に祈るアリアは、敬虔で格調高く歌われ、続く合唱も厳かで非常に感動的であった。タミーナとパミーナが全員の前に登場し、ここで第19番の危険な試練に向かうザラストロとの三重唱が歌われたが、こういう曲順の変更は初めてであったが自然な三人の別れであった。舞台が変わり暗い闇と雷鳴の中で、タミーノとパパゲーノが登場、神官の忠告のアリアのあと、第一の試練が始まり、うるさい三人の従女が五重唱を歌いながら話しかけ、最後に雷鳴とともに奈落に追い払われていた。








    モノスタトスが横になっているパミーナを見つけ、キスする位は良いだろうと唯一のアリアを歌っていると、雷鳴とともに夜の女王が現れて、パミーナに短剣を渡しながらザラストロに死と復讐をと絶望のアリアを歌った。このアリアはコロラチューラが良く決まり、後半の高音のコロラチューラもほぼ完璧な出来で、セッラに対し大変な拍手であった。 その様子を見ていたモノスタトスがパミーナに纏わりつこうとするが、そこに現れたザラストロがモノスタトスを追い払った。パミーナを前にしてザラストロが歌う15番のアリアは、母には復讐しないという内容で、堂々として説得力があり、厳かに響いてパミーナを安心させていた。




   暗い神殿の中で二人の神官とタミーノたちが登場し、沈黙を守れと警告し第二の試練が始まった。パパゲーノが独り言なら良いと「水が欲しい」というと、衣を被った婆さんが水を差しだし、歳は「18歳と2分」だと言う。パパゲーノと婆さんとの長い駄洒落が雷鳴と共に消え去ると、三人の童子たちが「ザラストロの国へようこそ」と食事を持って現れ、笛と銀の鈴を手渡した。「口を訊くな」と二人に注意する三重唱が実に透明に聞こえとても美しかった。




   タミーノが吹く笛の音を聞きつけて、パミーナが現れるが話が出来ず、パミーナはタミーノを前にして絶望の悲しみのアリアを歌った。悲しげに歌うバトルの姿が印象的で凄い拍手であった。三つの和音が鳴り僧侶たちの厳かな合唱が始まったが、良く聞くと試練に答えたタミーノを歓迎する合唱のように聞こえた。続いて、ワインを片手にご機嫌で、これで可愛い娘がおればと、グロッケンシュピールを伴奏に歌うパパゲーノのアリアが三度繰り返され、そこに現れた婆さんと嫌々ながら握手した途端に、若いパパゲーナに変身するさまはとても楽しく、消え去ったパパゲーナが印象的だった。








   フィナーレに入って三人の童子が三重唱で歌い出し、ナイフを手にしたパミーナの様子を見つけ、ご機嫌を取りながら自殺を思い止めさせた。そして若者に合わせてあげると約束すると元気な四重唱になって四人は退場した。場面が変わってお城の入口の前、厳かな序奏に続いて二人の鎧をつけた衛兵のコラール伴奏の二重唱。タミーノが到着し、衛兵の許しを得て試練を受けようと決心すると、そこへパミーナが駆けつけて二人は再会を許される。二人は初めて「私のタミーノ」と互いに呼び合って感動の対面をし、ピッチカートの伴奏で、パミーナが誘導し、タミーノが由緒ある笛を吹きながら、二人は死を恐れず、愛と魔法の笛の音楽とによって恐ろしい次の二つの試練を乗り越えようとした。入口からはいると試練は、美しいフルートの音と共に始めに火の中をくぐり、次いで水の中の試練を乗り切って二人は元気な姿を見せた。魔笛の劇的な場面であり、二人は大合唱に迎えられて大きな拍手を浴びていた。





   一方、パパゲーノもパパゲーノを必死で探すが見当たらない。首を吊るしかないところまで追い込まれてから、三人の童子たちに銀の鈴を鳴らすことを教わって、首吊りを免れて「パ・パ・パ」とパパゲーノとの劇的な再会に成功した。子供たちは現れなかったが、二重唱が実に楽しく、観衆は大喜びであった。    夜の女王一行が登場するが、雷鳴とともに一瞬に暗闇に追い払われる一幕があった。そこで太陽の明るい輝きのもとでザラストロが勝利の挨拶をし、万歳の素晴らしい大合唱が続いていたが、タミーノとパミーナが僧侶の大合唱の中で紹介され、二人が宮殿に向かい入れられて、ザラストロに高らかに歓迎され、厳かな盛大な合唱とともに大団円となっていた。超満員のオペラ劇場では、盛んにカーテンコールが続く中で、最後にレヴァインがにこやかに一人で出てきて挨拶をし、さすがレバインはこの劇場の顔であるという思いを実感させてくれた。



   この魔笛は映像としては実に明るい「魔笛」であり、アメリカ的な感じの子供たちが喜びそうな開放的な舞台であった。メトロポリタン歌劇場の広い舞台を活用した実に爽やかな明るいメルヘン風の演出であり、フリーメースン的な荘厳な演出も加味した味わい深い舞台であった。これはジョン・コックスの伝統的なオリジナルの演出に加えた、デヴィッド・ホックニーによる思い切ったステージ・デザインによるものであり、実に安心して見ていれるステージであったと言えよう。その上、何よりもレヴァインの音楽が分かり易く、良いところで素晴らしく鳴り響き、感動深い舞台を作り上げていた。    動物たちが笛の音に合わせて踊り出したり、銀の鈴の音で怖いモノスタトス一行が踊り出したり、ザラストロがライオンの馬車で入場したり、パパゲーノとパパゲーナの出会いが面白かったり、子供たちが喜ぶ場面が多い一方で、荘厳な僧侶たちの合唱や二人の衛兵によるコラールの響きや、三人の童子たちの透明な声の三重唱が素晴らしかった。

   この「魔笛」はタミーノのアライサと、パミーナのバトルの人気コンビにより、メトロポリタン歌劇場の空前のヒット作品であったようである。二人の衛兵が守る宮殿で、二人が弾むようなピッチカートの音楽に乗って試練に挑む姿は最高であり、深い感動を与えていた。さらに、ザラストロのクルト・モルは実に風格のある穏やかなザラストロであり、彼の落ち着いた深い響きのアリアは素晴らしかった。メトロポリタン初デビューと言われるや夜の女王のルチアーナ・セッラは、素晴らしいコロラチューラに加えて、女王の母親としての悲しみや怒りの表現が見事であり、実に人を得たと言えよう。パパゲーノのウイーンから来たヘムも陽気なパパゲーノを演じ喜ばせていた。

   メトロポリタン歌劇場のモーツアルト作品は、大劇場であることを利用したレヴァインの「イドメネオ」K.366(1980、未アップ)が特に有名であるが、モーツアルト作品はどちらかと言えば苦手であり、ダ・ポンテ三部作などオペラブッファには印象に残るものはなかったが、どうやらこの「魔笛」というオペラは別格のようである。どんなにステージの規模が大きくても、この作品は十分に飲み込んでしまう奥行きの深さがあるからであろう。この意味でレヴァインのこの2度目の「魔笛」でも大成功であり、意味あるものになった。これまでこれほど大規模な「魔笛」の舞台は見ることがなかったからである。

    レヴァインの1回目のウイーンフイルとの「魔笛」がDVD化されてアップしたときに、素晴らしい「魔笛」が復活したことを申し上げたが、今回の2度目の「魔笛」のDVD化も素晴らしい効果を上げ、映像の写真を見ていただくとお分かりの通り、こんなに舞台の写真が綺麗に撮れた映像は非常に珍しく、また、音質面でもこのDVDは非常に迫力があった。S-VHS画像とは異なるDVDの技術進歩の有り難さを感じながら、面倒な作業でもやり甲斐があったことをここにご報告しておきたい。

(以上)(2010/08/18)


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