(懐かしいビデオより;アバド指揮アン・デア・ウイーン劇場の「ドン・ジョバンニ」)
10-8-2、クラウデイオ・アバド指揮ウイーン国立歌劇場O&CHOの「ドン・ジョバンニ」、ルック・ポンデイ演出、1990年5月18日、アン・デア・ウイーン劇場、ウイーン芸術週間、

−中規模のアン・デア・ウイーン劇場で、台本に忠実な分かり易い演出や衣裳のポンデイ演出で、素晴らしいキャストに恵まれて、アバドが生き生きとした弾みのある指揮振りでウイーンフイルの豊かな演奏を引き出した素晴らしい舞台であった−

(懐かしいビデオより;アバド指揮アン・デア・ウイーン劇場の「ドン・ジョバンニ」)
10-8-2、クラウデイオ・アバド指揮ウイーン国立歌劇場O&CHOの「ドン・ジョバンニ」、ルック・ポンデイ演出、1990年5月18日、アン・デア・ウイーン劇場、ウイーン芸術週間、
(配役)ドン・ジョバンニ;ルッジェーロ・ライモンデイ、ドンナ・アンナ;チェリル・スチューダー、ドン・オッターヴィオ;ハンスP.プロホビッツ、ドンナ・エルヴィラ;カリタ・マッテイラ、レポレロ;ルチオ・ガッロ、マゼット;カルロス・ショーソン、ツエルリーナ;マリー・マックローリン、騎士長;アナトリヤ・コチェルガー、
(1990年11月4日、NHK教育TV3CHをS-VHSー023.2に3倍モードで収録)

    懐かしいビデオとして90年の古いS-VHSの映像であるが、クラウデイオ・アバドの「ドン・ジョバンニ」を紹介したい。アバドは「フィガロの結婚」を91年モーツアルトイヤーの時に残している(8-9-3)が、この映像と同じアン・デア・ウイーン劇場で収録しており、出演メンバーも伯爵夫妻のライモンデイ・スチューダーがドン・ジョバンニとドンナ・アンナを演じ、フィガロのガッロがレポレロを、スザンナのマックローリンがツエルリーナというように、この2組のオペラは共通性がありそうで、揃って素晴らしい出来であると考えていた。
    この「ドン・ジョバンニ」は毎年5月に行われるウイーンの芸術週間におけるハイライトとして、NHKがウイーンにハイビジョン機材を持参して収録したものであり、ウイーン国立劇場とオーストリア放送協会と共同で製作した映像である。なお、この放送は、HV規格の映像を現行TV用に変換して放送されS-VHSに収録したものであった。(元のHV映像がNHKに残されているならば、デジタルのHV規格に変換してハイビジョンで放送して欲しいものだと思う。当時のNHKのアナログのHV放送としてはショルテイの「魔笛」があり、アップロード済み(2-1-2)であった。)



   病気をする前の若い太めのアバドの姿が見え、早速、序曲が開始された。二つの和音は重苦しく響き、石像の現れるシーンの音楽がゆっくりとしたテンポで不気味に鳴り響いてから、一転して主部のアレグロでは弦が早いテンポで軽快に進み出した。画面ではオーケストラピットでの演奏を背景に、出演者の紹介が写真入りでなされていた。画面の写りは良くないが、音はしっかりとして良く鳴り、素晴らしいオペラの開始を予感させていた。序曲に続く第一曲の序奏で幕が開くが画面は真っ暗な建物の前。レポレロらしき男がウロウロし、ぼやき声だけが聞こえているうちに、突然、男女二人が大声を上げて飛び出してきた。どうやら逃げるドン・ジョバンニと追いかけるドンナ・アンナの二人が二重唱でもみ合い、見ているレポレロが加わって三重唱になっていた。騒ぎを聞きつけて父親の騎士長が娘を離せと怒鳴りながら剣を抜いていた。逃げるかと言われ果たし合いになったが、レポレロが手を貸したためにあっと言う間に勝負は付いてしまい、三重唱の末に息を引き取ったので、二人はこそこそと逃げ出してしまっていた。



  そこへ、ドンナ・アンナがオッターヴィオを連れて駆けつけるが、父は既に息を引き取っており、見つけたドンナ・アンナは「私も死ぬ」と言って気を失ってしまう。しかし、気がつくとオッターヴィオとの二重唱が始まり、気丈なドンナ・アンナはオッターヴィオの刀を抜き、恋人に父の復讐を誓わせていた。ドンナ・アンナのスチューダーが良く動き、甘いマスクと声のプロホビッツを凌いでおり、彼女が二重唱でオッターヴィオに仇討ちを約束させて、二人は大変な拍手を浴びていた。



   場面は少し明るい路上で、ドン・ジョバンニとレポレロは互いに言い争いをしていたが、ドン・ジョバンニは、突然、「女の匂いがする」と言い出して立ち止まった。良く見るとそこへモダンな姿の貴婦人が一人で登場し、「あのひどい男はどこかしら」と探しながら歌い出していた。「見つけたら酷い目に遭わせてやる」と物騒なことを歌っており、ドン・ジョバンニがシニョーレと近づくと、何と彼女は自分を追ってきたドンナ・エルヴィーラであった。彼女は男が探していたドン・ジョバンニだ知ると、長年の怨みをここぞとばかり早口で訴えて手に負えない。信用のないドン・ジョバンニは、レポレロに全て話してやれと言い残して逃げ出してしまった。大騒ぎするエルヴィーラにレポレロは一冊の名簿を彼女に見せ、温和しくなってから、「カタログの歌」を歌い出した。さすがのエルヴィーラも始めは呆れていたが、スペインでは1003人のところでは、長い巻紙に呆れるばかりで、最後には裏切られたとばかりに復讐を誓っていた。エルヴィーラのアリアは激しいアリアであり、レポレロのガッロのアリアは堂々として落ち着いて歌われて、ともに客席から大変な拍手を受けていた。



  場面は変わってドン・ジョバンニの屋敷のそばの広場か、大勢の若者たちの歌に混じって、派手な姿のツエルリーナが歌い出し格好の良い若者のマゼットがこれに答えてお祭り騒ぎをしていた。そこへドン・ジョバンニとレポレロが登場し、早速、ツエルリーナに目をつけたドン・ジョバンニは、挨拶もそこそこに、皆を私の屋敷に案内してご馳走をとレポレロに命じ、私はツエルリーナと二人で後から行くと言い出した。命令調で不満顔のマゼットが力づくで脅されて、渋々と「分かりました」と歌い出したが、ツエルリーナには「お前を騎士夫人にしてくれる」と大声で精一杯の皮肉を歌って姿を消した。
    ドン・ジョバンニは「やっと二人になれた」と語り合い、早速、「君には私のような貴族がふさわしい」と口説きだし、その美しい唇、白い指などと誉めながら、直ぐ近くの私の家で結婚しようと誘い出し、甘い声で「手と手を取り合いながら」と二重唱が始まった。ツエルリーナは最初は心配そうだったが、「人生を変えよう」などと言われ、「行こう」と言われて断れず、次第に反抗できなくなって最後には「行きましょう」と歌って別荘の方へ歩き出した。そこへ、突然、エルヴィーラが登場し「お待ちなさい」と言って二人に声を掛けた。そしてツエルリーナに諭すように「彼の口も目も偽りよ」と歌い出し、「お逃げなさい」と歌いながら連れ出してしまった。


   ドン・ジョバンニが「今日はついていない」とこぼしている所へ、喪服姿がよく似合うドンナ・アンナとオッターヴィオが現れ、ご相談したいことがあると彼女が近づいてきた。ドン・ジョバンニがばれたかと心配していると、意外にも助けて欲しいという。安心したドン・ジョバンニが「どうぞ何でも力になりましょう」と答えていると、そこに再びエルヴィーラが現れた。そしてドンナ・アンナを見ながら「この人を信じないで」と歌い出し四重唱が始まった。エルヴィーラが「この悪人は裏切り者です」と言えば、ドン・ジョバンニは「彼女は頭がおかしい」と言い返していたが、見ていた二人にはエルヴィーラの方がしっかりしているので不思議そうに様子を見ていた。エルヴィーラが黙らないので「二人だけになりたい」とドン・ジョバンニが、ドンナ・アンナに「アミーチ・アデイオ」と挨拶して立ち去った。しかし、彼女は突然に「死にそうよ」と叫びだし、「あの男よ」とオッターヴィオに事情を説明し始めた。ドンナ・アンナの語りは激しく、オーケストラが伴奏するレチタテイーボ・アッコンパニアートに転じて襲われた状況を語り出し、父が助けに来てくれたと説明して「これで分かったでしょう」と激しくアリアを歌い出した。このアリアは彼女の復讐のアリアであり、オッターヴィオに父の仇を取ってくれと願うアリアであり、客席から最高の拍手を浴びていた。


   オッターヴィオは、あの騎士が「信じられない」という面持ちであったが、ドンナ・アンナの激しい様子に「彼女が安らげば、私も」と、慣例通りこのウイーン追加曲を歌い始めていた。静かな口調で歌いだしたが、最後には「彼女の喜びは、わが喜び」と、自分に言い聞かせるように堂々と歌われて、盛んに拍手を受けていた。
   続いて、ドン・ジョバンニが、レポレロの首尾を褒めちぎってブラボーを連発して上機嫌になって歌う有名な「シャンペンのアリア」があり、万雷の拍手を浴びていた。一方、ツエルリーナが機嫌を損じたマゼットのご機嫌を取ろうとして歌う色っぽい「ぶってよマゼット」のアリアがあり、これも有名な曲でツエルリーナの仕草も可愛いので、お客さんは大喜びであった。



   場所はドン・ジョバンニ邸で、マゼットの「隠れていよう」の歌で第一幕のフィナーレが始まった。奥行きの広いお屋敷でドン・ジョバンニが始めに挨拶をしてパーテイが始まっていたが、隠れていたツエルリーナが直ぐドン・ジョバンニに捕まってしまい、危ないところだったが、隠れていたマゼットが姿を現したので大笑い。監視していたので事なきを得た。そこへ三人の仮面の人が登場したが、共通の敵であるドン・ジョバンニを見張ろうとしていたエルヴィーラとドンナ・アンナとオッターヴィオであった。直ぐにレポレロが三人を見つけ出し、入場が許されて、メヌエットの音楽が始まったので、ドン・ジョバンニが三人に舞踏会へどうぞと声を掛けた。敵地に乗り込んで不安そうな三人は、ここで「正義の神よ、守り給え」と歌い出し、お互いに勇気づけていた。この三重唱は場違いなほど美しい三重唱であり、揃ってゆっくりしみじみと歌われていた。


    踊りの広場では軽快に音楽が流れ出し、ドン・ジョバンニとレポレロは、コーヒーだ、チョコだ、シャーベットだと忙しく、マゼットは浮気なツエルリーナを怒って監視していた。そこへ三人の仮面の人が登場すると場面は急に改まり、ドン・ジョバンニは自由に振る舞ってくださいと挨拶して自由万歳の解放宣言をし、広場は盛り上がって音楽が始まった。楽士たちが大勢舞台に登場しており、マスクの人も一緒になって上品なメヌエットを踊り出したが、ドン・ジョバンニはツエルリーナを狙っていた。レポレロはマゼットを連れ出し、音楽が二拍子のコントルダンスが加わり、三拍子の早いドイツ舞曲も始まった。踊りは大勢の人が踊り出し、やがて場面は佳境に入りかけていたが、ドン・ジョバンニは上手くツエルリーナを連れ出した。しかし、ツエルリーナの「助けて」の悲鳴で大騒ぎとなり、皆が集まってきた。そこへドン・ジョバンニが刀を抜いて嫌がるレポレロに突きつけて、「無礼な男はこいつです」と誤魔化そうとした。しかし、三人のマスクの人が良く見張っており、ドン・ジョバンニにピストルを突きつけて、お芝居は止めよと見破ったので、ドン・ジョバンニは手出しが出来なくなって、遂に皆に頭を下げてしまった。音楽が変わって、早いテンポになり大混乱の中で、二人は頭がおかしくなり訳が分からなくなって、負け惜しみを言いながらこそこそと逃げ出し、お笑いの中で第一幕が終了した。



   第二幕は殺されそうになったレポレロとドン・ジョバンニが争う二重唱で始まった。場所はエルヴィーラの家のバルコニーの下で、今度ばかりはレポレロが抵抗するので、ドン・ジョバンニは作戦を変え、気前よく金貨4枚を出したので、レポレロは急に機嫌が良くなった。そこで、ドン・ジョバンニは、エルヴィーラの召使いを口説くため、貴族の服装では都合が悪いと、レポレロの服装と交換してしまった。エルヴィーラがバルコニーに現れて歌い出したので、ドン・ジョバンニが改心した素振りの歌を歌い、信じてくれなければ自殺をすると三重唱になっていた。信じやすいエルヴィーラが自殺すると言われ迷いながら騙されて降りてくと、帽子とガウンでドン・ジョバンニに化けたレポレロが、調子よくエルヴィーラのお相手をしたので二人は抱き合ってしまった。そして頃合いを見て大声を出すと、二人は驚いて逃げ出してしまっていた。邪魔者がいなくなったので、ドン・ジョバンニは、早速、マンドリンの伴奏で「愛しい人よ」とカンツオネッタを歌い出した。暗闇の中のバルコニーの下で、調子良く歌っているところで、運悪く物音がしてドン・ジョバンニを探そうとしているマゼット一行が駆けつけて、誰かがいると騒ぎ出し、バルコニーのハシゴを登る男も現れたので、ドン・ジョバンニの作戦は失敗に終わった。
    ドン・ジョバンニは、マゼット一行の様子を探りレポレロに成り済まし、アリアを歌いながらマゼット以外を言葉巧みに追い払ってしまった。そして、一人になったマゼットの武器を調べ、ドン・ジョバンニを殺すと言って聞かないマゼットの隙をついて叩きのめして、懲らしめてから遠くへ逃げ去ってしまった。マゼットが、痛い痛いと悲鳴を上げていると、ツエルリーナが駆けつけてきてマゼットの様子を調べ、たいした傷ではないと言って「薬屋のアリア」を歌って、マゼットの機嫌を直してしまい、挙げ句の果てに二人は抱き合ってしまっていた。



   暗闇でよく分からないが、そこはドンナ・アンナのお屋敷か。逃げ出したレポレロとエルヴィーラが出口を探してウロウロしながら二重唱を歌い出すと、直ぐ隣でドンナ・アンナとオッターヴィオが悲しみの二重唱を歌い出し、その声を聞きつけて抱き合っていたマゼットとツエルリーナも駆けつけて、怪しいレポレロが捕まってしまった。レポレロは4人に許さないと言われ、エルヴィーラが「私の主人です」と謝って六重唱が始まったがレポレロは許されない。そこでレポレロは主人の帽子と衣裳を脱いで正体を現すと、一同は驚きの六重唱となり、やがてテンポが変わってレポレロが皆に平謝りする長い六重唱が続いていた。そこでこの舞台では、それを高みから見物しているドン・ジョバンニの姿が見えていた。そしてレポレロは、ツエルリーナからも、エルヴィーラからも、オッターヴィオからも責められたので「どうかお慈悲を」とアリアを歌い出し、一人ひとりに主人の命令でこうなったと謝って、隙を見て脱兎のごとく逃げ出してしまっていた。
   ドン・ジョバンニが犯人であると確信したドン・オッターヴィオは、私が当局に訴えますと歌い出し、「その間に私の恋人を」慰めてやってと残ったツエルリーナとマゼットに頼み、声を張り上げ剣を抜いて復讐をすると誓う最高のアリアを堂々と歌い大拍手を浴びていた。また、エルヴィーラも一人で、ドン・ジョバンニは大きな罪を犯したので、天罰が下り、死の淵が見えるようだとレチタテイーボを歌っていたが、アリアになって、彼は私を不幸にしたが、裏切られても彼の身を案じてしまうという優しい心をしっかりと歌っていた。素晴らしいアリアが続いて客席は喜んで賑わっていた。



   場面が変わって暗いお墓らしきものがある広場で、ドン・ジョバンニが寝ころびながら上機嫌でいると、レポレロが「殺されるところだった」と駆けつけてきた。ドン・ジョバンニが、レポレロをからかいながら女のことで高笑いしていると「その声も今夜限りだ」と言う不思議な声が高らかに響いた。その声が騎士長の墓場から聞こえると分かって、レポレロがドン・ジョバンニに命令されて二重唱となり、騎士長を夕食に招待しようと尋ねると、レポレロが頷いたと驚いて腰を抜かした。不思議に思ったドン・ジョバンニが自ら「来るか」と尋ねると、再び「行こう」という声が聞こえてきた。驚いた二人は、準備のためと言って、逃げ出してしまっていた。
   一方、騎士長の墓場でドンナ・アンナが泣き崩れていると、オッターヴィオが駆けつけて、珍しく強い口調でドンナ・アンナに「残酷な人だ」と言い出した。驚いた彼女は「私だって辛いのよ」とレチタテイーボを歌い出し、更にオーケストラ伴奏付きのアッコンパニアートになって「私の信念を揺るがせないで」と歌い出した。このアリアはゆっくりと朗々と歌われ、後半には「だから言わないでね。愛しい人」になって、アレグロのコロラチューラが連続する技巧的なロンドが歌われ、スチューダーのワグナー歌手としての力量を発揮した素晴らしい出来となって大拍手を浴びていた。



    第二幕のフィナーレに入って威勢のよい序奏が始まるとテーブルと椅子が運ばれて食卓の用意が出来、チェロと木管グループの楽団員が立ち並び、「コサ・ラーラ」の音楽が始まった。料理が運ばれてきて、ドン・ジョバンニが上機嫌で食事を始めていたが、レポレロはその大食漢ぶりに驚いていた。続いて「リテイガンテイ」の曲が奏されて、マルツイミーノ酒が注がれ、ドン・ジョバンニは上機嫌。レポレロの盗み食いを見て見ぬ振りをしていた。続いてフィガロの「もう飛ぶまいぞ」が始まると、ドン・ジョバンニはますます上機嫌。音楽に合わせて「レポレロ」と呼び掛けてから口笛を吹けとからかっていた。そこへエルヴィーラが飛び込んできて、ドン・ジョバンニのそばに来て座り込み、最後のお願いに来たという。ドン・ジョバンニは驚くが、「生活を変えろ」という話なので相手に出来ず、むしろ「女性に乾杯」「ワインに乾杯」とからかっていた。逃げ出したエルヴィーラが入口で大きな悲鳴を上げ、それを見に行ったレポレロも「白い人間が」と言って、恐ろしそうに震え声でダンダンダンと叫ぶだけであった。



   ドアをノックする音が聞こえ、レポレロが腰を抜かしたので、ドン・ジョバンニが自ら立ち上がってドアに向かおうとすると、もの凄い大きなオーケストラの和音が二つ響いた。良く見ると、石像が白煙の中から登場して序曲の音楽が鳴り響いて「来たぞ」と言い、震え声のレポレロの声と合わせて三重唱が始まっていた。ドン・ジョバンニも負けずに食事を用意しようとすると、石像は重大な話があると言い、「今度はお前の番だ。私の晩餐に来るか」と呼び掛けた。臆病だと思われたくないドン・ジョバンニは、勇気を振り絞って「行こう」と返事をし、約束の握手をした途端に、「何と冷たい手だ」と震え上がり、苦しみだした。石像は手を握りしめて、「悔い改めよ」と叫び、ドン・ジョバンニは「いやだ」と言う。何回か拒絶を繰り返すうちに、石像は時間がないと言って手を離すとドン・ジョバンニは苦しくて倒れ込み、大暴れしながらやがて「ああー」という絶叫と共に、立ち上る白煙の中で何処かにか消え去ってしまっていた。





   まだ煙が漂っている舞台で、明るい音楽が軽快に始まり、嵐が去った煙の中に五人が駆けつけてきたが、レポレロが一人、何も分からずに取り残されていた。レポレロにドン・ジョバンニはどこへ行ったかと尋ねるがさっぱり要領を得ない。やがて合唱は六重唱となり、ドン・ジョバンニが天罰でいなくなったことが知らされた。オッターヴィオがこれ以上悩ませないでというと、ドンナ・アンナは1年待ってくれとのつれない返事。エルヴィーラ、マゼットとツエルリーナ、レポレロは、それぞれの道を歩もうと決意し、最後に明るい六重唱となって、平和が戻ったことを喜んで賑やかに終幕を向かえていたが、終わりに六人はオーケストラ・ピットの前の花道まで出て来て合唱していたり、舞台正面には地獄に落ちたはずのドン・ジョバンニが顔を出したりしてサービスに努めていた。



   舞台では大きな拍手の中でカーテンコールが始まっていたが、最後には指揮者のアバドも参加して、観衆に応えている様子が写されていた。アバドは86年から91年までウイーン国立歌劇場の音楽監督を、また、90年から2002年までベルリンPO芸術監督を歴任していた。従って、誰もがベーム・カラヤン亡き後はアバドが名実共に後継的な存在になるであろうと期待をしていたが、今回の映像はその期待を裏切らない立派な映像であったと思われる。この映像はライモンデイやスチューダーなどウイーンの伝統とも言うべきグローバルなスター歌手陣が主役となっていたが、舞台は敢えてウイーン国立歌劇場の約半分と言われるアン・デア・ウイーン劇場を使っており、これはアバドが持つモーツアルトの時代のオペラブッファは、小さな舞台でアンサンブルの優れた音楽を聴かせようとする商業主義に反する舞台・音楽重点の姿勢があったように思われる。実際、このオペラのアバドの音楽は歌手とオーケストラの一体感などで素晴らしいものがあり、序曲が始まった時点から最後まで、じっくりと不安なく音楽が楽しめたので、十分に映像に浸ることが出来た。



   今回の生き生きした舞台の成功は、この劇場の熱狂ぶりから第一にこのアン・デア・ウイーン劇場が身の丈丁度の大きさで、聴衆にとっては身近に声を掛けられる手頃な広さであったに違いない。また、台本に忠実な分かり易い演出や衣裳、舞台の暗さを使って観衆の想像力に訴えた舞台の造りも成功の要因で、このルック・ポンデイ演出は一見クラシックで地味な舞台構成ではあるが、細かな配慮が隅々まで行き届いていた。さらに簡素な舞台の中で新しいアイデアとも思える場面が幾つもあった。例えば、第一幕ではレポレロとドン・ジョバンニの二人に倒された騎士長、第二幕冒頭のエルヴィーラの部屋のテラスとハシゴの利用の上手さ、騎士長の石像のない墓場風景、などは面白い試みであると思った。

   冒頭にも述べたが、この映像の翌年の91年5月に行われたウイーン芸術週間において「フィガロの結婚」が収録(8-9-3)されており、主役のライモンデイ、スチューダー、レポレロのガッロ、ツエルリーナのマックローリンの4人が共通であり、恐らくアバドと相性の良かった歌手たちであったろう。ライモンデイのドン・ジョバンニは、このHP2度目であるが、実に堂々としており安心して見ておれた。レポレロのガッロは良く動き、エルヴィーラを煙に巻いていた。スチューダーもマックローリンも持ち味を発揮していたし、エルヴィーラのカリタ・マッテイラも初めてであったが良かったと思う。ショーソンは今や大スターであるが、当時はウイーンでの初デビューか、やはり楽しみな存在として目に止まっていた。

   この映像は、ハイビジョンとして収録されたにも拘わらず、放送時は通常のテレビ画面に変換されていた。そのせいか映像の画質状態は良くなく、またHVカメラのクローズアップが少ないためか、写真でお分かりの通り、残念ながら画質状態は最低であった。優れたオペラ映像であったので、原画がハイビジョンでNHKに保存されているのならば、是非、ショルテイの「魔笛」などと同様に、ハイビジョンで残していただきたいと思う。

(以上)(2010/08/13)


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