(嬢かしいLD;エストマンの18世紀そのままの舞台の「ドン・ジョバンニ」)
10-7-3、アーノルド・エストマンとドロットニングホルム宮廷劇場における「ドン・ジョバンニ」、G.イエルヴェフェルト演出、1987年収録、スエーデン、

−この映像は、画質面では満足できないが、古楽器演奏による初めての「ドン・ジョバンニ」でもあり、レチタテイーボや歌手とのアンサンブル面においてその良さが発揮されていた。エストマンの音楽に部分的に好き嫌いがあると思われるが、リブレットに忠実な演出面や歌手陣の動きや演技力・歌唱力もまずまずであり、一度は目を通すべき優れた映像であると思われる−

(嬢かしいLD;エストマンの18世紀そのままの舞台の「ドン・ジョバンニ」)
10-7-3、アーノルド・エストマンとドロットニングホルム宮廷劇場における「ドン・ジョバンニ」、G.イエルヴェフェルト演出、1987年収録、スエーデン、
(配役)ドン・ジョバンニ;H.ハーゲゴール、ドンナ・アンナ;H.デーセ、ドン・オッターヴィオ;G.ヴィンベリー、ドンナ・エルヴィラ;B.ノルデイン、レポレロ;E.セーデン、マゼット;T.ヴァルストレーム、ツエルリーナ;アニタ・ソルド、騎士長;B.ルンドグレン、その他、
(1991年2月22日、フイリップス、PHLP-9024〜25、) 

   このアーノルド・エストマンの映像は1987年にドロットニングホルム宮廷劇場で収録されたものであるが、私はフィリップスが値段を下げて再発売した97年に購入していた。一方、エストマンのCDは1989年に収録されているのでLDより新しいが、私は91年の発売と同時に購入している。その理由は、初めての古楽器演奏であるばかりでなく、エストマンは先の「フィガロ」と同様に珍しく全曲盤として録音しており、このオペラとしては、序曲のオーケストラ版とウイーン追加曲3曲のほか異稿曲をまとめて追加していたからである。例えば、K.540bのレポレロとツエルリーナの二重唱はこの盤で初めて聞いている。また、エストマンの映像の面白さも、既に「フィガロの結婚」(9-12-2)や「コシ・ファントッテ」(未アップ)で知っていたが、この古い劇場だから出来る舞台転換などリブッレットに忠実な映像が楽しめた。また配役はこれらと同様に宮廷楽団の皆さんによるものであり、主題役だけがハーゲゴールで共通であった。石井宏先生の解説では、エストマンが音楽監督に就任した最初のシーズンには「ドン・ジョバンニ」のプラーハ初演版を用いて古楽器演奏しており、改めて今回LDで見る舞台が楽しみであった。



    ニ短調の重苦しい二つの和音で序曲が開始されるが、この始まりは少し風変わり。和音の音の刻み方が違う。古楽器色が強く、暗いオーケストラピットの中は、白いカツラが目立ち、暗がりで指揮するエストマンの姿が見え、オーケストラは石像の登場とこれでもかと迫る石像の声が聞こえて来るように響かせていた。一転してモルト・アレグロに変わるとあとは軽快に進み出したが、画面ではこの劇場でお馴染みの「緞帳」が正面に映し出され、出演者の紹介とオーケストラピットの様子が交互に映し出されていた。
序曲が終わり続いて第一曲の序奏がゆっくりと始まると薄暗い舞台に黒い帽子とマント姿のレポレロが荷物を持って登場し、何やらブツブツと歌い始めていた。そこへ遠くから悲鳴が聞こえ、レポレロが素速く隠れると、突然、長いマント姿の男が女性に追われて登場し、女性がくせ者と大声を上げ激しい三重唱となって争っていた。そこへ騎士長が剣を抜いて登場し、「娘を離せ、立ち会え」と迫っていた。驚いたドン・ジョバンニが相手をし、二人は何回か刀を交わしていたが、あっと言う間に勝負が付いてしまい、騎士長は倒れ込み、主人公とレポレロは逃げ出してしまっていた。



    そこへドンナ・アンナとドン・オッターヴィオと灯りを手にした従者たちが駆けつけたが、ドンナ・アンナは騎士長が倒れているのを発見し、父の死を確認して気を失ってしまった。しかし、オッターヴィオに抱き起こされて気がつくと、健気にも復讐してくださいと開き直り、途中から二人の早いテンポの二重唱となって、父の血と剣に賭けて、オッターヴィオに復讐を誓わせて幕となっていた。
   ドン・ジョバンニとレポレロが登場し、街中で歩きながら言い争いをしていると、「女の匂いがする」と言ってドン・ジョバンニが立ち止まった。そこで様子を窺っていると、女の召使いを連れた緑の衣裳の貴婦人が登場し、直ぐに「あの不実な男は何処かしら」と歌い出し、見つけたら心臓をえぐってやろうなどと物騒なアリアを歌っていた。それを見てドン・ジョバンニが気の毒に思って声を掛けたところ、前に別れたドンナ・エルヴィーラだったので驚いていると、彼女が悪党・ペテン師などと騒ぎ出すので手に負えず、レポレロに任せて逃げ出してしまった。レポレロは、貴女だけではないと慰めながら、あんな男は心配するほどの人でないと「カタログの歌」を歌い出した。怒り狂ったエルヴィーラは、レポレロのスペインでは1003人と言う名調子のアリアにはさすがに驚いて、レポレロがアイマスクをして逃げ去ると、裏切られたとばかりに改めて復讐を誓っていた。



  幕が開くと場所は村の広場か、結婚式を迎えるツエルリーナとマゼットが順番にゆっくりと歌いながら踊っており、続いて大勢の若者たちが二人を囲んで輪になって喜んで合唱していた。そこへ、主人公とレポレロが様子を見ながら登場し、早速、花嫁のツエルリーナに目をつけて、上手く挨拶をして皆のご機嫌を取りながら、レポレロに命じて自分の館でご馳走をさせようとしていた。二人になろうとして、邪魔なマゼットを刀を抜いて脅して、ツエルリーナが大人ぶって「心配しないで」というので、マゼットがツエルリーナを毒づいて「騎士さまがお前を淑女にしてくれる」と怒りのアリアを歌っていた。二人になるや直ぐにドン・ジョバンニはツエルリーナを煽てながら口説きだし、甘い二重唱を歌いながら先の別荘で結婚しようと囁き、「アンデイアーム、さあ行こう」と抱き上げて歩き出した時に、突然、エルヴィーラが顔を出した。彼女は「お待ち」と二人に声を掛け、ツエルリーナに「この裏切り者から逃げなさい」と歌い出し、ドン・ジョバンニにはレポレロの「カタログ」を見せてたじろがせ、ツエルリーナに「私の苦しみを見て」とアリアを歌いながら連れ去ってしまった。



   「今日はついていない」とドン・ジョバンニがぼやいていると、そこへ喪服姿のドンナ・アンナとオッターヴィオが現れて、ドンナ・アンナから助けが欲しいと頼まれた。ドン・ジョバンニはビクリとするが、ドンナ・アンナからご友情にすがりたいと言われ、安心して協力しようと答えていると、そこへまたしてもエルヴィーラが現れた。彼女は二人に「この人を信じてはいけません」と歌い出し四重唱が始まった。気品のあるエルヴィーラを、ドン・ジョバンニが気違い扱いにするので、不思議がるドンナ・アンナに対して、主人公は「二人だけにさせてくれ」と言って「アミーチ・アデイーオ」と囁いた。そこでドンナ・アンナは「あの男よ!」と大声を出し、自分を襲い、父を殺した犯人に初めて気がついた。そして激しい伴奏付きのレチタテイーボで襲われた状況をオッターヴィオに説明し、続けて「これで分かったでしょう」と激しくアリアを歌っていた。オッターヴィオは一人残って、騎士が大罪を犯すとはと驚き、彼女を助けようと復讐を誓っていた(ここではアリアのないプラハ版となっていた)。









   LDはここでB面になり、ドンジョバンニがレポレロの報告を聞いてブラーボ・ブラーボと返事をし、「盛大な宴を用意しよう」と有頂天になって歌う「シャンペンのアリア」があった。一方、幕が開くと村人たちと一緒になって、ツエルリーナがマゼットのご機嫌を取って歌う「ぶってよ。マゼット」が歌われて、マゼットは機嫌を直していた。
   場面が変わって、ドン・ジョバンニの屋敷では賑やかな歌と踊りの盛大な宴のフィナーレが始まっていた。マゼットとツエルリーナが二重唱で争っているうちに、準備が出来たとドン・ジョバンニは、盛大にやろうと宣言して合唱で宴が始まった。ツエルリーナが隠れようとして直ぐドン・ジョバンニに捕まるが、仮面を付けたマゼットがしっかりと見張っていたため主人公は何も出来ない。そこへエルヴィーラが「主人公の正体を曝こう」と言って、ドンナ・アンナとオッターヴィオを導いてドン・ジョバンニ邸に来た。宴ではメヌエットの音楽が始まり、仮面を付けた三人がレポレロの口ききで舞踏会にどうぞと入場を許されていた。そこで三人は共通の敵であるドン・ジョバンニに復讐するため「神よ、お守り下さい」と祈りの三重唱を美しく歌って互いに勇気づけていた。



   広間では踊りが始まって、コーヒーだ、チョコレートだと大勢で騒いでいるうちに、仮面を付けた三人が登場した。ドン・ジョバンニが格好を付けて、「どなたもご自由に」と挨拶をすると、感謝しますと答えてから、やがて全員の「自由万歳」の合唱になっていた。そこで音楽をはじめよの声で、まずメヌエットが始まりマスクの二人が優雅に踊り出していた。ドン・ジョバンニはレポレロにマゼットの相手を命じ、自分はツエルリーナを捕まえてコントルダンスを踊り始めていた。音楽のテンポが速くなり、レポレロは嫌がるマゼットを捕まえて二人でドイツ舞曲を踊り出し、舞踏会は次第に佳境に入り出していた。しかし、ドン・ジョバンニがツエルリーナを外に連れ去ろうとし、それを見たマゼットが追いかけようとしたので大騒ぎとなった。そしてツエルリーナの「助けて」という悲鳴が聞こえてきた。さあ大変!とばかりに一同が集まった所へツエルリーナが逃げてきた。そこへドン・ジョバンニが剣を抜いてレポレロを犯人にしようとしたので、良く見張っていたオッターヴィオが仮面を脱いでドン・ジョバンニに「騙されないぞ」とピストルを突きつけると、全員が一斉にドン・ジョバンニを責め出した。さすがのドン・ジョバンニも皆から悪事だと責め付けられて頭が混乱して途方に暮れていたが、音楽が早いテンポに変わり、今度はまだ負けていないぞと強がりをいいながら逃げ出して、幕となっていた。



   第二幕ではいきなりレポレロと主人公が歩きながら登場し、レポレロが殺されそうになったと「おいとまを」と文句をつけていたが、ドン・ジョバンニが気前よく金貨4枚を出したのでレポレロは温和しくなってしまった。2階の窓からエルヴィーラが顔を出したので、ドン・ジョバンニが改心した素振りの歌を歌うとふざけた三重唱になっていた。そこで信じやすいエルヴィーラも歌い出し、ドンジョバンニが二階に手を伸ばすとと二人は固く握手して、エルヴィーラはすっかり騙されてしまった。リブレットにないが、初めて見る説得力ある演出であった。二人は衣裳を取り替え、二階から降りてきたエルヴィーラにレポレロがドン・ジョバンニのジェスチャーをして抱きついて仲直りをしたようになってから、ドン・ジョバンニの大声を挙げると二人は逃げ出してしまった。    一人になったドン・ジョバンニは、二階にいるエルヴィーラの従女に対しマンドリンを弾きながら「愛しい人よ」と優しい声でカンツオネッタを歌い出した。その努力が実ったか、姿を見せてくれと歌っているうちに、終わり頃には彼女の姿が現れて成功したかに見えた。しかし、人声がして身を隠すと、マゼット一行がドン・ジョバンニを探しに来ており、またしても失敗。レポレロの振りをしたドン・ジョバンニが、マゼット以外をアリアを歌いながら追い払って、邪魔なマゼットだけを残し、叩きのめして逃げてしまった。マゼットの悲鳴を聞いて暗闇の中からツエルリーナが駆けつけてきて、「薬屋のアリア」を歌って、お色気でマゼットの機嫌を直し、助けてしまっていた。



   逃げ出したエルヴィーラとレポレロとが暗い庭先にウロウロと迷い込んで、エルヴィーラが暗くて死んでしまうと歌い出すと、レポレロも一緒に手探りで歩みながら、扉を間違えて部屋に入ってしまった。そこでは喪服姿のドンナ・アンナとオッターヴィオが灯りを持った召使いを連れて亡き父を偲んでいるように見えた。エルヴィーラが扉のところでレポレロと隠れていると、ツエルリーナとマゼットが入ってきて、ドン・ジョバンニの格好をしているレポレロが捕まってしまい、全員の六重唱となってレポレロは、4人に許さないと詰め寄られた。エルヴィーラが驚いて「私の主人です」と謝ったが、4人は絶対に駄目だと言って許されず、レポレロは主人の白い帽子を取り、衣裳を脱いで正体を現した。また騙されたと驚く5人を尻目に、レポレロが平謝りする六重唱が続き、レポレロは取り囲まれて袋のネズミになっていた。怒るツエルリーナやエルヴィーラに詰め寄られて、レポレロは一人ひとりに主人の命令でこうなったと丁寧に謝って、「どうかお慈悲を」とアリアを歌い出し、皆の隙を見て脱兎のごとく逃げ出してしまっていた。そこでドン・ジョバンニが間違いなく犯人だとやっと悟ったドン・オッターヴィオは、私が当局に訴えに出掛けますので「その間に私の恋人を慰めてやって」と高らかにレチタテイーボを歌いだした。ストックホルム生まれのヴィンベリは、このアリアを美声を張り上げ、刀を抜いて復讐への決意のほどを見事に歌って場を引き締めていた。



   場面が変わって、明るい夜だとドン・ジョバンニが上機嫌でレポレロとエルヴィーラのことを心配していると、レポレロがビッコを引きながら登場した。酷い目にあったレポレロをからかいながら衣裳を交換し、ふざけて高笑いしていると「その声も今夜限りだ」と言う大きな声が響いて来て二人は仰天した。誰だと振り返ると、そこには騎士長の白い石像らしきものが立っていた。驚いてドン・ジョバンニはレポレロに墓碑を読まさせると、復讐のためにここに待つとあった。馬鹿にしたドン・ジョバンニは、レポレロに石像を夕食に招待すると言わせ、二重唱になって命じていたが、途中でレポレロが石像が頷いたと驚いて腰を抜かしてしまう。そのためドン・ジョバンニが自ら石像に向かって尋ねると、「行こう」という大きな声が聞こえてきた。驚いた二人は、おかしなことがあるものだと恐ろしくなり、夕食の支度だと言い訳をして逃げ出してしまっていた。
   そこへドンナ・アンナが騎士長の銅像の前に来て花束を捧げていると、オッターヴィオがドンナ・アンナにどうして私につれないのかと責めだした。彼女はオーケストラ伴奏付きのレチタテイーボで「私だって辛いのよ、でも世間があります」と歌い出し、さらに「私の信念を揺るがせないで」と歌うロンドになった。そして後半にはアレグロのコロラチューラが連続する技巧的なロンドに発展して、存在感を示していた。






   オーケストラの前奏が始まると、ジョバンニ邸内で何人かの召使いたちが食卓を用意し、コックたちが食事の用意をしていた。上機嫌のドン・ジョバンニがオーケストラピットの楽団員に舞台上から音楽を頼むと、立ち上がった楽士が「コーサ・ラーラ」の音楽を始めていた。ドン・ジョバンニが上機嫌で食事を始めたが、その大食漢ぶりにレポレロは驚いていた。続いて次の料理が運ばれ、音楽も「イ・リテイガンテイ」がゆっくりと奏され、マルツイミーノ酒が注がれて、ドン・ジョバンニはワインを飲みながら旺盛な食欲。続いてフィガロの「もう飛ぶまいぞ」が早いテンポで始まると、ドン・ジョバンニはますます上機嫌になって、音楽に合わせて「レポレロ」と呼び掛けて彼の盗み食いをからかっていた。そこへ、突然、エルヴィーラが飛び込んできてドン・ジョバンニの前に座り込み、必死の様子で最後のお願いに来たという。ドン・ジョバンニもひざまずいてどうしたのかと驚くが、「生活を変えて下さい」という話なので相手に出来ず、最後には「女性に乾杯」「美酒に乾杯」とからかっていた。



    勝手にせよと逃げ出したエルヴィーラが入口で大きな悲鳴を上げ、それを見に行ったレポレロも大声を上げて、驚きの余り「白い人間が」と口を動かすだけであった。ドアを叩く音がして、レポレロが腰を抜かしているので、ドン・ジョバンニが「わしが行く」と立ち上がって見に行こうとすると、ニ短調の二つのもの凄い大きなオーケストラの響きと共に、真っ白い騎士長の姿が現れて序曲の音楽が鳴り響き、足音や震えの音楽とともに「来たぞ」と叫んでいた。そして驚くドン・ジョバンニと怖がるレポレロとの三重唱の音楽となって、騎士長は重大な話があると言い、「今度は私の晩餐に来るか」と呼び掛けた。臆病だと思われたくないドン・ジョバンニは、必死となって勇気を振り絞って「行こう」と返事をした。続いて約束の握手を求められ、握手をした途端に「何と冷たい手だ」と震え上がり、「離せ」と言って苦しみだした。騎士長は「悔い改めよ」と叫び、ドン・ジョバンニは何回か拒絶を繰り返した後に「いやだ」と絶叫した。時間がないと騎士長は立ち去るが、ドン・ジョバンニは「誰かが引き裂く」と言って苦しみながら倒れ込み、これでもかと迫るような合唱とフルオーケストラの響きの中で、大暴れしながらやがて「ああー」という絶叫と共に、舞台の地下深くに吸い込まれてしまっていた。



   大音響の中でレポレロがただ一人、何も分からずドン・ジョバンニが引きずり込まれた地下深くを覗いているうちに、音楽が明るく変わり、三人の裁判員と召使いたちとともに、エルヴィーラ、ドンナ・アンナ、オッターヴィオなど5人が駆けつけてきた。
   レポレロにドン・ジョバンニはどこへ行ったかと尋ねるが「でっかい男がやって来て遠くに行ってしまった」とさっぱり要領を得ない。エルヴィーラが合ったのは亡霊だったなどと、やがて合唱は六重唱となっていた。オッターヴィオが愛しい人よと呼び掛け、ドン・ジョバンニは天が代わって復讐してくれたと言い、もうこれ以上悩ませないでというと、ドンナ・アンナはあと1年待ってくれとのつれない返事。エルヴィーラ、マゼットとツエルリーナ、レポレロは、それぞれの道を歩もうと決意した。幕が下り音楽のテンポが変わって幕前で6人が並んで最後に明るい六重唱となっていた。六人が平和が戻ったことを喜んで歌って六重唱が終わると大拍手となり、映像は出演者の氏名などが写されていたが、ふと見ると死んだはずのドン・ジョバンニが地下から姿を現し、半身の後ろ向きの姿勢で舞台に現れており、ドン・ジョバンニの不死身の姿が写されているように思われた。


   手元にあったエストマンのCD(1989)に付属していた石井宏対訳のリブレットをチェックしながら細かくLDを見てきたので、記述が少し長くなった。このオペラの舞台劇は、まさに当時の奥行きのある小劇場用に作られており、この劇場では非常に多い場面転換が吊しの幕などで実に素速くこまめに行われていることに気がついた。恐らく大劇場での機械仕掛けの舞台転換では、大まかなことしか出来ず、不要なものは暗くして隠したりするのであろう。
    リブレットにある燭台を持った従者の登場が多くの場面で出てくるが、この映像では殆ど忠実に行われていたし、第一幕フィナーレのオッターヴィオのピストルや最後の6重唱の裁判員の登場などもリブレット通りであった。この劇場で省略されたのは、二つのフィナーレの楽士や最後のフィナーレの煙と火炎などがあったが、舞台を見ると楽士がピットで立って演奏したりして、実用上は問題がなかった。また、舞台が終わった後に映像で出てくるドン・ジョバンニの写真姿はリブレットにはなく、映像制作者のお愛嬌であろう。

   このリブレットはプラハ版であり、通常の「ごちゃ混ぜ版」とは、オッターヴィオの第10番bのアリアと、エルヴィーラの第21番bのレチタとアリアの2曲の有名曲が欠けることになる。この映像と同じプラハ版を用いた映像には、マッケラス1・エステート劇場の映像(1991)(10-1-3)があるが、この劇場はこのオペラの初演劇場であり、演出や舞台装置や衣裳は、驚くほど良く似ており、共にリブレットに忠実であった。今回のエストマンの演奏は、その上に古楽器を用いており、レチタテイーボの伴奏や、オーケストラと歌唱とのアンサンブルの良さなどに、古楽器の特徴が現れていたので、最も18世紀風の映像であると言うことが出来よう。
表−1、エストマンのCDとLDの出演者の比較(下面、欄外参照)





     続いて今回のLDの出演者・歌手陣をCDと比較すると、LDの方は全員がスエーデン出身者であるに反し、2年後のCDはドン・ジョバンニのハーゲゴール以外はインターナショナルの有名人であり、1989年当時ではほぼ全員が、ピリオド演奏の理解もある気鋭の若手歌手陣であったと思われる。恐らくエストマンは、映像では演技の出来るチームワークやアンサンブルを重視したベストの出演者を選び、CDの方は歌唱力を重視した若手歌手を選定したものと思われる。LDの歌手陣では、オッターヴィオのヴィンベリーがモーツアルト歌手として、ベルモント、フェランド、タミーノ、コンサートアリアの歌手などで成功しており、沢山のCDが残されているようである。

       終わりに6月号のロージー監督の映画「ドン・ジョバンニ」の映像(10-6-2)でも感じたことであるが、このLDも映像の画質が良くなく、それはアップした写真を見ると分かっていただけるであろう。最近のBDデイスクやハイビジョンを見慣れた目には、LDの画質は矢張り低レベルにあり、新しいデジタル技術を使ってDVD 化し直してくれれば、大幅に改善されるものと思われる。
   この映像は、画質面では満足できないが、古楽器演奏による初めての「ドン・ジョバンニ」でもあり、レチタテイーボや歌手とのアンサンブル面においてその良さが発揮されていた。エストマンの音楽に部分的に好き嫌いがあると思われるが、リブレットに忠実な演出面や歌手陣の動きや演技力・歌唱力もまずまずであり、一度は目を通すべき優れた映像であると思われる。

  (以上)(2010/07/11)


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表−1、エストマンのCDとLDの出演者の比較
 CD 1989ー07  LD 1987 Memo
Don GiovanniHaken Hagegard Swed.Haken Hagegard Swed. -
CommendatoreKristinn Sigmundsson Icel.Bengt Rundgren Swed.-
Donna AnnaArieen Auger USA Helena Dose Swed.-
Don OttavioNice Van Der Meer Holld. Gosta Winbergh Swed.-
Donna ElviaDella Jones Scot. Birgit Nordin Swed. -
LeporelloGilles Cashemaille Swit.Erik Saeden Swed. -
MasettoBryn Terfel Eng.Tord Wallstrom Swed. -
ZerlinaBarbara Bonney USA.Anita Soldh Swed.-