(最新入手のDVD報告;ベーラ・ドラホスによるフルート協奏曲全集全4曲)
10-7-1、ベーラ・ドラホスの指揮と演奏によるフルート協奏曲第一番ト長調K.313(285c)、第二番ニ長調K.314(285d)、フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)、フルートのためのアンダンテハ長調K.315(285e)、ブダペスト交響楽団、ハープ;アンドレア・ヴィーグ、2006年12月23日、フランツ・リスト・アカデミー、ブダペスト

−全4曲を通じて、このドルホスのフルート演奏は、実に生き生きとして軽快そのものであり、 実に良くフルートを歌わせていて、ドルホスの暖かい人柄が滲み出たような美しい丁寧な演奏が多かった。映像で見ると独奏フルートとオーケストラの掛け合いが面白く、アンサンブルを重視した演奏であると思われた−

(最新入手のDVD報告;ベーラ・ドラホスによるフルート協奏曲全集全4曲)
10-7-1、ベーラ・ドラホスの指揮と演奏によるフルート協奏曲第一番ト長調K.313(285c)、第二番ニ長調K.314(285d)、フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)、フルートのためのアンダンテハ長調K.315(285e)、ブダペスト交響楽団、ハープ;アンドレア・ヴィーグ、2006年12月23日、フランツ・リスト・アカデミー、ブダペスト、
(2010年5月25日、石丸電気本店にて輸入DVD盤を購入、HUNGAROTON HDVD 32560)

   7月号の新規入手DVDは、先月号にご紹介しているハンガリーのフルートの名手 ベーラ・ドラホス(Bela Drahos)の指揮と演奏によるフルート協奏曲の全集であり、オーケストラはブダペスト交響楽団の06年のモーツアルトイヤーの収録となっていた。このフンガロトンのDVDシリーズでは、先にケレメンのヴァイオリン協奏曲全集( 10-3-1)および(10-4-1) があり、これが素晴らしいDVDであったので期待して購入した。フルート全集として含まれている曲はフルート協奏曲の第一番ト長調K.313(285c)、第二番ニ長調K.314(285d)およびフルートのためのアンダンテハ長調K.315(285e)の3曲のほかに、アンドレア・ヴィーグ(Andrea Vigh)女史のハープの協演を得てフルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)が加わった全集版になっていた。ソリストのドラホスは頭髪が薄いので当初は年配の方かと思っていたが、クローズアップで映像で見ると若々しく指揮振りも軽快であり、技巧を誇るタイプではなく、音楽的な響きを聴かせるアンサンブルを重視するソリストとしての演奏であった。また協演のブダペスト交響楽団の演奏が非常に優れており、これはじっくり聞き込むべき素晴らしいDVDであると思った。フルート協奏曲第一番ト長調K.313もフルートのためのアンダンテハ長調K.315も、このHPでは初出であり、またフルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299はやっと二組目の映像がであるので、貴重な映像であると言えよう。


   モーツアルトは1777年9月、母と共にマンハイムへの旅に発ったが、モーツアルトの一連のフルート作品は、マンハイム滞在中に作曲されている。マンハイムのフルートの名手ヴェンドリンクの仲介で、オランダ人ド・ジャンのために作曲したものであるが、当初の作曲の意気込みと異なって、二つの協奏曲のうち一曲は、自作のオーボエ協奏曲ハ長調をフルート用のニ長調に編曲したもので間に合わせてしまった。その理由は不確かな手紙しか残されていないので、永遠に謎のままとなりそうである。
   第一曲目のフルート協奏曲の第一番ト長調K.313(285c)は、オリジナルの作品であり、第一楽章はアレグロ・マエストーソ、ト長調、四分の四拍子で、協奏風ソナタ形式である。第二楽章はアダージョ・マ・ノン・トロッポ、ニ長調、四分の四拍子、ソナタ形式で書かれ、第三楽章はロンド、テンポ・デイ・メヌエット、ト長調、四分の三拍子でロンド形式で書かれている。第二楽章だけが2オーボエから2フルートに置き換えられ、またブダペスト交響楽団はコントラバス1台の小編成で演奏していた。


   第一楽章は、フルートを左手に持ったベラ・ドラホスが右手で指揮を取り、アレグロ・マエストーソの堂々たる第一主題がトウッテイでフォルテで明るく開始され、ピアノで反復され経過部をたどりながら、続いてピアノで第二主題が提示され短いコーダでオーケストラの第一提示部を終えていた。ここで待ちかまえたように独奏フルートが登場して明るく第一主題を提示し、オーケストラと華やかに対話してから、独奏フルートが踊るような新しいエピソードを提示してフルートが華やかに速いパッセージを繰り返しながら進行していた。ドラホスの独奏フルートは軽やかで明るく、熟達した技巧の冴えを示していた。やがて独奏フルートと弦で落ち着いた第二主題が提示され、オーケストラに渡されたあと独奏フルートが華やかにパッセージを繰り広げて展開部へと突入していた。
   展開部ではトウッテイで第一主題の冒頭部が執拗に繰り返されてから、独奏フルートがコーダの早いパッセージを繰り返して、独奏フルートの技巧を誇示しながら独奏体制に入っていた。再現部では第一主題が最初はオーケストラで示されるが直ぐに独奏フルートが置き換わり装飾を加えながら進行し、提示部と異なって独奏フルートのペースで終始していた。カデンツアは高度な技巧を要する装飾のタップリ着いた長大なもので恐らくドラホス自身の作であろう。見事な技巧を披露しながら、コーダで力強くこの楽章が結ばれていた。





       第二楽章は弦楽器とホルンによるユニゾンの重厚な和音でゆっくりと第一主題が始まるが、いつの間にかヴァイオリンの他に二つのフルートが加わって美しい主題を提示していた。ホルンによる導入音形に誘われて独奏フルートがお馴染みの第一主題を奏で出し、弦と低弦のピッチカートが厳かに伴奏してひとしきり歌ってから、独奏フルートがゆっくりと第二主題を提示する。独奏フルートとピッチカートがついた第一ヴァイオリンの掛け合いが続き、素晴らしいアダージョになっていた。短い展開部が独奏フルート中心に展開されてから、独奏フルートにより再現部の第一主題が歌われて、ほぼ型通りに推移していた。ここでも技巧を発揮したカデンツアが用意され、最後に独奏フルートが再び第一主題を歌いながら曲を閉じるのが珍しかった。





   フィナーレはメヌエットの軽快なお馴染みのロンド主題が独奏フルートによりピアノで飛び出してきて、これをトウッテイがフォルテで反復して始まった。経過部は弦楽器で進行し続いて独奏フルートに引き継がれて速い技巧的なパッセージが続く。続いて第一の副主題が第一ヴァイオリンとピッチカートで提示され、これが独奏フルートとトウッテイとの掛け合いで進み、独奏フルートの華やかなパッセージが繰り広げられていた。再びロンド主題が独奏フルートで現れてから、いかにもモーツアルトらしい第二の副主題がソロと弦楽器で現れて、独奏フルートが華やかな技巧を示しながら、アレグロの軽快なロンド主題に戻っていた。実に明るく目まぐるしく変化していく多彩なロンド楽章であり、ドラホスは堂々とこの早い楽章をこなしていた。
    このドラホスの演奏は、実に生き生きとして軽快そのものであり、映像で見ると独奏フルートとオーケストラの掛け合いが面白く、アンサンブルを重視した演奏であると思われた。なお、この曲は、パユが既にベルリンフイルと演奏したもの(1-4-3)を過去にアップしていたが、忘れられてジャンル別にこの曲を検索できなかったので、初出の扱いになっていた。






    第二曲目のフルート協奏曲の第二番ニ長調K.314(285d)は、オーボエ協奏曲ハ長調がオリジナルで、この曲はモーツアルトが間に合わせのためこれを編曲したものだという。新全集にはフルート版が第二番として付属していたので、第一番と同様に丁寧にスコアを見ながら聴いてみた。第一楽章はアレグロ・アペルトと指示されているように、明るくはつらつとした楽章であり、協奏風のソナタ形式で、ドラホスの指揮でオーケストラでお馴染みの第一主題が軽快に提示されていた。続いて装飾しやすい第二主題が歌うように癖を付けて示されてから、ハッキリした終止主題が繰り返されて第一提示部を終えていた。    弦の導入主題に続いてドラホスの独奏フルートが登場し、フルートが高い二音を4小節に渡って引き伸ばしているうちに、ヴァイオリンが第一主題を提示し、やがてフルートが息をせききったように速いパッセージを繰り返し、独奏フルートが導入主題を技巧的に何度も反復していた。早いパッセージで歌い出したり変奏したり、独奏フルートは忙しいが、やがてゆっくりした第二主題を提示する。ドルホスは歌うように独特のくせのある装飾をつけながら提示しており、ひとしきり素晴らしいパッセージを示してから、終止主題を経て展開部に突入していた。展開部では独奏フルートが導入主題を繰り返すものと早いパッセージの部分で短いものであった。再現部は第二提示部とほぼ同じように、独奏フルート主体で型通り進行していた。カデンツアは第二主題をもじった高度な技巧を要するもので、自由な創作によるものであった。



    第二楽章は弦楽器のユニゾンで開始される荘重なアンダンテで始まるが、直ぐに独奏フルートが明るく歌うような第一主題を提示しながら歌い継いでいく。やがて第一ヴァイオリンとフルートとがかけ合うようにして第二主題が始まるが、いつの間にかフルートが主体になって展開を続ける美しいアンダンテであった。ドラホスはゆっくりと装飾をしたり変奏をしたり巧みに技巧のほどを示していた。短い展開部を経て再現部では冒頭のアンダンテ主題で始まり、第一主題は再現されずに、第二主題が主体になっていた。ここでも短いカデンツアを用意されており、冒頭の叙情的な主題で静かに結ばれていた。


    フィナーレは独奏フルートによりこれぞモーツアルト・アレグロとでも言うべき軽快なロンド主題で始まり、トウッテイで反復されたあと、曲の進行とともにこの主題は何回か繰り返される。モーツアルトはこの主題を後日、オペラ「後宮」の12番のブロンテのアリアに巧みに転用しており、明るいモーツアルトの代名詞とも言える曲であろう。オーボエとホルンに導かれてフルートが新しい主題を提示しやがてヴァイオリンが第二主題を提示して、独奏フルートが活躍していくが、この楽章は主題の提示の形から言えば短い中間部分を持ったソナタ形式であり、やがて独奏フルートによる中間部を経て再現部に突入していた。ここでも独奏フルートが実に明るく目まぐるしく変化したパッセージを重ねており、ドラホスは自信に満ちた表情で早いパッセージをこなしていた。短いカデンツアのあとに第一主題がもう一度現れてコーダで結ばれていた。     最近はオーボエ協奏曲として演奏される方が多くなったこの曲を久し振りで、しかもスコアを見ながらじっくり聴いたが、私には昔ながらの懐かしいフルート協奏曲として聞こえていた。私には第一番ト長調よりもむしろこの曲の方がフルート協奏曲らしいような気がしていた。ドラホスの映像はこの意味で優れた演奏でもあり、オールドファンには貴重な映像であると思われた。

    続いてアンコールとしてか、フルートのためのアンダンテハ長調K.315(285e)が演奏された。この曲は第一番ト長調の第二楽章の代わりに作られたと言う説があるが、何故作曲されたかはハッキリしていない。この曲の方がハ長調で技巧的にも簡単であり、独奏フルートが良く活躍する緩やかなソナタ形式で書かれている。
    曲は弦のピッチカートの二小節の和音に続いて、独奏フルートがいきなり優雅なセレナード風の第一主題を提示するが、ドラホスは実にゆっくりと酔ったように華やかに歌っていた。再び二小節のピッチカートに先導されて第二主題も独奏フルートで美しく提示されオーケストラに渡されていた。独奏フルートと共に再び二小節のピッチカートに続いて独奏フルートが短い展開部で一息つくように歌い出だした後に、再び二小節のピッチカートに導入されて再現部が始まり、第一主題・第二主題がゆっくりと再現されていた。短いカデンツアも用意され、ひときわ明るくソロを響かせてから静かに終息していた。 実に良く歌わせたフルートで、ドラホスの暖かい人柄が滲み出たような美しい丁寧な演奏であった。



    コンサートの最後は、このホームページでは二度目になるフルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)であり、ハーピストはアンドレア・ヴィーグ女史であった。
    第一楽章は、全員のトウッテイによる合奏の後、ドラホスの指揮でオーケストラのトウッテイにより堂々と第一主題が賑やかに始まり、メロデイラインがオーボエから弦へと渡され管が相づちを打つなど華やかな経過部を経てから、ホルンにより先導する第二主題が弦楽器によりピッチカートの伴奏で軽やかに登場していた。この主題は、ホルン、オーボエ、ヴァイオリン、ヴィオラなどに出番が配分されて進んでおり、華やいだコーダを経てオーケストラによる提示部が終わっていた。ドラホスは落ち着いたテンポでゆったりとした穏やかな指揮振りを見せていたが、このオーケストラ内部の掛け合いが、譜面を見ていると実に面白く感じた。
   やがて独奏フルートとハープが合奏で登場してから、フルートが主旋律をハープが分散和音を弾きながら二つの独奏楽器が第一主題を弾き始めるが、フルートが絶えずリードしハープが追いかけるような控えめな姿で進んでいた。続いてフルートがハープを従えて新しい技巧的な美しい主題を奏して発展させた後に、美しい落ち着いた第二主題がピッチカートの伴奏を伴いながら二つのソロ楽器の合奏で始まった。この主題を奏する二つの楽器の音色の違いが際立っており、これにオーケストラが加わって、独奏と合奏が入り乱れる素晴らしいパッセージが続いてから展開部へと突入していた。    展開部では新しい主題がフルートとハープの順に力強く提示され、二つの楽器が互いに激しく絡み合って、フルートのトリルが鋭く響く力強い展開がなされてから、再現部へと移行していた。再現部でもフルートのメロデイラインにハープのアルペッジョで推移しており、終わりのカデンツアでは、ハープの分散和音に乗ってフルートが技巧を尽くしており、同時にハープにも見せ場があって、二つの特徴ある楽器を際立たせていた。聴き慣れたカデンツアのように聞こえたが、新全集には収録されていなかった。全体を通じて、映像ではドラホスのフルートが、終始、余力を持って自在に動き回るに対し、ヴィーク女史ののハープがいつも遅れがちに登場してやや緩慢な動きをしていたように見えた。これは、極端に異なった二つの楽器による協奏曲の難しさであろうと思い知らされた。



   アンダンテイーノの第二楽章は、弦楽器だけの伴奏によって、ゆっくりと美しい第一主題が提示されると、直ちに独奏楽器のフルートとハープの合奏により艶やかに繰り返されていくが、途中からのハープの分散和音が取りわけ美しい。続いてフルートにより第二主題が提示されていくが、その後半の弦楽器に続いてフルートとハープの三つ巴となった優美な姿が示され、漂うように展開されていくさまが実に見事に把握されており、この曲にしかない艶やかな味わいが得られていた。この楽章の再現部では、独奏フルートびもハープにも繰り返しのソロには新たに装飾音を付けられて余裕のある進行を見せていた。最後に二つのソロ楽器による短いカデンツアが置かれ、ここでも両楽器の技巧が明示されていたが、初めて聴く新しいカデンツアのように聞こえた。カデンツアが終わると、二つのソロ楽器により第一主題が演奏され、この楽章は消えるように美しく閉じていたのが非常に面白かった。

  この曲のフィナーレのロンド楽章では、ドラホスのゆっくりとしたテンポの指揮で始まった。明るいフランス趣味が溢れている軽快なロンド主題が、オーケストラのトウッテイで伸びやかなアレグロで示され、一応の転結を見せた後に、ハープが珍しくソロで新たな主題を提示した。やがてこれにフルートが追従して見事なデユオを見せながら素晴らしい展開を見せ、フルートの活躍で締めくくりを見せていた。続いて第一のエピソードがフルートで軽やかに登場すると、ハープと管がこれを受けて繰り返し、ピッチカートが加わって盛り上がってから、再びロンド主題が二つのソロ楽器に登場していた。そして伸びやかな感じの第二のエピソードがフルートで表れ、さらにハープにより展開されいろいろな主題が見え隠れして盛り上がってからカデンツアとなっていた。カデンツアはフルートがロンド主題の冒頭部をなどりハープがキラキラと伴奏する美しいもので独奏二楽器の最後のさえずりを経て、再び軽快なロンド主題に戻って、颯爽とフランス風の軽快な楽章が終結した。



    写真で見るとおり、ブダペスト市内の目抜き通りにあるフランツ・リスト音楽アカデミーという素晴らしい伝統的な造りのコンサートホールで、満員の盛況の中で行われたオール・モーツアルト・コンサートであったが、日付を見るとモーツアルトイヤーの2006年12月23日に収録された映像であった。 フルートのベーラ・ドラホスは、ハンガリー生まれでフランツ・リスト音楽アカデミーで研鑽を積んだ方で、経歴を見ると1970年代からハンガリーやチェコでのコンクール歴があった。ソリストとして活躍するばかりでなく、1976年からハンガリー・ラジオの木管五重奏団を主催し、1985年にリスト賞を受賞したと記載されている。また、近年は指揮活動にも意欲を示し、今回のブダペスト交響楽団を指揮した経歴があった。     モーツアルトの管楽器の協奏曲は数が多くCDは全集ものとして豊富に収録されているが、映像は非常に少ないのでこのDVDは貴重な存在である。まだ収録されていない4曲のホルン協奏曲などの映像を期待したいものである。

(以上)(2010/07/16)


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