(懐かしい映像記録;マゼールとロージー監督による映画「ドン・ジョバンニ」)
10-6-2、ジョゼフ・ロージー監督による映画版「ドン・ジョバンニ」、ロリン・マゼール指揮、パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団、1978年6月、パリ・レバノン教会収録、1979年11月、

−この映像は、ロージー監督の描く映画「ドン・ジョバンニ」であり、オペラ劇場でライブで得られるオペラの舞台の映像とは、全く別物であるという印象を今回も改めて強く受けた。今回この映像をレーザーデイスクで見たわけであるが、昔映画で見たものと異なって、ハイビジョンの大型のオペラ映像を見慣れた目には、写されている内容は豪華なのであるが、アップした写真の写りが悪いと同様に、画質面・音質面で満足できないという不満が生じ、DVDで改めて見たいと感じさせられた−

(懐かしい映像記録;マゼールとロージー監督による映画「ドン・ジョバンニ」)
10-6-2、ジョゼフ・ロージー監督による映画版「ドン・ジョバンニ」、ロリン・マゼール指揮、パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団、
1978年6月、パリ・レバノン教会収録、1979年11月、NYケネデイ・センターで初上映、

(配役)ドン・ジョバンニ;ルッジェーロ・ライモンデイ、ドンナ・アンナ;エッダ・モーザー、ドン・オッターヴィオ;ケネス・リーゲル、ドンナ・エルヴィラ;キリ・テ・カナワ、レポレロ;ホセ・ファン・ダム、マゼット;マルコム・キング、ツエルリーナ;テレサ・ベルガンサ、騎士長;ジョン・マカーデイ、その他、
(2010年5月19日、石津氏所有のLDをBDレコーダーHDDにSPモードで収録、)

   ロージー監督の「ドン・ジョバンニ」のLDは、フルトヴェングラーの映像を除くと最も古い映像であろうが、私はこの映像を見ていたので、その存在を知りつつLDでは新しいものを追い求めて、つい買いそびれてしまったものである。かねてフェラインの石津さんにこのLDを貸していただきたいとお願いしていたが、今回、やっと自宅のBDレコーダーのHDDに標準モードで収録させていただいた。この映像は過去に見た印象がある上に、今回の録画時と録画チェック時の2度見ているので、この勢いで6月分で一挙にアップしてしまおうと考えた。この映像で早く確かめたかったのは、先月シフのピアノ協奏曲ニ短調K.466の映像に引き摺られて、歴史的なオリンピコ劇場がどのように使われていたかであったが、矢張り、記憶の通り一部の場面であった。この映像はスタジオ録音で歌った有名なオペラ歌手を俳優のように自由に演技させているが、中でもテレサ・ベルガンサはこのLDでしか見ることは出来ない。映画にしては古いせいか画面のピントが甘く古さを感ずるのはやむを得ないが、マゼールの整った音楽に合わせて、舞台と異なって背景を自由に設定して、また場面に応じて出演協力者を大勢自在に登場させて、思い通りに目を楽しませる異色の映画方式の「ドン・ジョバンニ」となっていた。そのため舞台ではあり得ない、例えば豪華なゴンドラや馬車などが登場するなどの設定が随処にあって驚かさせる。


   映像は凝った版画風のユニークな画面と波音で出演者の紹介が行われ、最後に指揮者ロジン・マゼールの名が出てから序曲が始まった。早めのテンポで序曲が軽快に走り出してから、ドン・ジョバンニや出演者たちが古い館から出てゴンドラへと向かっていたが、この建物はオリンピコ劇場であった。序曲の間、一行はゴンドラで運河を進み、やがてガラス工場で降り、召使いの案内でガラス細工を吹き上げるガラス職人たちの作業を見学していた。その燃え盛る赤い炎の勢いは、フィナーレの地獄の場面を思い起こさせていた。
   序曲が終わり、第一曲の序奏が開始すると、場面は一転して薄暗いドンナ・アンナ邸の玄関先。レポレロがぼそぼそと呟くように歌いながら身を隠していると、階段の上の暗いお屋敷から逃げる男を争いながら女が追いかけて、レポレロも加わって激しい三重唱となっていた。逃げるドン・ジョバンニが階段から地下に下りるとアンナの父が決闘だと迫ってきた。ドン・ジョバンニはやむを得ず剣を交わしたが、勝負はあっと言う間について、音楽はアンダンテとなって騎士長は直ぐ虫の息となり倒れてしまった。雨の降りしきる中、人が集まってきたので、ドン・ジョバンニとレポレロは、外で待たせていた馬に乗って逃げ出していた。 そこへドンナ・アンナとドン・オッターヴィオが駆けつけ、倒れていた騎士長を発見し、一騒ぎの後、アンナは気を失って倒れてしまう。しかし、オッターヴィオに介抱され気を取り戻すと二重唱になり、気の強い彼女はこの怨みを果たしてくれと激しく迫り、オッターヴィオにこの血に賭けて必ず復讐することを誓わせていた。


   明るい日差しの中、ドン・ジョバンニとレポレロは、馬に乗って言い争いをしながら古い屋敷に登場して、ドン・ジョバンニはあたりを見渡しながら「女の匂いがする」と立ち止まった。すると白いヴェールで顔を隠したドンナ・エルヴィーラが現れて、捨てられた怨みのアリアを歌いながら探していた。そこへ近づいてきたドン・ジョバンニに声を掛けられ、思わず振り向くと探していた張本人。ここぞと長年の怨みを口に出すエルヴィーラに閉口して、ドン・ジョバンニはレポレロに正直に言えと託して建物の中に逃げこんでしまった。ここはどうやらドン・ジョバンニのお屋敷のよう。ドン・ジョバンニと同じ格好の第二の召使いが出て来て、レポレロと一緒に持参した分厚いカタログを広げながら、「カタログの歌」が始まった。スペインでは1003人の所では、階段の上から下までカタログが広げられ、エルヴィーラは呆れてものも言えぬ様子。この大袈裟な演出は舞台では不可能であり、後半には歌うレポレロを誘うような村娘が現れたり、思い出したかのように水浴びの若い裸婦と視線を合わすドン・ジョバンニが写されたりして、映画ならではのサービス満点の場面が重なり、エルヴィーラの怒りを増幅させていた。


   場面が変わって村の若者たちが大勢集まってツエルリーナとマゼットが踊りながら歌い、威勢よく合唱が始まっていた。第二の召使いが監視しておりドン・ジョバンニに通報し、花嫁のツエルリーナに目をつけたドン・ジョバンニが、マゼットを力ずくで脅して、悔しながらのアリアを歌うマゼットを残して、ツエルリーナを館の中に連れ込んだ。やっと二人になれたとドン・ジョバンニはツエルリーナを口説きだすが、村人たちが二人を監視していた。ドン・ジョバンニは「手を取り合って」と甘い声で歌い出し、二重唱となってツエルリーナを次第にその気にさせた。そして最後には胸元にキスをしたところに、突然、エルヴィーラが顔を出し、口論の末に「お逃げなさい」とアリアを歌い出し、疑うツエルリーナを連れ出してしまった。
   今日は何とついていない日かとドン・ジョバンニがぼやきながら歩いていると、馬車に乗った黒い喪服のドンナ・アンナとドン・オッターヴィオに出遭い助けを求められた。何事かと馬車に乗り込むと、再びエルヴィーラが登場し、「この男を信用するな」と歌い出した。ドン・ジョバンニも「彼女は頭がおかしい」と歌い出して四重唱になっていくが、次第に二人はドン・ジョバンニを疑いだした。ドン・ジョバンニはエルヴィーラを諫めてくると言ってドンナ・アンナに「アミーチ・アデイーオ」と声を掛けて立ち去った。


  が、その直後、激しくオーケストラが鳴り出し、ドンナ・アンナは「神様」と絶叫して、父を殺したのはあの男だと言い出した。彼女はオッターヴィオに経緯をア・コンパニアートで告白し、「さあ、お分かりでしょう」と激しくアリアを歌い出し、共に闘おうと復讐を誓っていた。場面が変わって、オッターヴィオが一人ゴンドラに乗って、「彼女の願いはわが願い」と彼女への愛の願いを歌っていたが、このゴンドラの歌は誰も聴いている人がいなく、何か場違いのような気がした。
  ドン・ジョバンニの邸内で、第二の召使いが顔を出し、ドン・ジョバンニが風呂につかり髪を整え身ごしらえをしている最中に、レポレロが留守の間の経過を説明すると、それが全てブラボーの報告であった。ドン・ジョバンニは調子に乗って、上機嫌で「シャンペンのアリア」歌いながら広場を一周していた。一方、邸内ではツエルリーナが怒るマゼットを宥めようと台所や物置などぐるぐる回りながら、「ぶってよ、マゼット」と歌い出し、マゼットのご機嫌を取っていた。そこへ「さあ宴だ、祝え」というドン・ジョバンニの声が聞こえてきて、逃げようとしたツエルリーナをマゼットが怒って、「俺は見張っているぞ」という二重唱で第一幕のフィナーレが始まった。


   ドン・ジョバンニが屋敷内で、「歌って踊って、楽しく過ごそう」と歌いながらご機嫌で動き回り声を掛けていた。音楽が変わって隠れていたツエルリーナを直ぐに見つけ出して誘い始め二重唱となるが、そこはマゼットに見つけられ、「一緒に踊りに行こう」と誤魔化していた。音楽と場面が変わって仮面を手にしたドンナ・アンナにオッターヴィオとエルヴィーラの三人が、ゴンドラに乗って互いに勇気づけながら屋敷に着いた。メヌエットが始まり、舞踏会に入場を許されると、そこで共通の敵であるドン・ジョバンニを懲らしめるために「神よ、お守り下さい」と美しい三重唱を歌いながら邸内を案内されていた。音楽が変わり「コーヒーだ、チョコレートだ」と賑やかに騒いでいる間に、ドン・ジョバンニはツエルリーナと抱き合っていたが、マゼットは手を出せずいらいらしていた。



   音楽が変わりそこへ三人のマスクの人が登場し、ドン・ジョバンニは改めて音楽を始めよと命令し美しいメヌエットが始まった。やがて三人のマスクの人のメヌエットと、ドン・ジョバンニとツエルリーナのコントルダンスと、レポレロとマゼットの早いドイツ舞曲が一緒に混然となって踊っているうちに、ツエルリーナがドン・ジョバンニに連れ込まれた。ツエルリーナの悲鳴で場内は大騒動になり大勢が駆けつけたので、ドン・ジョバンニはレポレロを犯人に仕立てて急場を凌ごうとした。しかし、三人のマスクの人がしっかり様子を見ており、芝居は止めよと仮面を脱ぎ、村人たちも詰め寄って騒ぎ立てたので場内は大混乱。音楽が変わりドン・ジョバンニは形勢悪しと悟り、怒号が飛び交う中を参ったとばかりに逃げ足早く屋敷に逃げ込んで、大合唱と雷音の轟く中で第一幕が終わりとなっていた。フィナーレで演出家を悩ます「自由万歳」の場面が、音楽は鳴っていたが画面では字幕が無く明確にされていなかったのが意外な気がした。

  

   第二幕はドン・ジョバンニとレポレロとの言い争いから始まり、今度ばかりは殺される所だったとレポレロも真剣で立ち去ろうとしていたが、ドン・ジョバンニに呼び止められた。そして金貨4枚を渡され、ベッドの裸女を枕にして二重唱で俺は博愛主義者なのだと言い聞かせて和解し、仮面を手渡しマントを交換して、レポレロに成り済ますことに成功し、かねて目をつけていたエルヴィーラの召使いを誘惑する準備が整った。
   ところが館の二階の窓から顔を出したのは何とエルヴィーラ。彼女がアリアを歌い出すと、ドン・ジョバンニが変装したレポレロに身振りをさせながら、途中から許してくれと歌い出して三重唱となり、それを信じたエルヴィーラが降りてきた。変装したレポレロをドン・ジョバンニと信じ込ませて、エルヴィーラがその気になったところへ、ドン・ジョバンニが大声を出して脅したので、二人は手を繋いで逃げ去ってしまった。



   大笑いをしたドン・ジョバンニがふと窓辺を見上げると、何と裸身の召使いが見下ろしているではないか。そこでドン・ジョバンニは第二の召使いにマンドリンで伴奏させて、カンツオネッタを歌い出した。一旦閉ざされた窓が再び開いて、反応があったとドン・ジョバンニが意気込んで歌い続けたが、終わったときに運悪くドン・ジョバンニを追い求めるマゼット一行の声が聞こえてきたので、このセレナード劇は残念ながら成功しなかった。ドン・ジョバンニは仮面を片手にレポレロの振りをして「半分はこちら」とアリアを歌いながら一行を二手に分けて探させ、マゼットと二人きりになるとマゼットの持つ猟銃とピストルでマゼットを滅多打ちにして逃げ去ってしまった。マゼットが「痛い痛い」と悲鳴をあげているところへ、ツエルリーナが現れ介抱をし始めた。彼女は痛いところを聞きだし、焼きもちを妬かないならと「薬屋のアリア」を歌いながら、ドキドキとときめくようなオーケストラの伴奏に乗ってマゼットを介抱し丸め込んでしまっていた。



  場面が変わって沢山の通路のある路地を仮面でドン・ジョバンニに扮したレポレロがエルヴィーラから逃れようとうろついているうちに、彼女が「暗いところでただ一人」と歌い出した。そこへ別の路地から喪服姿のドンナ・アンナとオッターヴィオが現れて二重唱となり、レポレロが逃げ出すと別の路地からツエルリーナとマゼットが現れて、レポレロが捕まってしまった。怪しい仮面のレポレロを許さないと歌う六重唱が始まると、エルヴィーラは「私の夫です」と許しを乞うがどうしても許されない。レポレロは帽子を取り、仮面を外してマントを脱ぎ必死になってになって謝ると、一同は始めてレポレロであることが分かった。舞台はオリンピコ劇場の正面で、驚き呆れる5人に加えて、見守る村人たちの中央に赤い法衣を着た役人もおり、レポレロは全て旦那の命令ですと平謝りのアリアを歌いながら、皆の隙を見て一目散に逃げ出してしまった。
   オッターヴィオはここで始めて騎士長を殺したのはドン・ジョバンニだと言い出して、これから探しに行く留守の間、私の恋人を慰めて下さいと高らかにアリアを歌い出して、広場に出て歩きながら朗々と元気よく歌っていた。一方の残されたエルヴィーラは、館の中で「ああ、哀れな私」とドン・ジョバンニを憎む一方で、彼を助けるために神に慈悲を乞うアリアを歌って優しい心を示していた。



   なんて明るい夜なんだろうと上機嫌のドン・ジョバンニがボートで館に戻ってきて広場でレポレロに再会し、二人で洋服を取り替え歩きながら大声で留守中の話をして高笑いしていると、「その笑いも夜明けまでだ」という声が聞こえた来た。誰だと驚いて辺りを見渡すとそこは墓場の中。騎士長の墓に気づきレポレロに墓碑を読まさせ、二重唱になってドン・ジョバンニはレポレロに食事に招待すると言わせると、レポレロが石像が頷いたという。驚いたドン・ジョバンニが「食事に来るか」と大声をあげると、「行こう」という返事が戻ってきた。驚いた二人は、準備のため足早に引きあげていた。
   一方、ドンナ・アンナのお屋敷では、長い婚約に苛立つドン・オッターヴィオが恨み言を言うと、ドンナ・アンナはレチタテイーボの後に「何もおっしゃらないで」と心の苦悩を打ち明けるロンドをゆっくりと歌い、後半にはアレグレットで「いつの日か神は微笑んでくれる」と歌っていた。



    場面が変わり場所はドン・ジョバンニ邸の豪華な食堂で、第二幕のフィナーレが勢いよく始まった。正装したドン・ジョバンニはゆっくりと食卓につくと「コサ・ラーラ」の楽しい音楽が始まり、食事が運ばれて豪勢な食事が開始された。やがて音楽がサルテイの「喧嘩する人々」に変わり、注がれたマルツイミーノ酒を旨そうに飲んでいると、レポレロが盗み食いをするのが見えた。音楽が「もう飛ぶまいぞ」になってますますご機嫌になり、音楽に合わせて「レポレロ」と呼んで口笛を吹けと注文し、食事を楽しんでいた。そこへ突然、エルヴィーラが飛び込んできてドン・ジョバンニの前に最後のお願いと座り込んだ。どうしたと聞くとエルヴィーラは「生活を変えて」と言い天罰が下ると言うが、ドン・ジョバンニは取り合わない。そして「女と酒に乾杯」などと言われて、エルヴィーラは怒って逃げ出したが、出口の先で石像を目にして大声で悲鳴を上げていた。驚いてレポレロも見に行くが、彼も石像を見て大声を上げて口もきけない様子であった。



  タ、タ、タという不思議な音にドン・ジョバンニが入口のドアの前に進むと、突然、稲光とともにニ短調の大音響が二つ轟き、ドアが開いて石像が現れた。そして序曲の冒頭の音楽とともにドン・ジョバンニに「食事に来たぞ」と言う。二人は大声で対話しながら、今度はわしが頼みたいことがあると言い出し、何だと言うとドン・ジョバンニを睨みながら「今度はお前の番だ、食事に来るか」という。雷鳴が鳴り音楽は次第に激しくなり、ドン・ジョバンニが考えていると、「決意せよ」と繰り返し、「決意した、行こう」と答えると、約束の印に握手せよと言う。握手した瞬間にドン・ジョバンニは「何と冷たい手だ」と呆然となるが、石像が「悔い改めよ」と言っても「いやだ」を繰り返し、「絶対に嫌だ」と叫んだときに、石像は「裁きの時が来た」と言って姿を消した。ドン・ジョバンニはその場で大地が揺れる、全ての感覚が痺れると口ずさみ、いつの間にか部屋には序曲のガラス工場の火炎が立ち上っていた。ドン・ジョバンニは狂ったように暴れ出し、誰かが臓腑を掻きむしると言いながら苦しげに棒立ちとなり、大音響と白煙とともに大声を上げて火炎の中に崩れるように落ち込んでいった。



   まだ煙が立ち上っているうちに明るく六重唱が始まっていた。レポレロは皆に攻められて、分けも分からずに大声で、大きな石像が来てドン・ジョバンニを連れて行ったと説明。皆は悪人が天罰を受けてこの世からいなくなったと明るく合唱していた。ドンナ・アンナが二重唱で「あと1年待って」とオッターヴィオに言うと彼は素直に引き下がっていたし、エルヴィーラも修道院にと歌っていた。また、レポレロも別の良い主人を探そうと歌って、早いテンポの合唱となり大団円となっていたが、ここでは六人がそれぞれのボートに乗りこんで、それぞれの方向に漕ぎ出したところで長い舞台は終結していた。



この映像は、ロージー監督の描く映画「ドン・ジョバンニ」であり、オペラ劇場でライブで得られるオペラの舞台の映像とは、同時に比較できない全く別物であるという印象を今回も改めて受けた。イタリアに残されているオリンピコ劇場など豪華な歴史的建造物を自由に活用し、映画用に多くの人々を動員させ、豪華なゴンドラや馬車を上手に使い、衣裳や道具類も最高の貴族社会の人間関係を巧みに演出していた。われわれの見る通常のオペラ「ドン・ジョバンニ」の音楽劇に対して、いかに視覚的に満足できる世界を描けるかを、映画という手法を用いて挑戦した姿が、描かれているように思われた。

  私はレーザーデイスクを持たなかったので、この映像を、多分、劇場で見たのであろうが、その時には貴族主義的な豪華な世界が描かれていたと圧倒され、凄い映画をみたという印象を強く持っていた。今回この映像を改めてレーザーデイスクで見たわけであるが、ハイビジョンの大型のオペラ映像を見慣れた目には、写されている内容は豪華なのであるが、見ている映像がアップした写真の写りが悪いように、質的に満足できないという不満を大いに持った。レーザーデイスクのジャケットの豊富な写真は素晴らしいのであるが、これが残念ながらLDの画像の質に反映されていなかった。従って、原画を例えばブルーレイデイスクなどにデジタル化し直すと、昔見た映画のように、優れた画質で満足できるようになるのではなかろうかと思わせた。やはりレーザーデイスクは、メデイアとしては時代遅れのものと感じざるを得なかった。

  映像の質の悪さと同様に音声の方も低レベルで、普通のオペラのCDよりも質が悪いという印象を持ち満足できなかった。そのためオペラのアリアや重唱を楽しむと言うよりも、有名な歌手陣による豪華な主役たちが演ずるストーリーを楽しむというような、また、特に関心のあったルネッサンスの時代の歴史的建造物がどのように使われていたかと言うような見方をしていた。この映像のドン・ジョバンニ邸の豪華さは目を見張るものがあり、大勢の料理人・調理人などの召使いたちに驚き、豪華な衣裳や丁度類にも驚かされた。

 ライモンデイのドン・ジョバンニは、風格・貫禄共に十分で、この映画の主人公の役割を十分に発揮していた。ライモンデイにはまだ未アップであるが、アバドの指揮による映像で1990年のもう一組の映像があるが、矢張りシェピに次ぐ当代最高のドン・ジョバンニと思わせた。ドンナ・アンナ、キリ・テ・カナワは、揃って貴族の風格が十分であり良く演じていた。テレサ・ベルガンサはどう見ても若い百姓娘には見えず、マゼットのつれ合いとしては不釣り合いに見えたが、年増の色気は十分にあった。彼女はコンサートアリアなどで伝説的な録音を残しているが、美人の割りには映像が少ない歌手であると思った。レポレロはもっとヤクザっぽい役柄なのであろうが、ホセ・ファン・ダムのようなタイプの方には合わないような気がした。また、ドン・ジョバンニの第二の召使役がセリフはないが進行上重要な役割を果たしており、このような大袈裟な舞台ではレポレロ一人では間に合わぬ面を救っていた。原作にまで遡れば、このような役の必要性も頷けると思われる。
  以上のように、この映像はオペラを映像で見るというよりも、映画としてドン・ジョバンニ劇を豪勢に楽しむと言う種類のものであって、これまで見てきた他の映像とは別のものと言うことを強く感じた。可能であれば、LDではなく、新たにDVDとしてデジタル化されたもので見直してみたいという希望を持った。


(以上)(2010/06/11)


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