(懐かしい映像記録;ムーテイ指揮ミラノ・スカラ座の「ドン・ジョバンニ」)
10-3-3、リッカルド・ムーテイ指揮、ジョルジュ・ストレーレル・演出、ミラノ・スカラ座による才ペラ「ドン・ジョバンニ」K.527、1987年12月12日、15日、ライブ収録、

−ムーテイの颯爽とした指揮振りの堂々とした本格的な「ドン・ジョバンニ」を見た。上品な貴族趣味的なドン・ジョバンニであり、当代一流のインターナショナルな歌手陣がスカラ座の舞台に集結し、歌が非常に充実していたが舞台の動きは少なく、暗闇で静止画像を見ているような雰囲気であったが、これが現代と異なる1980年代のオペラの姿なのであろうと思われた−

(懐かしい映像記録;ムーテイ指揮ミラノ・スカラ座の「ドン・ジョバンニ」)
10-3-3、リッカルド・ムーテイ指揮、ジョルジュ・ストレーレル・演出、ミラノ・スカラ座による才ペラ「ドン・ジョバンニ」K.527、1987年12月12日、15日、ライブ収録、
(配役)ドン・ジョバンニ;トーマス・アレン、ドンナ・アンナ;エデイタ・グルベローヴァ、ドン・オッターヴィオ;フランシスコ・アライサ、騎士長;セルゲイ・コプシャク、ドンナ・エルヴィラ;アン・マレイ、レポレロ;クラウデイオ・デズデーリ、マゼット;ナターレ・デ・カロリス、ツエルリーナ;スザンヌ・メンツア、その他、
1989年07月28日、ANFコーポレーション発売のレーザーデイスク、ANF-3501 )

   この映像は89年7月にレーザーデイスクで発売され、私が最初に見た「ドン・ジョバンニ」の映像である。そのためこの映像の隅々まで記憶に残っており、私のこのオペラを見るベースになっているものである。ストレーレルの演出は、薄暗い背景の中でスカラ座の大規模な舞台に相応しく堂々とした伝統的な豪華な演出であり、歌手陣も当時は覚えたてではあったが、素晴らしい人材を揃えたものであった。ムーテイの音楽はこれらの歌手陣や演出に恵まれて、実にスケールが大きく迫力に富むものであり、今でも基本的なところを全て備えた理想的な「ドン・ジョバンニ」の映像の一つと考えている。
   前回に同じムーテイがウイーンフイルを指揮してシモーネ演出で1999年にアンデア・ウイーン劇場で収録したライブ公演を(9-6-3)としてアップロードしたが、この映像は音楽は良かったのであるが、衣裳などに余分な面が多く、また舞台がスカラ座とは見劣りがして、前作ほどの満足が得られなかったと書いている。しかし、現在ではこのオペラをいろいろな映像で見てきているので、この古いムーテイの映像を新しい目で見直して、昔のイメージ通りであるかどうかを確かめる必要が生じていた。今回はこのようなスタンスでこの映像をしっかりと見ておきたいと考えている。



  メガネをかけていない若いムーテイの颯爽と登場する様子が写されてから序曲が始まるが、最初の二和音は鋭く余韻が消えるまで丁寧に響かせてから石像と主従のやり取りを模した序奏部が続き、一転してアレグロの軽快な主題が速い弦で流れ出した。展開部のこれでもかと責めるような部分が重々しく響き、堂々とした力強い序曲の印象であった。
  序曲がそのまま第一曲の序奏に移り、幕が開き暗いお屋敷前の広場のようなところでマント姿のレポレロが格好をつけてぶつぶつ独り言のように歌っていた。右手を良く見るとバルコニーに人影が映り、暗闇の中で男女が歌いながら激しくもみ合っていたが、その声を聞きつけたか広場では、大男の騎士長が娘を離せと叫んでいた。驚いたドン・ジョバンニが二階から飛び降りて騎士長に向かい合うと、いきなり刀を抜けと挑発されて勝負が始まったが、刀を二三度交わしただけで勝負が付き、騎士長は崩れるように倒れ込んでしまった。ドン・ジョバンニはレポレロと逃げ去ってしまうが、終始、トーマス・アレンのドン・ジョバンニは騎士らしく堂々としていた。

 

  ドンナ・アンナとオッターヴィオが明かりを持った従者とともに駆けつけ、ドンナ・アンナは倒れて冷たくなりかけている父を発見し気を失う。しかし、オッターヴィオに気がついて二人の二重唱となり、気丈な彼女は父の復讐をオッターヴィオに誓わせていた。この生真面目そうなグルベローヴァとアライサのコンビには暖かい拍手が沸き起こっていた。二人が立ち去った後にドン・ジョバンニとレポレロが登場し言い争いをしていたが、ドン・ジョバンニがふと「女の匂いがする」と立ち止まり物陰に隠れて様子を見ていると、エルヴィーラが一人で登場し、「あのひどい男はどこかしら」とアリアを歌いだしていた。ドン・ジョバンニが後ろから声をかけると、彼女はドン・ジョバンニであることに直ぐ気がつき激しく恨み辛みを語りだすので、彼は閉口してレポレロに任せて逃げ出してしまった。そこでレポレロはエルヴィーラに貴女だけではないと言い聞かせ、得意顔でカタログを見せながらアリアを歌い出した。エルヴィーラは「スペインでは1004人」と歌われて呆然と立ちすくむばかりであり、アン・マレイのエルヴィーラは上品で純情そうであった。



  同じ広場に若者たちが集まってきてお祭り騒ぎ。ツエルリーナが中央で歌い出しマゼットも負けじと歌っていたが、それをバルコニーからドン・ジョバンニが見ており、ツエルリーナに目をつけたようだった。二人は若者たちの輪に入り話しかけ、邪魔なマゼットを脅すと、マゼットが反抗のアリアを歌ってツエルリーナの無警戒さを恨んでいた。やっと二人になったとドン・ジョバンニがフォルテピアノの伴奏で口説きだし、ツエルリーナを上手におだて上げ、あの家へ行こうと手を取り合っての二重唱。ツエルリーナはその気にさせられて、後半には「行きましょう」となっていたが、陰でそれを見ていたエルヴィーラが「お待ちなさい」と声を掛け、短いアリアを歌って二人を引き離した。ドン・ジョバンニが運の悪い日だとぼやいているところへ、ドンナ・アンナとオッターヴィオが現れ、父の復讐の助力を求めに来た。ドンナ・アンナが気付いていないことを知り、ドン・ジョバンニが話を聞こうとしたところへ、またしてもエルヴィーラが現れて、「私を騙したこの男を信じては駄目よ」と四重唱が始まった。ドンナ・アンナは驚いて直ぐには信用出来ず、ドン・ジョバンニが気違い扱いする二人の争いを訝しげに歌っていたが、別れ際に声を掛けたアミーチ・アデイーオの言葉や姿から、自分を襲ったのはドン・ジョバンニだと気がついた。さあ大変。



  ドンナ・アンナは、「あの男よ」と悲鳴を上げてオッターヴィオに助けを呼び、アッコンパニアートの激しいレチタテイーボで、「あの男が自分を襲い父を殺したのよ」と叫んで経緯を早口で語り、「もうお分かりでしょう」と激しい口調でアリアを歌っていた。グルベローヴァの見事なアリアで大きな拍手があった。オッターヴィオはそのドンナ・アンナの激しさに驚いてウイーン版の追加曲「彼女の安心はわが願い」を歌っていたが、彼にはあの騎士がそんなことをと半信半疑の面持ちでアリアを歌っているように見えた。
  次いでレポレロが登場し、ドン・ジョバンニにのお屋敷で若者たちを歓待し、マゼットを宥め、現れたエルヴィーラを追い払ったと説明すると、ドン・ジョバンニはわが意を得たりと喜び、「上出来!、最高だ!」とレポレロを相手に有頂天になって「シャンペンのアリア」を早口で勢いよく歌っていた。続いてツエルリーナがマゼットのご機嫌直しに歌う「ぶってよ、マゼット」を歌ってから、お屋敷でのフィナーレに進んで行った。

 

  ドン・ジョバンニのお屋敷で隠れようとしているツエルリーナとマゼットが争っているうちにドン・ジョバンニが登場し、大勢の前で「楽しくやろう」と語りかけ、宴会が始まっていたが、隠れていたツエルリーナがドン・ジョバンニに直ぐ見つけられてしまう。しかし、マゼットがそこに現れたのでドン・ジョバンニは手出しが出来ず、音楽が始まったので三人で踊りに行こうとなったところへ三人の仮面の人が登場した。メヌエットが始まりレポレロがドン・ジョバンニと相談をして仮面の人を案内をすると、三人は有り難うと答えて「神よ、守り給え」と悪人の館へ乗り込む前の決意を三重唱で歌っていた。このアリアはこのオペラの最高の三重唱であるが、映像では歌う三人の姿と指揮をするムーテイの姿が重なっていたが、この映像では良いところでムーテイの姿が良く登場していた。
  コーヒーだ、シャーベットだと踊りが賑やかに始まり、その場に仮面の人が案内されると、ドン・ジョバンニは「皆さん、どうぞご自由に」と歓迎し、自由万歳となっていた。メヌエットが始まって踊りの場面になったがマゼットが不機嫌でレポレロが相手をしているうちに、ドン・ジョバンニとツエルリーナが踊り出し、早いコントルダンスが加わって盛り上がり、さらにドイツ舞曲も加わって賑やかさが増してきた時に、ツエルリーナの「助けて」という声が聞こえてきて騒然となっていた。そこへドン・ジョバンニがレポレロを犯人として大勢の前で刀を突きつけたので、三人のマスクの人が仮面を取りそれぞれ「騙されないぞ」と詰め寄ったのでドン・ジョバンニは大慌て。音楽が変わって早いテンポのアレグロになって、ドン・ジョバンニは負け惜しみの強がりを言いながら逃げ出して、長い第一幕のフィナーレは終了となっていた。



   第二幕はドン・ジョバンニとレポレロの争いで始まっていたが、レポレロが金貨で簡単に買収されてしまい、挙げ句の果てに洋服まで交換させられてしまっていた。バルコニーに現れたエルヴィーラを見つけてドン・ジョバンニがこの時とばかり許しを乞い三重唱になっていたが、純情な彼女がバルコニーから降りてきてレポレロに抱きつかれ、男二人に見事に騙されてしまった。その挙げ句にドン・ジョバンニに大声を出されて、レポレロとエルヴィーラは驚いて逃げ出してしまい、残ったドン・ジョバンニはバルコニーの上に向かって、ピッチカートとマンドリンの伴奏で気持ちよさそうにカンツオネッタを歌い出していた。バルコニーの奥にお目当ての女性が見えかかったところへ、マゼット一行がドン・ジョバンニを懲らしめようと大勢で駆けつけていた。レポレロに成り済ましたドン・ジョバンニが事情を聞いて一行を二手に分けて探しに行かせ、マゼットと二人きりになってから、けしからぬマゼットを散々銃やピストルで痛めつけてしまった。マゼットの悲鳴を聞きつけてツエルリーナが現れて、有名な「薬屋のアリア」を歌いながら色っぽい仕草でマゼットを元気づけていた。



   一方のレポレロとツエルリーナは暗闇で出口を探してウロウロと二重唱になっていると、そこへドンナ・アンナとオッターヴィオが現れて四重唱になり、さらにマゼットとツエルリーナが加わってレポレロが怪しいと捕まってしまった。レポレロは必死になって許しを乞うが許さないと叫ばれ、エルヴィーラが「私の夫です」と謝っても許されず、レポレロだと衣裳を脱いで平謝り。驚いた一同が騙されたと呆れた六重唱となって大合唱。レポレロはエルヴィーラ、マゼット、オッターヴィオに個別にアリアを歌って謝っていたが、隙を見てやっとの思いで逃げ出していた。オッターヴィオは残された人々に、ドン・ジョバンニが犯人であることが分かったので当局に訴えると言い、留守の間、私の恋人を慰めてくれと決意のアリアを歌っていた。それを聞いてエルヴィーラは彼に天罰が下るとアッコンパニアートで激しくレチタテイーボを歌いながらも、「裏切り者だが、神のご加護を」と矛盾した心を歌って優しい気持ちを歌っていた。



   場面が変わって石像のある墓場にドン・ジョバンニが現れ、遅れてたどり着いたレポレロと月夜の中で再会し、お互いの成果を話し合って大声を上げて高笑いをしていると、どこからか「その笑いも夜明けまでだ」という恐ろしい声が響いて驚いてしまう。良く見ると石像は騎士長のものであることに気がつき、レポレロに命じて食事に誘うと、レポレロが石像が頷いたと腰を抜かしてしまう。ドン・ジョバンニが改めて誘い、返事をしろと叫ぶと「行こう」という声が聞こえてきた。驚いた二人は食事の支度をすると言って逃げ出していた。一方、ドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、オッターヴィオが耳を貸さぬドンナ・アンナに「つれない人だ」の言葉に彼女は「違うわ」と反発して、「私だって辛いのよ」と切々として美しいアリアを歌っていた。  





  ムーテイが一振りして第二幕のフィナーレが景気よく始まった。場所はドン・ジョバンニ邸の豪華な食堂で、正装したドン・ジョバンニはゆっくりと食卓につくと「コサ・ラーラ」の楽しい音楽が始まり、食事が運ばれて豪勢な食事が開始され、食事も進んでまるで巨人のような大食振り。やがて音楽が「喧嘩する人々」に変わり豪華なコンサートとなって、注がれたマルツイミーノ酒も旨そうに飲んでいると、レポレロが盗み食いをするのが見えた。音楽が「もう飛ぶまいぞ」になってますますご機嫌になり、音楽に合わせて「レポレロ」と呼んで口笛を吹けと注文し、言い訳をさせているところへ、突然、エルヴィーラが飛び込んできてドン・ジョバンニの前に最後のお願いと座り込んだ。どうしたと聞くとエルヴィーラは「生活を変えて」と言い天罰が下ると言うが、ドン・ジョバンニは取り合わない。そして「女と酒に万歳」などと言われて、エルヴィーラは怒って逃げ出したが、出口の先で大声で悲鳴を上げていた。驚いてレポレロが見に行くが、彼も大声を上げてタ、タ、タ、と口もきけない有様。



  不思議に思ったドン・ジョバンニが入口のドアの前に進むと、突然、稲光とともに大音響が二つ轟き、石像が現れた。そして序曲の冒頭の音楽とともにドン・ジョバンニに「来たぞ」と対話しながら、今度はわしが頼みたいことがあると言い出した。何だと言うと、ドン・ジョバンニを見下ろしながら、「今度はお前の番だ、食事に来るか」という。音楽は次第に激しくなり、ドン・ジョバンニが考えていると、「決意せよ」と繰り返し、「決意した、行こう」と答えると、約束の印に握手せよと言う。握手した瞬間にドン・ジョバンニは「何と冷たい手だ」と呆然となるが、石像が「悔い改めよ」と言っても「いやだ」を繰り返していた。石像が時間がないと立ち去ろうとしたときに、ドン・ジョバンニはその場で気が狂ったように暴れ出し、誰かが臓腑を掻きむしると言いながら苦しげに倒れ、大音響と白煙とともに地下に崩れるように大声を上げて引き摺り込まれ、気がつくと石像もドン・ジョバンニも姿を消していた。



  まだ煙が立ち上っているうちに明るく六重唱が始まっていた。大きな石像が来て、ドン・ジョバンニを連れて行ったとレポレロが分けも分からずに大声を上げていた。皆は悪人が天罰を受けてこの世からいなくなったと明るく合唱し、オッターヴィオが「あと1年待って」とドンナ・アンナに言われて引き下がっていた。幕が下りて6人が並んで早いテンポの合唱となり、舞台は大団円となっていたが、ドン・ジョバンニがまた何処からか現れて何かをしそうな余韻を残しながら長い舞台は終結していた。

  ムーテイの颯爽とした指揮振りの堂々とした本格的な「ドン・ジョバンニ」を見た。上品な貴族趣味的なドン・ジョバンニであり、当代一流のインターナショナルな歌手陣がスカラ座の舞台に集結し、歌が非常に充実していたが舞台の動きは少なく、暗闇で静止画像を見ているような雰囲気であった。これが現代と異なる1980年代のオペラの姿なのであろうと思われた。
  スカラ座はムーテイの故郷のような舞台であり、その一人舞台振りは序曲の始めから、或いは舞台の各所で、フィナーレの始まりなどの主要ポイントで彼の若くて生きのいい姿が映し出されていたし、三人のマスクの人のあの美しい三重唱ではムーテイの姿が重ね撮りされていた。音楽はいつも堂々として重々しさがあり、テンポの柔軟な感覚やクレッシェンドの活きの良さなどが耳につき、レチタテイーボのフォルテピアノも良く響いていた。



  演出面では、全体として暗い画面であり、豪華な伝統的舞台であったが、暗さが見えない舞台を作り上げ、画像の悪さ・クローズアップの少なさを救っていたが、30年前であるので当時の限界であろうか。写真の写りが悪いが、これはこの舞台の所為である。衣裳や調度品も貴族的な上品な雰囲気であり、格調の高さを示していたが、この舞台では矢張り重量感のある石像が突出しており、動かない不自然さがあっても観衆を納得させる迫力があった。地獄落ちの場面では、石像と見えない舞台が成功の要素となっていた。

  歌手陣では、歌唱力では定評のある素晴らしい陣容となっていたが、トーマス・アレン始め、グルベローヴァなど紳士・淑女的なエレガンスのある歌手陣が揃い、ツエルリーナに至るまでエロチシズムを感じさせない上品さであった。トーマス・アレンの主題役はこのHP2度目であるが、貴族趣味的なドン・ジョバンニ役はこの人が最高なのであろう。グルベローヴァの声の深さとお上品さが目立ち、アン・マレイが意外に温和しい純情なエルヴィーラを演じていたように思う。メンツアーはツエルリーナもケルビーノもお似合いの歌手であったが、クローズアップが多ければ動きも変わったものと思われた。
  この映像は、フルトヴェングラー、カラヤンなどのオペラ「ドン・ジョバンニ」の映像の歴史の原点をなす貴重なライブと考えられるが、レーザーデイスクのままではいかにも画像や音声の状態が物足りないので、DVDへのデジタル化により他の二作品同様に、甦らせていただきたいと思う。

(以上)(2010/03/12)


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