(懐かしい映像記録;プリッチャード指揮73年グラインドボーンの「フィガロの結婚」)
10-3-2、ジョン・プリッチャード指揮、ロンドンフイルハーモニー管弦楽団、グラインドボーン劇場、ピーター・ホール演出による「フィガロの結婚」K.492、1973年グラインドボーン音楽祭におけるライブ・公演、

−この映像はカラーでは最も古い1973年のグラインドボーン歌劇場のものであるが、この当時として1曲も省略のないフィガロに驚きを覚えた。私は本屋でオペラブックとしてわずか2000円で買ったのであるが、古き良き伝統的な貴族社会の雰囲気が残る演出に感心し、アンサンブルが良い小編成のオーケストラの音楽も楽しめて、安心しながらこの映像を楽しみながら見ていた。−

(懐かしい映像記録;プリッチャード指揮73年グラインドボーンの「フィガロの結婚」)
10-3-2、ジョン・プリッチャード指揮、ロンドンフイルハーモニー管弦楽団、グラインドボーン劇場、ピーター・ホール演出による「フィガロの結婚」K.492、1973年グラインドボーン音楽祭におけるライブ・公演、
(配役)フィガロ;ナット・スクラム、スザンナ;イレアナ・コトルバス、伯爵;ベンジャミン・ラクソン、伯爵夫人;キリ・テ・カナワ、ケルビーノ;フレデリカ・フォン・シュターデ、マルチェリーナ;ヌッチ・コンド、バルトロ;マリウス・リンツア、ほか、
(2000年2月5日、クラシカジャパンCS736CHの放送をS-VHSアナログテープに3倍速で収録していたが、DVDの入手により急遽変更した)

     第二曲目は手持ちの好ましい「フィガロの結婚」の映像としては最後に残されたS-VHSテープからプリッチャード指揮の73年グラインドボーンの映像をお送りしようと考えていた。ところが09年12月に雑誌DeAの「DVDオペラコレクション」の第6巻としてDVD付きの雑誌の形で本屋で2000円で刊行されていた。手に取ってみると、何と加藤浩子先生が執筆しておられたので購入することにしたが、矢張り新しいDVDは自作の放送テープより遙かに優れているので、急遽変更してこのDVDでご報告するものである。



  この「フィガロの結婚」の映像は最も古いものに属するが、コトルバス、キリ・テ・カナワ、フォン・シュターデの三人の女声人気歌手を得た映像でありかねて評価が高かったものである。先生の解説によると、この音楽祭でのフィガロは1955年以来18年間同じ演出が続いていたが、この1973年からピーター・ホールによる新演出とされたようである。従ってこの映像は、指揮者や歌手は変わっても、演出は1973年以降のこの歌劇場の「フィガロの結婚」として続けられたものと考えることが出来よう。因みにこの劇場では、1994年5月28日新グラインドボーン劇場に改築され、そのこけら落としのオペラは、ハイテインク指揮、メドカーフ演出による「フィガロの結婚」であり、既に(9-10-2)として紹介済みであった。従って、新旧二つの劇場での「フィガロ」が楽しめることになる。



  グラインドボーンの田園風景の劇場が写り、このHP初登場のプリッチャード(1921〜1989)の指揮姿が映って序曲が始まった。軽快に進む序曲の間中は各歌手陣の紹介が画面で行われ、再び指揮者が写っていた。威勢の良い序奏が始まって大きな椅子が目立つ舞台が現れ、元気なフィガロが忙しく若作りのスザンナが明るく二人は仲良く二重唱。しかし、ベッドの話からスザンナが嫌だと言いだしデイン・デインの二重唱となったが、途中からスザンナが大声でドン・ドンとやってフィガロも初めて気がついた。心配になったフィガロがスザンナからいろいろ聞き出して、チェロとチェンバロの伴奏で「お殿さま、お見事ですね」と皮肉な独り言。ピッチカートを伴奏に「もし踊りを踊られるなら」と歌い出していたが、殿様への反抗心に満ちたアリアを元気よく歌っていた。



     続いてバルトロとマルチェリーナが登場しバルトロの復讐のアリアに次いで、鉢合わせしたマルチェリーナとスザンナが口喧嘩の二重唱。フィガロを巡って表情豊かに歌われて最後は年増を追い出したスザンナの若さの勝利。そこへケルビーノが飛び込んできてスザンナは大忙し。奥様のリボンをケルビーノに取られて争っていると伯爵の声が聞こえて直ぐに現れたので、さあ大変。伯爵がスザンナ一人とみて口説き出すが、そこへバジリオが入ってきたので、伯爵も慌てて身を隠す。しかし、バジリオがケルビーノが伯爵夫人を見る目つきがおかしいと言い出したので、驚いた伯爵が顔を出し、実に愉快な三重唱が始まった。驚いたスザンナが気絶したり、隠れていたケルビーノが見付かったりして、スザンナは絶対絶命になったが、フィガロが連れてきた村人たちの合唱に救われていた。ケルビーノは伯爵に罰として連隊の士官に任命され、驚く間もなくフィガロに「もう飛ぶまいぞ」とやや厳しい激励と祝福を受けて第一幕を終了した。



  第二幕は豪華な伯爵夫人の部屋。長く美しいオーケストラの前奏の後に正装した夫人が「愛の神よ」と静かにゆっくりと歌い出し、その声と悲しげな姿に沢山の拍手が送られた。スザンナと話をしているところへフィガロが来て、伯爵を懲らしめる作戦会議。ところがケルビーノを女装させることが女二人の気に入って、早速、軍服姿のケルビーノが登場した。ケルビーノはスザンナの伴奏でカンツオネッタを歌い出したがこれが最高の出来映えで、伯爵夫人を喜ばせた。シュターデの声がピッチカートのリズムに乗って明るく響き、さすが当たり役と思わせた。続いてスザンナの「着せ替えのアリア」でケルビーノは可愛い女の子にさせられ、ケルビーノが夫人のリボンを欲しがったことから、夫人とケルビーノがあわやキスをという場面になりかけたが、伯爵の声が聞こえてさあ大変となった。



   夫人が言い訳をして大きな音が衣裳室から聞こえても知らぬ振りをするので、伯爵はカンカンになり、衣裳室に向かって「スザンナ、出て来なさい」と怒りの三重唱が始まった。部屋を開けさせまいとして夫人が体を張って頑張るので、怒った伯爵は自分でやるとドアを開ける工具を取りに外へ出た。その僅かな一瞬に、「早く、早く」の二重唱でケルビーノが二階から飛び降りて逃走し、スザンナが衣裳室にと入れ替わった。戻ってきた夫人は、隠せないと観念してケルビーノを女装させていたことを白状すると、伯爵はまたもケルビーノかと怒りだし、「出てこい、無礼な小僧」とフィナーレの三重唱が始まった。伯爵は怒りの余り剣を抜いてドアを開けようとすると、出て来たのはしたり顔のスザンナ。驚く伯爵と伯爵夫人は動転してスザンナの顔を見つめるばかりであった。



 しかし、事情を知った伯爵夫人は、スザンナを味方にして強くなり平謝りの伯爵に対し、ここぞとばかり仕返しをしていた。そこへフィガロが登場したので形勢が悪くなった伯爵は、しめたとばかり「手紙」の件を持ち出すが、フィガロは知らぬ存ぜぬの一点張り。四重唱になって女二人がばれていると話してもフィガロは頑張るので、伯爵との間が険悪になりかけた。そこへアントニオが現れて誰かが二階から飛び降りたと伯爵に訴えた。アントニオが加わって五重唱になり、フィガロが飛び降りたと自白したり、印鑑のないケルビーノの辞令を女二人の機転で当てたり、フィガロは防戦一方。



  そのうちに最後にマルチェリーナの一行三人が伯爵に契約の履行を訴えてきたので、4対3の七重唱となって舞台は大騒ぎ。場面は伯爵側の方が優勢のうちに、長い長いフィナーレが最高潮を向かえて第二幕が終息していた。



  第三幕に入って場所は伯爵の書斎か。伯爵が一人で第二幕で生じた不思議なことを考え込んでいた。そこへスザンナが夫人の薬を口実にご用聞きに。伯爵が口説いてみると今日は反応がよく、色好い返事の二重唱になって、早速、今宵の逢い引きの約束を取り交わして有頂天。しかし、帰り際にスザンナがフィガロに漏らした片言が伯爵の耳に入ってしまい、「訴訟に勝ったわだと?」と自問自答のレチタテイーボから怒りのアリアを歌い出し、それが本日一番の堂々たるアリアになって伯爵の貫禄を見せていた。リブレットの順序が変わり舞台ではケルビーノとバルバリーナの逢い引きのレチタテイーボが入ってから、伯爵夫人が正装で登場し、自分がスザンナの洋服を着て主人を待たねばならぬ情けなさをレチタテイーボで歌いながら「あの幸せなときは、何処に」とアリアを歌いだした。貴婦人らしいキリテ・カナワのアリアは実に美しく、特に後半のアレグロでは、私の思いであの人を変えてやろうという意気込みを歌って大きな拍手を浴びていた。






  続いて採決はついたと大勢の人々が登場し、結婚するか借金を返すかだと騒いでおり、フィガロ一人が不服そうに反対していた。伯爵が登場しフィガロは由緒ある出だから結婚には親の同意が必要だと伯爵に訴えているうちに、証拠はと求められ最後に腕に痣があると腕まくりしていると、それを見たマルチェリーナが「ラファエロだ」と悲鳴をあげた。フィガロは盗まれたマルチェリーナの息子と皆の前で断定され、大騒ぎ。直ぐにバルトロが父親だと分かって、フィガロとマルチェリーナが抱き合って六重唱が始まった。そこへスザンナがお金を持って登場したが、抱き合った二人を見て勘違いし、フィガロを思わず平手打ち。しかし次第に事情が分かって珍妙なマードレ、パードレの六重唱となり思わぬ結末となった。そして親子四人は二組の結婚式を挙げようと喜び合っていた。
 続いて伯爵夫人はそこに現れたスザンナに伯爵との逢い引きの約束を確かめ、夫人は場所を決めた方がよいと手紙をすることにし、スザンナに自分の言葉を手紙に書き取らせる「手紙の二重唱」が始まった。二人で繰り返しながら「松の木の下で」と美しく歌われた手紙がスザンナの手により書かれ、ピンで封をして、奥方はさらにピンを返すようにと念を押していた。



  そこへ村の娘たちが伯爵夫人にお花を捧げようと集まってきたが、その中に何とケルビーノが紛れ込んでいた。ケルビーノが伯爵夫人に見つけられると同時にアントニオにも見つけられ捕まってしまい、二階から飛び降りたことを全て伯爵に白状して謝ってしまった。伯爵は結婚式だと忙しいフィガロにケルビーノが白状したことを告げると、フィガロは「自分のしたことしか知らない」と開き直ったので、二人はまたも睨み合いの険悪な状態になったが、行進曲に救われていた。



  フィナーレのセレモニーは、行進曲、二人の娘の二重唱、踊りの音楽となり、伯爵の挨拶のあとに踊りの音楽で締め括られていた。始めに行進曲で伯爵夫妻の場所が設営されて二組の夫婦が入場し、二人の少女達による祝福の二重唱が始まった。その間に二人の花嫁がマルチェリーナとスザンナの順に純白の髪飾りを夫妻から頂いていたが、その隙にスザンナは伯爵に手紙を渡していた。伯爵は踊りが始まると手紙を取り出して見てご機嫌になり、「今宵は良い宴にしよう」と中締めの挨拶を行ってフィナーレは終幕となっていた。





  第四幕は噴水の見えるお庭の芝生の上で、バルバリーナが座り込んで「無くしちゃった」とピンを探しながらベソをかいて歌っていた。そこへフィガロとマルチェリーナが現れ、事情を知ったフィガロがマルチェリーナのピンをバルバリーナに手渡して、スザンナと伯爵が逢い引きすることを聞き出して大騒ぎ。マルチェリーナが何か訳がある筈だとフィガロを宥めるがフィガロは聞かない。そこでマルチェリーナは、「牡ヤギと牝ヤギは仲がよい」と短気を諫めるアリアを歌い出した。このアリアは省略されることが多かったが、メヌエット調の親しみやすいアリアであり、後半には高音の技巧を要するなかなかの良いアリアで大きな拍手を浴びていた。また大騒ぎするフィガロを宥めようとバルトロとバジリオが現れ、バジリオが「わしの若いころは」と教訓めいたアリアを歌い出し、中間部では「ロバの皮」の喩えで、権力や危険に逆らうよりも避けて通れと長いアリアを歌っていた。



  続いて学芸会のようにフィガロが登場して、結婚の日にスザンナに裏切られたと信じて「男どもよ、目を大きく開け」と怒りを込めて激しいアリアを歌っていた。最後にはスザンナが登場し、「いよいよ時がきた」と自分を疑うフィガロをからかうためにまずレチタテイーボを歌い、フィガロが見ているのを知りつつ、オーボエとピッチカートの伴奏で「直ぐに来て、素晴らしい喜びよ」と美しいアリアを歌っていた。スザンナに与えられた最高に美しいアリアで、白の髪飾りをつけたコトルバスが良くお似合いで、終わると大変な拍手となり、舞台はいよいよフィナーレへと向かっていた。



   お庭ではケルビーノが恋の歌で登場し、直ぐにスザンナに変奏した伯爵夫人を見つけて、女と見て悪戯しながらフィナーレが始まった。しつこいケルビーノを伯爵が見つけ、ケルビーノを捕まえて殴ると通りかかったフィガロに当たるという暗闇の騒動があって、伯爵はやっとスザンナと二人になった。音楽が変わり、伯爵は「しなやかな指、滑らかな肌」とスザンナを口説きだし、伯爵夫人に恋は盲目ねと言わせてから、ますます上機嫌になって愛の印しにとダイヤの指輪まで与えてしまっていた。そこへフィガロが現れたので、夫人のスザンナは逃げてしまい、暗闇の中でフィガロがスザンナの逢い引きを怒っていると、伯爵夫人に扮したスザンナがフィガロをからかってきた。しかし、フィガロも声でスザンナであることに気付き、騙された振りをして奥様と近寄って見せ、思い切り平手打ちを食っていた。二人はさすが恋人同士、直ぐに分かり合って仲直りした。






   そこへスザンナを探す伯爵が現れたので、これが喜劇の終わりとばかり二人は伯爵夫人と従僕のラブシーンを大袈裟に演じて見せた。驚いた伯爵が大声を上げて皆を集め、謝る二人を絶対に許さないと大声を上げてしまった。そこへ後ろから指輪を持った伯爵夫人が「私がお願いすれば許していただけますか」と言いながら現れたので、伯爵は初めて自分の間違いに気がついた。音楽が変わり伯爵が跪いて「伯爵夫人よ、許してくれ」と丁寧に謝り、夫人が素直に「はい」と返事を与えたので、どうなるかと固唾をのんで見守っていた一同も安心をしてこの許しの音楽を歌っていた。そして、最後に和解を喜び合う全員の合唱が始まって、大満足の中で終幕となっていた。


   ベームの66年の白黒映像に続いてカラーでは最も古いこの1973年の古いグラインドボーンの映像を見て、この当時として1曲も省略のないフィガロが良く残っていたなと感動を覚えながら見ていた。私は本屋でオペラブックとしてわずか2000円で買ったのであるが、私が記録していたS-VHSテープよりも遙かに画質も音声も上質な映像にも恵まれて、古き良き伝統的な貴族社会の雰囲気が残る演出に感心し、アンサンブルが良い小編成のオーケストラの音楽も楽しめて、安心しながらこの映像を楽しみながら見ていた。この本の解説をなさった青島広志先生も加藤浩子先生も、「オペラだけは新しいものが良いとは言えませんよ」と忠告している見本のようなDVDであったような気がした。確かに、このオペラのスザンナのコトルバスの愛嬌のある笑顔、凛とした伯爵夫人のテ・カナワの威厳のある振る舞い、フォン・シュターデのズボン姿がよく似合う生き生きとした愛嬌のあるケルビーノの揃って役柄にあった元気な三人の姿を見ていると、このオペラを通じて18世紀の貴族社会の人間関係が現代でも生きているようにも思えた。フィガロでは登場人物が多いので、この役柄にあった人物像が揃うことは至難のワザであるが、この主役の3人がイメージ通りであれば、それだけで合格と言えるのではなかろうか。

  繰り返すことになるが、このHP初出のプリッチャード(1921〜1989)の演奏は、標準的な地味な演奏であったが、恐らく歌手を伸び伸びと歌わせる指揮者なのであろう。オーケストラと歌声のアンサンブルが良く調和しており、これにはこの劇場と舞台の狭さが幸いしていたと思われる。ピーター・ホールの演出も当時としては標準的なものであったろうが、現代の変な演出を見慣れている目には、このオーソドックスな貴族主義的な古い衣裳や小道具で、リブレットに忠実で辻褄を合わせるのが上手い伝統的な演出であり、とても好感が持てた。アリアの省略がなかったことは特筆に値する。大歌手人が揃いすぎると歌中心で舞台に動きが乏しくなるのが普通であるが、このフィガロでは歌手陣の動きもまずまずで古い舞台にしては動きの良い演出であった。

  このオペラの魅力にはスザンナの表情豊かな活躍が欠かせないが、このブックの写真集を見てイレアーナ・コトルバス(1939〜)の愛嬌ある笑顔が満ちており、若さに溢れ動きも良く改めて素晴らしいスザンナであったと感じざるを得ない。実は、私は3歳年下のコトルバスをカルロス・クライバーの「椿姫」のCD(1976)で聴いて、ドミンゴやミルンズとともに素晴らしいと思い、古くから彼女のファンになっていたのでバイアスがあるかもしれないが、このDVDを改めて見て彼女が最高のスザンナではないかと言う気がしてきた。勿論、彼女の活躍を支えたカナワやシュターデの魅力や、フィガロ役のスクラム、伯爵役のラクソンやマルチェリーナのコンドなどとの歯切れのいいコンビに力を得ているからかも知れないが、このDVDの魅力はスザンナの活躍にありと言えないだろうか。
  終わりに僅か2000円で入手できるこの「フィガロの結婚」は、ブックスも分かり易く写真や絵で解説された手頃な読み物になっているので、手軽なモーツアルト入門書としても、是非、お奨めしたいと思われる。

(以上)(2010/03/18)


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