(最新収録のソフト報告;ハンガリーのケレメンによるヴァイオリン協奏曲全集、第1巻)
10-3-1、バルナバス・ケレメンの弾き振りによるヴァイオリン'協奏曲第3番ト長調K.216、第2番二長調K.211、第1番変ロ長調K.207、およびヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲変ホ長調K.364、フェレンク・エルケル室内楽団、ヴァイオリンとヴィオラ;カタリン・コカス、06年5月、芸術宮殿、ブタベスト、

−ケレメンはヴァイオリンを弾きながら指揮を取り、トウッテイの演奏に参加しながら一転して独奏ヴァイオリンを弾き出すという一人舞台の名人芸には驚かされた。彼がヴァイオリンを弾く姿は絵になっており、ヴィルテイオーゾ的な演奏スタイルが良く似合っていた。また、指揮者としてのリーダシップもしっかりしており、顔の表情で指揮をする名人芸的な側面も持ち合わせ、アンサンブルもしっかり取れていた−

(最新収録のソフト報告;ハンガリーのケレメンによるヴァイオリン協奏曲全集、第1巻)
10-3-1、バルナバス・ケレメンの弾き振りによるヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K.216、第2番二長調K.211、第1番変ロ長調K.207、およびヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲変ホ長調K.364、フェレンク・エルケル室内楽団、ヴァイオリンとヴィオラ;カタリン・コカス、06年5月、芸術宮殿、ブタベスト、
(2009年11月26日、石丸電気で輸入DVOを購入、HUNGAROTON HDVD 32553-54)

  3月号の第一曲としては、最新入手のDVDとしてかねて予告していたハンガリーのヴァイオリンの奇才バルナバス・ケレメン(Barnabas Kelemen)の弾き振りによるヴァイオリン協奏曲全集DVD2枚のうち第一集をお送りする。この映像は2006年5月12日と24日にブタベストの芸術宮殿において収録されたライブ映像であり、恐らく06年のモーツアルトイヤーを記念した演奏会であったろうと推察される。ケレメンはブタベストのフランツ・リスト音楽アカデミーで研鑽し、現在は世界的にソリスト、リサイタリスト、室内楽奏者として活動領域を広げるとともに、2005年の9月からは若くしてブタベストの母校のアカデミーのヴァイオリン科の教授に就任している。
  この演奏では、ケレメンは全て指揮をしながら独奏ヴァイオリンを弾いているが、ピリオド演奏風に合奏にも譜面通りに全て参加しており、文字通り全体のアンサンブルを重視した演奏ばかりでなく、ソリスト・ケレメンがソリストとなった若さ溢れるヴィルテイオーゾ的な活きの良い弾きぶりでコンチェルト演奏をしていた。



  最初のDVDの第一曲はヴァイオリン協奏曲の第三番ト長調K.216であり、トウッテイでいきなり第一主題で開始されるが、ケレメンのヴァイオリンに従って全員で演奏しているように見えた。この主題はオペラ「羊飼いの王様」K.208の第3曲アミンタのアリアの転用でお馴染みである。良く見るとコントラバスが二台の中規模な二管編成のオーケストラで長い第一主題を演奏し、直ぐにオーボエとホルンが導く第二主題をとなってオーケストラによる第一提示部が簡単に終わっていた。そこで独奏ヴァイオリンが改めて登場したように見せかけて勢いよく第一主題を弾き始める。ケレメンは装飾音を加えながら実に明るく弾きだすが、直ぐに第三の新しい美しい主題を俺が主役だとばかりに晴れやかに弾き始め、早い技巧的なパッセージを示してから、オーボエとホルンの重奏で第二主題が提示されて、独奏ヴァイオリンが再び元気よく活躍しながら提示部の後半を盛り上げていた。
  展開部は独奏ヴァイオリンの天下のよう。前2作よりも格段に規模が大きくなり、独奏ヴァイオリンが新しい主題を出して繰り返しトウッテイ、独奏ヴァイオリン、オーボエなどで展開しておりトウッテイや独奏にも顔を出すケレメンの一人舞台のようであった。フェルマータの後一息ついて再現部はトウッテイと続いて独奏ヴァイオリンで第一主題の後に第三の主題が独奏ヴァイオリンで弾かれ、続いて第二主題が型通り出て発展してからカデンツアとなっていた。オリジナルのカデンツアでケレメンは表情豊かに技巧を散りばめながら各主題の一部を回想するように仕上げていた。




 第二楽章ではアダージョでトウッテイで4小節の主題を奏でるが、直ぐに独奏ヴァイオリンがオクターブ高く繰り返し、まるでケレメンが一人で弾いているようであった。ピッチカートの伴奏で独奏ヴァイオリンがこの美しく透明な主題を明るく歌い、変奏を加えながら繰り返す。オーボエに代わってフルートがこの楽章では使われており、フルートとホルンの重奏と独奏ヴァイオリンが交互に第二主題を提示し繰り返されていた。続く第一主題前半による短い展開部は独奏ヴァイオリンの一人舞台であり、続けて始まる再現部は独奏ヴァイオリンが中心で再現されていた。短いカデンツアは第二主題中心のもの。最後はコーダのあと独奏ヴァイオリンが第一主題を弾きだして終わるという主題を噛みしめるような終わり方であった。



  第三楽章はRONDEAUと書かれたアレグロ楽章であったが、まずオーケストラで耳慣れたロンド主題が軽やかに提示され、続いて独奏ヴァイオリンがロンド主題を繰り返していく。ここでもケレメンが一人舞台で軽快に進め、その後は新しい主題を独奏ヴァイオリンが提示する形でA-B-A-C-A-とロンド形式の形で進んでいた。ところがロンド主題を終えてフェルマータの後、曲は一転してアンダンテとなり、独奏ヴァイオリンが弦のピッチカートに乗って軽やかに美しい新しい歌を歌い出し繰り返された。続いて曲調はアレグレットに変わって、再び独奏ヴァイオリンが民謡調の別の歌を歌い出し、更に重音奏法の新しい主題が提示されて繰り返され、この新しい飛び込みに聴くものをビックリさせていた。再び始めのロンド主題に戻ってこの楽章は静かに終わっていたが、モーツアルトの連作時におけるこうした思わぬ変化には何時も驚かされてしまう。
   終わってみればケレメンのヴァイオリンを弾きながら指揮を取り、トウッテイの演奏をしながら一転して独奏ヴァイオリンを弾き出すという一人舞台の名人芸には驚かされた。彼がヴァイオリンを弾く姿は絵になっており、ヴィルテイオーゾ的な演奏スタイルが良く似合っていた。また、指揮者としてのリーダシップもしっかりしており、顔の表情が実に豊かで、顔の表情で指揮をする名人芸的な側面を十分に発揮していた。これからの全ての曲に、この彼の持ち味が発揮されていたので、非常に楽しみであった。



  DVDの第二曲目は通常の曲順と異なって、ヴァイオリン協奏曲第二番ニ長調K.211であった。この曲は1774年の暮れにミュンヘンでオペラ「偽りの女庭師」K.196を完成させてから翌年にザルツブルグに戻ってから自分かブルネッテイのために書かれた4曲のヴァイオリン協奏曲の最初の曲であり、特にこの旅行の成果とも言えるフランス風のギャラントな様式を積極的に取り入れた作品であると見なされている。
  この曲の第一楽章は、前曲同様に協奏的ソナタ形式であり、指揮者ケレメンがヴァイオリンを弾き出すとそれに合わせて全員がトウッテイで軽快に第一主題がアレグロ・モデラートで開始された。直ぐ続いて静かな第二主題もトウッテイで静かに提示され、しばし発展させて短い第一提示部を終えてから、ケレメンの独奏ヴァイオリンが高らかに第一主題を提示していた。そして独奏ヴァイオリンは第三の主題を颯爽と提示し後半では三連音符が繰り返される技巧的な走句を大胆に示しながらオーケストラの伴奏でユニークな第二主題を提示していた。ケレメンの独奏ヴァイオリンはヴィルテイオーゾ的な輝きを随処で示しながら進行し、オーケストラによって主題提示部が力強く終了していた。短い展開部でも独奏ヴァイオリンが支配的に駆けめぐり、後半ではオーケストラが締めくくって、独奏ヴァイオリンにより再現部に突入していた。ここでは独奏ヴァイオリンを中心に第一主題に続いて第三の主題そして第二主題と型通りに進行していた。この楽章のカデンツアでは、各主題の一部を取り上げて技巧的にアレンジしたオリジナルなものを弾いていた。



   アンダンテの第二楽章ではケレメンが先導するようにトウッテイで第一主題を提示してから、独奏ヴァイオリンでこのフランス風の美しい三拍子の主題を繰り返していた。続いて独奏ヴァイオリンがそのまま歌うような愛らしい第二主題を弾きだし、ケレメンはウットリしたような表情で弱音を楽しむように弾き進みこれをオーケストラに引き渡していた。フェルマータがあって展開部的な独奏ヴァイオリンによる第一主題の変奏部分があってから再びフェルマータのあとに再現部となって、再び第一主題から独奏ヴァイオリンに中心が移って型通りに進行していた。最後の短いカデンツアでは、第一主題の断片を材料にして優雅なカデンツアに仕立てて静かに終了していた。
  フィナーレはRONDEAUと書かれたアレグロでいきなり独奏ヴァイオリンが軽快なロンド主題を弾き始め、トウッテイで繰り返されていた。この楽章は概ねA-B-A-C-A-B-Aの形で進行しており、独奏ヴァイオリンで主題が弾かれたり、オーケストラで繰り返されたりしながら進行していたが、ロンド主題が4度登場し明るく締めくくられていた。独奏ヴァイオリンが随処で難しい技巧を発揮しているのが目についた楽章であった。

 

    DVDの第三曲目はヴァイオリン協奏曲第一番変ロ長調K.207である。この曲は、従来5曲のザルツブルグ協奏曲の第一曲と考えられていたが、1977年の最初の4曲の自筆譜再発見に伴って作曲年代が1773年4月の2年前に変更され、モーツアルトが作曲した最初の協奏曲作品と考えられるようになってきた。このオリジナルの初めての協奏曲作品は、次の協奏的作品、ピアノ協奏曲第5番ニ長調 K.175(73年12月)とともに、全楽章ともやや窮屈なスタイルの協奏的ソナタ形式で書かれており、それ以降の協奏曲作品から新しいフランス的なギャラント様式が見られるようになってきたとされる。
      この曲の第一楽章では、ケレメンのヴァイオリンとオーケストラのトウッテイで軽快に第一主題で始まるが、直ぐ続いてオーケストラで短い旋律の第二主題を提示して第一提示部を終えていた。そこからケレメンの独奏ヴァイオリンが高らかに第一主題を提示していくが、直ぐに独奏ヴァイオリンが第三の主題を提示して華やかな走句を見せて軽快に進行し存在感を示していた。続いてオーケストラが第二主題を奏するが、ここでも直ぐに独奏ヴァイオリンの走句となりやがてトウッテイとなって主題提示部を終了していた。
  短い展開部では独奏ヴァイオリンが新しい主題を提示してソロを中心に主題が展開されて行き、オーケストラに渡されてから、再現部に移行していたが第一主題は独奏ヴァイオリンにより提示され、以下型通りに第三の主題、第二主題と再現されていた。カデンツアは各主題を散りばめたオリジナルなものであったが、ケレメンは落ち着いて難しそうな技巧を示しており、この楽章ではまさにヴィルテイオーゾ的な堂々たるスタンスで名人振りを示していた。





  第二楽章はアダージョであるが、ここでもケレメンはオーケストラと共に美しい三拍子の第一主題を提示し、続いて短い第二主題も提示し、オーケストラによる第一提示部を終えた。続いて独奏ヴァイオリンがアインガングとも言うべき新しい導入主題で登場し、オーケストラが第一主題を演奏している間は独奏ヴァイオリンは持続音を続けて直ちに新しい第三の主題を弾き出してトウッテイで主題提示部を終え、独奏ヴァイオリンが活躍する短い展開部に進んでいった。再現部ではほぼ型通りに進行して、カデンツアは各主題を短く回顧する軽やかな技巧的ものであった。
  フィナーレはプレストであり、生き生きとした早い第一主題がオーケストラで登場し、続けて第二・第三主題まで提示してから、ケレメンの独奏ヴァイオリンが華やかに登場した。勢いよく第一・第二主題を駆け抜けるように一気呵成に弾き始め、ソリスト・ケレメンの勢いは止まらない。オーケストラとオーボエが第三の主題で結んでから、長い展開部もソロが主役で再現部へと突き進んでいた。この楽章にもカデンツアがあり、第一主題中心の軽やかな早い技巧的なものが弾かれていた。

 これまでのヴァイオリン協奏曲の映像では、この曲はカヴァスコにしろ古楽器のムローヴァにせよ指揮者なしの演奏が多かったが、彼らは始めから楽譜通りにオーケストラと同じパーツを弾いていた。今回のケレメンも身振りで指揮をしながら同様であったが、彼はムッターと同様に、独奏者としての立場からヴィルテイオーゾ的に弾き下ろす名人芸的なスタイルを取って全体を誘導し、アンサンブル重視型のソリストの演奏とは一線を画していたように思われた。スケールの大きなヴァイオリニストが現れたものと考えている。



 DVDの第四曲目は、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏的交響曲変ホ長調K.364であり、映像ではヴィオラの若いカタリン・コカス女史とケレメンが連れ立って登場し、オーケストラの前に二人が並んで立って拍手を浴びていた。ケレメンのヴァイオリンと同時に全合奏で第一主題が始まったがアレグロ・マエストーソの言葉通りに堂々とした力強い主題であり、続いてホルンとオーボエによる軽快な第二主題が弦楽器のピッチカートに支えられながら伸びやかに提示され、クレッシェンドを重ねて頂点に達するが、このオーケストラの交響曲的な響きは実に雄大に聞こえていた。続いて独奏ヴァイオリンとヴィオラがオクターブで見事なアインガングを奏して第二提示部が開始されるとオーケストラが第一主題の冒頭部を提示し、独奏ヴァイオリンが第三の主題を提示すると独奏ヴィオラがこれを引き継ぐように進行し、経過部を経て新しい第四の主題を歌い出していた。そしてケレメンとコカスによる二つの楽器はそれぞれ対等であったり、オクターブ離れたり、重奏したり、模倣しあったりして進行し展開部へと突入していた。
  展開部では独奏ヴァイオリンが新しい主題を提示しヴィオラが繰り返した後、両楽器が速いパッセージで活発に応酬し合って技巧的な展開を行っていた。再現部では冒頭の第一主題で始まり、第三の主題がヴィオラからヴァイオリンに受けつがれ、第四の主題に次いで第二の主題の順に再現され、この曲独自の構成になっていた。最後のカデンツアはスコアに示された自作のものであったが、ヴァイオリンとヴィオラが互いに競い合ったり合奏したりする美しいもので、二人の呼吸がピッタリ合った見事な演奏であった。










  この曲の第二楽章の憂いに溢れる表情豊かな美しさには格別のものがあり、二つの楽器が溜息をつくような音形で綿々と進行する姿には、聴くたびに感動させられることが多い。オーケストラのもの憂げな静かな第一主題のあとに、独奏ヴァイオリンが溜息をつくように変奏しながら主題を提示し、やがて独奏ヴィオラもすすり泣くように変奏を始め、互いに交替して進んだ。ケレメンもコカスも交互に弾いていたが、間にトウッテイも入って進行するうちに、やがて短い第二主題になると独奏ヴァイオリンと独奏ヴィオラの両楽器が追い掛け合いとなり、二人は顔を見合わせながら競い合っているように見えた。やがて両楽器の合奏となり対話のような追い掛け合いに続いてから、トウッテイとなって提示部が終わり一休みとなった。展開部はなく再び冒頭の第一主題が今度は独奏ヴァイオリンで再現され、独奏ヴィオラが変奏して続き、交替から合奏になり、第二主題に入ってからは追い掛け合って対話しながら進んで、提示部の単なる繰り返しではないいろいろな変化があった。終わりのカデンツアでは、スコア通りに弾いていたが、両楽器が重音で重なるように進んでから美しく応答し合うこの曲ならではのものであった。ヴィオラはヴァイオリンに負けないようにいつも懸命な様子が窺われ、ヴァイオリンがヴィオラを庇うように弾いていたのが印象的であった。



  終楽章は一変して明るく快活なフィナーレであり、オーケストラで始めにロンド主題が飛び出して繰り返され、オーボエとホルンが引き継いでからホルンが鳴らしオーボエが繰り返すファンファーレが印象的でオーケストラで終結していた。続いて独奏ヴァイオリンが第二の主題を提示して独奏ヴィオラに引き継ぎ、それからはヴァイオリンとヴィオラが新しい第三の主題を追いかけるように交互に目まぐるしく進行し素晴らしい効果をあげていた。再びロンド主題が両楽器で登場してから直ぐに第二主題が独奏ヴィオラで提示され、独奏ヴァイオリンが引き継いでから、ヴィオラが第一の主題に次いで第三の主題を提示し、独奏ヴァイオリンと交互に追い掛け合いながら素晴らしい展開を見せていた。再びロンド主題が両楽器で登場してから新たな展開を見せているうちにあのホルンのファンファーレが聞こえてきて独奏ヴィオラが、続いて独奏ヴァイオリンがそれぞれクレッシエンドしてそれぞれの頂点に達してからコーダで結ばれ終結していた。素晴らしく軽快なプレストであり、一気呵成に頂点にまで登りつめた厚みのある終楽章であった。



  この曲は三つの楽章を通じて、モーツアルトの独りでに湧き出るような楽想の連続という感じであり、豊富な美しいメロデイがあふれ出し、ヴァイオリンとヴィオラが独奏したり重奏したり、追い掛け合ったり対話を楽しんだりして変化に富んでおり、このようにヴァイオリンとヴィオラの息のあった演奏に出遭うと最高の気分になる。この演奏もそうであり、円熟しつつあるケレメンが若いコカスを支えながら導いており、素晴らしい熱演となっていた。終わっても拍手が鳴りやまず、二人は何回もステージに呼ばれ、最後には揃った手拍子と掛け声で歓迎されて、人気の高さを示していた。次回の続く第4番と第5番、その他の演奏が非常に楽しみとなった。

(以上)(2010/03/24)


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