(最新収録のソフト報告;N響による二つのピアノ協奏曲K.488&K.467)
10-2-1、アンドレ・プレヴィン指揮・N響・池場文美によるピアノ協奏曲第23番イ長調、N響定期第1656回、09年10月23日、およびジェームス・ジャッド指揮・N響・ジョナサン・ビスによるピアノ協奏曲第21番ハ長調、NHKホール、09年7月17日、

−同じN響との協演であっても全く対照的な二つの協奏曲を聴いた。プレヴィン・池場文美の23番イ長調は穏やかで調和の取れたアンサンブルの良さを重視した演奏であり、ジャッド・ビスの21番ハ長調はスケールの大きなダイナミックで若さに溢れた闊達な演奏が楽しめた−

(最新収録のソフト報告;N響による二つのピアノ協奏曲K.488&K.467)
10-2-1、アンドレ・プレヴィン指揮・N響・池場文美によるピアノ協奏曲第23番イ長調、N響定期第1656回、09年10月23日、およびジェームス・ジャッド指揮・N響・ジョナサン・ビスによるピアノ協奏曲第21番ハ長調、NHKホール、09年7月17日、
(09年11月15日および8月7日、BS103の5.1chHV放送をブルーレイBD-19にHEモードで録画)

   アンドレ・プレヴィン指揮によるN響定期第1656回(09年10月23日)において、2曲目に池場文美によるピアノ協奏曲第23番イ長調が演奏されていた。この日はプレヴィン作曲の「オウルズ」とショスタコーヴィッチの交響曲第5番を取り上げた異色のコンサートであった。池場文美はこのHPでは初めてであるが、1958年神奈川県生まれで、1977年のブゾーニ国際コンクールで最高位を得て、現在オーストリアのグラーツ国立音大のピアノ科の教授を務める傍らピアニストとして活躍しており、ムッターと協演するなどヨーロッパ中心で活躍しているという紹介があった。プレヴィンの穏やかで豊かなオーケストレーションに合わせた彼女のキメの細かな丁寧な音作りのイ長調協奏曲が楽しめた。
もう一曲のピアノ協奏曲第21番ハ長調は、ジェームス・ジャッド指揮のN響定期(09年7月17日)でNHKホールで収録された演奏であり、ピアニストはアメリカ人のジョナサン・ビスであった。彼は現在29歳であり、最も活躍している若手ピアニストの一人であり、カーテイス音楽院でレオン・フライシャーに師事したという。この演奏は後日NHKの「N響アワー」でも取り上げられており、モーツアルトが29歳で作曲したこの曲を、同年のピアニストが弾いたと言うことで「29歳の輝き」というテーマで話題になっていた。やや自由奔放な感じのするピアニストであり、上半身をよく使って歌うように弾かれていて、活気に満ちたエネルギッシュで自在な演奏が楽しめ、カデンツアが彼らしくて面白かった。



   第一曲目のピアノ協奏曲イ長調K.488では、ピアニストの池場文美が足早に舞台に現れ拍手に応えている間に、追いかけるようにプレヴィンが登場し、指揮席に着席してメガネをかけ直していた。ゆっくりと両手を挙げて指揮を開始し、オーケストラが弦で美しい第一主題を開始した。クラリネットやフルートやファゴットが美しい響きを確かめるように主題を繰り返してから、特徴のあるリズミックな経過部に移行した。第二主題も弦楽器で静かに始まり、管楽器も加わりながらひとしきり歌って第一提示部を終えていたが、ここまでは全くプレヴィンの穏やかなペースで進んでいた。オーケストラは2本のコントラバスをベースにした中規模な二管編成の構成であった。
    池場文美の独奏ピアノの第一主題が始まり変奏するように繰り返されて、オーケストラに一旦渡してから、ピアノがオーケストラを従えて転がるように進んで、静かに独奏ピアノが第二主題を提示した。良く響くピアノが美しく、これにオーケストラが加わりピアノの心地よいパッセージを中心にしてフルートやクラリネットが響いたり、弦楽器がしっかりピアノをサポートしたりして、素晴らしいアンサンブルで軽快に進行した。彼女はさすがプレヴィンが連れてきたとおり、オーケストラとの合わせを心得たアンサンブルを得意とするソリストに見えた。
   展開部は新しい気持ちの良い主題で弦で始まるが、直ぐにピアノと木管が交互に登場して競り合いが続いた後に、目まぐるしい早いピアノのパッセージが現れてピアノが目覚ましく活躍していた。彼女の赤いチョッキは一見派手に映るが、彼女のピアノはじっくりと温和しく弾きこなしていくタイプであり、早くて良く揃ったパッセージが持ち味のような気がした。再現部もピアノを中心に良いテンポで心地よく演奏されており、後半に展開部での新しい主題も上手く組み合わされていた。カデンツアは譜面にある備え付けのものが弾かれていた。




第二楽章のアダージョは、シチリアーノのリズムに乗って、独奏ピアノがモノローグでゆっくりと美しい主題をメランコリックに開始した。そして、この主題に応えるかのように第二ヴァイオリンの分散和音をベースに、第一ヴァイオリンとクラリネットがそしてフルートが新しい旋律を歌い出していた。再び独奏ピアノが始めの主題を丁寧に変奏しながら酔ったように進み、メランコリックなシチリアーノを歌っていた。
   中間部ではファゴットの分散和音に乗ってフルートとクラリネットがテンポを変えて合奏しながら新しい主題提示をするが、ピアノと木管との掛け合いが美しく続き、プレヴィンも池場もゆったりと酔ったように進めて、聴くものを楽しませていた。再びピアノが冒頭の主題を再現し変奏しながら進行するうちに、もう一度、ピアノと弦と木管の見事なアンサンブルが登場し、最終部でのピッチカートの伴奏でピアノがゆっくりと歌い上げる場面は実に美しく、ピアノとオーケストラとの一体感をまざまざと示していた。


         フィナーレは、明るく輝くようなアレグロでお馴染みのロンド主題が独奏ピアノで軽快に飛び出し、オーケストラに引き継がれていくので、この楽章は一見すると単純なロンド形式のように感ずるが、進むに連れて新しい楽想が独奏ピアノとともに次から次へと飛び出してきて、思い出したようにこのロンド主題が何回か現れる華やかで長大な楽章であった。最初に現れる第一の副主題は独奏ピアノで全体を引っ張るように華やかに登場し、見事なパッセージで軽快に進み、続いて第二の副主題がフルートで現れ直ぐに独奏ピアノに引き継がれさらに変奏されて疾走していた。最後にコーダ風の第三の副主題が現れて木管で反復されていくうちに、ロンド主題が独奏ピアノで現れてオーケストラで再現された。しかし独奏ピアノの一撃とともに直ちに第四の副主題がピアノで現れて木管と相づちを打ちながらピアノが転げ回り、続いてクラリネットが新しい第五の副主題を提示して独奏ピアノが引き継いでいた。ここでロンド主題が現れても良さそうなのであるが、独奏ピアノがそれらしきフレーズを匂わせてから、第一の副主題がピアノで現れ木管と応答して直ぐに木管の第二の副主題に入り、これが独奏ピアノに引き継がれフルオーケストラに発展して盛り上がってから最後のロンド主題が登場した。最初と同じように独奏ピアノで始まりオーケストラで繰り返されていたが、最後にコーダ風の第三の副主題が現れて長大なフィナーレが終結していた。




   このフィナーレは、最初からピアニストの池場文美のペースで進み、難しそうなことを書いてしまったが、ピアノとオーケストラの耳当たりは非常に快調そのもので演奏に淀みがなく、実に豊かな楽想が次から次へと涌き出でるような素晴らしいフィナーレであった。いつもこの楽章の構造形式には戸惑うので、今回は譜面を見て沢山の主題を確認しながら聴いてみたが、モーツアルトの止めどなく溢れる楽想の豊かさと形式を超えた発想の広がりに感じ入るばかりであった。
   このプレヴィンと池場文美の協奏曲を聴いて、実に穏やかで調和の取れたイ長調協奏曲であると感じた。もっとテンポが速くて元気の良い生き生きとした演奏を望む方も多いと思われるが、このアンサンブルを重視した落ち着いた演奏は一つの道であると思われた。プレヴィンと池場の肩を抱き合いお互いを讃えながらステージを去る姿が印象的だった。





    第二曲目はピアノ協奏曲第21番ハ長調であり、ジェームス・ジャッド指揮のN響定期(09年7月17日)でNHKホールで収録された演奏であり、ピアニストはアメリカ人のジョナサン・ビスであった。見るからに若々しい29歳の青年であり、最も活躍している若手ピアニストの一人であるという。ジャッドの率いるN響は四本のコントラバスをベースにした大規模と言って良いオーケストラ編成で、行進曲風の第一主題が明るくリズミックに始まっていた。2台のトランペットとテインパニーが明確にリズムを刻み、オーボエやフルートが明るい響きを見せながらトウッテイで堂々と進行し、第一主題のみで提示部を短く終了していた。そしてオーボエとファゴットとフルートに載せられて、独奏ピアノがアインガングとともに明るく登場し、素晴らしい勢いで第一主題を繰り返していくが、ビスのピアノは力強く堂々として威勢がよい。続いて独奏ピアノがト短調交響曲の冒頭を思わせる副主題を繰りかえし、これが極めて明るく印象的。やがて軽快な第二主題が独奏ピアノで歌うように現れて、ピアノがオーケストラと競い合うように素晴らしいパッセージを見せながら進行し、次第に高揚しながらオーケストラとともに盛り上がりを見せながら展開部へと突入して行った。
    展開部ではピアノが独壇場で絢爛たるピアノの技巧が示されていたが、ビスは大胆に力強くピアノを弾きこなしオーケストラとも対等に闘っていた。再現部ではオーケストラで第一主題が呈示された後、独奏ピアノがこれを引き継いでから、第二主題がピアノで再現されており、後半には第一主題のトッテイによるオーケストラの高まりを見せていた。最後のカデンツアでは、行進曲の冒頭主題と第二主題とを巧みに取り入れたオリジナルなものを流暢に弾き流していたが、この人はヴィルトウオーソ的なダイナミックな弾き方をしており、見かけは若いがこの人はモーツアルト弾きには止まらないセンスを持っているように思った。




   第二楽章は弦楽合奏が奏でる静かなアンダンテ。この楽章の美しい歌うような調べには、つい引き込まれてしまう独自の美しさがある。コントラバスの三連符のピッチカートによる豊かな伴奏に乗って、弦楽合奏がゆっくりと歌い出し静かな美しい世界を築き上げていた。やがてオーボエやフルートにより装飾されて主題が提示されてから、独奏ピアノが登場して、一音一音克明になぞるように打鍵されていく。それから三連符の伴奏に乗って中間部の新しい旋律がピアノによって示されるが、この中間部のピアノがなんと美しいことか。ビスはここでも一音一音ゆっくりと確かめるように丁寧に弾いており、何とも美しい夢見るような独奏ピアノが続けられていた。やがて三連符が中断し独奏ピアノが短い経過的なパッセージを弾いてから、冒頭の静かな主題に戻るが、ここでは独奏ピアノにより幾分変奏されていた。ビスは余分な装飾音を余り付けずに譜面通り丁寧に弾き込んで、ごく短いコーダの後にひっそりと静かに終息させていた。単純ではあるが落ち着いた爽やかな感じの美しい楽章であった。



     第三楽章は、ロンド主題ともとれそうな明るく軽やかな第一主題がトウッテイで始まり繰り返されてから、フェルマータを置いて短いアインガングで始まる独奏ピアノが、改めてこのロンド風な主題を軽快に弾きだした。そして再びオーケストラに主題を渡してから、独奏ピアノによる流れるような16分音符の副主題が走り出し、ビスは満を持したように鉄砲玉のように勢いよく弾き進めていた。オーボエに続いてフルートも加わった木管合奏で示された第二主題が提示されると直ぐにピアノに引き継がれ、再び16分音符のピアノの走句が続いて、快調なピアノのペースとなり、オーケストラと対話したり従えながら進行していた。この楽章は、展開部を欠いたソナタ形式のようであり、再びフェルマータを置いて独奏ピアノがロンド風な冒頭主題を弾き出すが、これは再現部への突入であった。独奏ピアノが走り出し、第一主題・第二主題と独奏ピアノが鍵盤上を走り回るように駆けめぐって頂点に達し一気にカデンツアとなっていた。ビスのカデンツアは、短いがしかし力強い多彩なカデンツアであり、最後は輝くようなピアノの音階の上昇で華やかに終結していた。



   「29歳の輝き」というN響アワーのテーマであったが、モーツアルトが29歳の円熟期で作曲をし、ピアニストとして演奏もしたであろうこの曲を、29歳の若きエネルギッシュなピアニストが活気に満ちた演奏をすると言うことで話題になったようである。彼は上半身をよく使って歌うように弾き、パッセージも粒だち良く、ダイナミックな弾き方でヴィルトウオーソ的な演奏家であり、第一曲目のプレヴィン・池場文美のコンビとは同じN響であっても実に対照的に異なる演奏風景であった。この二つの曲は、ほぼ近い作曲年代であっても、オーケストレーションも異なり、曲想も大きく異なるので、演奏方法も異なるアプローチが必要なことを、2曲同時に聴いて非常に強く印象づけられた。

(以上)(10/02/17)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定