(最新収録のソフト報告;アルゲリッチの4手および2台のピアノ作品を2曲)
10-12-1、アルゲリッチとコヴァセヴィッチの1台4手のためのアンダンテと変奏曲K.501ト長調、ヴェルビエ音楽祭2008、および二台のピアノのためのソナタK.448(375a)ニ長調、海老彰子との「デユオDuo!」より、08/10/23、リヨン、

−アルゲリッチが伸び伸びと自在に弾いている仲の良い二人の連弾の姿と音色が味わえる地味な4手の作品も楽しかったし、これと対象的に、海老彰子とアルゲリッチの二台のピアノが全く対等に声部を分け合い、互いに競い合い、助け合って進行して、華麗なパッセージ、美しい分散和音や華やかな装飾音などをふんだんに聴かせる派手な二台4手のピアノソナタも素晴らしく、モーツアルトの世界の一端を味わうことが出来た−

(最新収録のソフト報告;アルゲリッチの4手および2台のピアノ作品を2曲)
10-12-1、アルゲリッチとコヴァセヴィッチの1台4手のためのアンダンテと変奏曲K.501ト長調、ヴェルビエ音楽祭2008、および二台のピアノのためのソナタK.448(375a)ニ長調、海老彰子との「デユオDuo!」より、08/10/23、リヨン、
(2010年5月24日、クラシカジャパンの二つの放送よりBD-HDD録画)

    12月号では始めに新しい入手ソフトとしてアルゲリッチの一台4手や二台のピアノのための珍しい作品が2種類、別々のコンサートで収録されたものを一緒にアップする。曲目は1台4手のためのアンダンテと変奏曲K.501ト長調、および二台のピアノのためのソナタK.448(375a)ニ長調 であり、いずれもこのHPでは初めての作品である。前者はヴェルビエ音楽祭2008の彼女のコンサートの中の一曲であり、ステファン・コヴァセヴィッチとの協演となっている。 一方、後者は海老彰子との協演でリヨンで行われた「デユオ、Duo!」と名付けられた二人のコンサート(10810)の第一曲として弾かれていた。いずれもクラシカジャパンの放送による最新の音楽祭コンサ−トの映像の中からピックアップしている。



    1台4手のためのアンダンテと変奏曲K.501ト長調は、 マルタ・アルゲリッチが08年7月22日のヴェルヴィエ音楽祭2008のコンサートの中の第2曲であり、この日は冒頭に、バッハのパルテータ第2番ハ短調BWV826を弾いていた。そして、第3曲にグリーグのチェロソナタイ短調をマイスキーのチェロとの協演で彼女はピアノを弾くという彼女らしい異色のプログラムであった。このクラシカジャパンのヴェルビエ音楽祭報告は07年、08年と続いており、興味あるソリストたちが、毎年、この高原の鄙びた地に集まってコンサートを開いているようであり、07年にはヴァイオリニストのジョシュア・ベル、ピアノのネルソン・フレイエやラルス・フォークトなどの演奏家が集まり、曲目も多彩な音楽祭のようであった。

   また、第2曲目の二台のピアノのためのソナタK.448(375a)ニ長調 は、08年10月23日のリヨンのサル・モリエールで開かれた海老彰子との「デユオ、Duo!」と名付けられた二人のコンサートであり、第1曲がモーツアルト、第2曲がラフマニノフの2台のピアノのための組曲第2番、ラヴェルの「マ・メール・ロワ」などで構成されていた。今回のクラシカジャパンの放送は、2010年5月号で「マルタ・アルゲリッチの今」と言う特集で組まれており、ソロ、連弾、室内楽と縦横無尽の活躍をする彼女の豊かな最近の近況を報告するというものであった。



    始めの1台4手のためのアンダンテと変奏曲ト長調K.501については、 1786年11月4日の日付を持っているが、1787年にホフマイスター社から「フォルテピアノまたはクラヴサンのための四手変奏曲」として出版されたものである。作曲の動機についてははっきりしていないが、出版社の註文か借金返済のためかと考えられている。

  かなり白髪が進んだアルゲリッチともう少し年上風のコヴァセヴィッチが仲良く登場し、ピアノの前で仲良く並んで腰をかけ、いきなり演奏が始まった。この曲は可愛らしい主題を持ち、8小節の前半と10小節の後半に反復記号がつく形で主題が作られており、それに同じ形の4つの変奏曲と終曲の変奏曲から構成されていた。プリモをアルゲリッチが、コヴァセヴィッチがセコンドを担当していた。 ゆっくりしたテンポで二人の主題提示がしっかりと行われてから、第1変奏はプリモの右手の16分音符が、セコンドの軽い伴奏の上に、小走りするように軽く小刻みに主題を変奏しており、完全にアルゲリッチのペースであった。第二変奏では少しテンポが早くなり、コヴァセヴィッチの右手の三連符の音階が絶えず走り回り、その上をプリモの右手が主題と同じ和声の上に別のリズムの旋律を奏で、賑やかな変奏となっていた。



   第3変奏ではプリモが力強く右手で旋律を、左手で早い32分音符の伴奏音形を弾き、この旋律をセコンドが右手左手と音域を変えながら模倣するように弾いていた。いかにも4手らしい複雑な変奏であった。第4変奏はがらりとテンポが変わり短調で一息入れるようにゆっくりと変奏されていた。第5変奏はセコンド左手の三連符の音階に乗って、他の3手が和音で旋律を鳴らし、続いてプリモの右手が32分音符の音階が走り回る変奏であった。この和音と32分音符の音形が繰り返された後に、冒頭の変奏主題が装飾的に再現されて静かに結ばれていた。

   主題は恐らく自作であろうが、何と愛らしい主題に、華やかで軽妙な変奏が行われることか。しかも円熟期の曲だけにピアノが奔放に動き回り、アルゲリッチは確実に客が喜んでくれることを意識しながら、まさに伸び伸びと自在に弾きまくっていた。8分足らずの短い曲であるが、仲の良い二人の連弾の音色を映像で楽しむことが出来るのは何とも嬉しい限りであった。CDでこの種の連弾曲を聴いてもどれだけ印象に残るであろうかと思うと、映像の有り難さをしみじみと感じた次第である。
   映像のコヴァセヴィッチは初めてであるが、音楽之友社のピアニスト2008の厳選25人にも入っているアメリカ出身のイギリスのピアニストであった。コンサート歴がなくマイラ・ヘスに師事したピアニストで、アルゲリッチと結婚して写真家のお嬢さんは彼の娘であるという。道理で意気のあった仲の良いツーカーの演奏が出来たものと思われる。



   二台四手のためのピアノソナタニ長調K.448(375a)については、 1781年11月24日の父親宛の手紙で、アウエルハンマー嬢とこの曲を上演したことが述べられている。K.448とされたのは、草稿の欄外に赤インキで「1784年」と書かれていたためのようであるが、モーツアルトにとっては、この作品が唯一無二の完成された2台4手のソナタである。この演奏会ではモーツアルトがセコンド、アウエルハンマー嬢がプリモを務めていた。この曲は二台のピアノが全く対等な立場で声部を分け合い、互いに競い合い助け合って進行するほか、16分音符の華麗なパッセージや美しい分散和音、長いトリルなどの華やかな装飾音がふんだんに使われており、コンチェルタントな効果をあげる魅力ある優れた作品となっている。

    映像では二台のピアノの「デユオ」コンサートであり、この曲では海老彰子がプリモ、アルゲリッチがセコンドを務めていた。海老彰子はパリ音楽院でフランス・ピアノ様式を身につけたフランス在住のピアニストであり、アルゲリッチからは厚い信頼を寄せられているという。ピアノは向かい合わせに並んでおり、二人は一緒に並んでにこやかに入場してきたが、直ぐに左右に分かれて挨拶をして着席した。譜めくりの二人の男性がスコアを持って登場し準備が整った。





    曲は海老が大きく頭を振ってフォルテのユニゾンで力強く始まり、モーツアルトらしい軽快な旋律で第一と第二ピアノが順番に交替しながら追い掛け合うように華々しいパッセージで第一主題が進行していた。賑やかな経過部が続いた後にドルチェでアルゲリッチの第二ピアノが優しく第二主題を弾き始めると、海老の第一ピアノがこの主題を美しく受け止めて弾きだし、二つのピアノはお互いに模倣しながら華々しくこの主題を歌ってから経過部の新しい主題へと移行していた。提示部の終わりで二人はごく自然体で再び冒頭に戻って、元気よく軽快な第一主題を弾き出していた。展開部では第二ピアノがソロで新しい主題を提示してから第一ピアノに移されて、二つの楽器による激しいユニゾンの部分に続いて互いに答え合うような部分が続き、やがて強奏になって再現部へと突入していた。再現部では第一主題、第二主題、結尾主題とほぼ同じように再現されていたが最後に展開部の主題も珍しく再現されており、それが素晴らしい効果をあげていたように思った。二人のピアノは調子に乗ってややテンポが速くなりすぎるようで、プリモの海老がもう少し押さえて欲しいと思う部分があった。



    第二楽章は、海老のピアノが美しいメロデイラインを受け持って始まり、途中からオクターブで輝くようなメロデイを聴かせてから第二主題に移行するが、ここでは海老のピアノにアルゲリッチが追従するようにゆったりと主題が流れていた。結尾主題の後に繰り返しを省略して直ちに展開部に入り、ここでは第二ピアノが単独で新しい主題を提示する変化を見せながら第一ピアノに主題が渡されていた。再現部でもキラキラと輝くような旋律が綿々と続いていたが、第一と第二のピアノの役割が変わったり、右手と左手の動きが逆になったり変化を見せながら美しいコーダで結ばれていた。



    第三楽章は、海老の第一ピアノによっていきなり輝かしいロンド主題が飛び出す華やかな曲。あのトルコ行進曲に似た感じで繰り返しの後、華やかなパッセージが続いて二台のピアノが明るく駆け巡る。やがて第一のエピソードが第一ピアノで弾かれて賑やかに発展していくが、突然、フェルマータで止まり冒頭の明るいロンド主題が復活していた。続いて第二のエピソードが始まり二つのピアノが掛け合いながら進んでいたが、途中から第一のエピソードも姿を表して軽快に進んでいた。そして最後にロンド主題が静かに復活し、次第に勢いを増しながら長いコーダに入り元気よくフィナーレが結ばれていた。



    このトルコ行進曲に似た元気の良いフィナーレが大方のフアンを惹き付けているのであろうが、聴くと次第に元気になってくる癒しの効果を多分に持っている曲なのであろうか。海老彰子とアルゲリッチも弾き終えてニッコリしながらご挨拶していたが、この曲で元気をつけて、お二人はこの後ラフマニノフとかラヴェルの難しい曲を弾いていた。このコンサートは、恐らく、これらの2曲も連弾では、普段、聴くことが出来ない曲であるので、数少ない貴重なデユオコンサートとして喜ばれたに違いないと思われる。

    私のデータベースでは、アルゲリッチはK.501もK.448もCDで既に録音がなされていたので、彼女のお得意の曲として演奏されたに違いない。アルゲリッチは80年代前半からリサイタルなどの純粋なソロの演奏から離れているようであり、大分の彼女が主催する音楽祭もアンサンブルを通じて多くの演奏家との出会いを重視するものであった。彼女のこれからの新しい活躍を期待したいものである。

(以上)(2010/12/07)


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