(懐かしい映像記録;カール・ベーム指揮1969年の「コシ・ファン・トッテ」K.588)
9-9-3、カール・ベーム指揮ウイーンフイル、カスリク演出の「コシ・ファン・トッテ」K.588、1969年、映画方式、スタジオ収録、

−この「コシ」を3度も録音をしたベームの映像記録が、映画版で残されていたことは、ベームファンだけでなく、このオペラ史上でも極めて重要であろう。この映像のヤノヴィッツとルードヴィッヒの姉妹コンビは、衣裳も良く若さに溢れお二人の最盛期であろうと思われるし、プライとアルヴァの男声コンビも同様であろう。ベームも75歳でまだまだ元気であり、この映像が4つの「コシ」では、時期的にも配役の面でも最も恵まれた作品と言えそうである−

(懐かしい映像記録;カール・ベーム指揮1969年の「コシ・ファン・トッテ」K.588)
9-9-3、カール・ベーム指揮ウイーンフイル、カスリク演出の「コシ・ファン・トッテ」K.588、1969年、映画方式、スタジオ収録、
(配役)フィオルデリージ;グンドラ・ヤノヴィッツ、ドラベラ;クリスタ・ルードヴィヒ、デスピーナ;オリヴェラ・ミリヤコヴィチ、アルフォンゾ;ワルター・ベリー、グリエルモ:ヘルマン・プライ、フェランド;ルイジ・アルヴァ、
(2000年1月2日クラシカジャパンの放送をS-VHSテープにアナログ録画)

  8月号のベームの「フィガロ」のライブ映像(1966)の影響を受けて、未だアップしていなかった隠れた珠玉の作品と言われるカール・ベーム(1894〜1981)の「コシ・ファン・トッテ」(1969年、映画版)をお届けすることにした。この映像は10年前の2000年1月2日にクラシカジャパンで放送されたもので、S-VHSアナログテープで収録しているが、音声もカラーの色彩の状態も写真で見るとおり、ショルテイの「フィガロ」よりもしっかりしていた。この映像は、全体が約2時間35分で収められたスタジオ収録のライブではない映画方式であり、要所要所でドイツ語の字幕による説明があり、レチタテイーボをカットするとともに、アリアの繰り返しを省くなどの工夫がなされており、序曲は別のスタジオ映像が付加されたものとなっていた。配役は当時の最高のメンバーであるが、いずれも派手な凝った衣裳で若々しく写されているのが特徴であり、これだけ凝った衣裳の取り替え物語なら恋人同志でも気がつかないであろうという、ライブでは得られない映画の特長を生かしたものになっていた。



  序曲が短い和音で始まりオーボエがソロで主題を提示すると、コシ・ファン・トッテの字幕が出て、ベームが一段高いところで立って指揮している姿が見えた。ウイーンフイルが明るいスタジオで演奏している姿が映り、序曲は軽快に進行し高らかにオーケストラで「コ・シ・ファン・トウッテ」と歌われて威勢の良さを見せていた。序曲が終わると、早速、ドイツ語の字幕が出て簡潔に第一幕の説明がなされ、その分レチタテイーボが簡略化される。場面は明るいカフェーのような場所で、他の客に混じって軍服姿の男二人と中老のアルフォンゾが、いきなり三重唱で口論をしていた。やがて男二人は剣を抜いてアルフォンゾを脅していたが、彼も二人を馬鹿にして、「女の貞節なんて」と歌い出し、互いに口論は尽きない。やがて賭けようかと言うことになり、若い二人はもう勝ったつもりになって愛の神様よと乾杯していた。恋人達の貞節を誓って、老人にそそのかされ、若い二人は危険な賭に手を出してしまったようだ。



 そうとは知らず、二人の恋人達は、海の見える素敵な部屋のベッドの上で、互いの恋人達の絵姿を見せ合って、二重唱で甘い夢を語り合っていた。恋人達が遅いと言い出した所へアルフォンゾが登場し、彼女らの恋人達が外国の戦地に出征だという。さあ大変。すると軍服姿の二人が別れに来ており、グリエルモとフィオルデリージおよびフェランドとドラベラの二組の恋人達が涙ながらの別れとなり、女二人が別れるなら殺してとまで嘆く五重唱に発展し、男二人は大満足。いかにもわざとらしい別れの場となっていた。そこへ出発の太鼓の音が聞こえて(合唱は省略)、「毎日手紙を書いて」の別れの五重唱となり、ピッチカートの伴奏で美しいアデユーの歌声が互いに繰り返されていた。突然、「軍隊万歳!」の太鼓と合唱が始まって、男二人は大勢の仲間と一緒に威勢よく船に乗り、あっと言う間に出発してしまった。



 突然に残された女二人の嘆き様、それを慰めるアルフォンゾ。場面は「風よ、穏やかに」の美しい小三重唱となるが、この曲は何と美しいことか。女二人は手を合わせるように恋人達の無事を祈っていたが、アルフォンゾは計画が上手くいってニンマリしながら、次の作戦の準備に取りかかっていた。
 「女中なんて最低!」とデスピーナが朝食のチョコレートをこっそり味見しながらぼやいて、お嬢さん方二人に持って行くと、二人は悲嘆にくれており、妹のドラベラがデスピーナに凄い剣幕で当たり散らして大騒ぎ。半狂乱の様子で速いアリアを当たり散らすように歌っていたが、繰り返しは省略されていた。大熱演なのに拍手がなくて残念であった。そう言えば、ルードヴィッヒは彼女のマスタークラス(2-6-2)でこの曲を取り上げ、生徒達に先生の模範演奏としてこの部分の映像を取り上げていた記憶があった。
 ところがデスピーナは兵隊さんが戦地に行くのは当たり前だと平然として、兵隊達は戦地で浮気ばかりしていると、古い幻灯機を使って、うぶなお嬢さん方を教育していたが、 これは映画ならではの演出か。



 アルフォンゾはデスピーナを買収し、作戦通り兵士二人をアルバニア人のターバンを巻いた濃い鬚面の貴族に変装させ、デスピーナに合わせたが彼女は気付かないので、作戦は成功。そこへ恋人達が登場したので、相手を変えて、早速、口説かせるとさあ大変。女二人はこんな悲しい時にとんでもないと怒りだし、四重唱から怒りの六重唱に発展し大騒ぎとなった。女二人はアルフォンゾに文句を言うと、アルフォンゾと男達が親友であることが分かり、男二人は安心して更に強く愛していますと求婚するので、真面目なフィオルデリージの怒りが爆発し、男二人にピストルを向けて、「岩のように」のアリアを歌い出した。その激しい怒りに男二人は大満足。調子に乗ってグリエルモがドラベラに花輪を献げ、「愛らしい瞳よ」と歌い出すと、彼女は花を手にしてにこにこするが、しつこい求愛には彼女も怒りだし、姉妹は自分の部屋に逃げ込んでしまった。それを見て男三人は大笑いの三重唱となったが、フェランドは一人で鳥籠の前で「愛のそよ風が」と賭けに勝ったつもりで恋の幸せを歌っていた。



  フィナーレになって女二人が「すべてが変わった」と嘆きながら美しい二重唱が始まり、ホルンと木管の美しいオブリガートに乗って「これが現実のわが人生」と悲しげに歌っていると、突然、音楽が変わり男二人が毒を飲んだとドタバタ劇が始まった。女二人はそれ大変とばかりデスピーナを呼ぶと、彼女は素速く男二人の介抱を促し、自分は医者を呼んで来るという。介抱しているうちに女二人は優しくなるが、駆けつけた医者が名医で、メスメルの術を施すと男二人は途端に意識を取り戻し、介抱してくれた女性を女神だとばかりに狂ったように求婚を始めた。そして挙げ句の果てに好きだとキスを求めだしたので、女二人は怒りだし逃げ出してしまい、大騒ぎで大笑いのまま、第一幕は終了となった。






  第二幕は再び姉妹の部屋で始まり、デスピーナは愛人達の留守の間に女性らしく楽しんだらと姉妹を誘い出し、あの二人は毒がすっかり覚めて物静かな紳士に変わったと報告して、「女が15歳にもなれば」と誘惑のアリアを歌い出した。曲は軽快な調子であり、デスピーナは紙芝居のような小道具で愛想笑いやカラ涙の女の武器を教え、女王様のように振る舞えばよいと説教し、姉妹が心配する噂になったらの問いには、女中のところに通っていると答えればよいと教える。デスピーナが居なくなると、ドラベラはすっかりその気になって、二人のうちどちらがいいと尋ねながら「私は褐色の髪がいいわ」と歌い出した。フィオルデリージも妹の変身ぶりに驚きつつも「私は金髪がいい」と二重唱になり、二人は気休めに気晴らしをしようという気になって、「僕は死ぬ」とか「私の宝よ」と言わせてみせると、浮き浮きしながら歌っていた。



  そこへ木管セレナードの前奏に乗って「そよ風よ、わが願いを聞いておくれ」と男二人の甘い二重唱が始まり、合唱団も加わって女二人は何ごとかと驚くが、次第に雰囲気に呑まれつつもお互いに声が出ない。アルフォンゾとデスピーナがこうして「お手をどうぞ」とお手本を示し、二重唱から男二人を加えた四重唱になって手ほどきを受け、やっと何とか二組のアベックが誕生し、やがてぎこちない会話が始まった。
 「よいお天気ですね」から始まって散歩しましょうとフィオルデリージとフェランドが出かけると、グリエルモはフィオルデリージのことが気になってしょうがない。しかし、ドラベラが気晴らしだからよいとグリエルモを誘うような口調となったので、グリエルモは驚きつつも得意の口当たりのよい言葉を浴びせ、「ハートを差し上げます」と歌い出し、素敵なハートのペンダントを差し出した。ドラベラは品物を確かめながら一旦は断ったものの、重ねて誘われるとチャッカリ受け取ってしまい、次第に愛の二重唱に変わっていった。そしてドラベラがボーとなって言うなりに目をつぶっているうちに、胸に飾っていた大事なフェランドのロケットを新しいペンダントに変えられてしまった。何たることか、男なら皆そう思うであろう。



  一方のフィオルデリージはコブラやオオトカゲが見えたと走って逃げてきて、フェランドにこれ以上私の平和な心を乱さないでくれと頼み、フェランドがなおもすがるように愛の言葉を重ねると、「愛の神よ、私を許してください」と第25番のアリアを歌い出した。アリアはアダージョで始まり珍しく2本のホルンのオブリガートがついた美しいもので、涙を流さんばかりに切なく歌われ、後半はアレグロになって「私の心変わりをお許し下さい」とフェランドを断り切れなくなっている弱い自分自身を責めていた。これを見ていたフェランドは屈しないフィオルデリージを褒め讃えてグリエルモに報告し、僕のドラベラはどうだったと尋ねるが自分のロケットを見せられて、フェランドは半狂乱。グリエルモは女性の皆さんはと歌い出し、「女どもは良く浮気をする」とカリカリしながら、もっともらしく、フェランドの手前ガッカリした複雑な表情で歌っていた。



 ここで27番のフェランドのカヴァテイーナとドラベラの28番のアリアが省略されて、フィオルデリージが部屋に戻り「私、金髪を愛しているの」とドラベラに打ち明けた。ドラベラは大喜びするが、フィオルデリージはデスピーナにグリエルモの軍服と帽子を運ばせ、着替えながらもうすぐ彼に会えると一人で歌い出した。軍服姿に着替えて帽子を被っていると、それを見ていたフェランドが駆けつけ、戦場に出かけるのならこの剣で胸を突き刺してから行ってくれと二重唱になり、力がないなら手を貸そうと必死に詰め寄ると、さすがのフィオルデリージも「神様、お助け下さい」と崩れ落ち、オーボエの悲鳴のような伴奏と共に倒れ込んでしまった。それを陰でコッソリ見ていたグリエルモは半狂乱になり、アルフォンゾは勝ったとばかりに得意顔。フェランドも駆けつけて、姉妹の裏切りに逆上するが、アルフォンゾは二人を宥めて結婚するんだと命令して三重唱が始まり、最後には序曲で繰り返されていた「コ・シ・ファン・トッテ」を一緒に合唱して、男三人の賭はアルフォンゾの勝ちとなった。



  フィナーレは、デスピーナが合唱団を指揮しながら結婚式場の整備で忙しく始まり、「二人の新郎に祝福を」と合唱団が歌い出し、二組の新郎新婦が入場してきた。そして、海の彼方に火山が見える四人の席に着席し、乾杯の酒を注ぎいでから、フィオルデリージがおもむろに感謝の杯を上げて歌い出し、続いてフェランドとの愛を込めた二重唱となり、ドラベラも加わって素晴らしい三重唱になっていたが、一人グリエルモだけが、信じていたフィオルデリージに裏切られた心の傷を抑えられず、「女狐め!」と怒って歌っていた。そこへアルフォンゾがデスピーナが扮する公証人を連れてきて、結婚証明書に女二人がサインした時にあの忌まわしい軍隊万歳!の合唱が聞こえて来た。アルフォンゾが何ごとかと見に行って、さあ大変。あの二人が戦地から戻って来るということで、再びドタバタ劇が始まった。
 女二人は平謝りの連続であったが、やがて全てはアルフォンゾと男二人に騙されていたことが分かってカンカンになった。しかし、アルフォンゾが白状して、女二人が悪いわけではないと説明した。そしてみんなが勉強して賢くなったのだから、笑って元の組み合わせで結婚しなさいと言うことになって、晴れて二組の恋人達のハッピーエンドで笑いの中で終幕となっていた。




 1969年カリスク演出のこの「コシ・ファン・トッテ」は、ドイツ語字幕のオペラ映画であり、これがDVD化されれば、音も良く画像も美しく、現代でも十分通用する出来であろう。原作の内容に正面から取り組んだ真面目な着せ替え劇であって、ライブのように冗長な部分が少ないので、初心者用には打って付けの映像であろう。特に、女性二人の衣裳がお揃いで美しく、男二人がアルバニア人の貴族に入念に扮しており、女達に気付かせない配慮があり、幻灯機や紙芝居などの小道具の登場も、映画だから出来る芸当であると感じさせた。字幕によりレチタテイーボが短縮化され、アリアをカットしたり、繰り返しを省略したりして2時間35分に収めて、分かりやすさを強調する反面、通常カットされる7番と24番以外にも、27番(フェランド)と28番(ドラベラ)のアリアと前後のレチタテイーボがカットされていたり、アリアの反復の省略は、音楽面で残念であった。また、良く見ると映画では避けられぬ口パクが目についたり、14番、17番、25番のアリアのように熱演であっても拍手や歓声がないのは、オペラファンとしては物足りない面があった。

 しかし、この「コシ」を3度も録音をしたベームの映像が、映画版で残されていたことは、ベームファンだけでなく、このオペラ史上でも重要であろうと思われる。序曲でのベームの指揮振りは、木管のソロが目立った軽快なもので、晩年の映像よりも精力的に写っていた。デスピーナ以外は、当時の著名なベストキャストを集めており、デスピーナの出来が心配であったが、チョコレートを舐めながら登場したお茶目振りや、歌や芸のそつなさから安心して見ておれた。ベームの20年間にわたる有名な3組のLP録音と別表によりキャストを比較してみると、ヤノヴィッツ、ルードヴィッヒ、プライ、ベリーの4人が2度登場しており、この映像でもベームとの相性の良さを見せていた。

 この映像のヤノヴィッツとルードヴィッヒの姉妹コンビは、衣裳も良く若さに溢れお二人の最盛期であろうと思われるし、プライとアルヴァの男声コンビも同様であろう。ベームは過去において評価されなかったこのオペラの復活に生涯にわたって力を尽くし、その成果が別表の4組の録音であろうと思われ、この映像が時期的にも配役の面でも最も恵まれた作品と言えそうである。前回アップしたベームの「フィガロ」の1966年のライブ(9-8-2)と異なって、こちらは映画であるので、ベームの目の叶った映像であろうと思われ、是非、DVD化されるべきものと今後に期待しておきたい。

(以上)(09/09/23)


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カール・ベームの「コシ・ファン・トッテ」のデータベース
ベーム1ベーム2ベーム3ベーム4 摘   要
収録年月195619621969(9-9-3)1974
メデイアLPCDS-VHS-TapeCD
オーケストラウイーンフイルOフィルハーモニアOウイーンフイルOウイーン国立OPO
演出者V.Kaslic
FiordeligiL.Della CasaE.SchwarzkopfG.JanowitzG.Janowitz
DorabellaC.LudwigC.LudwigC.LudwigB.Fassbaender
GuglielmoE.KunzG.TaddeiH.PreyH.Prey
Ferrando A.DermotaA.Kraus L.AlvaP.Schreier
Don  AlfonsoP.SchaeflerW.BerryW.BerryR.Panerei
DespinaRoseH.SteffekO.MiljakovicR.Grist



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