(最新入手のDVD記録;カール・ベームの66年ザルツ音楽祭の「フィガロの結婚」)
9-8-2、カール・ベーム指揮ウイーンフイルトウイーン国立歌劇場合唱団、演出ギュンター・レンネルトによる「フィガロの結婚」K.492、1966年8月11日、ザルツブルグ祝祭小劇場におけるライブ収録、

−このベームの「フィガロ」は、熱気を帯びたザルツブルグ音楽祭のライブ記録であり、ベームの指揮振りは彼の絶頂期の姿を彷彿させるものと思われる。主役5人の顔ぶれも素晴らしく、当時のオペラの水準を記録するものとして貴重な映像であると思われた。−

(最新入手のDVD記録;カール・ベームの66年ザルツ音楽祭の「フィガロの結婚」)
9-8-2、カール・ベーム指揮ウイーンフイルトウイーン国立歌劇場合唱団、演出ギュンター・レンネルトによる「フィガロの結婚」K.492、1966年8月11日、ザルツブルグ祝祭小劇場におけるライブ収録、
(配役)フィガロ;ワルター・ベリー、スザンナ;レリ・グリスト、伯爵;イングヴァル・ヴィクセル、伯爵夫人;クレア・ワトソン、ケルビーノ;エデイット・マテイス、マルチェリーナ;マルガレーテ・ベンツエ、その他、
(DENON、2009.07.22、クリエイテイブ・コアKK、TOBA80370〜1、2CHモノラル、モノクローム、)

  このベームの「フィガロの結婚」の最新のDVDは、アマゾンから発売前予約3割引のメールが飛び込んで来たので、直ちに申し込んで7月22日に3652円で入手したものであり、1966年8月11日のザルツブルグ音楽祭時の祝祭小劇場におけるライブ収録であった。ソースはオーストリア放送のテレビのアーカイブに基づくもので、DVD化に際し、音声と映像をデジタル修復したもののようである。スザンナとフィガロは、当時の花形歌手のグリストとワルター・ベリーであり、ケルビーノを人気の若いエデイット・マテイスが歌っていて、ライブであることに意義がある。それは有名なベームとポネルの映像(1975〜76、5-10-1)では、「口パク」による映画方式であり、また後日お届けするベームの「コシ」(1969)も映画方式であったからである。ライブ方式との違いは、耳から聞こえる「歌唱」と目で見る「歌い方」にどうしてもズレがあって、オペラの映像としては不自然な印象があり、気になり出すと安心して見ていられない点にあった。
  ベームの古い白黒映像には、1964年のト短調交響曲(4-12-3)があるが、この映像においても今回と同様に、晩年のベームとは異なるベームのエネルギッシュな姿が捉えられていた。ベームの東京公演のライブ映像(1980、7-12-3)とは、テンポ感が異なって精気があり、手慣れた歌手陣を精力的に動かす熱気のようなものが漲っているように思われた。薄暗い白黒の画面でベームが観客に挨拶し、序曲が軽快に始まったが、音はモノラルで高音のハイエンドに癖があるが歪まずに何とか聴けた。座っている体を前に乗り出すように指揮をしたりする仕草はベーム流で、1966年の古い割りには状態は思ったより良く感じた。序曲は溌剌としたテンポで軽やかに進み、その間中は字幕で配役や制作者などの紹介があり、オーケストラも写されていたが、ベームの左側に弦楽器が、そして右側に写真のように木管族が座っていたのが最近と異なっていた。



    軽快に第1曲の弦の前奏が始まってから幕が開き、フィガロとスザンナの二重唱が始まったが、スザンナのグリストの高い声が良く響き彼女の動きが良く魅力的。ベッドの話になってデインデインの二重唱となり、フィガロがスザンナに教え込まれていた。さっと見たところ、お城の中の物置部屋で、レチタテイーボからリブレットに忠実な演出と分かり、衣裳は18世紀風の飾りの多い豪勢なもの。白黒であるのが残念であった。伯爵の企みを知ったフィガロが、チェロとチェンバロに誘われてカヴァテイーナを歌い始めるが、ピッチカートの音が良く響きビックリ。ワルター・ベリーが堂々と歌って拍手喝采であったが、アリアを歌うときに殆ど静止状態で歌っていた。派手な帽子のマルチェリーナと貫禄ある風貌のバルトロが登場し、バルトロが自信ありげに堂々とアリアを歌い、一角の人物であることを見せつけていた。一方のマルチェリーナはスザンナに口喧嘩を仕掛けたものの、二重唱でスザンナに切り返され、スザンナに大年増と揶揄されて退散していた。



    そこへケルビーノが登場し、スザンナと生きの良いやり取りの後に「自分で自分が分からない」を歌い出すが、さすがマテイスのケルビーノは、声と云い容姿や仕草などがイメージピッタリのケルビーノであり、大変な拍手を受けていた。そこへ伯爵が現れて椅子に座り込んだのでさあ大変。伯爵がそのままスザンナが一人と見て口説き出すが、そこへバジリオが現れたので、伯爵も大きな椅子の陰に思わず身を隠す。バジリオがケルビーノの話から奥方の噂話を始めるので、伯爵が思わず立ち上がり、三重唱が始まった。スザンナが失神騒ぎを起こし、その挙げ句に隠れていたケルビーノが見つかってしまい、三重唱の終わりでは「女は皆こうしたもの」と歌われていた。スザンナが言い訳に夢中になっている所へ、フィガロが村人達を引き連れて登場したので、その場面は救われた。しかし、フィガロが伯爵に結婚の許しとして、皆の前でスザンナにヴェールを被させようとしたフィガロの企みは成功しなかった。残されたケルビーノが連隊の士官に命ぜられ、フィガロが出発前にと、ケルビーノに少し手荒な祝福を与えて、舞台は堂々たる行進曲のリズムで第一幕は終了した。



 

    第二幕はオーケストラの序奏が始まってから幕が開き、伯爵夫人が豪華な部屋で、堂々と「愛の神よ」と歌い出すが、殆ど動かずにゆっくりと歌い上げていた。フィガロが伯爵を懲らしめようと考える計画で、ケルビーノを女装させることが気に入ったスザンナと伯爵夫人が待っていると、早速、軍服姿のケルビーノが登場。スザンナの伴奏で「恋とはどんなものかしら」をケルビーノが歌うが、マテイスの歌はハイトーンの正調で、繰り返し以降も崩しがなくしっかりと歌われていた。ピッチカートがとても美しかった。最近の映像と違うのは、アリアを歌うときは登場人物の動きが少なく、じっくりと歌われるところであろうか。マテイスは昔の日本公演で名声を挙げていたが、オペラライブの映像ではパミーナ(1971、8-6-3)が残されているだけであって、ケルビーノはこれが初めてであろうと思われる。




     スザンナの着せ替えのアリアが始まって、ケルビーノは帽子を被せられ、コルセットを着けられ、ドレスを着せられて、ぎこちない仕草で伯爵夫人に挨拶をするので、観客は大喜びであった。ケルビーノが腕に巻いた夫人のリボンが見つかって取り上げられ、ケルビーノがそれを欲しがって、伯爵夫人に思わず抱きついたところに、伯爵のドアを叩く音と声がしてさあ大変。ケルビーノは衣裳部屋に逃げ込んだが、伯爵が夫人を問い詰めているときに、中で大きな音を立ててしまった。そこで伯爵が「スザンナ、出てきなさい」と口喧嘩の三重唱が始まったが、ここでも動きが少ない割りに、三人三様でしっかりと歌っていた。伯爵がどうしても衣裳部屋を開けようと、夫人と小道具を取りに部屋を出た隙に、スザンナが「早く、早く」とケルビーノを部屋から連れ出すと、ケルビーノは見つかれば殺されると、出口を探して窓から飛び降りて一目散。戻ってきた伯爵が部屋を開けようとするので、観念した伯爵夫人は男の子ですと白状し、ケルビーノを女装させていたと語るが、伯爵はまたあの小僧がと大怒り。「出てこい、無礼な小僧」とフィナーレが始まった。伯爵夫人が女装の言い訳をする二重唱から、伯爵が鍵を取り上げ、刀を抜いてドアを開けようとしたところに、スザンナが「シニョーレ」と現れたので、二人はビックリ大仰天。謝る一方の伯爵に、事情を知った女二人は強く、平謝りの三重唱が長々と続いていた。





   そこへフィガロが用意が出来たと現れたので、伯爵がしめたとばかり手紙を見せるが、フィガロは知らないと白を切る。女二人がばれていると四重唱になって教えても、知らぬ存ぜぬの一点張り。二人が角突き合わせて、音楽もあわやと思わせる響きになったが、そこへアントニオが登場して救われた。アントニオはバルコニーから誰かが飛び降りたと壊れた植木鉢を見せて五重唱になり、そこはフィガロが「俺がやった」と機転を利かしたが、アントニオが印鑑のない辞令を伯爵に渡したので、さあ大変。しかし、女二人の働きで急場を脱し、伯爵もハンコがないことに初めて気がついていた。そこへマルチェリーナほか二人が駆けつけて、伯爵に裁判だと訴えるので、伯爵は大喜び。最後は七重唱となって盛り上がり、上機嫌の伯爵が「静まれ、静まれ」と大声を上げながら幕となっていた。閉幕と共に凄い拍手と歓声が上がり、歌手陣は何度も呼び出されて、休憩となっていた。



    ベームが登場し客席へ会釈をした後に幕が開いて、第三幕が始まった。伯爵が独り言を云いながら登場し、何か不思議なことが多すぎると呟いていた。一方、伯爵夫人から何かを頼まれて、スザンナが伯爵に近づいてきた。そして伯爵から持参金を確保しながら、逢い引きの約束をする二重唱が始まり、イエスと云ったりノーと言ったり、グリスト一流の焦らし戦術で伯爵と約束を取り交わしていた。その別れ際で、出合ったフィガロに「訴訟に勝ったわよ」ともらした言葉が伯爵に聞かれて、伯爵が馬鹿にされたと怒りだし、復讐の大アリアが始まったが、これが本日一番のヴィクセルのアリアとなっていた。
  そこへ「判決が出た」とマルチェリーナほか二人の三人組が伯爵に報告し、フィガロ一人が反発して、貴族の息子だから親の承諾が要ると息巻いていた。その証拠に右腕に痣があると言いだした途端に場の雰囲気が変わり、息子のラファエロだと言うことになり、伯爵やクルチオも一緒になっておかしな六重唱になっていた。そこへお金を持ってスザンナが駆けつけ、敵と抱き合っているフィガロを見つけて平手打ち。しかし、直ぐに「マードレ、パードレ」の四重唱になって大笑い。四人が残って二組の結婚式を挙げようと云うことになった。



    伯爵夫人が一人で登場し、「あの幸せな時はいずこに」と情けない心情を語り、アリアを歌い出したが、これがゆっくりと堂々と歌われて伯爵夫人の本日最高のアリアとなって、万雷の拍手を受け、二度も舞台に呼び戻されていた。続くスザンナとの「手紙の二重唱」も見事に決まり、村の娘達の合唱も素晴らしく、フィナーレの行進曲が始まった。
  伯爵夫人が伯爵に二組の結婚式を認めようと誘って、伯爵夫妻が演壇に着席すると、フィガロ夫妻、バルトロ夫妻のほか、大勢が行進曲に乗って入場した。続いて二人の乙女による祝福の二重唱が始まり、その間にスザンナとマルチェリーナがひざまずいて、伯爵夫妻よりヴェールを受け、続いて踊りの音楽が始まると、二組の夫妻が中央で踊り出した。その最中に、伯爵はスザンナから手渡された手紙のピンで指を刺していたが、手紙を読んでご機嫌になり、踊りを中断させて、今晩は盛大にお祝いのパーテイをやろうと挨拶し、第三幕は終了した。



    第四幕はバルバリーナのアリアで静かに始まったが、フィガロがピンを見つけた振りをして彼女に手渡し、スザンナと伯爵の松の木の下で逢い引きすることを知って大怒り。マルチェリーナ母さんに宥められても、続いてバジリオに宥められても怒りは治まらない。ここで二つのアリアが省略されて、フィガロがスザンナの裏切りへの怒りのアリアを歌ってもの凄い拍手を受けていた。続いてスザンナが実に美しいレチタテイーボで歌い出し、ピッチカートとオーボエの伴奏に乗って「どうか直ぐに来て」と情感を込めたアリアを歌っていた。これがスザンナの本日最高のアリアになってグリストが真価を発揮し、大拍手で二回も舞台に呼び出されていた。人気と実力を備えたベームが重用した理由が良く分かる存在感をグリストは示していた。



    スザンナに扮した奥方が、松の木の傍に現れるが、スザンナと思い込んだケルビーノがまとわりついてうるさい。そこへ伯爵が現れ、邪魔な小姓を捕まえて平手打ちにするが、そこへ飛び込んできたフィガロに当たって大騒動。伯爵はやっとスザンナを捉まえて、口説きだし、スザンナが素直なので調子に乗った伯爵はダイヤの指輪まで手渡してしまった。
  一方、その様子を隠れて見ていたフィガロは伯爵夫人を見つけるが、言葉を交わすうちにスザンナが伯爵夫人に化けているのが分かった。それでスザンナを懲らしめようと、夫人を口説きだしスザンナをカンカンにさせ、ここでも平手打ちを喰らうが、フィガロの真意を知って二人は直ぐに仲直り。しかし、直ぐ傍で殿様がスザンナを探しているのを見て、二人は伯爵を怒らせようと考えて、伯爵の前で夫人と従僕の濃厚なラブシーンを演じて見せた。これが伯爵の目に触れて、夫人の不倫とばかりに大声を上げ、盛んに許しを請う二人に対し、大勢が見ている前で「許さない」と大見得を切ってしまう。そこへ後ろから伯爵夫人が許しを求めて現れたので、伯爵は自分の大間違いに気付き、流石の伯爵も跪き「奥よ、許しておくれ」という大団円になった。このあたりは薄暗い舞台でのドタバタ劇ではあるが、ベームはゆっくりしたテンポで丁寧に進めており、実に分かり易く描かれて、最後の11人の登場人物全員による喜びの重唱もテンポ良く和やかに歌われていた。




   ベームの三種類目の1966年の最も古い時期の映像を新しいDVDで見て、これがカラーでステレオであったならと、とても残念に思った。舞台は祝祭小劇場で機械装置のない狭い舞台であるが、見かけは凝った舞台であり、衣裳も豪勢な貴族社会風であったし、ベームの音楽も生き生きとしてライブそのものであったからである。しかし、歌手の皆さんは歌うことに専念していた様に見え、体の動きが少なく、最近の舞台と異なってスピード感覚に乏しく感ずるのは、やむを得ないのであろう。その中でスザンナのグリストだけが目立って動きが良く、後日においてベームが彼女を「コシ」や「後宮」で重用している理由が解るような気がした。しかし、それ以外の歌手陣もCDなどでお馴染みの歌唱力ある人々が揃っていたし、何よりもアリアを歌うときは直立して朗々と歌い、繰り返しなどでも装飾音や変化を着けない基本通りの歌い方をしていたのが目立っていた。




  ベームの音楽も晩年の映像とは異なってエネルギッシュな姿が捉えられており、晩年のものとはテンポ感が異なって精気があり、手慣れた歌手陣を精力的に動かす熱気のようなものが漲っているように思われた。現代の映像と較べるとリブレットに忠実で丁寧であり、舞台の辻褄合わせ(ケルビーノの発見、スザンナの顔出し、何回かの平手打ち場面など)もライブの割りにはしっかりしていた。省略は第4幕のマルチェリーナとバジリオのアリアが省略されていたが、第三幕の曲順は、古い版(ポネルのものと異なる)を使っていた。

      私はこのベームの「フィガロ」は、熱気を帯びたザルツブルグ音楽祭のライブ記録であり、ベームの指揮振りは彼の絶頂期の姿を彷彿させるものと思われる。主役5人の顔ぶれも素晴らしく、当時のオペラの水準を記録するものとして貴重な映像であると思われた。観客の反応も良く、主役のアリアは申し合わせたように1〜2回呼び出されていたようであったし、中でも人気のあるケルビーノ、フィガロ、スザンナへの声援や拍手は凄いものがあった。最後に、指揮者ベームが一人で舞台に現れて、残った観衆に挨拶する姿も非常に印象的に捉えられていた。
 終わりに、ベームの三種類のオペラ「フィガロ」の配役などのデータを整理すると、以下の通りとなる。 


 
巨匠ベームのオペラ「フィガロの結婚」K.492のデータ比較、(09年08月現在)
番号比較対象項目ベーム1ベーム2ベーム3メモ
録音年1966/8/111975/121980/9/30
ソフト紹介番号9-8-25-10-17-12-3
メデイアDVD(モノラル・白黒)LD(映画方式)DVD(日本公演)
演出者G.RennertJ.P.PonnelleJ.P.Ponnelle
オーケストラウイーン・フィルハーモニーウイーン国立歌劇場管弦楽団ウイーン国立歌劇場管弦楽団
フィガロW.BerryH.PreyH.Prey
スザンナR.GristM.FreniL/Popp
伯爵I.WixellD.F.DiscauB.Weikle
伯爵夫人C.WatsonK.KanawaG.Janowitz
10ケルビーノE.MathisM.EwingA.Baltza
11マルチェリーナM.BenceH.BeggM.Lilowa
12バルトロZ.KelemenP.MontarsoloK.Equiluz
13バジリオD.ThawJ.KesterenH.Zednik
14バルバリーナD.AselfordJ.PerryM.Venuti
15ドン・クルチオA.PfeifleW.CaronK.Equiluz
16アントニオK.HirteH.KraemmerW.Fink


(以上)(09/08/24)


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