(最新入手のDVD記録;メストとベヒトルフのによる最新の「フィガロの結婚」) 9-7-2、ウエザー・メスト指揮チューリヒ歌劇場管弦楽団、演出スヴェン・エリック・ベヒトルフによる「フィガロの結婚」K.492、07年4月1〜7日、チューリヒ歌劇場におけるライブ収録、

−この映像ではモダンなスタイルで登場人物達が登場し、素速い動きで新しさを見せながら、人間関係などは伝統的なスタイルを模倣して、現代風でありながら舞台上での違和感を最小限に止めていた。オペラブッファとしてのユーモア感覚は随処に溢れ出ており、ハッとする新しい動きも目につき、メストの音楽も舞台の動作と一体になるようにきめ細かく進行して、終わってみれば新鮮な感覚の楽しいフィガロという印象であった。−

(最新入手のDVD記録;メストとベヒトルフのによる最新の「フィガロの結婚」)
9-7-2、ウエザー・メスト指揮チューリヒ歌劇場管弦楽団、演出スヴェン・エリック・ベヒトルフによる「フィガロの結婚」K.492、07年4月1〜7日、チューリヒ歌劇場におけるライブ収録、
(配役)フィガロ;エルヴィン・シュロット、スザンナ;マルテイーナ・ジャンコーヴァ、伯爵;ミカエル・ヴォーレ、伯爵夫人;マリン・ハルテリウス、ケルビーノ;ジュデイス・シュミット、マルチェリーナ;イレーネ・フリードリ、バルトロ;カルロス・ショーソン、バルバリーナ;エヴァ・リーバウ、バジリオ;マーテイン・ジィセット、その他、
(EMI Classics 2009、輸入盤DVD DVB-2-34481-9、5.0CH、日本語字幕なし)

 現在、最も注目されているオペラコンビと言われるヴェルザー・メスト指揮・チューリヒ歌劇場・エリック・ベヒトルフの最新のオペラ「フィガロの結婚」のDVDを輸入盤で入手したので、いち早くお届けするものである。このコンビが、現在絶好調で注目されている理由は、メストがシュターツ・オーパーの小沢征爾の後任に選定され、このコンビでいま、ワーグナーの大作「リング」四部作が進行中であり、かなり高い評価が得られていることが報じられているからである。先にアップしたこのコンビのオペラ「ドン・ジョバンニ」K.527(9-4-3)においても、新しい現代的な演出であったが、ベヒトルフのイマジネーションの豊かな演出が行われ、またメストの堂々たる音楽に支えられて、素晴らしい舞台が展開されていた。
またこのDVDが注目されるのは、主役のアーウイン・シュロットであり、先にご報告したパッパーノ指揮、D.マックヴィカー演出、コヴェント・ガーデン王立歌劇場の「フィガロの結婚」(9-3-3)でもフィガロを歌い、成功を収めていた。またチューリヒ歌劇場のヴェテランの専属であるマリン・ハルテリウスが伯爵夫人を歌ったり、カルロス・ショーソンがバルトロ役であったり、安心して見ておれるチューリヒ歌劇場の布陣であり、輸入盤で字幕が出ないのが残念であるが、楽しんで見たい「フィガロの結婚」であると思われた。


      DVDでは指揮者ウエザー・メストが入場し、周りを見渡しておもむろに腕を振り上げ、序曲が開始された。小刻みな弦が軽快に動き始めると、メストのフィガロは信頼できそうだと確信を持ちながら序曲を聴いていると、途中で幕が開く。舞台を見て、一瞬、何だろうとと思ってしまう。良く見ると、大きな障子が覆い被さったような屋根を持った薄暗い物置部屋。人間が入れそうな大きな段ボール箱が沢山散らかっていた。障子の下に足が見え、下から潜って入ってきたのは上半身がシャツ姿のフィガロで、段ボールの周りをウロウロしていた。序曲が終わり最初の二重唱の弦の序奏が聞こえてくると、普段着姿のスザンナが白い飾りを持って登場し、何やら真面目に独り言を云って動いているフィガロと鉢合わせ。言葉を交わしているうちに、愛し合う二人はいちゃつき始めていたが、ベッドの話になると一転して二人は険悪になった。フィガロがデインデインと二重唱を歌い出すと、スザンナがそれを引き継いで大きな声でドンドンと声を震わした。ここで鈍いフィガロも流石にハッと気がついて、もっと知りたがる。フィガロが一人になって真剣な表情で考え出すと、チェロやフォルテピアノに促されピッチカートの伴奏に乗って、ハサミを持ったフィガロが堂々とご主人がやるなら私もとばかり、カヴァテイーナを歌い出した。その逞しそうな闘う姿のフィガロの歌声に客席から大きな拍手があった。


    そこへ帽子の大きいマルチェリーナと背広姿のバルトロが大声で喋りながら入ってきたので、フィガロは段ボールの陰で思わず彼らの話を聞いてしまった。バルトロがマルチェリーナの差し出す証文を見て、フィガロに復讐をしようと自信ありげに頷いて、俺に任せろと歌っていたが、ショーソンのアリアは流石立派であった。マルチェリーナがスザンナを見かけると敵意を見せて次第に口論になり、激しい喧嘩の二重唱となったが、ここでは機転の利く若いスザンナの勝利でマルチェリーナは逃げ出してしまった。そこへケルビーノが段ボールを持って大変だと飛び込んで来た。そしてスザンナのスカートをめくったり油断も隙もないケルビーノが、激しく「自分が自分で分からない」と若さの抑えきれない衝動を歌い出した。しかし歌い終わると伯爵の足音がして、そのままガウン姿の伯爵が部屋に入ってきたのでさあ大変。


ケルビーノはいち早く段ボールの陰に隠れたが、伯爵が慌てているスザンナを相手にお得意の手品で気を誘い、早速、口説き出す。二人が危なくなりかけた時にバジリオが部屋を覗きに来たので、ノッポの伯爵も段ボールの陰に隠れたので大笑い。しかし、バジリオのケルビーノから伯爵夫人の噂話に怒りだして、三人が顔を合わせてしまった。そして驚いて気を失いそうなスザンナを相手に面白い三重唱が始まり、挙げ句の果てに段ボールに中に入っていたケルビーノが、逃げようと動いて見つかってしまう有り様。しかし、怒り出す伯爵に対して大して、フィガロが連れてきた、大勢のいろいろな格好をしている近所の仲間たちの領主さまを讃える合唱に救われた。



  フィガロは伯爵にスザンナとの結婚を皆の前で認めさせ、スザンナの花嫁衣装姿も認めさせようとしたが、それは後日に盛大にやろうと伯爵に逃げられてしまった。そして伯爵に謝るケルビーノに対し、罰として連隊に入れることを決め、フィガロに少し鍛えてやれと命令した。ケルビーノは軍服姿に着替えさせられ、フィガロに「もう飛ぶまいぞ」の歌声に乗って、少し男っぽい手荒な演習をさせられ、やがて勇ましい行進曲となって第一幕が終了し幕がおりた。
  演出も衣裳もモダンで現代感覚であるが、登場人物達の人間関係は貴族時代ほど厳しくなく、伯爵は大地主の旦那で、その下に召使いや小作人が大勢いるというような現代の緩い関係に描かれており、第一幕は大きな矛盾はなく推移していた。

 

  第二幕が開くと舞台は伯爵夫人の部屋らしく綺麗に様変わり。だが伯爵夫人がどうしたのか床に倒れていた。音楽の前奏と共に立ち上がり、「愛の神よ」と自分の不幸をゆっくりとしたテンポで情感をこめて歌われ、大きな拍手を浴びていた。そこへスザンナが現れ、次いで陽気なフィガロが歌いながら駆けつけて、何やら伯爵に対して三人で作戦会議。フィガロの提案は半信半疑であったが、ケルビーノを女装させようという話には女二人は大賛成。フィガロは先の伯爵への反旗のカヴァテイーナを歌いながら準備に走って行った。ケルビーノが軍服姿で現れ、伯爵夫人に対しアリエッタを歌い出すと、スザンナはギター伴奏どころか喜んで踊り出してしまう有り様。後半に伯爵夫人とケルビーノが互いにウットリしているところへスザンナが現れて、ケルビーノを裸同然にして着せ替えのアリアを歌いながら、夫人と二人で悪戯しながら女装してしまった。ケルビーノの腕に巻いていたリボンの話から、夫人とケルビーノがおかしくなりかけたところに、外で伯爵の声が。



  ケルビーノが衣裳室に逃げ込んで、ドアを開けた夫人は、銃を持った伯爵に対しぎこちない。何か隠していると伯爵も鋭く見抜き、「スザンナ、出てきなさい」と歌い出し、疑心暗鬼のおかしな三重唱が続いた。夫人が頑張り通すので、伯爵は自分でドアを開けようと夫人を連れて工具を取りに外へ出た。その僅かな隙に「早く、早く」の掛け声で、ケルビーノに軍服を着せて、窓から何とか逃げおおせたので、スザンナは一安心して衣裳部屋へ。戻ってきた伯爵がドアをあけようとしつこいので、夫人は遂に男の子でケルビーノであることを漏らすと、伯爵はまたかと怒り狂い「出てこい、小僧」と、長い第二幕のフィナーレが始まった。伯爵がドアを開けようとして、手に怪我をする一幕もあって手当が済んだところへ、スザンナが「シニョーレ」と突然に現れたので二人は仰天した。伯爵が衣裳部屋を見ている隙に、スザンナから事情を聴いた夫人は急に強くなり、伯爵を懲らしめる。平謝りの伯爵に女二人は散々仕返しをしている最中に、突然、音楽が変わって陽気なフィガロが飛び込んできたので伯爵は大助かり。



  早速、伯爵が手紙の件をフィガロに聞きただすが、フィガロは知らないという。女二人がバレていると知らせても、フィガロは知らぬ存ぜぬを通すので次第に音楽が重くなり、あわやと思われた時に、アントニオが「シニョーレ」と壊れた鉢を手にして伯爵に訴え出た。この騒ぎは、「俺が飛び降りた」としてフィガロのビッコで何とか収まるかと思ったが、アントニオもさるもの。その時に落とした書類は何かという新しい話しになってきた。弱ったフィガロがしどろもどろになり、女二人が仕草で何とかフィガロに分からせようとしたが難しい。音楽までもあわやと遅くなり始めたが、女二人の機転でそれが小姓の辞令で印鑑がないことまで、フィガロが助けられながら何とか答えてしまう。その最中にマルチェリーナの一行三人が駆けつけて来たので、伯爵は大喜びとなった。



  音楽が変わって賑やかな早口の七重唱になり、三人が順番に申し立てその都度フィガロが反論するので大騒ぎとなり、伯爵が静まれ、静まれと云っているうちに、混乱状態になって、伯爵側の優勢の形で第二幕は幕となっていた。
  このフィナーレでは音楽の進行と劇の進行とが完全に一体となっており、二重唱から始まって、三重唱から最後には七重唱になるなど、巧みなアンサンブルの妙味で素晴らしい劇的効果をあげていた。


  第三幕では部屋の様子は変わらず、椅子と机の配置だけが変わった伯爵の部屋で、伯爵が第二幕での不思議な出来事を考え込んでいると、伯爵夫人とスザンナが何やらひそひそ話。それからスザンナが品を作って機嫌の悪い旦那に近づくと、伯爵はしおらしいスザンナの態度に上機嫌となり、早速、口説き始める。旦那の気持ちに合わせるように音楽も優しくなり、スザンナもイエスと言ったりノーと言ったりして、二人の約束が出来たようであった。スザンナが別れ際に出遭ったフィガロに「訴訟に勝った」と漏らすのを、隠れ聞いた伯爵は怒りだし、その怒りの気持ちを表すような音楽に合わせて、伯爵は腹を立てて仕返しのアリアを歌い出す。この伯爵のアリアが堂々として立派であった上に、歌うにつれて背が高くなるという曲芸を披露して観衆を喜ばせ、大拍手であった。そこへ判決が出たとドン・クルツイオが伯爵に報告し、マルチェリーナとバルトロが現れた。そして遅れてフィガロが一人文句を言いながら現れ、結婚しないと強く言い張っていた。理由を聞かれ、自分は貴族の子だから親の承諾なしにはという答えに一同大笑い。しかし、自分は盗まれたので、両親を捜しており、自分の腕には痣があると言う話になってきて、マルチェリーナが真剣になり、右腕の痣を見つけてさあ大変。フィガロは盗まれた息子のラファエロだということになってしまった。マルチェリーナがフィガロに父親がバルトロであることを説明して、三人が抱き合っているところへ、スザンナが大金を持って伯爵のところに駆けつけた。伯爵はあの三人に聞けと逃げると、スザンナに捕まったフィガロは平手打ち。しかし、これがマードレで、これがパードレだという説明の六重唱になってスザンナも次第に納得し、終わりには、一転してこれら4人でこんな幸せはあるかしらと言い合って、結局、二組の結婚式を挙げることになってしまった。


  バルバリーナとケルビーノが仲良くしているのが見え、続いて伯爵夫人が現れて、長いレチタテイーボのあとに悲しげに「あの幸せな時はいずこ」と歌い出した。このアリアは戴冠ミサ曲の美しい祈りのアリアであり、若い夫人の苦悩を歌うアリアとしてこれが彼女の本日一番の歌となって、観衆から大きな拍手が送られていた。そこへスザンナが現れ、一方では、アントニオが伯爵に耳打ちをした場面が続いて、夫人とスザンナが手紙に逢い引きの場所を書こうと「手紙の二重唱」が始まった。二人が入れ替わったり合唱したりする二重唱が実に美しく、万雷の拍手であった。そこへ伯爵夫人に対してバルバリーナを先頭に村の娘達が花輪を献げに登場した。その中にケルビーノが女装しており、伯爵夫人が見つけたところへ、アントニオと伯爵が現れたのでさあ大変。バルバリーナはケルビーノを救おうと、必死で伯爵にすがり、挙げ句の果てに夫人の手を取って、二人にケルビーノとの結婚の話まで持ち出していた。一方、治まらぬアントニオはケルビーノが白状したと伯爵に迫っていたが、フィガロが伯爵に嘘をついたと咎められていた。そこでフィガロは「私に出来ることなら、彼にでも出来る」と大声を上げるシーンもあって、二人は暫く睨み合っていたが、折からの行進曲の音楽に救われていた。


  二組の結婚式を挙げるため行進曲に乗って大勢が集まり、それぞれが席に着いたが、始めの祝福の二重唱は、何とバルバリーナとケルビーノが歌っていた。シャンパンが抜かれてグラスが配られていたが、乾杯が終わって、続く踊りの場面では、プロの男女が舞台で踊っていた。スザンナはグラスの中にに手紙を折り込んで、伯爵に手渡すのに成功していた。伯爵が手紙に気がついて、ピンで手を刺して痛がっていたが、色良い返事に喜んでいた。そして、大声を上げて全員に呼び掛け、二組の結婚式を祝福し、今晩改めて盛大に祝宴をあげようと挨拶して、皆の合唱で第三幕はお開きになった。



  第四幕は部屋の中の作りを中庭風にし、草むらの中に置物の子馬が5〜6頭置いてある明るい風景で、バルバリーナが歌いながら草むらでピンを探している様子で始まった。フイガロが現れてピンを一緒に探す振りをして、伯爵とスザンナの企みを聞き出し、新婚の夜なのにと怒り出す。マルチェリーナがそれを聞いて、何か訳があるはずだと宥めるがフィガロは聞かない。そしてマルチェリーナは珍しく「牡ヤギと牝ヤギは仲が良い」というアリアを歌って宥めていた。続いてバジリオとバルトロが怒ったフィガロを宥めるが、フィガロは聞かないので、バジリオも珍しく「若いころには私も」とアリアを歌い出し宥めていたが、途中からメヌエットのテンポで「ロバの皮をまとって難を免れた」と歌ったところで、何と伯爵が化けた大きな熊が現れて、観衆の笑いを誘っていた。続いてフィガロの「用意が整った」とスザンナを怨むアリアを歌い、続いて、学芸会のラストのようにスザンナのジャンコーヴァが、「やっとその時が来た」と本日最高のアリアを歌って、大きな拍手を浴びていた。



  フィナーレに入って、白いスザンナのようなドレスに着替えた伯爵夫人が現れると、ケルビーノがスザンナと思い込んでしつこくまとわりつく。そこへ伯爵が登場し、邪魔なケルビーノを追い払おうとして、平手打ちをするとそれが隠れていたフィガロに当たってしまう。やっとスザンナと二人きりになった伯爵は、喜んで二重唱で口説きだし、気前よく指輪まで与えてしまっていた。それを陰で観察していたフィガロと伯爵夫人の黒いドレスを纏ったスザンナは、互いの存在に気がついて、フィガロは夫人に接近するが、声や仕草でスザンナだと見破ってしまった。そこでスザンナに焦らされていたフィガロは、ここで仕返しをしようと、スザンナの伯爵夫人を思いっきり口説いてしまう。怒ったスザンナはフィガロをこれでもかと何回も平手打ち。降参したフィガロは、声で分かっていたと持ちかけ、スザンナも気がついて仲直りに応じた。



  そこへスザンナをまだ捜して伯爵がウロウロしていたので、二人は一計を案じ、フィガロと伯爵夫人の姿で、伯爵の前でこれ見よがしにラブシーンを演じてしまった。それを見て大いに驚いた伯爵は、部下二人のお芝居とも知らずに大声を出して全員を呼んでしまった。さあ大変。伯爵は逃げ込んだ者達を引きずり出し、ペルドーノと謝る彼らを「絶対に許さない」とやってしまった。そこへ白いドレスの伯爵夫人が顔を出したので、伯爵はビックリ仰天。夫人の「わたしが皆さんのためにお許しを得ましょう」の言葉に伯爵は謝るばかり。そして「私はハイと申します」の言葉で、夫人の心からの許しと分かり、見ていた一同は大安心。取り巻く11人の明るい合唱になって大団円となったが、良く見ると、いがみ合っていた伯爵とフィガロが互いに抱き合っている姿が見え、めでたしめでたしとなっていた。



  新しい感覚の「フィガロの結婚」の本格的な生きの良い映像が、最近、次々とリリースされてきた。。アーノンクール・グート(2006)(7-10-5)パッパーノ・マクヴィッカー(2006)(9-3-3)などに加え、このメスト・ベヒトルフ(2007)の映像である。この映像もモダンなスタイルで登場人物達が登場し、新しさを見せながら素速い動きで活躍していたが、人間関係などは伝統的なスタイルを模倣しており、現代風でありながら舞台上での違和感を最小限に止めていた。しかも、オペラブッファとしてのユーモア感覚は随処に溢れ出ており、ハッとする新しい動きも目につき、メストの音楽も舞台の動作と一体になるようにきめ細かく進行して、終わってみれば新鮮な感覚の楽しいフィガロという印象であった。



  各幕での舞台作りは、簡素でありながら部屋の作りが微妙に変化していた。衣裳はモダンな現代風であったが、人間関係は貴族社会よりも緩やかであり、余り矛盾がなかった。演出の細かな点では随処に新しい解釈が取り入れられ、他人の話を隠れて聞いていたり、段ボールに人が入って動き出したり、伯爵が手品をして笑わせるなど、ユーモアのある新しい試みに新鮮さを感じた。これらは字幕があればもっと多く気が付いたのではないかと、演出者ベヒトルフの豊かな創造力に敬意を表したいと思う。
音楽面では、メストの終始安心して聴ける暖かみのある指揮振りが目立っていたが、舞台の動きに併せて音楽の作りも細かく加減されており、管弦楽と声とのアンサンブルを重視した丁寧な音楽作りが目立っていた。また、第四幕でのマルチェリーナとバジリオのアリアがとても楽しく、これも音楽を豊かにする試みとして評価できよう。



  活躍が目立つシュロットのフィガロは、逞しさ、格好の良さばかりでなく、歌の巧みさでも目立ったフィガロであった。スザンナのジャンコーヴァは、今回初めてであったが、動きが早く機転の利いたスザンア役で、歌もまずまずであった。驚いたのは伯爵のヴォーレで、歌いながら手品が出来る器用さを充分に発揮して存在感があった。また、ハルテリウスは、若い伯爵夫人として充分に存在感を見せ、夫人役は彼女の声といいスタイルや顔つきに至るまで適役であると思われた。ケルビーノのシュミットも初顔であったが、動きが良く、段ボールが動き出したときは思わず吹き出してしまった。マルチェリーナ、バルトロ、バジリオ、バルバリーナもそれぞれ1曲ずつアリアを歌って持ち味を発揮しており、これら4人が終始、舞台に現れて、舞台全体を活気あるものにしてくれたと思う。

     このDVDは、EMI classics のチューリヒ歌劇場のシリーズものであり、輸入盤で残念ながら英独仏伊西語で日本語は含まれていない。私はオペラは出来るだけ、日本語字幕のあるものを見ようとしているが、なければどうしょうもない。しかし、DVDであれば繰り返して見ることにより、そのハンデイを軽減することが出来るが、時間が掛かり難しい。その面でこのレポートが、日本語字幕がある映像の報告よりも出来が良くないと云われぬように、自分なりに努力した積もりであるが、問題があればご指摘いただきたいと思う。なお、日本語版であれば、DVDの冊子も充実し、歌手の紹介などが含まれているが、この輸入盤には、残念ながら歌手の紹介は省略されていた。

(以上)(09/07/21)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定