(最新入手のDVD記録;フェルゼンシュタインの追悼公演の「フィガロの結婚」)
9-6-2、ゲーツア・オーバーフランク指揮コミッシェ・オーパー・ベルリン管弦楽団、ドイツ語版翻案脚色・演出ヴァルター・フェルゼンシュタインによる「フィガロの結婚」K.492、1976年7月4-8日、コミッシェ・オーパー・ベルリンにおけるライブ収録

−この映像は、見れば見るほど話の辻褄が良く合っており、まるで映画のように作られたライブであって、アンサンブル中心の劇進行重視型のドイツ語劇のようであり、特にスザンナを始めとする女性歌手陣が優れていた。このオペラの古典的な重要な映像の1つである−

(最新入手のDVD記録;フェルゼンシュタインの追悼公演の「フィガロの結婚」)
9-6-2、ゲーツア・オーバーフランク指揮コミッシェ・オーパー・ベルリン管弦楽団、ドイツ語版翻案脚色・演出ヴァルター・フェルゼンシュタインによる「フィガロの結婚」K.492、1976年7月4-8日、コミッシェ・オーパー・ベルリンにおけるライブ収録、
(配役)フィガロ;ヨージェフ・デネ、スザンナ;ウルズラ・ラインハルト=キス、伯爵;ウヴェ・クライシヒ、伯爵夫人;マグダレーナ・ファレヴィチ、ケルビーノ;ウテ・トレケル=ブルクハルト、マルチェリーナ;ルート・ショブ=リプカ、その他、
(09年4月、ドリームライフDVD、DLVC-1067、カラー・ステレオ、)

 今日の演出家優勢の時代を基礎づけたとされるヴィーラント・ワグナーと並び称されてきた優れた演出家ヴァルター・フェルゼンシュタイン(1901〜1975)による演出の「フィガロの結婚」のDVDを、偶然、行きつけの新星堂で入手した。制作はドリームライフで、フェルゼンシュタインの生誕100周年記念と書かれていた。フェルゼンシュタインのこの「フィガロの結婚」の演出は、1975年2月26日にコーミッシェ・オーパー・ベルリンで初演され大反響を呼んでいたが、彼はそれから間もない75年10月8日に亡くなっていた。彼の多大な功績を記念して、劇場にはブロンズとリリーフが飾られ、今回の追悼のTV版の完全収録がゲオーク・ミールケ監督によって76年7月になされた。この時期はドイツ統合直前の時期に当たる物資入手の困難期であったため、解説によると「幻の映像」とされる貴重なものとされている。
  フェルゼンシュタインは、47年にコーミッシェ・オーパーの総監督に就任しているが、50年に「フィガロの結婚」の自らのドイツ語訳で演出しており、今回の演出もやはりドイツ語による新たに見直されたものであった。映像はやや古さが目立つがカラーのステレオ録音であり、収録時間が167分で短く一枚のDVDに収まっていた。一見したところでは、衣裳は現代に近く、歌手陣の動きがとても良く、ライブであるのに演技にも歌唱にも全く乱れがなく、無駄のない早めのテンポで進み、鍛えられた演奏であると感じさせていた。この映像は、ベーム・ポネルの映像(1976)と並ぶ同時期の東ドイツの作品であり、「フィガロの結婚」の映像の評価に欠かせない重要な映像であると思われた。



 このDVDは、客席から始まりオペラ開幕前の華やかな雰囲気を伝えていたが、幕が閉じたままで拍手により指揮者が登場し、直ちに序曲が早めのテンポで軽やかに開始された。その間、カメラは古い劇場の天井や壁に飾られている天使や聖母の美しい彫刻を写し出していた。序曲が緊迫感を持って進行し終了すると、幕がゆっくりと両側に開いて、ワンテンポ落として第一曲のオーケストラが開始されて廣い舞台ではフィガロとスザンナが何やら歌いながら動き回っていた。良く見ると階段の下の物置のような部屋に大きな椅子があり、スザンナが髪飾りらしきものを手にし、フィガロが床を這い回っていたが、言葉が今一ついつもと違って調子が合わない。ドイツ語なんだと気がついて、ベッドの話からデインデインの二重唱になって、フィガロが歌い出し、スザンナが引き継いで大きな声でドンドンと歌うとさすがの鈍いフィガロも気がついて真剣な表情で話を聞こうとしていた。そしてフィガロは考えだし、やがてチェンバロとチェロの伴奏で「ご主人様よ、もし踊りを踊られるなら」と闘争心むき出しでアリアを歌って、大きな拍手を浴びていた。



  フィガロと入れ替えに大きな帽子がよく似合うマルチェリーナと太ったバルトロが登場し、バルトロは彼女の依頼を調子よく引き受けて「復讐だ!」とご機嫌で騒ぎ出し、「敵はフィガロだ!」と歌っていた。そこへスザンナが姿を見せると、マルチェリーナとの口喧嘩が勢いよくドイツ語で始まって面白いが、ここでは若いスザンナに軍配が上がった。スザンナがホットしているとズボン姿がよく似合うケルビーノが現れて、スザンナと伯爵夫人のリボンの取り合いになって一騒動。替わりにカンツオネッタを渡して、お城の女性たちに聞かせてくれと、狂ったように「自分で自分が分からない」と歌っていると、伯爵が現れるので、さあ大変。



  伯爵はケルビーノに気付かずにスザンナを口説き出すと、あたりをウロウロしていたバジリオが現れるので、伯爵は思わず椅子の陰に身を隠す。しかし、バジリオの話が伯爵夫人の噂になり、その噂は皆が言っていることだとなったので、伯爵は思わず大声を出して立ち上がってしまい、面白おかしい三重唱が始まった。伯爵が「ケルビーノを追い出せ」と息巻いて三人で歌っている間に、椅子に隠れていたケルビーノが見つかってしまうが、その場はフィガロが連れてきた農民たちの合唱に何とか救われた。フィガロは伯爵にスザンナの髪飾りを着けて貰おうと企んでいたが、伯爵が逃げてしまったので皆から怨まれる。そしてそこに居合わせたケルビーノは、連隊の士官に任命されてしまった。そこでフィガロは、「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」とケルビーノに少し手荒な激励をし、後半には行進曲で盛り上がりを見せて、第一幕が終了した。フェルゼンシュタインの演出では、登場人物たち全員が、とても生き生きとして動作が素早いので話の辻褄が良く合い、説得力のある舞台が展開されていた。



    第二幕は続けて始まり廣い伯爵夫人の居間で、美しいオーケストラの前奏に乗って夫人が「愛の神よ」と歌い出し一人沈んでいると、フィガロが現れ伯爵の企みに対抗する案を考え出すが、女二人はケルビーノを女装させることに賛成して計画は動き出す。約束通りケルビーノが部屋に現れると、直ぐにスザンナの弾くギターの伴奏で、夫人のために「恋の歌」を歌って夫人に「ブラボー、良い声ね」と誉められていた。それからスザンナが喜々として着せ替えのアリアを面白おかしく歌いながら、夫人の前でケルビーノをおもちゃにし、帽子を被せられて鏡の前でウロウロ。腕に巻いた伯爵夫人のリボンが見つかってケルビーノが言い訳をしてどうなるかと思って心配していた矢先に、伯爵の声がしたので、さあ大変。ケルビーノは慌てて衣裳部屋に逃げ込んだ。



    伯爵は夫人が何か隠していると見破って、夫人の言い訳を無視して衣裳部屋の前で、「スザンナ、出てこい」と息巻いて三重唱が始まるが、夫人は体を張って部屋に入れぬよう守るので、スザンナが呆れるほど激しい三重唱となっていた。部屋を開ける工具を取りに部屋を出た隙に、スザンナとケルビーノの「早く、早く」の大慌ての二重唱となり、ケルビーノが窓から飛び降りて一目散。工具を取って部屋に戻るとスザンナではないと気がついた伯爵が夫人を責め、子供です、ケルビーノを女装させていたと聞いて伯爵は気が狂ったように怒りだし、「出てこい、悪太郎」とフィナーレの三重唱が始まった。そして必死で弁解する夫人とその話も聞かずに剣を抜いて大声を上げる伯爵の前に、スザンナがスマした顔で現れたので二人はビックリ仰天した。伯爵がスザンナだけかと部屋を確かめている隙に、スザンナはケルビーノが逃げて入れ替わったことを夫人に告げると、謝る伯爵に対し女二人は強くなり、散々伯爵を懲らしめる。最後には「ロジーナ、許せ」と伯爵はひざまずく有り様で、許さざるを得なくなった時にフィガロが楽士たちを連れて現れた。



 伯爵はフィガロにこの手紙は何だと問いただす。ばれてしまったと女二人が知らせてもフィガロは知らぬ存ぜぬを通すので、伯爵は怒り出すがそこへアントニオが二階から男が飛び降りたと訴えて来た。フィガロはケルビーノだとスザンナから聞き出すが、俺がやったと云い出し、アントニオと口論の五重唱。ビッコをひいて説明すると、この落とし物は何か、とまたしても大難題。しかし、女二人のリレー作戦で、印鑑のない辞令だと何とか逃げおおせて一安心。 そこへマルチェリーナ他二人が契約の履行と裁判を求めて登場したので、伯爵は大喜びし、舞台は三人対四人の七重唱となって素晴らしい盛り上がをみせて、結論は裁判だと云うことになって第二幕は賑やかな幕切れとなった。



 劇場はここで休憩となり、フェルゼンシュタインのブロンズ像や年代別の展示物が写され、華やかな劇場の風景が写し出されてから、第三幕が始まった。舞台は伯爵の部屋で、伯爵は歩きながら一人で腑に落ちぬことが起こりすぎると考え込んでいた。一方、伯爵夫人はスザンナに伯爵と逢い引きの約束を取り付けるように頼み、スザンナは気付け薬を口実に伯爵に近づいた。機嫌の悪い伯爵の気を惹きながら、ご主人さまの御意のままですという素直なスザンナに伯爵は早速口説きだした。ハイと言ったりノーと答えたりしながらの二重唱となって何とか約束を取り付け、帰りがけにスザンナがフィガロに遭って、訴訟に勝ったと漏らしてしまう。伯爵はそれを聞きつけて騙されたかと怒りだし、自由にならぬ召使いへの怒りを歌い復讐への願いを強く歌って、堂々たるアリアに拍手が沸いていた。



 そこへ判決が出たとクルチオを先頭にマルチェリーナ、バルトロ、フィガロが登場し、2000金を払うか結婚かという結論が出たとして、フィガロ一人が抗議しており、悔し紛れに俺は貴族の盗まれた子で、結婚には両親の了解が必要だと騒いでいた。そしてその証拠に右腕に痣があると腕を捲った途端にマルチェリーナが驚いて、私の子ラファエロだと言い出した。そこへスザンナが2000金を持って駆けつけてきたが、マルチェリーナとフィガロが抱き合って喜んでいるのを見て、フィガロを平手打ち。しかし理由が分かって四人はザイネ・ムッター、ザイネ・ファーターを繰り返して四重唱となり喜び合っていた。
 ケルビーノがセビリアに行かずバルバリーナに付き合う姿を見せてから、伯爵夫人が一人になって、自分が女中の着物を着て伯爵を待つという情けなさを嘆いて「あの幸せなときは何処」と素晴らしいアリアを歌っていた。そしてスザンナから伯爵との話を聞き、夜に庭で会う場所を指定して手紙を書くことになり、夫人の口述をスザンナが復唱しながら手紙に書く「手紙の二重唱」になり、その独特の美しい二重唱に会場を沸かせていた。



 村の娘たちが集まって伯爵夫人にお花を捧げていると一人見慣れぬ女の子がおり、夫人が声を掛けると、アントニオが現れてケルビーノであることがばれて驚いていた。伯爵が咎めようとするとバルバリーナが必死にかばって、殿様にケルビーノを婿にくれと言い出すハプニングがあって驚きの連続。ケルビーノが窓から飛び降りたと白状して、フィガロと伯爵があわやとなりかけたが、ここでも行進曲に救われた。結婚の二組が揃い、伯爵夫妻が花嫁に白い髪飾りをかぶせ、二人の娘たちに祝福を浴びてから、スザンナが伯爵に手紙を渡すシーンがあり、お祝いの踊りが始まった。手紙を見て伯爵はご機嫌になり、皆に「今宵は盛大に祝おう」と挨拶をして、第三幕は終わりとなった。



 第四幕はバルバリーナが這うようにしてピンを探すアリアから始まる。フィガロが気がついてバルバリーナからスザンナと伯爵の松の木の逢い引きの話を聞き出して、マルチェリーナに慰められるが、新婚の夜にと怒りを増していた。ここで、慣例通りマルチェリーナとバジリオのアリアは省略され、順番を変えてスザンナのアリアが始まった。静かなピッチカートとオーボエのソロに乗って、このアリアは非常に美しく晴れやかに歌われていた。続いてフィガロの怒りのアリアが歌われてから、伯爵夫人がスザンナに変装したフィナーレが始まった。



 ケルビーノがいち早くこの伯爵夫人を見つけ、スザンアと思い込んでしつこくまとわりついた。夫人が持て余していると伯爵がそれを見つけ、邪魔なケルビーノを殴りつけると、通りかかったフィガロに当たるというオマケが付いて、伯爵はやっとスザンナと二人になり、手を取って口説きだした。そして調子がついて喜びの余りダイヤの指輪までサービスしてしまう。それを見ていたフィガロは怒りだし、見つかってしまうので、夫人は逃げ帰ってしまう。フィガロは奥方を見つけて声を掛けると、声色でスザンナであることが分かり、懲らしめてやろうとその奥方を口説いて見せ、スザンナを怒らせて逆に散々殴られてしまうが、無事に二人は仲直り。通りかかった伯爵にフィガロが奥方を口説こうとする演技をすると、伯爵はそれを信じ込んで「密通だ!」と大声を上げてしまった。二人が謝っても許さずにますます激しく怒り出し、ついに「絶対に許せない」と叫んでしまった。そこへ後ろから伯爵夫人が現れて声を掛けると、伯爵はビックリ仰天。深々と頭を下げて、「ロジーナ、許しておくれ」と謝ったので、夫人は「私が怒れましょうか」となって、全員監視の中で、無事、めでたしめでたしになり、全員集合の大合唱となって終幕となっていた。この第四幕の屋敷の庭の舞台作りは実に丁寧に作られており、暗がりの中のかくれんぼのようなシナリオを、筋書き通りに実に上手に矛盾なく描いて見せていた。
 この舞台では、カーテンコールは一部だけが写され、始めに指揮者が舞台でオーケストラの団員を起立させて観客に応え、続いてフィガロとスザンナ、伯爵と伯爵夫人、ケルビーノとバルバリーナ、バルトロとマルチェリーナの四組のペアー、最後にバジリオ、アントニオ、クルチオの三人が挨拶をして幕となっていた。



  フェルゼンシュタインのこの映像を何回か繰り返して良く見たが、見れば見るほど話の辻褄が良く合っており、まるで映画のように作られたライブとなっていて感心させられた。例えば、フィガロが幾つかの場所で猛烈な平手打ちを食ったり、スザンナがムキになって口喧嘩したり、ケルビーノがタイミング良く動き回ったりするところに現れていた。オペラ歌手として有名な人はいなかったが、歌は何とかこなしており、逆に演技の方は抜群の方々のように見えた。舞台装置も小道具なども実に上手に用意されており、映像としては最も古い40年前の舞台なので、多くの演出家が参考にして演出しているものと思われる。



  実は私は、フェルゼンシュタインのドイツ語の「フィガロ」を04年9月17日にシュヴェツインゲン音楽祭のロココ劇場で見たことがあり、また、04年2月4日にウイーンのフォルクスオーパーで、やはりドイツ語の「フィガロ」を見たことがあった。両方とも小劇場の小舞台のかぶりつきで見ており、鉄砲玉のようにドイツ語が飛び交う動きがキビキビした活気ある舞台で、シュターツオーパーなどの大劇場のオペラとは印象が異なることを実感していたが、このDVDもこれらと同系統のものであった。
 同じオペラブッファでも、一般にウイーン国立劇場などの大劇場とコーミッシェ・オーパーなどの小劇場とでは、舞台のスタイルやニュアンスを異にしている。大劇場では大舞台で大歌手中心のアリア重視型であるに対し、フォルクスオーパーなどでは、狭い舞台で大勢のアンサンブル中心の劇進行重視型であり、ドイツ語で劇が進行される。このフェルゼンシュタインの「フィガロ」はクローズアップが多いDVDになっているが、まさしく後者の小劇場型を代表する「フィガロの結婚」であろうと思われる。

 この映像では歌手陣のうち、スザンナ、伯爵夫人、ケルビーノ、マルチェリーナなどの女性歌手陣の動きも歌も良く、魅力的であったと感じているが、中でもケルン音楽院やモーツアルテウムで学んだスザンナのラインハルト=キスが素晴らしいと思われた。この長いオペラを167分のDVD一枚に収録して値段も安くなっているのは上出来であり、古い映像のDVD化はすべてこのような趣向でやっていただけば有り難いと思っている。

(以上)(09/06/06)


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