(最新入手のDVD記録;レヴァイン指揮ポネル演出のザルツブルグ音楽祭の「魔笛」」)
9-5-3、ジェームズ・レヴァイン指揮、ジャン=ピエール・ポネル演出、ウイーンフイル及びウイーン国立歌劇場合唱団、82年ザルツブルグ音楽祭における「魔笛」K.620、

−レヴァインのゆっくりしたテンポの暖かみのある指揮に加えて、ポネルの説明力豊かな演出が丁寧に行われ、通常カットされるセリフも収録されており、リブレットに忠実な基本的な映像で、今となっては後世に残る貴重なものと言える。−


(最新入手のDVD記録;レヴァイン指揮ポネル演出のザルツブルグ音楽祭の「魔笛」)
9-5-3、ジェームズ・レヴァイン指揮、ジャン=ピエール・ポネル演出、ウイーンフイル及びウイーン国立歌劇場合唱団、82年ザルツブルグ音楽祭における「魔笛」K.620、1982年8月21日、フェルゼンライトシューレ、
(配役)ザラストロ;マルッテイ・タルヴェラ、タミーノ;ペーター・シュライヤー、弁者;ワルター・ベリー、夜の女王;エデイタ・グルベローヴァ、パミーナ;イレアーナ・コトルバス、パパゲーノ;クリステイアン・ベッシュ、パパゲーナ;グドルン・ジーバー、
(09年2月、スタンダードオペラ20としてDVD発売、DENON、TOBA-80940-1、) 

 このレヴァイン指揮ポネル演出の82年ザルツブルグ音楽祭の「魔笛」の映像は、私の「魔笛」のエアチェック映像の第1号であり、異色とも言えるフェルゼンライトシューレの幅の広い舞台を巧みに使ったポネルの演出が非常に印象的であった。音楽祭のせいか、弁者や三人の侍女に至るまでスター歌手が揃った豪華なキャストであり、レヴァインの音楽もゆったりとした暖かみのある演奏で、感動的な「魔笛」であると思われた。  レヴァインはカラヤンに見出されてこの音楽祭に初めて参加し、1978年からポネルとのコンビで「魔笛」を振っていた。ザルツブルグ音楽祭を語るドキュメンタリーの第二部(カラヤンの時代) で、レヴァインは次のように語っていた。「演出家ポネルとのコラボレーションで新しい演目が沢山あり、特にポネルとは「魔笛」を9年間に51回も振った。また、パパゲーノのベッシュとは50回も一緒だったと語り、信頼する歌手と共演するのが実に楽しく、ザルツブルグ音楽祭は他では味わえぬ特別な時間だといつも感じていた」。
 以上の通り、この「魔笛」のDVDの映像は、「魔笛」の映像を語る際に或いはザルツブルグ音楽祭を語るときに最初に出てくる古典的・標準的な映像となっており、伝統を築き上げたポネルの演出と、グルベローヴァをはじめ、コトルバス、シュライヤーなどのスター歌手の飛び切りの歌と演技を楽しむ映像となっている。私は91年3月にNHKの放送でS-VHSに収録していたが、この度廉価版のDVDで新発売されたので、これを機会にアップロードすることにした。



 DVDは岩をくり貫いたように見える幕なしの幅廣い舞台の大写しから始まり、レヴァインが登場していきなり序曲が始まった。一音一音区切った三和音の出だしが非常に遅いが迫力に満ち、レヴァインがにこにこしながら指揮をしていた。続く弦のアレグロが何と早いことと驚いているうちにフルートもオーボエも良く響いて軽快な序曲が進行し、音楽は続いて第一曲に突入していた。タミーノがのそのそ動く顔だけの大蛇に追われて倒れてしまうが、三人の従女が現れて大蛇が倒されてしまう。元気の良い従女だと思っていたら、うら若きアン・マレイが、第二の従女を歌っているのを発見して凄いと思った。三人の動きの良い従女が歌う三重唱に聴き惚れていると、倒れていたタミーノが動き出す。大蛇が倒れているのを見つけて驚いていると怪しげなパパゲーノが笛を自分で吹きながら現れ「俺は鳥刺し」を歌い出し、歌いながら鳥を上手く捕えるので観客は大喜びだった。



 続いて王子タミーノと鳥刺しパパゲーノの、通常は省略される部分を含めた長い対話が面白く、力持ちのパパゲーノが大蛇を殺したことになった。三人の従女が現れて、パパゲーノを懲らしめて、タミーノにはパミーナの絵姿が渡される。王子はその絵姿に見とれてしまい、その想いをアリアで歌うが、やや老けた王子ではあるが動きも歌も朗々として立派であった。三人の従女は女王が助けを求めていると伝え、タミーノはパミーナを助けに行くと約束した途端に、大きな雷鳴と共に夜の女王が登場した。そして長いレチタテイーヴォで若者に語りかけ、輝く星空を背景にして「貴方なら救えるわ」と最高音を駆使したアリアを歌っていた。パパゲーノが口に錠前を掛けられ口がきけないで「ム、ム、ム」と騒いでいると、三人の従女が女王からお許しが出たと五重唱に変わり、タミーノには笛が、逃げようとしたパパゲーノには銀の鈴が渡されて、二人はパミーナを助けに出発した。
 場面が変わって黒人たちが大騒ぎしていると、モノスタトスがパミーナを連れて現れ、パミーナと二人になって悪さをしようとしているところへパパゲーノがひょっこり顔を出し、お互いに見たこともない黒人対鳥人の驚きのおかしな三重唱となっていた。一人で泣いていたパミーノをパパゲーノが慰め、一方、独身のパパゲーノをパミーナが慰める有名な二重唱が始まったが、この二重唱は実に真に迫って歌われて、本当は早く逃げなければいけない場面なのに、こんなにゆったりと歌って良いのかしらと少し気になった。


  フィナーレは三人の童子が岩壁伝いで登場して開始され、タミーノに男らしく毅然として臨めと三重唱で教えていた。三つの入口が地下から現れ、タミーノが向かおうとすると「下がれ」と脅される。最後に中央の入口に向かうと弁者が出てきて、禅問答が始まるが、最後に女に騙されたなと諭された。「パミーナは生きているか」の問いには弁者は答えてくれず、姿のない声が合唱で「生きている」と励ましてくれた。勇気を奮って感謝のつもりで笛を吹くと、ライオンたちが出てきて踊り出すが、最後にパパゲーノの笛が遠くから聞こえて勇気100倍。入れ違いにパパゲーノとパミーナが現れて笛を吹いてるうちに、モノスタトス一行に囲まれてしまう。しかし、パパゲーノが銀の鈴を鳴らすと、グロッケンシュピールの美しい音が聞こえて、土人たちは踊り出してしまった。


  そこへ行進曲が聞こえ、ザラストロ万歳の掛け声でザラストロが登場する。パミーナは急に王女らしくなり、堂々とありのままを告白して許されたが、ザラストロが母親から引き離すと語っていた時に、岩山の壁陰で夜の女王が心配げに様子をじっと見守っているのが写されていた。タミーノがモノスタトスに捕まってザラストロの前に連れられてきたが、ここでパミーナに初めて会い、二人は思わず抱き合ってしまった。その姿を見て、ザラストロはタミーノとパパゲーノに試練を与えると命じて連れ去って第一幕が終了した。いつもは省略されるセリフの部分が丁寧に扱われていたので、この映像独自の特色が出て面白く新鮮味があった。





  第二幕は僧侶たちが集まっており、緩やかであるが厳かな行進曲で始まり、三和音に続いてザラストロのソロで演説調の厳しいアリアが歌われ、意見が交わされて新来のタミーノとパパゲーノを仲間にするための試練を受けさせることになった。二人を連れて導く二人の僧侶が、女の企みに気をつけよ、沈黙を守れと諭す二重唱があってから、二人は暗闇の中を歩き出した。そこへ三人の従女が声を掛けて誘惑してくる五重唱となったが、二人は沈黙を守って三人を無視して、事なきを得た。また三和音が聞こえて、目隠しをされた二人は僧侶に連れられて次の試練へと進んだ。




  場面が変わって、モノスタトスがパミーナの眠って休んでいる姿を見つけて、抱きたい、キスしたいと狂ったように歌い出し、襲おうとしたときに月が出て明るくなり、夜の女王が登場した。女王はパミーナに、もうお前を守れなくなった。お父さんがザラストロに太陽の力を渡したからだと語り、太陽が昇る前に地下を通って逃げよと娘に語っていた。このような母と娘の対話があるのは珍しく、娘が王子を愛していることを知った女王は、ザラストロ側に就いた王子を愛するとはと怒り、ザラストロを殺さねばもはや母と娘ではないと復讐のアリアを歌った。グルベローヴァの声は、若々しい声が良く伸びて、さすがと思わせる最高の出来で、万雷の拍手を浴びていた。隠れていたモノスタトスがまた現れて、パミーナに俺に惚れろと脅し出すと、急に明るくなってザラストロが登場し、モノスタトスを追い払い、そしてパミーナに王子と共に神殿に残れと諭していたが、その間に後ろの岩陰で、夜の女王とモノスタトスの姿が見えていたのは、初めて見る演出であった。




  場面が変わって、二人の僧侶に連れられたタミーノとパパゲーノが、ラッパが鳴ったら歩き出せ、沈黙を守れと諭されていた。水の一杯も飲めぬとパパゲーノがこぼすと、コップ一杯の水が差し出されたので、振り向くと18歳と2分の婆さんで、パパゲーノがからかいながら名を聞こうとすると雷鳴が鳴り響き、桑原・桑原となった。二人が我慢していると、岩陰から三人の童子が現れて、食べて飲んでくれと励ましてくれ、タミーノには「勇気だ、ゴールは直ぐだ」と言い、パパゲーノには「沈黙を守れ」と教えていた。





 パパゲーノが食事にありつき、タミーノが笛を吹き出すと早速パミーナが現れ、問いかけても答えない二人を見て悲しみ、パミーナは死よりも悲しいと美しいアリアを歌い出した。コトルバスの最高のアリアとなって、もう死しかないとタミーノに迫って大拍手であった。俺でも沈黙を守れたと、パパゲーノが威張ると三つの和音が遠くから聞こえ、パパゲーノがライオンに襲われるが、タミーノの笛の音で助けられて、温和しくなった。




 再び三つの和音が聞こえると、遠くで僧侶たちのイシス・オリシスの神々を讃える合唱が響き、暗闇は太陽の前に消えたと歌い、王子の頑張りを讃えていた。
 ザラストロは三重唱でタミーノに危険な道がまだ二つ残されていることを告げたが、パミーナが現れても、タミーノは男らしく神々を信じて進む決意を示し、二人は再び離された。一方のパパゲーノは、タミーノの名を呼びながらオーケストラ席から出てきて舞台を探しているが、どこからも下がれ!と言われ、ついに指揮者レヴァインにも下がれ!と言われて途方に暮れた。最後に案内の僧侶が助けてくれて、大好きな酒を飲んでやっと元気が出てきた。あと何かがあれば大満足だと考えていると、レヴァインがチェレスタで「娘か女房があったら」の前奏を弾き始めてパパゲーノの有名なアリアが始まり、威勢良く楽しく歌われていた。そこへ婆さんが現れて、ここで誠実を誓うならと握手を求められ、不承不承に握手をすると、若い娘のパパゲーナが現れるという一幕があって、皆大喜び。このパパゲーノとパパゲーナの一連の演技は大変な人気を呼んでおり、クリステイアン・ベッシュのパパゲーノは、50回も続いたと語り草になっていた。










     フィナーレに入って三人の童子の三重唱が太陽の時期のの到来を予言し、ナイフを持った半狂乱のパミーナを見つけて介抱し、タミーノに合わせると約束していた。場面が変わって、二人の衛兵に守られた神殿の入り口で、衛兵からこの道だとタミーノは告げられる。衛兵の巨大な陰が岩陰のアーチに写され、素晴らしい演出効果をあげていた。そこへパミーノが駆けつけて、二人は再会し始めて言葉を交わすことを許され、手を取り合ってこの道を進もうと言うことになった。パミーナが先導し、パミーナの父がくり貫いた魔法の笛をタミーノが吹きながら試練を受けようと知恵をさずけ、二人は壁面の通路の火の地獄と水の地獄を手を取り合ってくぐり抜け、試練を克服した。神殿では大合唱が響きわたって二人を祝福し、太陽のザラストロの世界の勝利を告げていた。



 場面は一転してパパゲーノが登場。一目見たパパゲーナを探して追いかけてきたが見つからず、絶望の余り自殺しようとしていたが、三人童子に銀の鈴を振ってご覧!と知恵を付けられ、鈴を鳴らすとパパゲーナが現れた。感動の余りお互いにパ・パ・パとしか声が出ない二人の愛の二重唱となって場内は大喜びで大拍手となっていた。





 続いて夜の女王とモノスタトスの一行が神殿に潜入するが、激しい雷鳴の一撃に遭って倒されてしまい、舞台は明るい太陽の神殿に様変わりしていた。ザラストロが全員の前で高らかに勝利の宣言を行い、神殿の中央に現れた王子タミーノとパミーナの二人を祝福し、大合唱がこだましていた。しかし、この演出では良く見ると、ザラストロが胸の太陽の楯を外してタミーノの胸に掛けてやり、自らはガウンを脱ぎカツラを外して一老人の姿になっていたが、これはザラストロが勇退して、タミーノに太陽の国を譲ろうとする権力者の交替を暗示しているように見えていた。



 このレヴァイン・ポネルの魔笛は、第一幕に81分、第二幕に107分を要したDVD2枚の合計188分の長い演奏であり、DVD で1枚の150分前後で収録される魔笛に較べると大変な長さであった。これはレヴァインの指揮振りがゆっくりしたテンポの暖かみのある演奏に加えて、ポネルの説明力豊かな演出が丁寧に行われていたからであり、通常カットされるセリフも収録されていて改めて驚かされることが多かった。また第二幕では、試練の度に三和音が響いており、時間がかかっていた。その意味ではリブレットに忠実な基本的な「魔笛」の映像であり、今となっては後世に残る貴重な映像と言えよう。



 ザルツブルグの背後の岩山を穿って作られたこの野外劇場は、岩肌に彫られた何層ものアーチが背後に重なっており、これを開閉したり照明を工夫したりして、幻想的な雰囲気を醸し出し、メルヒェンの世界の造出に役立っていた。舞台の進展に合わせた太陽の国の神殿の姿や、僧侶たちの大集団の儀式、衛兵の巨大な陰、火と水の試練の場、暗黒の世界の造出などは、この廣い屋外のフェルゼンライトシューレでなければ不可能な演出であったと言えよう。既に「フィガロ」の映像(映画版)を完成させていたポネルは、レヴァインとのコンビで「テイト」を制作し、「コシ」や「ミトリダーテ」に着手することになるが、この音楽祭ライブではレヴァインと並んで今は亡きポネルの観客に応える姿が写されており、極めて印象的であった。

 レヴァインの魔笛は、NYメットの二つの映像(1991年、アライサとバトル)および(2006年、テイモア演出、8-1-3)の3度の魔笛の映像があるが、この中ではこのポネルとの映像が最もレヴァインの存在感が発揮されており、音楽面ばかりでなくパパゲーノのベッシュとの舞台上のやり取りなど観客へのサービスに努めて人気を高めたものであった。
 シュライヤー、コトルバス、グルベローヴァ、タルヴェラなどのスター歌手を揃えた歌手陣の熱演には見事なものがあった。また、弁者にワルター・ベリー、従女にエッダ・モーザーとアン・マレイ、衛兵に現代最高のオスミン役のクルト・リドウルなどの名が見え、脇役といえども優れた人が揃っていた。その上、同じメンバーによる再演が音楽祭で繰り返されたため、安定した歌唱と演技による理想的なアンサンブルが築かされたものと思われる。パパゲーノのベッシュの活躍振りは特別なものがあったし、グルベローヴァの夜の女王はまれに見る最高の出来映えであったと思われた。映像ではクローズアップが多いので、欲を言えば、タミーノとパミーナがもっと若ければ理想的な映像になっていたように思う。

 私の魔笛の遍歴は、LP時代のクレンペラーのヤノヴィッツとポップの魔笛に始まり、レーザー・デイスクでエリクソンの映画版によるものとサヴァリッシュのポップとグルベローヴァの映像が最初期であり、放送録画でこのポネルの映像が加わり、これらの録音で自分なりの魔笛のイメージが固まっている。久し振りで懐かしい映像を状態の良いDVDで見て、この全編にみなぎる暖かみのある演奏や舞台が自分に合っていると、しみじみ感じさせてくれた。このHPの写真はとても良く撮れたと考えているが、画面の動きがゆっくりしており、写真の撮りやすい映像であると感じさせ、その意味でも優れた映像であった。

(以上)(09/05/26) 


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