(最新入手のDVD記録;テアトル・コムナーレにおける「フィガロの結婚」)
9-5-2、ズービン・メータ指揮フィレンツエ5月音楽祭管弦楽団&合唱団とジョナサン・ミラー演出の「フィガロの結婚」K.492、フィレンツエ歌劇場(テアトル・コムナーレ)におけるライブ収録、03年10月2−18日、

−このフィレンツエ歌劇場の「フィガロの結婚」は、全体としてゆっくりしたテンポで進み、歌手陣は伝統的な演出のゆったりとした落ち着きある雰囲気の中で伸び伸び歌っていた。これはズービン・メータの棒によるものが大きく、また、イタリア人歌手たちの生き生きとした母国語による語りや動きなどのテンポの良さが目につき、素晴らしい効果をあげていた。−


(最新入手のDVD記録;テアトル・コムナーレにおける「フィガロの結婚」)
9-5-2、ズービン・メータ指揮フィレンツエ5月音楽祭管弦楽団&合唱団とジョナサン・ミラー演出の「フィガロの結婚」K.492、フィレンツエ歌劇場(テアトル・コムナーレ)におけるライブ収録、03年10月2−18日、
(配役)フィガロ;ジョルジュ・スーリアン、スザンナ;パトリツイア・チョーフイ、伯爵;ルーチョ・ガッロ、伯爵夫人;エテーリ・グヴァザ−ヴァ、ケルビーノ;マリーナ・コンパラート、マルチェリーナ;ジョバンナ・ドナデイーニ、その他、
(09年2月、スタンダードオペラ20としてDVD発売、DENON、TOBA-81200-1、)

 この新しいDVDの「フィガロの結婚」は、2003年10月にフィレンツエ歌劇場で上演されたものである。フィレンツエ歌劇場はこのホームページでは初めてであり、ミラノやローマなどの多くもそうであるが、大半の歌手がイタリア人である。若い頃からずっとイタリアで活躍しているスーリアンばかりでなく、彼らは皆、ドイツ系の歌手に比べて声の音色が明るく開放的で、レチタテイーヴォ・セッコがどの瞬間も生き生きと自在に表現されているのが強みであるとされている。06年のモーツアルトイヤーでスカラ座の「フィガロ」と「ドン・ジョバンニ」をアップし、またナポリのサン・カルロ劇場の「イドメネオ」を見たことがあったが、イタリア語のレチタテイーヴォによる反応や動きが素晴らしく、スターばかりでなく、底辺のイタリアのオペラ界の歌手層が廣く厚いことを感じたものであった。
 イタリアの各地のオペラ劇場のモーツアルトのオペラ・ブッファは、概して伝統的な演出のものが多く、生き生きとしたイタリア語で語られ、アリアも地声を生かして朗々と歌われるものが多いが、この「フィガロの結婚」も一見したところ予想通りのものであった。大ヴェテランの指揮者メータの棒に乗って、悠々とした落ち着いた「フィガロの結婚」であり、フィガロもスザンナも実に明るくて活きが良く、伯爵も伯爵夫人もそれなりの風格があり、ケルビーノもマルチェリーナも元気一杯であった。



 DVDではメータが入場すると序曲が直ぐ開始される。弦の軽快なテンポで序曲が進行し、フルートやファゴットの響きも良く、序曲の終了と共に幕が開いた。大きな椅子の上でスザンナが頭に飾りを付けており、フィガロが忙しそうに大声で歌い出しながら動き回り、軽快に二重唱が始まっていた。フィガロがスザンナに気がついて手作りの帽子を誉めていると、すかさずベッドの話となり、二人は喧嘩腰となる。フィガロがデインデインの二重唱を歌い出し、スザンナが引き継いでドンドンと声を震わすと、フィガロも気が付きもっと話を聞きたいという。二人のレチタテイーヴォが始まり、チェンバロの賑やかな伴奏にやがてチェロも加わって、フィガロの怒りのアリアが朗々と生真面目に歌われて、会場から大きな拍手を浴びていた。ここまでは一気に進むが、この二人のコンビのはまり具合から、楽しいフィガロになりそうな予感がした。



 太めでピッタリのマルチェリーナとビッコをひいたバルトロが出てきて何やら怪しい頼み事。バルトロが昔の女の前で格好を付け、「復讐だ」と表情豊かにアリアを披露していた。そこへスザンナが顔を見せたので、二人の女が口喧嘩を始めるが、何と二人は生き生きしていることか。ここではどうやらスザンナの若さが勝利したようで、会場からは大拍手。そこへ格好の良いズボン姿のケルビーノが登場し、スザンナの持つリボンを取り上げ小競り合い。ケルビーノはお城の女性たち全員にお愛想を言って「自分で自分が分からない」と歌い、それがゆっくりと表情豊かだったので、凄い拍手を浴びていた。そこへ伯爵の声が聞こえる。ケルビーノが隠れると、誰もいないと知って伯爵が大胆にスザンナを口説き出す。バジリオの声が聞こえて、伯爵も身を隠すと、何と伯爵夫人のうわさ話。聞いていた伯爵が思わず声を出して立ち上がってしまい、さあ大変。
 おかしな三重唱が始まるが、鋭いバジリオは、どうやらケルビーノが隠れていることを嗅ぎ付けていた。スザンナが大きな悲鳴を上げても間に合わず、ケルビーノが見つかってしまう面白い演出。バジリオが「コシ・ファントッテ」と歌い、どうなるかと心配したが、村の仲間たちの合唱でこの場は救われた。フィガロは皆で伯爵を担ぎ上げて、スザンナとの結婚を認めさせようとしたが、挙式は約束するものの、もう少し時間をくれと逃げられた。ケルビーノが罰として伯爵から空席のある連隊の士官に任命されて、フィガロから手厳しい激励のアリアを贈られたが、このアリアが実に堂々と元気よく歌われ、やがて行進曲にもなって最後のカデンツアも勇ましく、大拍手の中で第一幕が終了した。



 第二幕は美しいオーケストラの前奏の間に、笑顔が美しい若い伯爵夫人が登場し、悲しげに「愛の神よ」とアリアを歌っていた。スザンナに伯爵の変わり様をこぼしていると、フィガロが登場し殿様を懲らしめようと相談し提案するうちに、ケルビーノを女装させることで女二人は納得し、フィガロは意気揚々と歌いながら引きあげる。ケルビーノが正装して伯爵夫人の部屋に入り、スザンナに催促されて、憧れの夫人の前でアリアを歌った。良い声で快いテンポで軽快に歌われ、後半には度胸がついて夫人の傍で歌って上機嫌。ブラボーのついたこの日一番の大拍手で会場が大騒ぎとなっていた。  スザンナが部屋にカギを掛け、夫人の見ている前で、ケルビーノを相手に女装させながらアリアを歌い、歩かせたり踊らせたりして大笑い。ケルビーノの腕にリボンがあることから、ケルビーノが伯爵夫人に迫りかけたところに、伯爵の声が聞こえた。さあ大変。



 伯爵が「スザンナ、出てこい」と大騒ぎして三重唱が始まるが、伯爵夫人が名誉を賭けて必死に頑張り抜くので、伯爵は自分でドアを開けるため、夫人を連れて工具を取りに部屋を出た。その間一髪の間に、「早く、早く」とスザンナとケルビーノの見事な演技と二重唱が始まって、走り回りながらケルビーノが悲鳴と共に窓から飛び下りて一安心。伯爵は、スザンナではないなと気がつき、夫人を責めると、子供の話からケルビーノと聞いて大怒りとなり、「悪童め、出てこい」となって第二幕の長いフィナーレが始まる。「奴は死ぬのだ」と怒って鍵を手にしたところに、スザンナが「シニョーレ」と何食わぬ顔で出てきたので、真剣な伯爵と夫人は大驚き。伯爵が小部屋に入った隙にスザンナが伯爵夫人にケルビーノが窓から逃げたことを説明。女二人は急に強くなり、許せと迫る伯爵をはねつける長い三重唱が続くが、風向きが変わったところへフィガロが楽士を連れて登場した。

 しめたとばかり喜ぶ伯爵が、早速フィガロにこの手紙を知ってるかと尋ね、ばれているのに知らぬ存ぜぬのフィガロに対し伯爵はカンカンになった。そして、音楽も次第に重低音になりあわやと思われたところへ、顔が真っ赤なアントニオがバルコニーから人が降ってきたと訴えて、場面はヘンテコな五重唱に。飛び降りたのは俺だとフィガロがつくろうが、この書類は何だとまた大難題。女二人の機転で、フィガロは何とか言い逃れたが、伯爵はカンカンでおさまらない。そこへやっとマルチエリーナ一行が登場して、殿様に契約の履行を迫る賑やかな七重唱となった。伯爵は上機嫌で裁くのは私だと大声を上げて盛り上がり、長い長い第二幕が終了となった。



 第三幕は頻りに考え込んでいる伯爵の独り言から始まる。スザンナが伯爵夫人から頼まれて、機嫌の悪い伯爵に近づき、気付け薬の話から「殿の望みは私の義務です」と答えたことから話が弾み、イエスと言ったりノーと言ったりの二重唱となった。別れてからすれ違ったフィガロに、スザンナが「裁判に勝った」と漏らしたのを聞いた伯爵が、怒りながら歌う激しいアリアが朗々と歌われて賑やかな拍手があった。場面が変わり、バルバリーナとケルビーノが仲良く顔を出してから、伯爵夫人のレチタテイーヴォとアリアが歌われ、余りにも美しく生真面目に歌われたので、一瞬、場違いのような感じを受けた。
 しかし、「判決が出た」とクルツイオがどもりながら登場し、金を返すか結婚するかとなったが、フィガロが一人盗まれた貴族の子供だと言って親の承諾が要ると言い張っていた。そして証拠にと見せた右腕の傷がきっかけとなり、マルチェリーナが我が子のラファエロだと言い出す。そこで面白おかしい親子対面となり、抱き合っているところにスザンナがお金を持って登場し、それを見てフィガロを平手打ちにしたが、事情が分かって何とも珍妙なマードレ、パードレの六重唱になっていた。



 伯爵夫人はスザンナからどんな話をしたかを聞き、合う場所を指定する手紙を書くことにして、夫人が口述しスザンナが書きながら歌う「手紙の二重唱」が始まった。松の木の下でと同じセリフを繰り返す二重唱は実に美しく、ピンで封をして、このピンを返すようにと念入りであった。そこへ村の娘たちが花束を持って伯爵夫人に献げようとしていたが、一人見慣れぬ顔があり、アントニオが駆けつけて、ケルビーノを伯爵に引き渡す。バルバリーナが皆の前で伯爵からケルビーノをもらい受け、伯爵がケルビーノが飛び降りたと白状したとフィガロに迫って、二人は爆発寸前になっていたが、結婚式の行進曲に救われていた。二人の村娘の二重唱で二組の花嫁にヴェールが飾られて、スザンナが手紙を伯爵に渡して、全員の踊りと合唱が始まり、伯爵の挨拶があって賑やかな婚礼の儀式が終了した。



 第四幕はバルバリーナのアリアで始まるが、バルバリーナは良く活躍しており歌も上手かった。そこへフィガロが登場し、マルチェリーナのピンを貰ってバルバリーナに渡し、伯爵が「これが松の木の封だ」と言ってスザンナに渡せと語ったことを聞き出す。スザンナの伯爵との逢い引きの事実を知ったフィガロは、にわか母親のマルチェリーナの慰めも聞かずに怒りが頂点に達して、結婚式の夜にとスザンナを怨むアリアを歌い出した。このアリアも良いテンポで歌われ、フィガロの大アリアになって、さすがフィガロと大拍手であった。舞台は沢山の太い柱で囲まれており、人が柱の陰に入り見えなくなる巧みな構図で、暗い庭陰での寸劇が良く理解できる舞台となっていた。
 スザンナと伯爵夫人が目立つガウンで衣裳を変えてから、スザンナの「ついにその時がきた」とレチタテイーヴォに始まり、美しいピッチカートに乗ってオーボエとフルートの伴奏に乗って、スザンナのアリアが歌われた。陰で隠れて心配しそうに見守っているフィガロの前でこのアリアは美しく歌われたが、後半には装飾音符を着けながら見事に歌われて、万雷の拍手を浴びていた。


 悪戯っ子のケルビーノが登場してフィナーレに入り、スザンナと思い込んで変装している伯爵夫人にまとわりつき、ケルビーノを持て余していたが、そこへ伯爵が登場する。伯爵もスザンナを見つけるがケルビーノが邪魔で、ケルビーノを平手打ちして追い払うが、それが隠れていたフィガロに大当たりして大災難。伯爵は目指すスザンナの手を掴まえて口説き始め、ご機嫌になって気前よくダイヤの指輪まで渡してしまう。フィガロが通行人の振りをして音を立てたので、伯爵夫人は逃げ出してしまった。フィガロは暗闇の中で伯爵夫人を見つけ出すが、話しているうちに声でそれがスザンナであることを知り、腹いせにスザンナをからかって、伯爵夫人を口説きはじめた。スザンナは次第にフィガロが熱してくるのでついに腹を立て、フィガロを平手打ちにし足蹴りまでしてしまうが、フィガロがからかったのだと白状したため、仲直りしてしまう。そこへ伯爵が現れたので、二人は伯爵を懲らしめようと、伯爵夫人とフィガロの大袈裟な逢い引きの演技をして見せた。伯爵はそれを見て大声で「皆、武器を持て」と大騒ぎして皆を集めてしまった。そして謝る二人に対し、皆の前で「許さぬ」と大声を上げてしまったが、そこへ後ろから伯爵夫人が現れたので、さあ大変。しかし、伯爵は自分の間違いに気付き、皆の前で心からの詫びを入れたので、伯爵夫人も素直に夫を許し、見ていた一同も安心して一段落となった。最後は一同11人が舞台の前に一列に並び、対立は全て消えてこれで満足だと、全員が喜びの歌を歌って長い「たわけた一日」が大団円になっていた。


 大変な歓声の中でカーテンコールが始まったが、順番にマルチェリーノ、ケルビーノ、スザンナの順に拍手が多くなり、やはりイタリアの歌劇場らしくイタリア人に拍手が多かった。この会場の熱狂振りは素晴らしく、大劇場では味わえぬ地方劇場でのオペラブッファの良さが、しみじみと伝わってきた。このフィレンツエ歌劇場の「フィガロの結婚」は、冒頭に申し上げたとおり、全体としてゆっくりしたテンポで進み、歌手陣はゆったりとした落ち着きある雰囲気の中で伸び伸び歌っていた。これは大ヴェテランの指揮者ズービン・メータの棒によるものであろう。また、フィガロと伯爵夫人以外は全員がイタリア人であり、生き生きとした母国語による各人の動きやテンポの良さが目につき、素晴らしい効果をあげていた。例えば、スザンナとマルチェリーナとの口喧嘩の二重唱やスザンナとケルビーノの「早く早く」の二重唱などに実に良く現れていた。ゆっくりした前奏の良さと伸び伸び歌われたアリアの良さは、伯爵夫人の二つのアリアや、第四幕のスザンナのアリアなどに現れていたが、メータの知り抜いた指揮振りに安心して、歌手陣が落ち着いて力を発揮したためであろう。


 安心感のある「フィガロの結婚」に充分に浸れたのは、時代にマッチした演出の良さや衣裳などのセンスの良さによっており、主役の良さばかりでなく、11人の役どころを得た配役の良さにも現れていた。マルチェリーナの元気の良さ、クルツイオのどもりの上手さ、若いバルバリーナの活躍、アントニオの自然な酔っぱらい振りなどに良く現れていた。こういう配役を巧みにこなす合唱団上がりの人々は、イタリアには溢れているのであろう。どこの歌劇場のオペラを見ても彼らの歌の上手さと芸達者振りには驚かされる。

  このオペラでは特に元気の良いスザンナのチョーフイの活躍が目立ち、また若い伯爵夫人グヴァザーヴァの美貌と風格に感銘を受けた。フィガロ上がりのガッロはとぼけた伯爵であったが、第二幕最後の七重唱や第三幕のアリアなどでは堂々たる風格を見せていた。フィガロは生真面目すぎる感じがしたが、歌はさすがであり立派な持ち味を出していた。ケルビーノもズボンが良く似合い、元気が良くて第四幕でも良く動いて好感が持てたが、このフィガロの良さは、何よりもこれら主役以外の方々の充実振りであった。オペラ上演が各都市で競い合っているため、地方劇場でもこうした優れた上演が可能になるものと、その水準の高さに驚かざるを得なかった。

        (以上)(09/05/13)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定