(最新入手のDVD記録;ギル・シャハム兄妹によるヴァイオリン・ソナタ集その2 )
9-5-1、ヴァイオリン・ソナタイ長調K.305、ニ長調K.306、 ギルとオルリー・シャハムのヴァイオリンとピアノ、2005/12/17-19、キンスキー宮殿にて収録、ウイーン、およびヴァイオリン・ソナタニ長調K.306、ヴァイオリン;ギル・シャハム、ピアノ;江口玲による東京公演、07/05/25、紀尾井ホール、

−このギルとオルリー・シャハム兄妹のマンハイムソナタは、やはり抜群のコンビによる演奏であり、実に明るく息のあったヴァイオリン・ソナタを聴かせてくれた。また江口玲とのK.306も明るく爽やかな演奏であった−

(最新入手のDVD記録;ギル・シャハム兄妹によるヴァイオリン・ソナタ集その2)
9-5-1、ヴァイオリン・ソナタイ長調K.305、ニ長調K.306、 ギルとオルリー・シャハムのヴァイオリンとピアノ、2005/12/17-19、キンスキー宮殿にて収録、ウイーン、およびヴァイオリン・ソナタニ長調K.306、ヴァイオリン;ギル・シャハム、ピアノ;江口玲による東京公演、07/05/25、紀尾井ホール、
(08年12月EUROARTS盤の大量発売、RBB-2055188、および08年5月28日、BS102クラシック倶楽部の放送をブルーレイデイスクBD-002にHEモードで収録)

  前回のK.301からK.304までの4曲では、ギル・シャハム兄妹によるヴァイオリンとピアノによる二人の見事な共演がつぶさに捉えられており、生き生きとした活気のある素晴らしい演奏であった。今回はその続きのイ長調K.305及びニ長調K.306をお届けすると共に、ニ長調K.306についてはギル・シャハムの東京公演で江口玲のピアノにより紀尾井ホールでの演奏が収録されていたので、合わせてご報告するものである。
 この東京公演のNHKの解説によると、ギル・シャハムは1971年アメリカ・イリノイ州生まれで、両親と共に移住したイスラエルで7歳からヴァイオリンを始め、これまでにシノーポリやプレヴィンなど世界一流の指揮者やオーケストラとの共演も数多く果たしてきた。この日の伴奏を務めた江口玲とは、定期的にリサイタル・ツアーを行っていた。彼の確かな技術と表現力で難曲も自然体で弾きこなす姿は、世界中の聴衆を魅了しているとされていた。


 さて、6曲からなるマンハイムソナタの第五曲目のイ長調(第29番)K.305(293d)は、昔から持っていたモノラルのLPにこの曲が含まれていて殆ど諳んじているが、ギルとオルリーは記憶よりももっと早いテンポで弾き始め軽快そのものであった。スタッカートモチーブが第一主題にも第二主題にもあり、ヴァイオリンとピアノが絶えず交替でスタッカートを軽やかに弾いているので気持ちがよい。提示部をいつものように繰り返した後に、展開部で短調になって短いながらがらりと趣を変えひとしきり合奏し、再び軽快な第一主題が再現されていた。ギルとオルリーは絶えず相手の出方を窺いながら一糸乱れぬ調子で進んでいたが、最後の展開部からの繰り返しも省略せずに丁寧に弾いていた。
 第二楽章はマンハイムソナタでは初めての主題と六つの変奏曲からなり、アンダンテ・グラツイオーソの二部形式で書かれた優しく美しい主題が初めにヴァイオリンとピアノで静かに提示された。第一変奏はピアノだけによる始めから終わりまで32分音符の早いテンポの変奏で、オルリーは丁寧にきめ細かく一気にさらりと弾いていた。第二変奏はヴァイオリンがメロデイラインを弾きピアノは伴奏にまわる美しい変奏であり、ギルのヴァイオリンが生き生きと弾むように弾かれていた。第三変奏はピアノが美しい分散和音を弾きながらヴァイオリンと交互に変奏をして対話していく素晴らしい変奏であった。第四変奏はヴァイオリンが趣を変えて美しく歌い続ける変奏であったが終わりにアダージョになってピアノにも出番が廻されていたが、この予想外の展開に二人の息の合った名調子が聴けた。第五変奏は短調になったユーモラスな変奏であり、謂わば息抜きの変奏であろうか。第六変奏はアレグロとなりこの変奏だけが繰り返しがなく、ピアノが始めにヴァイオリンが追いかけるように早いテンポで一気に駆け抜けていた。実に爽やかな演奏であった。
 

 マンハイムソナタ最後の六曲目のニ長調(第30番)K.306(300l)は、前曲と同様にパリで作られた曲であり、フランス趣味が目立ち、唯一の三楽章制をとり、スケールの大きい華麗な作風である。
 第一楽章は華麗なピアノが第一主題を軽快に弾き始めヴァイオリンはオブリガートのように控えめであるが、続く第二主題ではヴァイオリンがピアノの伴奏で協奏曲のように生き生きと美しい旋律を重ね、結尾の主題ではヴァイオリンとピアノが交互に受け持っていた。ギルとオルリーは早いテンポで火花を散らすように互いに交錯し合って軽快に飛ばしていたが、展開部ではピアノとヴァイオリンがトリルの音形を掛け合いながら始まり、続いてヴァイオリンによる第一主題のモチーブとピアノによる分散和音が重なって実に幻想的な味わいを見せていた。そのせいか再現部では第二主題から始まり冒頭の印象的な第一主題はコーダとして最後に再現されていた。ここでは最後の繰り返しは省略されていた。



   第二楽章は短いソナタ形式で、アンダンテイーノ・カンタービレでピアノが独奏する美しい主題に導かれてヴァイオリンが静かにそして伸びやかに美しく歌い始め、続く次の主題もピアノの前奏の後にヴァイオリンが協奏曲風に味わい深くさらりと歌っていた。しかし展開部でピアノが劇的に和音を刻みヴァイオリンもこれに追従して、一瞬、驚きを与えるが、やがて再現部に入って再び静かに最初の主題から協奏曲が続けられていた。提示部の繰り返しは丁寧に行われていたが、最後の再現部の繰り返しは省略されていた。
 第三楽章はロンド形式なのであろうが、2/4拍子の軽快なフランス風なアレグレットのロンド主題で始まり、続いて6/8拍子のイタリア風のおどけたようなアレグロとなり、ピアノとヴァイオリンが追いかけ合うように進んでいた。このアレグレットとアレグロが変化しながら互いに繰り返されていき、最後のアレグロの後にフェルマータが入り、かなり大掛かりなヴァイオリンとピアノの二つの楽器のための珍しいアンサンブル・カデンツアが用意されていた。カデンツアの後も、アレグレットとアレグロが短く再現され、コーダで盛り上がりを見せて終息していた。非常に軽快な風変わりなしかしスマートな楽章であった。
 6曲続いたマンハイムソナタは、後半になるにつれて曲も演奏も充実してきたような印象を受けた。このギルとオルリー・シャハムのコンビはやはり抜群であり、実に明るく息のあったマンハイムソナタを聴かせてくれたと考えており、この素晴らしいDVDを思わぬバーゲンセールで見つけて幸運であったと思っている。



 さて、次は同じギル・シャハムと江口玲による日本公演のニ長調(第30番)K.306(300l)であるが、この映像は07年5月27日の紀尾井ホールでのコンサート記録であった。ソースは08年5月28日のNHKのクラシック倶楽部(BS102)による55分の放送であり、私はちょうどブルーレイ・レコーダーを購入したばかりで、ブルーレイ・デイスクBD-002の4曲目に収録してあった。この放送は、前段がギル・シャハムと江口玲によるコンサートであり、後半がイザベル・ファウストの弾くヴァイオリンコンサートであって、彼女のフランクのヴァイオリンソナタが演奏されていた。従って、ギル・シャハムと江口玲によるコンサートでどういう曲がメインであったかは分からないが、ここではニ長調K.306がメインの曲であったと考えたい。因みに、アンコールで弾かれたのは、ブラームスのハンガリー舞曲第2番ニ短調(ヨアヒム編曲)であった。
 音友社のピアニスト2008によると、ピアニストのオルリー・シャハムは、残念ながら未掲載であったが、このHP初登場の江口玲については、半ページ(P-265)にわたって紹介されていた。ソリストとして活躍するほか、共演者として特に名高く、多くの共演者から信頼を寄せられているとされ、主な共演者の欄にギル・シャハム、チー・ユンなどの名があった。

   このニ長調K.306のソナタは、マンハイムソナタの中でも唯一の三楽章の構成であり、ピアノとヴァイオリンの協奏曲風の扱いによってスケールの大きい華麗な世界が展開される。特に第三楽章のピアノのカデンツアや経過句の模倣的な扱い方などに協奏曲の要素と室内楽の要素の両方が持ち込まれているとされ、幼少時のオブリガートソナタとは異なったピアノとヴァイオリンの関係になってきている。しかし、第一楽章の第一主題や第二楽章の二つの主題などは、やはりまだピアノ優位の扱いがなされているのは明らかであり、ピアニストに重要な役割があるとされてきた。  私はDVDを充分に良く聴いて、その印象記を作文した後に、その文章を確かめながら ギル・シャハムと江口玲によるコンサートを聴いているが、この二人のコンビは充分に手慣れていて、お互いの信頼感が厚いと感じており、時にはピアニスト江口玲がリードするところも散見していた。



 この日本公演では、第二楽章の提示部の繰り返しが省略されていた他は、演奏全体としてはテンポの取り方も強弱のニュアンスの付け方もDVDとほぼ同じと考えて良いが、しかし細かく聞いてみると、やはりピアノの部分に多少の違いがあると思った。日本公演を丁寧に聴くと、例えば第一楽章では、冒頭の飛び出しのピアノが明快であり、展開部での始まりが実にニュアンスに富んでいた。また、第二楽章では主題提示が常にピアノが強くリードしていたし、第三楽章では、カデンツアの後の二人の微妙な音造りが見事であったと感じていた。従って、日本公演の演奏の方が優れているかと思って、改めてDVDを聴き直してみると、DVDではベーゼンドルファーのピアノの音が実に膨らみのある豊かな響きで捉えられており、私が指摘したようなことはオルリーも当然のようにやっていた。ここで言いたいことは、放送のライブの録画とDVDとでは別物であって、記録のためのビデオと、商品を作るためのDVDとでは、画質と音声面の素材が比較にならないほど違うので、今回のような比較をしようと考えるときには、慎重でなければならないことを改めて気付かせてくれた。

(以上)(09/05/07)


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