(最新入手の衛星放送記録;サントリー劇場のホール・オペラの「フィガロの結婚」)
9-4-2、ルイゾッテイ指揮ガブリエーレ・ラヴィア演出のホール・オペラの「フィガロの結婚」K.492、東京フイルハーモニー管弦楽団、

−オペラ・ブッファの見本とも言うべき笑いの多い軽快で愉しい舞台であったが、その最大の功績者は、ブッファをすべて心得たイタリア人指揮者ルイゾッテイの抜群のセンスの良さと、フォルテピアノを自由に駆使して歌手との一体感を常に保っていた統率力の素晴らしさにあったと感じた−

(最新入手の衛星放送記録;サントリー劇場のホール・オペラの「フィガロの結婚」)
9-4-2、ルイゾッテイ指揮ガブリエーレ・ラヴィア演出のホール・オペラの「フィガロの結婚」K.492、東京フイルハーモニー管弦楽団、サントリ・ホールオペラ合唱団、サントリー劇場、08年03月09日、
(配役)フィガロ;ガヴィリエーリ・ヴィヴィアーニ、スザンナ;ダニエレ・デ・ニース、伯爵;マルクス・ウエルバ、伯爵夫人;セレーナ・ファルノフキア、ケルビーノ;ダニエラ・ピーニ、マルチェリーナ;牧野真由美、バルバリーナ;吉原圭子、その他、
(08年10月20日、BS102衛星放送を、ブルーレイデイスクBD-006にHEモードで録画)

 サントリー劇場のホール・オペラの「フィガロの結婚」は上演されて丁度1年になるが、昨年5月と10月に放送されたものを二度収録してあり、この度やっとアップする順番が回ってきた。フェラインでもオペラ好きの川口さんや石津さんがライブを見て報告(季刊「モーツアルテイアン」第65号08年06月)なさっているが、とても皆さんの評価の高い公演であり、私も収録した都度その良さを確認していた。ホール・オペラといっても演奏会形式のオペラよりも遙かにオペラらしく、大道具の動く舞台がない代わりに、それぞれ絵が描かれた三面の小舞台を繋げて横長の舞台としていた。指揮者は舞台の奥の中央のフォルテピアノの前に立ち、その廻りをオーケストラが囲んでおり、指揮者は、時にはフォルテピアノを弾きながら、オーケストラと舞台の全体を見渡しながら、客席の方を見て指揮をしていた。第一幕では小道具はベッドをおいた小舞台と、中央に大きな椅子のある小舞台だけであったが、衣装は現代風であるがほぼ完璧であり、横長の三面の細い舞台をオペラ並みにスピーデイに動き回るところが演奏会形式と全く異なっていた。



 このフィガロは、指揮者ルイゾッテイが全体を良く統括しており、幕のないがらりとした舞台を見渡しながら、演奏は序曲から活きの良い軽快な指揮振りで始まっていた。序曲のテンポが軽やかで小気味よく、浮き浮きした気分がみなぎり、開幕まで一気に進んでいた。序曲が終わると、舞台ではフィガロが大きな椅子を持って登場して何やら測りだし、スザンナも純白のレースの飾りを持って生き生きと登場し、二人は椅子の前に座り込んで手鏡を見ながら軽やかなテンポで冒頭の二重唱を歌っていた。二人の会話が始まりベッドの話になるとデインデインの二重奏となるが、スザンナが怒りだしてテンポを落としドンドンとやり返すのが面白い。スザンナの説明で伯爵の企みに気がついたフィガロは、チェロとフォルテピアノの伴奏に乗って「踊りをなさるなら」と興奮しながら怒りの歌を激しく歌って大拍手であった。



 曲が変わり新しい登場人物が出るたびに気の利いたフォルテピアノの音がしてレチタテイーボが始まる。バルトロとマルチェリーナの登場であり、バルトロが「仇討ちの歌」を威勢良く朗々と歌って満場を沸かしていた。スザンナが姿を見せ、マルチェリーナとの口喧嘩の二重唱が始まり、激しくやり合うがお年の話が出て、ここは若いスザンナの勝ち。一息ついたところに兵隊姿のケルビーノが登場。リボンの取り合いで舞台を走り回ってから、「自分で自分が分からない」とリボンを手にしながら生き生きと歌っていた。



 そこへガウン姿の伯爵が登場し、早速、スザンナを口説き始めるが、そこへバジリオが現れたので、伯爵は大慌てで面白いフォルテピアノのリズムに乗って、物入れの中に姿を隠すので大笑い。しかしバジリオがケルビーノの奥方を見る目つきがおかしいと言い出したので、殿様が飛び出してしまい、さあ大変。スザンナは動転して倒れてしまうが、抱えられて直ぐ気づき、おかしな三重唱が続くうちに、物入れに隠れていたケルビーノが見つかってしまうので、またも大笑い。「女性はこうしたもの」とスザンナが三重唱で虐められていたが、フィガロを先頭に村人たちが歌いながら登場してきたので救われた。子供たちも登場してきて伯爵が讃えられて良い気分になった所へ、フィガロがわれわれが最初に恩恵を受けるペアーだとスザンナを連れてくると、伯爵はスザンナに白い帽子を被せてやり、だが今日はここまでだと横を向いていた。落ち込んでいるケルビーノに伯爵は連隊の士官に任命し直ぐ出発せよと命令した。そこでフィガロが「もう跳ぶまいぞ」と少し手荒な激励をケルビーノに行い、トランペットのマーチのリズムで高らかに歌っていた。



 第二幕は美しいオーケストラの前奏で伯爵夫人のアリアが始まるが、大柄な堂々たる夫人が落ち着いて美しく歌い木管と良く調和して大拍手。スザンナが現れフォルテピアノの伴奏で夫人と話をするうちに、フィガロが加わって何やら作戦会議。フィガロが手紙を書いてケルビーノを女装させることに女二人が同意して、フィガロは悠々と歌いながら退場した。早速、士官姿の似合うケルビーノがフォルテピアノの伴奏で登場し、スザンナのギター伴奏で恋の歌を歌う。歌いながら次第に高揚して伯爵夫人とケルビーノはウットリ見合ってしまい大拍手。いい声だと誉められ、スザンナの着せ替えのアリアで、帽子を被せられ、上着を取られ、長靴を抜き取られ、ズボンもむしられて裸同然のケルビーノ。女二人にキスをされ、腕に巻いたリボンを見つけられ、夫人とケルビーノがおかしくなりかけた時に、「なぜカギを閉めた」という伯爵の声がしてさあ大変となった。  伯爵は部屋中を探し回り「スザンナ、出てきなさい」と三重唱が始まるが、夫人は言い訳一方の劣勢。挙げ句の果てに部屋を開けるため道具を取りに出掛けた一瞬の間に、スザンナとケルビーノの大慌ての二重唱となって、ケルビーノが衝立を乗り越えて脱出した。フォルテピアノの行進曲の伴奏でハンマーを手にした伯爵が戻り、ドアを開けようとするので、夫人が男の子だと白状し、憎々しげに怒り狂う伯爵が夫人を責め、あわや決裂となった瞬間に、スザンナが「シニョーレ」と現れた。呆然と驚く二人にスザンナが加わって、女二人が優勢な三重唱となり、伯爵は平謝りとなり夫人の手を取って許しを請うていた。



 何とか許しを得たところに、フィガロが飛び込んできたので、伯爵はこれ幸いと手紙を持ち出してフィガロを責めだした。女二人がバレていると教えてもフィガロが知らぬ存ぜぬを通すので、フィガロと伯爵は次第に険悪になり、音楽までも重低音となったところへ、アントニオが花壇に誰かが飛び下りたと飛び込んできた。フィガロは俺がやったとビッコをひいてみせ一難は去ったが、落とした紙きれは何かと大難題。おかしな五重唱になって、フィガロは絶体絶命であったが、女二人の機転でケルビーノの辞令で印鑑がないと言い逃れ、伯爵とフィガロは険悪そのもの。そこへ伯爵が待ち望んでいたマルチェリーノと応援の男二人が登場して、それぞれ伯爵にフィガロの契約違反を申し立てたので、形勢が逆転し、法の裁きを主張する4人と反対の3人の七重唱となって大騒ぎの中で終幕となった。



第三幕が始まって、フォルテピアノの音に誘い出されるように伯爵が考え事をしながら登場。一方では伯爵夫人から言づてを頼まれたスザンナがしおらしく薬を取りに登場。早速、伯爵が口説いてみると妙に当たりがよいのだが、イエスと言ったりノーと言ったりの二重唱で夢中にされた挙げ句、別れてフィガロへの言葉を聞いて騙されたかと伯爵は怒り出す。この唯一とも言える伯爵のアリアが決然と精力的に堂々と歌われて大拍手であった。
 クルチオが立派な判決だったと誉められながら5人が登場し、フィガロが一人控訴、俺は貴族の出身だから親の承認がいると反発。盗まれた子で親を捜していると抗弁しているうちに、右腕にある痣の話からそれが決め手となって、マルチェリーナの盗まれた子のラファエルだと分かり、さあ大変。二人が驚いて抱き合っているうちにスザンナがお金を持って登場し、フィガロがもの凄い平手打ちを喰らって、マードレ・パードレの実に珍妙なおかしな六重唱となって落着。そして二組の幸せなカップルが誕生した。



 バルバリーナとケルビーノがいちゃついてから、伯爵夫人が登場し、心の苦しみをうち明けオーボエの甘い伴奏で素晴らしい第二のアリアを劇的に歌って、万雷の拍手を受けていた。そこへスザンナが登場し、殿様が了解したことで、場所の手紙を書こうということになって、早いテンポの松の木の手紙の二重唱となった。次いでお花の合唱が始まりバルバリーナが挨拶をするが、中に見慣れない娘もおり、花束を渡そうとしてアントニオに捕まってしまう。伯爵も来てケルビーノを怒鳴りつけるので、バルバリーナが私のお婿さんにと取りなしたあと、ケルビーノが窓から飛び下りたと白状したので、伯爵とフィガロが再び険悪になったが、ここでも行進曲が鳴って救われた。子供たちが整列して行進し、二組が入場して結婚式が始まる。二人の娘たちの合唱で祝福を受け、カップルたちが踊っているうちに、伯爵に手紙が渡されて、伯爵のご挨拶で結婚式は無事盛大に終了した。



 第四幕はバルバリーナのアリアで始まるが、これがテンポ良く歯切れも良くてなかなかの熱演。フィガロが殿様の言葉を聞き出して、お母さん助けてと逃げ出してしまう。マルチェリーナとバジリオのアリアは省略されたが、ここでバルバリーナが東屋を探しに来て長いセリフを早口で語っていたのが珍しかった。続いてフィガロのスザンナの裏切りの歌が早いテンポで歌われたあと、伯爵夫人のドレスを着て白の前掛けをしたスザンナが、「とうとう時がきた」と最高のアリアを歌う。ピッチカートの伴奏とオーボエのオブリガートが効いて素晴らしいこの日最高のアリアになって万雷の拍手となっていた。



   劇はフィナーレに入って、伯爵夫人がスザンナの前掛けと帽子を借りて、遠目ではスザンナそっくりになって潜んでいると、ケルビーノが見つけてうるさくまとわりつく。伯爵もスザンナを見つけるが、ケルビーノが邪魔。近づいて平手打ちを食わせるとそれが隠れていたフィガロに当たって一騒ぎ。しかし、伯爵は何とかスザンナを掴まえて口説き始め、ダイヤの指輪まで気前よく渡してしまうが、フィガロが現れるので逃げてしまう。
 一方の伯爵夫人に化けたスザンナはフィガロをからかうが、フィガロはその声でスザンナであることに気づき、逆に伯爵夫人として口説きだしたので、スザンナは大怒りでフィガロを平手打ちにして大笑い。仲直りした二人は伯爵を見つけたので、伯爵夫人とフィガロの姿で一芝居し、皆が見ているのを承知で大キッス。それを見た殿様は、「集まれ!武器を持て!」と大声を上げてしまう。一同がペルドーノと叫ぶが伯爵は許さずに再び「駄目だ!絶対に!」とやってしまう。そこで夫人が後ろから現れるので、伯爵は驚いたがまさしく伯爵夫人であった。そこで伯爵は、許してくれと、初めて深く頭を下げ過ちを認め、夫人も素直に夫を許したので、見ていた一同は一安心。全員の早いテンポの大合唱となって、かくも長いたわけた一日は終わりとなった。




     これぞオペラ・ブッファの見本とも言うべき笑いの多い軽快で愉しい舞台であったが、そうさせたのは参加した全ての人々の総力の結果であると言うべきであろう。しかし、最大の功績者は、ブッファをすべて心得たイタリア人指揮者ルイゾッテイの抜群のセンスの良さと、フォルテピアノを自由に駆使して歌手との一体感を常に保っていた統率力の素晴らしさにあったと感じた。歌手の登場からレチタテイーボの会話のテンポに至るまで、フォルテピアノで自在に誘導する指揮者はコミックオペラ系の方だからなのであろうが、それがこのオペラにピッタリであって、私はここにこのオペラの別の新たな面白さを見出したような気がした。
 ホールオペラとは言え、小舞台を組みあわせて、小道具だけで済ませるのは大変なことであろうが、凝った細工があり、舞台や壁面などには貴族スタイルの大きな肖像画が描かれていた。絵を踏みつけて劇が進行するのは気になったが、どれもが古くさく傷んで見えており、旧体制の崩壊を印象ずけたかったからであろうか。衣裳は現代風ではあったが豪華であり、また気の利いた小道具が生かされ、小舞台を駆けめぐるスピード感が生きており、大舞台に負けない臨場感を造り上げていた。衣裳を除くとリブレットに忠実な伝統的なスタイル(第4幕でアリア2曲省略、第3幕の曲順の変更なし)の演出であったが、下手な読み替えなど不要だと思わせるほど、新鮮さと活気に満ちた舞台であった。

 歌手陣は好みが入るので一概には言えないが、総じてフィガロ、伯爵夫人、ケルビーニなどのイタリア系の方々が、風采、演技、歌唱力の点で申し分なく安心して見ていれたし、 スザンナ役のデ・ニースがやはり抜きんでて演技や歌の面で存在感があったと思う。伯爵も風貌は優男タイプであったが第3幕の怒りのアリアなどでは迫力に満ちた歌を披露していた。このオペラでは主役ばかりでなく、バルバリーナ、マルチェリーナ、バルトロ、バジリオなどの活躍が必要であるが、いずれも人を得て演技力や動きが良く、全体を盛り上げてくれた。オペラには超一流のスター歌手の存在感を楽しむタイプと、有名人でなくとも場を得た人達のアンサンブルを楽しむタイプなどさまざまであるが、この「フィガロの結婚」は後者であり、ブッファの楽しさを前面に出してくれたものとして高く評価したい。

(以上)(09/04/15)


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