(最新入手のDVD記録;ギル・シャハム兄妹によるヴァイオリン・ソナタ集その1 )
9-4-1、ヴァイオリン・ソナタト長調K.301、変ホ長調K.302、ハ長調K.303、およびホ短調K.304、 ギルとオルリー・シャハムのヴァイオリンとピアノ、

−このヴァイオリン・ソナタでは、新しいハイビジョンカメラとその動きの良さによる映像のお陰で、ピアノとヴァイオリンとの掛け合いや一体感が、音だけでなく、視覚的にも見事に確認することができ、二人の見事な共演がつぶさに捉えられていた−

(最新入手のDVD記録;ギル・シャハム兄妹によるヴァイオリン・ソナタ集その1)
9-4-1、ヴァイオリン・ソナタト長調K.301、変ホ長調K.302、ハ長調K.303、およびホ短調K.304、 ギルとオルリー・シャハムのヴァイオリンとピアノ、 2005/12/17-19、キンスキー宮殿にて収録、ウイーン、
(08年12月EUROARTS盤の大量発売、RBB-2055188、) 

 四月号の第一曲目はヴァイオリンの名手ギル・シャハム兄妹によるヴァイオリン・ソナタ集であり、ユーロアーツの新DVDの輸入盤シリーズの一枚で、K.301からK.306まで6曲収録されているが、そのうち4曲を(その1)としてご報告するものである。残り2曲は、五月号に報告する予定であるが、その際にはギル・シャハムが来日してNHKのクラシック倶楽部で放送したものと一緒にアップすることを考えている。
 ギル・シャハムはこのHPでは既にモーツアルトのドキュメンタリー「モーツアルト・イン・ザルツブルグ」(6-11-2、05年Euro Arts制作)に兄妹でナレータとして出演しており、K.304の第二楽章を解説しながら弾いていたので、モーツアルト研究者としての側面を持つ若い演奏者であろうと考えていた。このソナタ集は05年12月にウイーンのキンスキー宮殿において、恐らくは生誕250年の自身の記念盤として、理想的なピアノのパートナーを得て収録されたものと考えられる。
 ヴァイオリン・ソナタを映像で見ると、ピアノとヴァイオリンとの掛け合いや一体感が、音だけでなく視覚的にも確認することが出来るので面白く、素晴らしい会場で収録された華麗なヴァイオリンとピアノの音の息のあった共演を楽しむことが出来る。このDVDは、時には室内楽の美しいアンサンブルを楽しむための気軽な一枚として、有用であると思われ、ムターのライブ演奏と異なって、今回は自由なスタジオ録音なので、カメラワークも多彩であり、二人の見事な共演がつぶさに捉えられていた。
 このDVDに含まれる6曲(K.301〜K.306)のヴァイオリン・ソナタは、いわゆる「マンハイム・ソナタ作品1」とされ、最後の曲を除きいずれも2楽章で構成されており、各曲それぞれに変化に富んで個性があって面白い。今回はその1として、最初の4曲、すなわち、ト長調(第25番)K.301(293a)、変ホ長調(第26番)K.302(293b)、ハ長調(第27番)K.303(293c)、ホ短調(第28番)K.304(300c)を取り上げるものである。


 マンハイムソナタ「作品1」の第一曲目のト長調(第25番)K.301(293a)は、耳慣れた軽快な曲で、明るい楽しげないかにもモーツアルトらしい繊細な曲である。
 第一楽章は優しいヴァイオリンのソロで示される美しい息の長い伸びやかな主題で始まり、直ぐにピアノでも反復される。比較的長い経過句のあとに、可愛いらしい第二主題が踊るようなピアノで開始され、直ぐにヴァイオリンとの二重奏になり、続いてヴァイオリンの伴奏でピアノが美しいパッセージを繰り広げる。提示部はニュアンスを変えながら繰り返されるが、ギルのヴァイオリンは芯のある逞しい音で、対するオルリーのピアノは軽快そのものであり、二人はポイントポイントで目を合わせながら弾き進み、この広々とした宮殿の一室で見事に調和したアンサンブルを見せていた。 ピアノとヴァイオリンが対話風にやり取りされる展開部では、ギルのヴァイオリンは力強い音色を響かせ、ピアノのオルリーはこれに合わせたり反発したりしながら、絶えず変化を見せながら弾き進み、再現部に突入していた。二人は再現部でも丁寧に繰り返しを弾いており、絶えず互いに調和を取りながら伸びやかに弾いているように見えた。


 第二楽章は、中間部にシチリアーノ風のリズムをもったメランコリックな主題が流れる三部形式で書かれたアレグロ楽章で、始めにピアノで3拍子の親しみやすい可愛いげな主題が軽快に飛び出して来る。そして直ぐにヴァイオリンがこの主題を繰り返し、ひとしきり変形されて明るく進んでから、中間部のヴァイオリンがうねうねとメランコリックな主題を奏で、再び変形されて繰り返される。ここではピアノは伴奏に徹しヴァイオリンが主体的に静かに弾いていた。再び始めの軽やかなアレグロの主題に戻るが、ここではこの主題が明るく回帰されてくるので、ロンド主題のように聞こえていた。
 この親しみやすい可愛げな最初の曲は、ギルのヴァイオリンとオルリーのピアノが実にピッタリと合って弾かれており、春を思わせる弾むようなスプリング・ソナタのような軽快な印象を持った。



 マンハイムソナタ「作品1」の第二曲目は、変ホ長調(第26番)K.302(293b)であり、前曲ほど親しみやすさはないが、やはり明るいアレグロと軽快なロンドの楽章から構成されている。
 第一楽章のアレグロは、力強いフォルテの分散和音で活発に始まり、なだらかな旋律が続く二重構造の第一主題を持ち、主題が繰り返し提示されるが、そのあとに続く長い経過句で軽やかで生きの良いクレッシエンドを伴っており、ギルとオルリーの目まぐるしい重奏の冴えが聞かれる。続いて第二主題では穏やかに始まりブッファ風の盛り上がりを伴う活発な主題となって明るく提示部を終えていた。展開部ではこの両主題の一部を扱った激しい表情のもので、再現部では前半とニュアンスを変えながら再現していた。ギルとオルリーはここでも再現部のくり返しを譜面通りに几帳面に弾いていた。



 第二楽章のロンド主題は、リート風の落ち着きのある主題で、アンダンテ・グラツイオーソのテンポでまずオルリーのピアノソロで現れ、続いてギルのヴァイオリンに主題が渡され二重奏となり、繰り返し提示される。ここでもギルとオルリーのヴァイオリンとピアノのコンビは明快な冴えを見せ、幾つかのエピソードを挟んで数回登場していた。エピソードでは、ピアノのトリルに特徴を持つ第一エピソードでも、ピアノの16分音符の細かな走句からなる第二エピソードでも、ピアノが生き生きとしてきめ細かく弾かれて、このロンド楽章を盛り上げていた。
 この曲は、第一曲より陰影の伴った奥行きのある、何となく取っ付きずらい曲であるが、ギルとオルリーは再現部の繰り返しを弾いていたため、少しでも分かり易くなっていた。



 マンハイムソナタの第三曲目のハ長調(第27番)K.303(293c)は、やはり二楽章だけの小さなソナタであるが、先の2曲とがらりとスタイルを変えて、自由奔放な気分がうかがえ、アリア風のアダージョの序奏的主題で開始される。始めに美しいメロデイがヴァイオリンでゆっくりと弾かれて、次いでヴァイオリンが伴奏にまわり、ピアノがメロデイを繰り返してウットリさせるが、良く聞くとこれがこの曲の第一主題。続くモルト・アレグロの軽快な主題がピアノで現れるが、この対象的な妙のある主題が第二主題。この主題は続いてヴァイオリンでも弾かれ、ひとしきりピアノとヴァイオリンでテンポ良く変奏しながら発展するが、やがて冒頭のアダージョがさらに細やかなヴァイオリンの動きで再現され変奏されていく。そして、フェルマータを挟んで再びモルト・アレグロの主題が現れ、見事に盛り上がりを見せて再現され美しく終息していた。


 第二楽章はテンポ・デイ・メヌエットの第一主題が3拍子で明るくピアノで現れるが、次いでヴァイオリンで軽やかに提示される。続く第二主題はヴァイオリンのエレジーであり丁寧に提示されていた。これらの主題は毎回変化を見せながら、ピアノとヴァイオリンが交替して弾かれていたが、両者の均等な対話により、力のバランスが図られていた。全体としては、メヌエット主題を持ったソナタ形式の形をとっており、ここでも変化のあるスタイルを取り入れていた。
 6曲の連作のピアノソナタでも行われていたが、さすが三曲目になると、これまでの踏襲的な殻を破ろうとするのか、大胆な実験的な試みが行われ、演奏する側のギルとオルリーも、両楽章を通じてお互いに火花を散らすような激しいやり取りや駆け引きが行われているように見えた。


 第四曲目のホ短調(第28番)K.304(300c)は、マンハイムで作曲された前三曲と異なり、最近の自筆譜の研究から、マンハイムで作曲がなされパリで完成されたと考えられている。
 第一楽章のヴァイオリンとピアノのユニゾンでゆっくりと始められる第一主題の前半は、美しいアレグロの叙情詩であるが、後半はフォルテのスタッカートで刻まれる対照的な現代詩であり、変化されながら繰り返されていた。そこでピアノで提示される弾むような軽快な第二主題が激しく提示され、この主題は次第に勢いを増して高められていくが、ここではピアノとヴァイオリンが交互に細かく動いており、その旋律的な美しさと構成的な美しさとに満ち溢れていた。ピアノのオルリーはいつも強弱を使い分けながら快いテンポで弾いており、ギルはそれに合わせるように注意深くテンポや音色を少し違えて丁寧に弾いていた。短い短調による激しい展開部のあと、再現部ではヴァイオリンの第一主題とピアノの和音伴奏で趣を変えて始まり、それ以降はピアノとヴァイオリンの調和した響きが絶妙のバランスで進み、更に繰り返された再現部では、意識的にヴァイオリンにもピアノにも変化が加えられて、絶妙の響きを見せていた。最後に加えられた独立したコーダで、この曲の陰りを帯びた暗い表情を回想するように弾かれていた。


 第二楽章もホ短調で、形式は前曲同様テンポ・デイ・メヌエットで始まる3拍子であるが、良く聞くと前曲とは異なって、中間部に美しいトリオを持つメヌエット楽章であった。ソット・ヴォーチェのピアノで始まる感銘深い美しい主題が提示されると、ここでもヴァイオリにメロデイが移されて繰り返されていくが、続く変形された主題によるピアノとヴァイオリンとの対話が憂いを湛えていて感動的であった。トリオのドルチェで始まるピアノに続いてヴァイオリンで現れるさり気ない新しい主題が静かに輝くばかりに美しく、ニュアンスを変えた反復も実に美しかった。再び始めの軽やかなメヌエット主題が再現され、この楽章も前楽章と並んでとりわけ内容のある感動的なものであった。
 この曲はヴァイオリンソナタでは唯一の短調で書かれており、暗い陰りを帯びた曲のため、従来はイ短調ピアノソナタK.310と並んで母の死と関連づけられることが多かった。ギルはこの曲の一節が、レクイエムのラクリモサと似ており、母の死が意識にあったとドキュメンタリーで語っていた。この曲は並びの他の曲とは一線を画した孤高のような高みを持った曲であると思われ、ギルとオルリーはここでも絶妙の美しいバランスを保ちながら細やかに演奏していた。

 ヴァイオリン・ソナタのシリーズには、 紹介済みのムターのヴァイオリンとオーキスのピアノによるザルツブルグ・ライブ(7-9-1)があるが、同じデジタル映像でもこれほど異なるかと思うくらい、今回のDVDのスタジオによる音声と映像は素晴らしく、明快で遙かに優れていた。ムターの映像は、暗い舞台の照明下のもので、カメラワークも固定された変化に乏しい映像であり、ライブ映像のもつ限界が示されていたが、今回のDVDのスタジオ収録は、煌びやかな宮殿の装飾の多い部屋を背景にして、自由な角度から二人の姿を捉えていた。ヴァイオリン・ソナタでピアノとヴァイオリンとの掛け合いや一体感が、音だけでなく、視覚的にも見事に確認することが出来たのはこの映像のお陰であり、新しいハイビジョンカメラとその動きの良さによるものと驚かされた。クローズアップにより二人の表情の変化が克明に捉えられ、それがソナタの動きや進行に現れていた。

(以上)(09/04/08)


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