(最新入手のDVD記録;A.パッパーノ指揮コヴェント・ガーデンの「フィガロの結婚」)
9-3-3、アントニオ・パッパーノ指揮、D.マックヴィカー演出、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団によるオペラ「フィガロの結婚」K.492、

−このパッパーノとマックヴィカーの「フィガロ」は、実に音楽性が豊かであり、読み替えオペラの多い昨今の風潮に反してリブレットに忠実な演出でありながら新鮮であり、オペラブッファとしての笑いも非常に多く、素晴らしいDVDであると思った−

(最新入手のDVD記録;A.パッパーノ指揮コヴェント・ガーデンの「フィガロの結婚」)
9-3-3、アントニオ・パッパーノ指揮、D.マックヴィカー演出、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団によるオペラ「フィガロの結婚」K.492、2006年2月、C.G.王立歌劇場で収録(BBC)、
(配役)フィガロ;アーウイン・シュロット、スザンナ;ミア・パーション、伯爵;ジェラルド・フィンリー、伯爵夫人;ドロテア・レッシュマン、ケルビーノ;リナート・シャハム、マルチェリーナ;グラシェラ・アラヤ、バルトロ;ジョナサン・ヴェイラ、バジーリオ;フイリップ・ラングリッジ、その他、
(09年1月21日、DENON TOBA-5049-50、アマゾンで予約購入25%引き)

 3月号の第三曲は、アントニオ・パッパーノ指揮のコヴェント・ガーデンの「フィガロの結婚」K.492である。演出はD.マックヴィカーの無難な伝統的な演出で、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団による活きの良い演奏であり、2006年2月、モーツアルトイヤーに王立歌劇場で収録されたBBCの制作によるものである。  私はアマゾンから発売日以前の25%引きの予約申し込みがメールで案内されたときに、フィガロとスザンヌの顔ぶれと伯爵夫妻の名前を見ただけで即座に購入を決断した。一年前に見たミア・パーションのフィオルデリージ(8-7-3)が忘れられず、また、このオペラの常連になった感のあるスザンナ役のレッシュマン(3-4-1)および伯爵夫人のレッシュマン(7-10-5)への期待が大きかったからである。


 パッパーノはこのHP初登場であるが、この映像には特典の出演者インタビューがあり、それを見るとパッパーノがピアノを弾きながら出演者に譜面の音の意味を丁寧に説明しており、全てを音楽で現しているという彼のモーツアルト感やこのオペラに対する愛情の深さが感じられた。また第4幕のいつも省略される2つのアリアも丁寧に演奏されており、演出者マクヴィッカーとの息も合った素晴らしい音楽と舞台を演出していた。まだ、一聴したばかりであるが、パッパーノの音造りも早いテンポで颯爽としており、時々響くチェンバロの音も清々しく、じっくり味わうべき素晴らしい舞台が繰り広げられていた。3月号のレコード芸術を見ると、このDVDを浅里公三氏および小宮正安氏がともに推薦され、3月号の特選盤になっていた。



   序曲が軽快な早いテンポで開始されると、広い宮殿の一室で召使いたちが大勢で掃除したり、荷物を運んだりして忙しい。しかし良く見ると、彼等を監督して注意したり、怒ったりしているものもおり、召使い上位の乱れた関係に見えた。序曲は軽快に進行しているうちにフィガロらしきものやスザンナらしきものが現れて、見とれているうちに第一幕の第一曲目の前奏が始まり、フィガロが倉庫のような部屋で何やら寸法を測りだしていた。スザンナが飾りの付いたお手製の帽子を被って見てよとフィガロに催促するが、フィガロはスザンナの体のサイズまで測ろうとしたので大笑い。帽子を誉められて二人は仲良くデイープキス。しかし、伯爵が下さるベッドの話が出てからスザンナが怒りだして間抜けなフィガロを困らせ、デインデインでひとっ飛びと言われてフィガロは考え出す。スザンナの話を聞いて真剣に怒りだし、第三曲のチェロとチェンバロの前奏が激しく鳴って、フィガロは反骨の歌を激しく歌い出した。考えるフィガロ・行動力あるフィガロを示すような、評判通りの腰の座ったフィガロであった。



 続いてマルチェリーナを前にしてバルトロの威勢の良い復讐のアリアが始まって協力を約束する。そこへスザンナが顔を出したので、マルチェリーナとの口喧嘩の二重唱が始まり、お年の話になってあっさりスザンナの勝ち。マルチェリーナを追い出したところにケルビーノが飛び込んできて、スザンナからリボンを取り上げて、狂ったように「自分が自分で分からない」と歌っていた。そこへ伯爵が顔を出したのでさあ大変。伯爵はスザンナを口説き出すが、バジリオの声がするので隠れてしまう。バジリオがスザンナに、ケルビーノの奥方を見る目がおかしいと言い出すので、伯爵は思わず声を出して立ち上がってしまう。驚いたスザンナが気を失って倒れてしまうおかしな三重唱となり、挙げ句の果てにケルビーノが見つかってしまって、会場から笑い声が出るほど上手く造り上げた楽しい演出であった。スザンナが伯爵に弁明していると、村人たちの合唱が始まり、フィガロがスザンナとの結婚を伯爵に認めさせようとするが、領主権の撤廃は認めるものの結婚はあとでということになった。ケルビーノは連隊の士官に命ぜられ、それを聞いたフィガロから荒々しく手厳しい激励の挨拶を受け、伸びやかなカデンツアや勇ましい行進曲の応援があって、オペラブッファとしての面白さを舞台に生かした第一幕は終了した。



 第二幕は伯爵夫人が登場し、悠然と響くオーケストラのもとで、愛の神よと悲しげにアリアが美しく歌われ、大きな拍手を浴びていた。スザンナと夫人の前にフィガロが現れ、伯爵を懲らしめる作戦が練られ、女二人がケルビーノを女装させることでフィガロの提案に賛成した。早速、ケルビーノが軍服姿で登場し、夫人の前でアリエッタをご披露。後半では自由に装飾音符を付けて歌われ、夫人からブラボーを頂いたが、二人の目線が心配であった。続くスザンナの着せ替えのアリアも無邪気に歌われて楽しく、衝立の陰で女装したケルビーノになり、夫人の前に出てきてリボンの話から二人があわやとなったところで、伯爵の声が聞こえてさあ大変となる。
 猟銃と獲物を持ち犬を連れた伯爵が登場し、夫人が慌てている様子から、スザンナを巡る三重唱となり、伯爵と夫人はけんか腰となるが、大勢の召使いたちが隠れて聞き耳を立てているところが面白い演出。伯爵と夫人がドアを開ける道具を取りに行っている間に、ケルビーノとスザンナの大慌ての二重唱となり、見つかったら最後だとばかりケルビーノが窓から飛び下り、スザンナが化粧室に隠れたところで、道具を持った二人が登場した。



 隠れているのはスザンナではないなと伯爵が気がついたところでフィナーレが始まり、夫人がケルビーノの話をした途端に伯爵はカンカンになって怒りだした。伯爵の怒りが尋常でなく、女装させていたと釈明する夫人を平手打ちする始末。そこへスザンナがドアを開けて出てきたので、あっと驚く二人。スザンナが「シニョーレ。何を驚いて」と三重唱が始まるが、こうなると女二人は強く、伯爵が平謝りの場面に変わったが、夫人が許しを与えぬままに、フィガロが登場する場面となる。伯爵は早速、手紙を持ち出すが、フィガロは女二人がバレていることを伝えても、頑固に知らぬ存ぜぬを押し通し、二人はあわやという場面に。音楽が重低音に変わり心配であったが、そこへ酔っぱらったアントニオが登場し五重唱になる。フィガロはアントニオの攻撃に対し自分が飛び下りたと誤魔化し、落とした辞令の伯爵の追求にも女二人の機転でかわし、ホットしたのも束の間、マルチェリーナとバジリオとバルトロが正装で登場して伯爵を喜ばす七重唱となった。マルチェリーナとの結婚の契約書を見せられてフィガロは呆然となり、伯爵はこれを審理しようとなって伯爵側の勝ちのように盛り上がって、長くて可笑しい第二幕は終結した。



 第三幕では、伯爵が第二幕で生じたいろいろな事件について考え事をしていると、スザンナが現れしおらしい様子なので、伯爵はこの時とばかりに口説き始め、逢い引きの約束を取り交わす二重唱となって幕を開けた。しかし、別れ際にスザンナがフィガロに漏らした「これで裁判に勝った」と言う言葉を伯爵が聞いて、召使いの分際でと怒り出し、伯爵の存在感を示すアリアとなるが、歌っているうちに怒りがこみ上げてくるように激しく歌われていた。訴訟のために皆が集まっている間に、バルバリーナとケルビーノが姿を見せ、場面は順序を入れ替えて伯爵夫人のアリアとなった。衣装を改めて登場した夫人は、召使いと衣装を替えねばならぬ我が身の切なさから、「あの美しい時は何処に」と正調で朗々と歌って、会場から大きな拍手を浴びていた。


 場面が変わって裁判が終わったと皆が戻り、結果は「支払えねば結婚すべし」であった。フィガロはまだ異議を申し立て、私は貴族の出だと言いだし、誘拐されたと言う話から証拠に腕をまくって痣を見せると、マルチェリーナが驚いて息子のラファエロであるという。これが実の母親でこれが実の父親だと騒いでいるところに、お金を持ってスザンナが登場したが、フィガロがマルチェリーナと抱き合っておりさあ大変。年増女が勝つなんてと怒るスザンナは、説明しようとするフィガロの足を思いっきり踏みつけて大笑い。何とも可笑しい六重唱が続き、伯爵らが退場してお笑いの拍手となり、残された二組の男女が、一緒に結婚式だと言って喜び合っていた。


 続いてスザンナが伯爵との逢い引きの手紙を書く二重唱が始まり、伯爵夫人の言う言葉をスザンナが手紙に書き留める。二人は途中から歌の声合わせに夢中になって、声を揃えて実に美しく歌っていた。手紙をピンで留めたあとに、村の娘たちが合唱で伯爵夫人に花を捧げに登場するが、そこに女装したケルビーノがおり、探していたアントニオに捕まってしまう。ケルビーノを助けるためバルバリーナが殿様を丸め込むが、結婚式だと急ぐフィガロが、殿様からケルビーノが白状したと詰め寄られ、二人は顔を付き合わせあわやの寸前であったが、折からの行進曲の始まりで事なきを得た。二組の結婚証書にサインが行われ、殿様に飾りを戴く隙にスザンナから手紙が渡されて、大勢の大袈裟な踊りは省略されて、伯爵は挨拶で威厳を保ちつつ第三幕は終了したが、舞台はそのままバルバリーナがピンを探しながら登場して、第四幕のアリアが始まっていた。


   フィガロはバルバリーナの口から伯爵のスザンナへの返事を聞き、密会があると信じ込み腹を立てるが、マルチェリーナに慰められる。ここでいつもは省略されるマルチェリーナの第25番の「牡ヤギと牝ヤギは仲がよい」というアリアが歌われたが、なかなかの名調子で、後半はアレグロになって男どもをけなしていた。フィガロが現場を押さえようと苛立っているのをバジリオがなだめて、これもいつも省略される第26番の「ロバの皮」のアリアをアンダンテで歌い出し、途中からメヌエットで歌われる面白いアリアであった。  続いて暗闇の茂みの中でフィガロがスザンナの裏切りを懲らすため、「さあ、用意が出来た」と第27番のアリアを歌い、伯爵とスザンナを待ち受けていた。一方の伯爵夫人の服装をしたスザンナは、自分を疑うフィガロをからかうため「いよいよ時がきた」と第28番のアリアを歌うが、この曲はオーボエのオブリガートとピッチカートの伴奏がソプラノの声に合って美しく、会場から大きな拍手を浴びていた。


 フィナーレになって伯爵夫人が扮するスザンナが舞台中央に現れるが、暗闇でケルビーノがスザンナと思ってからかい始めた。ケルビーノがしつこいので追い払おうとするが、直ぐにまとわりついてくる。そこへ伯爵がスザンナを見つけて現れるが、ケルビーノが邪魔なので、追い払ったら隠れていたフィガロに衝突し悲鳴をあげていた。伯爵は首尾良く夫人扮するスザンナに会って口説き始め、遂にダイヤの指輪までプレゼントしてしまう。二人の密会を見ていたフィガロが通行人で現れたので、スザンナは逃げてしまい、フィガロは、伯爵夫人を見つけるが、声で直ぐスザンナであることに気づく。フィガロは気づかぬ振りをして伯爵夫人を口説こうとしてスザンナに平手打ちを食ったが直ぐ仲直り。二人は伯爵がウロウロしているのを知り、フィガロと夫人の浮気のゼスチャーをすると、伯爵は二人を見つけ、鉄砲を振り上げて集まれと大声を上げてしまった。謝るフィガロばかりか、隠れた伯爵夫人を探そうとするが、東屋には謝るスザンナしかおらず半信半疑の伯爵の前に、別の服装に着替えた伯爵夫人が後から現れたので、さあ大変。伯爵は自分の間違いに気づき、更に指輪まで示されたので、夫人に皆の前で平謝りとなった。大勢が注視する中で、素晴らしい音楽がゆっくりと流れる中で、伯爵夫人が伯爵の面子を立てて素直に受け入れたので、全員の喜びの合唱となり、この長い茶番劇は幕となった。





 このパッパーノとマックヴィカーの「フィガロ」は、音楽性が豊かであり、読み替え演出の多い最近の傾向にあってリブレットに忠実な演出でありながら新鮮であり、オペラブッファとしての笑いも非常に多く、素晴らしいDVDであると思った。パッパーノの音楽の良さは、モダン楽器でありながらオリジナル楽器の演奏法を用いて緩急・強弱が自在な指揮振りばかりでなく、自らチェンバロを操って新しい響きを聴かせたり、歌手陣にもかな自由に歌わせており、アリアの後半では装飾音がついたりカデンツアが華やかだったりして新鮮な趣があった。またマックヴィカーの演出は、デーヴィスとの「魔笛」K.620(5-10-3)で見られたように、最近では珍しい伝統的なスタイルの中でも新鮮さを追求する姿勢が貫かれた演出であり、冒頭から序曲と共に始まった明るい伯爵邸の大広間で大勢の召使いたちが生き生きと動き回って目を見張らせ、喜劇性を高める配慮がなされていた。登場人物たちの人間関係にも配慮した演出であり、伯爵の激しやすい性格を強調して、時には伯爵夫人を平手打ちにしたり、フィガロとあはやという対立場面がくり返されたりしていた。



 配役もフィガロとスザンナ、伯爵と伯爵夫人、ケルビーノに人を得ており充分に楽しめた。フィガロ役のシュロットは、ドン・ジョバンニやエスカミーリオが好評のようであるが、行動力のあるフィガロを演じていたし、スザンナ役のミア・パーションは、フィオルデリージで見せなかったお侠な役を見事にこなしていたが、召使いの態度が大きいこの演出通りの動きを見せていた。伯爵のフインリーは高貴さと好色さ、貫禄と間抜けのバランスを巧みに演じていたし、伯爵夫人役がこのところ当たり役になって来たレッシュマンは一番安心して見ていれる役であった。ケルビーノのシャハムも役にピッタリで、かってのユーイングのように後世ににも残って欲しいと期待を抱かせた。ブッファ性を与えるマルチェリーナ、バルトロ、バジリオ、バルバリーナなどの役も人材を得ており、彼等の活きの良い動きが、この演出の喜劇性を非常に高めていたように思う。彼等の活躍が、例えば第一幕の第七曲の三重唱や、第二幕と第四幕のフィナーレ、第三幕の六重唱などの面白い演出を支えていたように思う。終わりに、最近の新しいオペラ演出には超モダンなものが多くいつも心配であったが、この演出は実に安心できる優れた演出であったし、むしろ新鮮さを与えた目新しい雰囲気を持っていた。そのため、安易に読み替え劇に走りがちな現代の傾向に警鐘を与える優れた演出の模範として強く推薦しておきたい。

  (以上)(09/03/28)


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