(最新入手のDVD記録;ライプチヒ・オペラとバレエ団によるハ短調ミサ曲)
9-3-1、ハ短調ミサ曲K.427、アダージョとフーガハ短調K.546、アヴェ・ヴェルムK.618、ライプチヒ・バレエ団、B.コチサル指揮、ゲバントハウス管弦楽団、ライプチヒ・オペラ合唱団、

−このDVDは、優れた宗教音楽の深遠さを、美しく躍動するバレエ団によるモダンバレエの形式で芸術的に表現しようと追求した試みであり、ハ短調ミサ曲の各曲の構成要素をバレエの振り付け構成に取り入れて、音楽の美しさをバレエで表現することに成功している−

(最新入手のDVD記録;ライプチヒ・オペラとバレエ団によるハ短調ミサ曲)
9-3-1、ハ短調ミサ曲K.427、アダージョとフーガハ短調K.546、アヴェ・ヴェルムK.618、ライプチヒ・バレエ団、B.コチサル指揮、ゲバントハウス管弦楽団、ライプチヒ・オペラ合唱団、
(ソリスト)S;E.ユー、A;M.C.チャプイス、T;W.ギューラ、B.;F.レーリヒ、2005/6/28、ライプチヒ・オペラ劇場で収録、−U.シュロツを偲んで−
(08年12月EUROARTS盤の大量発売、RBB-2054608、)

 3月号の第一曲は、最新入手のDVDによるもので、ライプチヒ・オペラとバレエ団によるハ短調ミサ曲K.427であるが、その中にはアダージョとフーガハ短調K.546、アヴェ・ヴェルムK.618が含まれていた。このDVDは、ライプチヒバレエ団の指導者であったウーヴェ・シュロツ(1958〜2004)を偲んでと副題が付けられており、ハ短調ミサ曲K.427と追加曲による音楽に振り付けたモダンバレエのライブであり、音楽はB.コチサル指揮のゲバントハウス管弦楽団およびライプチヒ・オペラ合唱団と4人のソリストたちが担当していた。この映像を一見して理解できることは、優れた宗教音楽の深遠さを、美しく躍動するバレエ団によるモダンバレエの形式で芸術的に表現しようと追求した試みであることが分かる。私はこの面白いDVDの音楽を聴き、画面に映し出されるバレエのダンサーたちの美しい造形と、ハ短調ミサ曲を演奏するライプチヒ・オペラ合唱団と4人のソリストたちの姿を見て、これはDVDという新しいメデイアを活用したヴィジュアルの世界の新しい芸術だと理解している。モダンバレエのことは良く分からないので、ここでは音楽ソフトとして捉え、その印象を記録することとしたい。



 映像では、指揮者が入場すると直ちにグレゴリア聖歌が始まり、厳かな雰囲気で聖歌が続くと、舞台では白装束のバレエ団が正座しており、聖歌の進行と共に後列から一人ずつ順番に立ち上がり、全員が立ち上がるまで、聖歌が続けられていた。続いて弦の前奏が始まり、アルトの合唱に続いて全てのパートが歌い出し、キリエが元気よく開始され、落ち着いた雰囲気で堂々と合唱が進み、一段落してから美しいソプラノのソロが始まる。舞台では始めの合唱では、男女のダンサーが二組づつ四つのグループに分かれて混声合唱に合わせて踊っていた。ソプラノのソロが始まると、女性のバレリーナが一人(Kiyoko Kimura)歌に合わせてダンサーたちを従えてソロの踊りが繰り広げられ、幻想的な雰囲気が醸し出されていた。この舞台はモーツアルトの音楽を生かし、バレエの技術を使った新しい創造芸術であると直感した。ソプラノソロが終わりキリエの壮大な合唱が始まると、舞台では男女のダンサーが4つのグループに分かれ、互いにバランス良く混声合唱の歌に合わせて、舞台全体を使った壮大な踊りが繰り広げられていた。




 グロリアの第一曲では生き生きとしたオーケストラの前奏によるアレグロの大合唱による迫力ある始まりであり、晴れやかな音調はフーガとなって合唱が続けられるが、舞台ではこの合唱の男女の声部に合わせて男女全員により、飛び上がったり走り回ったり、伸びやかな速い動作の踊りが続けられていた。


 第二曲では弦による晴れやかな主題を第二ソプラノが歌い出し、コロラチューラの技巧を交えて華やかに歌うが、舞台では男女6人の3組のペアーが弦の合奏を受け持ち、第二ソプラノの歌を女性のダンサー(Makiko Oishi)がソロで6人を従えて素晴らしいダンスを披露し、コロラチューラに合わせて全身で晴れやかに音楽を表現していた。


 第三曲のグラテイアスでは、アダージョでソプラノが二部に分かれた変則的な5重唱の形を取る荘重な響きが印象的であったが、踊りでは全員が5人*5組のパートに分かれて、全員の合唱による力強い音楽に合わせて重厚な踊りを披露していた。


 続く第四曲のドミネ・デウスは二人のソプラノにより歌われる二重唱で、神を讃える壮麗な美しい響きを持っており、後半の二人が競い合うように高い音を繋げるカノン風の二重唱は最高の美しさを持っていた。舞台では二人のそっくりな姉妹の踊り手が音楽に合わせて、二人の声が織りなす美しい響きを表すかのように体を動かしていた。


 一転して第五曲のクイトリスでは、二重の合唱団による重々しい荘重なラルゴで重苦しい受難を思わせるように力強く響き、壮大な八部合唱となって重々しく喘ぐように進む。踊りでは男女が列をなして交差する形をなして、一歩ずつ音楽に合わせて重苦しく進む不思議な造形を示していた。




 続くクオニアムでは二人のソプラノにテノールを加えた三重唱で、ソプラノから順に加わりながら明るく歌い継がれていき、後半ではフーガ風に重唱されて明るく歌われていた。舞台では二人の女性のダンサーに男性が加わって、二対一のコンビで三重唱の音楽に合わせて対照的な美しい踊りを披露していた。




最後のグロリアでは、全合唱とフルオーケストラのアダージョで、「イエス・クリステ」で壮大に始まり、男声合唱から始まり女声合唱が入り乱れるフーガとなって多彩に進行し、最後にはアーメンとなって複雑なフーガを結んでいた。舞台では全員が参加し、踊りは合唱に合わせたような布陣で激しく舞台上を駆けめぐり、この神への賛歌を示す壮大なグロリアを締めくくっていた。




 ここでオーケストラはしばし休憩し、ミサ曲とは全く異質の現代音楽が始まる。ドイツ語でアナウンスが入るが、残念ながら輸入盤の悲しさ、字幕がないので意味が分からない。舞台では数人のダンサーが音楽に合わせた動きを見せていた。続いてバッハのオルガン・コラールBWV687「深き淵より」がピアノの編曲で演奏され、舞台では黒装束の踊子に替わり、曲のトーンに合わせた動きの少ない踊りを見せていた。さらに数曲のピアノソロによる現代音楽が続いてから、再びバッハのカンタータBWV106「神の時こそ、いと良き時」がピアノソロの編曲で奏され、続いてこれとは全く異質の短い現代音楽が数曲続いて、舞台上の雰囲気がすっかり変化した。この空白は、ハ短調ミサ曲からの緊張を解きほぐす暫くの息抜きのように思われた。



 そこで弦楽合奏の「アダージョとフーガ」K.546が始まる。アダージョではハ短調の付点音符のついた引き摺るような重苦しい感じの曲であり、舞台では黒ずくめの衣装の男女が四組のペアーで、揃った踊りを見せたり、二組に分かれて力強い対照的な踊り見せたり変化を見せていた。一方のフーガでは、お馴染みのフーガ主題がバス・チェロの低音で提示されてから、ヴィオラ・第二・第一ヴァイオリンの順で4声のフーガが展開されていくが、舞台では四組が4声に分かれて、フーガの展開に合わせて踊りが繰り広げられており、音楽が第二展開部に入ると肉体による異様な造形が形づくられていた。


 再びグレゴリア聖歌が始まり、舞台はようやくハ短調ミサ曲の白装束に戻っていた。クレドが軽快に弦で始まり、クレドの合唱が勢いよく始まった。ソプラノが二部に分かれた五部合唱の明るいトーンに合わせて舞台では先ほどとは異なる体制でリズミカルな踊りが繰り返されていた。



続いてオルガンと弦の前奏のあとオーボエとフルートとファゴットによりエト・インカルナタス・エストが始められ、ソプラノにより明るく高らかに天国の歌が歌われた。舞台では、オブリガートを示す三人のダンサーと、美しいソプラノのソロを示すソロ・ダンサーにより美しく踊られて、特に長いカデンツアでは素晴らしい造形を造り上げていた。ここでは音楽への深い理解に基づいて音楽と舞踊を限りなく一体化しようとする試みが行われているように思われた。




 突然、場面が変わりパウル・セランという人の作品のクレドに音楽に変わった。これは10分余の長い音楽で、まず静かなピアノ伴奏で宗教的な音楽と踊りで開始されたが、進行するにつれ現代音楽となり、舞台では異様な雰囲気になって、混乱と破壊が続き静寂に戻り、最後にアヴェ・マリアの宗教的な世界に戻ったように感じられた。




 そして静かにアヴェ・ヴェルム・コルプスK.618が合唱で美しく開始された。じつにゆっくりしたテンポの合唱であったが、舞台では白装束の集団が集まって手足を動かしており、何かを現そうとしていた。ゆっくりとした音楽の進行につれ、ひざ立ちの姿勢になり、後半では天を仰ぎ見るように祈りを捧げていた。
 黒装束の男性ダンサーが一人舞台の脇に静かに起立して、何かを呟いていたがどういう意味なのか印象に残った。




 続いてサンクトウスが全合唱で「聖なるかな」と三度、叫ぶように厳かに歌われ、荘厳なホザンナの大合唱が歌われる。舞台では女一列、男一列になって、広い舞台を交差するように駆けめぐっていた。続いてホザンナの大合唱では、男女が入り乱れて舞台全体を使って踊り廻っていた。




 ベネデイクトウスでは、弦と木管による序奏のあと、ソプラノのソロから始まって、アルト、テノール、バスの順番にベネデイクトウスの四重唱へと進んだ。舞台では女二人と男二人が一人づつ踊ったり、ペアになったり四人が揃って踊ったり変化を見せていた。そして最後にホザンナの大合唱が始まり、全員が舞台で激しく踊っていた。  以上でハ短調ミサ曲の完成された部分は終了したが、音楽は尺八のような変な木管楽器が加わった現代音楽となり、舞台では全員がバラバラな色彩豊かな普段着の服装に着替えて、一人一人が勝手に動き回ったり、歩き回ったりしていた。




 最後にアニュス・デイとして、冒頭のキリエの部分が繰りかえされ、音楽は合唱−ソプラノ・ソロ−合唱と続いていたが、舞台では全員がバラバラな服装で舞台上に座り込み、音楽を静かに聞き込んでいるように見え、見事なアニュス・デイの替わりの静寂な舞台を造り上げていた。キリエの最後がアニュス・デイとして終わっても静寂のまま過ぎ、暫くしてバラバラに拍手が始まりやがて大拍手に繋がっていたが、この終わりの部分はそれ程に感動的な静寂を示していた。
 やがてカーテンコールが始まり、舞台ではダンサーたちが一列に並んで一人一人頭を下げており、四人の音楽のソリストたちが指揮者を中央にして挨拶していた。

 モーツアルトの音楽には、いろいろな芸術家たちに、何か新しい芸術の道を拓かせようとする触発させる力が潜んでいるようだ。恐らくこのハ短調ミサ曲のグロリアの連続する様々な形の音楽が、新しいバレエの振り付け創作の意欲をかき立てさせたに違いない。このミサ曲の全体像は未完成に終わっているが、アニュス・デイに冒頭のキリエを使うことにより、充分に満たされた形になっていた。
 ライプチヒバレエ団には、大集団の統制の取れた踊りの素晴らしさに驚かされたが、その中にソリストとして数人の日本人女性が活躍していたのにはビックリした。オーケストラ・ピットにゲヴァントハウス管弦楽団のフルメンバーと、中央に四人のソリスト、両端の左右にライプチヒオペラ合唱団が加わって、中央の指揮者コチサルのもとに整然と演奏されていたことにも、舞台の成功を支えるものとして敬意を表したい。そしてハ短調ミサ曲の音楽的な深さが、このようなバレエと音楽の両立という総合芸術を生み出したものと感じざるを得なかった。今回はバレエ団の素晴らしさを紹介するために、バレエの写真を多くして理解しやすく構成した。

(以上)(09/03/21)


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