(最新入手のDVD記録;ヤーココプス指揮のブルーレイデイスクの「ドン・ジョバンニ」)
9-2-3、ルネ・ヤーコプス指揮、V.ブッサード演出、フライブルグ・バロック・オーケストラ、インスブルック音楽祭合唱団、によるオペラ「ドン・ジョバンニ」(ウイーン版)K.527、2006年10月6日、バーデン・バーデン音楽祭会場、

−ヤーコプスは「フィガロ」でも伯爵夫人を若返らせて一新させたように、主役のドン・ジョバンニを若い騎士に仕立て上げ、取り巻く三人の女性たちも若返らせて、イメージを一新させており、併せてピリオド演奏に馴染むように、大スター主義からアンサンブル重視のスピード感覚の高い音楽に変貌させていた。−

最新入手のDVD記録;ヤーココプス指揮のブルーレイデイスクの「ドン・ジョバンニ」)
9-2-3、ルネ・ヤーコプス指揮、V.ブッサード演出、フライブルグ・バロック・オーケストラ、インスブルック音楽祭合唱団、によるオペラ「ドン・ジョバンニ」(ウイーン版)K.527、2006年10月6日、バーデン・バーデン音楽祭会場、
(配役)ドン;J.Weisser、レポレロ;M.Fink、エルヴィーラ;A.Pendatchanska、オッターヴィオ;W.Gura、アンナ;M.Bystom、ツエルリーナ;Sunhae Im、マセット;N.Borchev、騎士長;A.Guerzoni、その他、
(08年12月、Harmonia-mundi輸入BD盤、HV1080i、5.1ch、HMD 9809013)

 2月号の第三曲目は、ルネ・ヤーコプスの指揮と、V.ブッサードの演出によるフライブルグ・バロック・オーケストラおよびインスブルック音楽祭合唱団によるオペラ「ドン・ジョバンニ」(ウイーン版)K.527であり、06年10月のバーデンバーデンでの公演の映像であった。この映像は、朝日カルチャーセンターにおける水谷彰良講師による「ドン・ジョバンニ」の名作オペラが誕生するまでのシリーズの講演で紹介されたもので、いたずらに先鋭化する演出の中にあって、将来の新たな可能性を見出せそうな映像として取り上げられたものである。日本では輸入盤でしか出ていないが、私は秋葉原でブルーレイデイスクによるハイビジョン規格の新しい輸入BDを見つけて早速購入した。  この映像の特徴は、ダ・ポンテの原作通りに、28歳の若いドン・ジョバンニを中心に、若い三人の女性群が演ずる若さが漲ったスピード感のある舞台づくりとなっており、確かに音楽にも舞台にも目を見張る新鮮さに溢れていた。また、ウイーン版と明記され、映像では初めてのK.540bの二重唱が含まれるなど、モーツアルトがウイーンでも成功させようと狙った試みが再現されていた。また、舞台造りや演出の細部にもヤーコプスと演出者の新鮮な狙いが強かに貫かれており、言葉と音楽が共通な中でも新しさが期待できる演出の可能性を示唆する素晴らしい映像であった。残念ながら、輸入盤で日本語の字幕がなく不便であるが、ハイビジョンの迫力ある映像と5.1CHの凄い音声のお陰もあって、一時も早くアップロードしたいと考えていた。



 序曲が早速威勢良く始まり、古楽器オーケストラ特有の澄んだ音や聴き慣れない音が良く聞こえ、躍動するようなリズム感覚と早いテンポで進行を開始した。ヤーコプスは伸び上がるようにして指揮をし、オーケストラピットが狭くて暗いがとても鮮明に見え、コントラバスが2台の迫力ある音の世界があって、さすがハイビジョンだと思わせていた。また、序曲の最後の段落を区切りながら曲を終えていたのは、初めて聴く音の響きであった。
 ゆっくりした序奏と共に格好の良い帽子を被ったレポレロが幕間から出てきて、早いテンポで歌い出す。幕が開きノッポのドン・ジョバンニと白無垢のドンナ・アンナが大声で飛び出してきて争っているうちに、父親が出てきて果たし合いになり、あっと言う間に勝負が付いて娘と共に倒れてしまう。実に動きの速いスピード感覚のある早い出だしであった。ドンナ・アンナが気がつき、オッターヴィオが大勢の召使いたちと駆け付け、父の死を確認してからの復讐を誓う二重唱は、力強く声が良く伸び迫力があった。また、大勢の召使いや衣装などは貴族社会の時代の姿を表していたが、若い二人の衣装はよく似合っていた。



 暗闇を逃げ出しているうちに男二人は激しく言い争うが、レチタテーボのフォルテピアノの伴奏が自由で面白い。ドン・ジョバンニが女の臭いを嗅ぎ付けると、若い素敵なエルヴィーラが一人で登場し、捨てられた怨みを激しく歌うが、後半には装飾音符を付けて堂々と歌っていた。ドン・ジョバンニが近寄るが、探していた相手が自分と分かり、抱きつかれてその剣幕に押されて逃げ出してしまう。そこでレポレロの「カタログの歌」が始まるが、これがドスの効いたなかなかの大人の名調子。エルヴィーラは驚いてショックで温和しくなってしまい、立ちすくんでいたようだった。


 場面が変わって若い小柄なツエルリーナがお祭りのように歌い出し、大勢の若者が登場するが、エルヴィーラはその場に残ってその様子を見ていた。そこへ男二人が登場して、ドン・ジョバンニがツエルリーナに目を付けた。若いマゼットの歌も元気が良かったが、その後、気の多いツエルリーナが口説かれて、有名な二重唱となってしまう。歌っているうちにツエルリーナが思わず近寄ってしまい、二人がその気になった所へ、エルヴィーラが顔を出した。そして、彼女はツエルリーナの前にしてドン・ジョバンニを嘘つきと攻撃する激しいアリアを歌って妨害していた。そこへドンナ・アンナとオッターヴィオが現れ、エルヴィーラの歌で四重唱が始まったが、脇でツエルリーナが一部始終を見ていた。そして「アミーチ・アデイーオ」と立ち去ったことで、ドンナ・アンナが彼が犯人だと気がついて、彼女の告白のレチタテイーボに続き、怨みの激しいアリアを歌ったが、迫真に満ちたアリアが歌われて大いに会場を沸かしていた。  続いてウイーン版でのオッターヴィオの追加曲(10a、K.540a)が歌われ、これも名調子であったので万雷の拍手が続いた。ヤーコプスは歌手をかなり自由に歌わせており、特に後半部では自由に装飾音が付けられて格好良く歌われていた。フォルテピアノの軽い伴奏で、男二人のレチタテイーボに続いて、ドン・ジョバンニの「シャンペンのアリア」が有頂天な調子で歌われ、連続して万丈の拍手が続いていた。


 ツエルリーナのマゼットへのご機嫌取りの歌が早いテンポで歌われて、二人のいちゃつく姿を大勢がのぞき見して大笑いする場面があって、舞台は二人のいさかいからレチタテイーボと二重唱のアリアで、第一幕のフィナーレが早いテンポで威勢良く始まる。幕の陰で隠れていたツエルリーナが簡単にドン・ジョバンニに見つけ出されてしまうが、マゼットが姿を現して事なきを得た。音楽が変わり三人のマスクの人が登場して、メヌエットの音楽と共に入場を許され、「正義の神よ」の美しい三重唱が早いテンポで歌われて、フィナーレは佳境に入った。飲めよ踊れよの場面へと進み、ツエルリーナがはしゃぐ姿が目に付き、やがて仮面の人を迎えた五重唱で「自由万歳」の騒ぎとなった。  音楽は早いテンポのメヌエットとなり、舞台には三組みのバンドが現れて、三葉の音楽が始まるが、やがてツエルリーナがドン・ジョバンニに捕まり「助けて」の叫び声と共に舞台は一転した。ドン・ジョバンニがレポレロに罪を被せるごまかしを、マスクの人や全員に見破られ責められて、男二人は訳が分からなくなってしまう筈であったが、むしろ挫けないで悪びれずに堂々と退散し、万雷の拍手で第一幕が終了していた。



   第二幕の幕が開くと、舞台は大きな丸屋根のエルヴィーラの家の前。二人の二重唱のあとレチタテイーボが始まり、レポレロが金貨を受け取って、衣装を取り替えることに同意した。エルヴィーラが窓から身を乗り出して歌い出すと二人の変装姿の三重唱が始まり、甘い言葉に弱いエルヴィーラが信じて外に出てしまったので、そこはマントを着たレポレロに任せて、ドン・ジョバンニは逃げてしまう。おかしな二人の会話のあとに、ドン・ジョバンニは、舞台の上のマンドリンの伴奏で、横になりながら、窓から顔を出した娘に最高のカンツオネッタを歌いだし、装飾を付けてご機嫌で歌っていた。しかし、薄暗い闇の中でマゼット一行が現れ、ドン・ジョバンニを見つけ次第殺してしまうと言う。レポレロ姿のドン・ジョバンニが彼らを逃がして、マゼット一人にしてから叩きのめしてしまう。悲鳴を聞いて駆け付けたツエルリーナがマゼットを慰め、「薬屋のアリア」を歌って、マゼットの機嫌を直してしまっていた。

 一方、エルヴィーラとレポレロが暗闇の中を手をつないでウロウロして二人の二重唱が始まるが、そこへ喪服のドンナ・アンナとオッターヴィオが現れて二人で二重唱を始めた。レポレロが逃げだそうとして、そこに現れたツエルリーナとマゼットに捕まってしまい、怪しいドン・ジョバンニの格好のレポレロが責められ、一同が許せないとなったので、エルヴィーラが私の夫だと告白してしまう。しかし、帽子を取って捉まえてみれば平謝りに謝るばかりのレポレロだったので、一同はあきれたおかしな六重唱が続いた。マゼットが殺してしまおうと責めるので、レポレロは服を脱いで旦那の所為なのですと一人一人にすっかり白状する早口のアリアを歌い、皆の隙を見て脱兎のごとく逃げ出していた。




 ここで、21番のオッターヴィオのアリアがカットされ、二つのアリアが追加されたウイーン版に変わった。フォルテピアノによる誘導のレチタテイーボで、包丁をもったツエルリーナがレポレロの髪の毛を捉まえて脅しており、椅子に座らせ包丁を頭にのせて動けなくした。村人たちを呼んで両手両足を椅子の4本の足に縛り付け、目隠しをし胸を椅子の背に縛り付けながら、二人はおどけた二重唱(21a、K.540b)を歌っていた。ツエルリーナは村人と大笑いしながら包丁を突きつけてレポレロに仕返しをしたが、レポレロは動けずもがくだけで、面白い見せ場に場内は大拍手であった。続けてエルヴィーラのアリア(21b、K.540c)が鋭いオーケストラの前奏で始まり、「あの人は何と恐ろしい罪を犯したのだろう」と複雑な気持ちを歌っており、終わりに神への慈悲を願う素晴らしいアリアとなって拍手喝采であった。ウイーン版はどうやら成功をしたように見えた。




 場面が変わって思わせぶりな不気味なフォルテピアノの前奏で、ドン・ジョバンニとレポレロがここまで来た顛末を話し合っていた。場面はどうやら墓場ではなくエルヴィーラの家のようであり、遠くから幽霊のような騎士長が現れ、ゆっくりと近づいて静止していた。ドン・ジョバンニの高笑いのあと、「お前の笑いも今夜限りだ」と言う厳粛な声が聞こえ二人は幽霊かと驚く。そして二人のこわごわの二重唱でレポレロが恐る恐る招きの言葉を掛けると、幽霊は頷き、行くと声を出す。仰天した二人は準備のため逃げ出すように退場したが、そこへ喪服のドンナ・アンナとオッターヴィオが現れ、ドンナ・アンナは幽霊のような父の姿を見つけてしまう。幕が下りても明かりの陰で父の姿が映り、彼女はつれないと責めるオッターヴィオに対し、「それどころではないのです」と23番のアリアを真剣に必死で歌っていた。この素晴らしいアリアがここにある意味が明確となり、通常の墓場の舞台と異なる一連の新しい面白い演出には驚くばかりであった。






 フィナーレになって幕が開くと場面は邸内の一室。机の上に食事が用意されドン・ジョバンニが机の上で立って豪勢にやろうと歌い出す。マルテイーニの音楽で食事を始め、サルテイの音楽でマルツイミーノのワインを飲み、レポレロが盗み食いをはじめた。フィガロの音楽でレポレロに口笛を吹けと困らせていると、エルヴィーラが駆け付けて来て、懸命に「生活を改めて」と懇請するが笑って取り合わない。オーケストラが早いテンポで劇的になり、エルヴィーラが逃げ出して正面を見て叫び声を上げると、レポレロも正面を見ながら大声で悲鳴をあげた。良く全体を見渡すと、大音響で何と騎士長の姿が客席に現れ、ドン・ジョバンニと呼び掛け、舞台の机の上のドン・ジョバンニと対峙していた。騎士長はオーケストラピットの前に立ち、堂々とした態度で「今度は私の所に来るか」と叫ぶ。騎士長の姿はクローズアップで写され、手を彼方に差し伸べて改心せよと迫ると、ドン・ジョバンニが倒れて苦しみだすが、最後まで強情にいやだと言い張る。騎士長は時間がないと立ち去るが、ドン・ジョバンニは机の上で苦しそうに藻掻き続け、やがて大音響と共に大声を上げながら幕の陰に引きずり込まれてしまい、テインパニーが不気味な大きな音を響かせていた。石像と舞台の上で直接対決しない、ドン・ジョバンニがリモコンで操られたように地獄落ちする場面は、今回が初めてであったが、激しい音楽のお陰で充分に類推がつく新しい演出であった。

 

 幕が開くとレポレロが一人倒れており、六重唱が始まってレポレロが旦那が遠いところへ言ってしまったと説明をしていた。一息ついてオッターヴィオとドンナ・アンナが喪に服してからと歌い、エルヴィーラも皆も再出発しようと明るく歌い、終わりに早いテンポの六重唱が軽快に続いて幕となった。
 凄い拍手が続いて、舞台では大変なカーテンコールが続いていた。恐らくこの若い歌手陣が見事な歌唱力とアンサンブルで舞台を務めたことに対する歓迎の声と拍手であったと思われる。ヤーコプスが呼び出され、演出のブッサードが呼び出されたとき一段と拍手が高鳴ったことはこのことを裏付けていた。



 ドン・ジョバンニのオペラについては、カラヤンとハンペの映像や、ムーテイとストレーレルによるスカラ座の映像など、いわば伝統的な演出に基づいた大劇場の壮麗な音楽を聴かせるオペラ以降では、ピリオド演奏の時代や、演出の読替や抽象化の時代に入り、この作品についても、いろいろな指揮者や演出家により多くの試みがなされてきた。しかし、最近では、演出が眉をひそめるような過剰な演出や先鋭的な演出が目立ち始め、この先オペラ界はどうなるのかという心配や憂慮がなされるようになっていた。しかし、今回のヤーコプスのこのドン・ジョバンニは、このような憂慮を吹き飛ばすようなオペラになっており、古き脚本を重視しつつ新鮮な解釈を取り入れる模範的なオペラ作りになっていた。

 その基本は、ヤーコプスは「フィガロ」でも伯爵夫人を若返らせて一新させたように、主役のドン・ジョバンニを若い騎士に仕立て上げ、取り巻く三人の女性たちも若返らせて、イメージを一新させており、併せてピリオド演奏に馴染むように、大スター主義からアンサンブル重視のスピード感覚の高い音楽に変貌させていた。この主役の若返り策の解釈は、初演時の歌手陣の年齢層から判断されており、これからのダ・ポンテオペラの解釈には欠かせない考え方になっていくものと思われる。
 音楽面での新しさも序曲を始めとして随処に、独自のピリオド奏法の解釈が取り入れられており、これが定着するかどうかは別として、やはり新鮮な印象を受けた。また、演出面でも、舞台の幕前と幕内の使い分けにプラスして、小劇場だから可能になる場内からの主役の登場など、アンサンブルオペラに欠かせない簡素でありながら効果の大きい手法を取り入れていた。また、このオペラ特有の「石像」の取り扱いにも工夫が凝らされており、地獄落ちの場面でも新しい解釈が行われていたが、どう大方の評価がなされるか興味深いものがある。さらに、ウイーン版を取り入れて新鮮味を増しているが、イドメネオのウイーン版と同様に、現代においてどちらが望ましいか、改めてもっと論議すべき材料としてここで提起されたように思われる。また、ウイーン版で珍しくツエルリーナとレポレロの二重唱が組み込まれていたが、このオペラ全体を通してツエルリーナの活躍と出番が目立ち、これも新たな解釈の一つかと思われる。

 このオペラの主要歌手陣の紹介は、このDVDでは経歴などの解説が省略されていたので、紹介できず残念であった。しかしドン・ジョバンニ(Johannes Weiser)は容姿ばかりでなく歌もしっかりして十分であり、私には大スター主義にこだわらず若き人材の登用の機会を増やすべきであると思われた。ドンナ・アンナ(Malin Bystrom)もオッターヴィオ(Werner Gura)も若いが充分に役をこなしており、エルヴィーラ(Alexandrina Pendatchanska)も三人の女性の中では傑出していたし、ツエルリーナ(Sunhae Im)は、韓国出身の方であろうか、唯一の東洋人でありながら出番も多い中で、歌も動きも良く大活躍であった。また、レポレロ(Marcos Fink)は主人より一回り多い年齢で若き騎士を抑える役に徹し、納得がいく布陣であったし、騎士長(Alessandro Guerzoni)も終始、堂々として立派であったが、幽霊姿には更なる工夫が必要なように思われた。

 このオペラのDVDは輸入盤で日本語の字幕がなかったので、残念であった。オペラの細かな動作の判断には、やはり日本語が欠かせないと思った。私はより新しいブルーレイ・デイスク盤を求めたが、画像は1080iのハイビジョン規格であったが、音声は輸入盤の所為かDTSの2chステレオと5.1chサラウンドのみであり、今後基本になりそうなPCM5.1chサラウンドは付属していなかったのが残念であった。しかし、1枚のデイスクに特典なども含めて全て収録出来たのは、扱いやすさの面でメリットであると思った。

(以上)(09/02/16)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定