(S-VHSアナログテープ・ストックによる懐かしい映像;二つのレクイエム)
9-2-2、トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック・オーケストラ、オランダ・バッハ・ソサイエテイ合唱団による「レクイエム」K.626、及びトヌ・カリュステ指揮、オルガン伴奏とスエーデン放送合唱団による「レクイエム」K.626、

−コープマンのピリオド楽器による演奏と、スエーデン放送合唱団の二つの特色を持った異なった「レクイエム」を聴いた。前者はこの曲のピリオド演奏の最初期のもので、没後200年のモーツアルトイヤーの貴重な記録であったし、後者の演奏は唯一のオルガンの伴奏による貴重な「レクイエム」として、この合唱団の実力を示してくれたばかりでなく、新しい試みとしてコレクションを充実させてくれた。−

(S-VHSアナログテープ・ストックによる懐かしい映像;二つのレクイエム)
9-2-2、トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック・オーケストラ、オランダ・バッハ・ソサイエテイ合唱団による「レクイエム」K.626、91年11月27日、東京芸術劇場大ホール、(ソリスト)アニエス・メロンS、ウラノ・グルーヌヴォルトA、ギ・ド・メT、クラウス・マーテンスB、
及びトヌ・カリュステ指揮、オルガン伴奏とスエーデン放送合唱団による「レクイエム」K.626、06年12月6日、東京オペラシテイ・コンサートホール、(ソリスト)ビルギッタ・シュライターS、イヴォンヌ・フックスA、マッツ・カールソンT、ンドレアス・ルンドマルクB、ラーシュ・アンデションOrgan、
(1993年2月26日のNHK教育テレビによる放送をS-VHSテープにアナログ録画、及び2008年9月5日、BS103クラシック倶楽部によるHV放送をBDレコーダーによりBDにデジタル録画)

 2月号の第二曲目は、二つの「レクイエム」K.626の演奏を取り上げており、初めは91年のモーツアルトイヤーに演奏されたトン・コープマンの指揮でアムステルダム・バロック・オーケストラおよびオランダ・バッハ・ソサイエテイ合唱団による「レクイエム」K.626である。これはS-VHSテープに収録された古いソフトであったが、私のデータベースで残された最後のレクイエムの映像であって、この映像のアップによりこの曲の「映像のコレクション」を完結させる積もりであった。しかし、最近になって、オルガン伴奏とスエーデン放送合唱団による「レクイエム」K.626の日本公演を収録した。この合唱団はスエーデンの伝統ある放送合唱団であり、老練なトヌ・カリュステが指揮をした重厚な演奏であった。合唱団とオルガンという今回初めての変則的な「レクイエム」の演奏であるが、正統的な合唱によるレクイエムでコレクションとしては重要であると思われたので、今回、同時にアップしようと取り上げたものである。
 この二つの全く異なった「レクイエム」を比較するように聴いて、私の「レクイエム」の「映像のコレクション」が全13演奏のアップロードにより完了することとなった。


   最初の「レクイエム」はコープマン指揮のオランダの皆さんによる演奏で、30人を少し切る古楽器集団によるオーケストラと、女性14人、男性16人のやはり最小規模に近い合唱団による演奏であった。91年のモーツアルトイヤーにおける来日演奏であり、この映像を久し振りで見たがソプラノのソリストには見覚えがあった。
 コープマンが合唱団を起立させ、やや大袈裟な指揮振りで、弦の歩みに乗ったファゴットとバセットホルンのくすんだ響きで、イントロイトウスの序奏が開始されたが、テンポが少し早い。バスから順次ソプラノへと引きずるようなレクイエム主題の合唱が厳かに始まるが、エト・ルクス・ペで良く声が揃って透明な感じがした。やがてソプラノが祈るように主への賛歌を歌い出し、澄んだ声が良く通っていた。再びレクイエム主題による合唱が流れるように厳かに続くが、やや声量不足か重々しさに欠けた始まりだった。続くキリエではアレグロの早いテンポで合唱が始まり、男声と女声が入り乱れてキリエ・エリーソンの二重フーガが繰り返しうねるように進められ、フェルマータのあとアダージョの大合唱で終息していた。コープマンのテンポが早く、テインパニーが目立ち過ぎるオーケストラがやや豊かさに欠け、合唱団の声量も弱く、少し不満な立ち上がりであった。


 セクエンツイアに入って第一曲のデイエス・イレでは、強奏のトウッテイの合唱がより早いテンポで開始され、合唱の合間に弦が激しい響きを聞かせて、総奏の力強い合唱が続き、後半ではバスの呻くような合唱に答えるように他の声部が歌いつなぐパートが何回か繰り返され、一気に盛り上がりを見せていた。実に激しい「怒りの日」であった。
一転して静寂の中からトロンボーンのソロが厳かに前奏して第二曲目のトウーバ・ミルムが始まり、朗々としたバスとトロンボーンがゆっくりと対話しながら進行していたが、トロンボーンのソロがやや不安定か。そして、テノールからアルト、ソプラノと明るく上昇しながら美しく歌い継ぎ、ソット・ヴォーチェで四重奏になって初めて心が安らいだように一息つけた。
 続いて付点リズムの激しいオーケストラに始まってレックスの大合唱が三度繰り返され、第三曲のレックス・トレメンデが始まり勢いよくうねるようにオーケストラとともに合唱が進むが、終わりには救い給えと合唱しながらテンポを落とし、消え入るように終息していた。コープマンは強弱・緩急の変化を強調しながら体全体を使って指揮を進めていたが、録音のせいにもよるが全体的にオーケストラの音の響きが薄く、古楽器演奏の弱さが見えていた。


 第四曲目のレコルダーレでは、チェロとバセットホルンに続いて弦による厳かな序奏のあと、アルトとバスの二重唱からソプラノとテノールの二重唱に続いて穏やかなソロの四重唱が始まり、激しいレクイエムの中で一服の休息を得たように感じた。この四重奏は、女声と男声が掛け合ったり、ソプラノとテノール、バスとアルトがペアになったり、4声の斉唱が続いたりして朗々と美しい四重唱を繰り広げ、祈るように終息していた。
 続く第五曲目のコンフターテイスでは、男声合唱が全オーケストラの荒々しい響きの中で「呪われた者よ」と絶叫すると、一転して救いを求めるように女声合唱がヴァイオリンの微かな伴奏でかすれたようなか細い声で答えていた。再び男声合唱の絶叫が行われ、女声合唱のソット・ヴォーチェの祈りが美しく繰り返された。そして四声が合体して新たな伴奏型の下で静かに祈りを献げるように唱和して休息した。フェルマータで一息ついて、続けて第6曲のラクリモサがため息をつくような暗い短い弦の序奏で始まる。ラクリモサと斉唱で静かに合唱が始まり、階段を上るように一音一音クレッシェンドしながら8小節目に達し、ソット・ヴォーチェで祈るように進んで次第に高まったり静まったりし、最後に高まりから静かに波が静まるように治まりながら、アーメンで静かに終息していた。


 このコープマンのレクイエムは、古楽器演奏の中でも最初期のものであり、最初に聴いたときから、オーケストラがギスギスしてテインパニーが強すぎ、テンポが早くて抑揚がなく、好きになれなかったが、ガーデイナーやブリュッヘンなど古楽器演奏に慣れた耳で改めて聞き直しても、やはり当初の印象と変わらず仕舞いであった。合唱は良いのであるが、交響曲シリーズでもそうであったが、やはりオーケストラの響きが薄く弱いのであろう。コープマンは全身を使って細かく指揮をしていたが、呼べども答えずのように、心に届かない通り一遍のように聞こえていた。レクイエムには、もっと豊かなどっしりとした響きが欲しいし、もっと大らかな心の叫びのようなものが聞こえて欲しかった。



 続いて二曲目の「レクイエム」は、ソリストと合唱団とオルガンによる今回初めての変則的な「レクイエム」の演奏を取り上げた。この演奏は東京オペラシテイ・コンサートホールで収録されており、正面上部の巨大なパイプオルガンの伴奏で、老練な合唱指揮者トヌ・カリュステが、合唱団とソリストたちを自在に掌握する合唱重視型の新しいレクイエムであった。コープマンのギスギスした角張ったオーケストラのレクイエムを聴いた直後の耳には、この巨大なパイプオルガンのイントロイトウスの序奏の響きは、何とまろやかで優しい厚い響きがすることか。低い静かなゆっくりした低音のパイプオルガンの響きに支えられながら、バスから順次テノール、アルト、ソプラノと上方へ移りながらレクイエムと歌いだす主題の合唱が始まった。
 スエーデン放送合唱団は、始めのコープマンの指揮したオランダ・バッハ・ソサイエテイ合唱団とほぼ同規模の女声14人、男声16人から成る小さな合唱団であるが、オルガンの響きに負けずに堂々と歌い出し、エト・ルクス・ペと4声が揃った斉唱になると、整然と重なって朗々とした響きになっていた。しかし続いて現れるソプラノのソロは、どうしたものか、数人のソプラノの合唱となって静かに歌われていた。ソリストに歌わせない方がよいとする確信があったのだろうか。指揮者カリュステは何事もなかったような素振りで指揮をしていた。合唱はレクイエム主題にドナドナの新しい主題が加わって二重フーガの構成を取り、この非常に印象的な第一曲の最後を見事に盛り上げていた。続いてテンポが変わって第二曲のキリエに入り、冒頭からキリエ・エリーソンとクリステ・エリーソンの二つの主題による壮大な二重フーガが早いテンポで展開され、各声部ごとに異なった歩みを見せて複雑にうねるように進行していた。そして最後にフェルマータのあと斉唱でキリエ・エリーソンが歌われて見事に終息した。オルガンの異色の伴奏の所為か合唱団の各声部は、独立して明瞭に澄んで聞こえ、この合唱団のアンサンブルの良さを示したようなキリエであった。 



 セクエンツイアに入って最初のデイエス・イレでは、トウッテイの合唱がより早いテンポで力強く開始され、4声が斉唱でパイプオルガンの流す断続的なリズムを相手に力強くうねるように歌い上げ、「怒りの日」の激しさを伝えていた。後半になって、バスの叫びにも似た激しいパートに対し、上三声がこれに相づちを打つように強く応えながら繰り返して進んで、終盤を盛り上げていた。合唱の力がまざまざと「怒りの日」を現していた。
 第二曲目は「妙なるラッパ」であるが、トロンボーンに変わってオルガンの伴奏となり、ふんわりとした違う雰囲気の中でバスが堂々と歌い出し、一息おいてオルガンの低い響きの中でしっかりと歌われた。続いてテノールが明るく高らかに引き継いでこれも朗々と歌って存在感を示し、アルトにそしてソプラノにと渡されていた。そしてソプラノがイントロイトウスで出番がなかった分まで声を張り上げて歌い継ぎ、ハイソプラノの存在感を示していた。そしてソット・ヴォーチェで揃って歌い出す四重唱では、穏やかなオルガンの低い伴奏の中で整然と見事なアンサンブルの四重唱が歌われて、この曲の妙なる響きの素晴らしさを聴くものの心にしっかりと伝えていた。
 第三曲のレックス・トレメンデでは、いきなり始まる付点リズムの付いた刻むような強いオルガンの前奏のあとに、レックスの大合唱が三度トウッテイで響き渡り、力強い合唱がうねるように堂々と続いていたが、後半では一転して力を弱めテンポを落として、悲痛な祈りにも似た静かな斉唱で終息していた。強弱・緩急の著しい変化に富む合唱であった。



 第4曲のレコルダーレでは静かに始まるオルガンの序奏に乗って、アルトとバスの二重唱が厳かに始まり、ソプラノとテノールの明るい二重唱にと上昇しつついつの間にかソリストによる四重唱が始まっていた。そしてソリストたちは男声と女声が交互に歌ったり、四重唱に戻ったり、男女の組み合わせを変えた二重奏で掛け合いをしたりして変化しながら四重唱を続け、前後の激しい合唱曲の間をつなぐ安らぎの場になっていた。そして第五曲のコンフターテイスでは、オルガンの激しいうねるような強奏のもとにトウッテイの男声合唱が激烈な調子で「呪われた者よ」と歌い出す。そして一瞬の間をおいて、女声合唱がソット・ヴォーチェで静かに喘ぐような細い声で歌い出した。この強者と弱者の対照の妙がもう一度繰激しくり返されて改めて聴くものを震撼とさせてから、テンポを変え新たなオルガンの厳かな伴奏の下で4声が合体して静かに祈りを捧げるように唱和していた。この不協和音と半音の交錯する和声の深遠さには何かしら瞠目せざるを得ないものがあるような気がした。
 この余韻を残しながらアッタッカで、ラクリモサのため息のような短い前奏が始まり、ピアノで静かに合唱が始まって、一音一音クレッシェンドしながら上昇し8小節の頂点に達してから、その余韻を大事にしつつソット・ヴォーチェで合唱が続き、フォルテになったりピアノになったりしながら荘厳な祈りの合唱が進み、最後にもう一度フォルテで高まりを見せてから静かに影を落しながら、アーメンの合唱で「涙の日」が終息した。



 レクイエムの演奏は、ここで一息静寂の間を持ってから、続いてオッフェルトリウムの早いテンポのドミネ・イエスの合唱に入っていたが、聴く側の緊張がここでどうしても途切れてしまう。それはここまでで死者を弔うための音楽的感動が充分に与えられており、後続部分は単に付け足しのようにしか私には聞こえないので、ここで中断することが私の場合には長年の慣習で、ごく自然になっているからだ。
 このスエーデン放送合唱団はの「レクイエム」は、この曲の合唱音楽としての素晴らしさを改めて気づかせる演奏であると思った。この合唱団の声が良く揃って澄んでおり、オーケストラによって消されずに、オルガンによって浮かび上がるように聞こえたからだ。この合唱団の少人数の合唱のアンサンブルの良さは素晴らしかったと思った。そしてこの合唱を支えたオルガンの伴奏は、オーケストラの雰囲気を柔らかく間接的な響きで伝えており、合唱の全体を支える力強いベースになっていた。しかし、やはり「レクイエム」の音楽には、オーケストラの多様な響きをもった起伏の大きい巨大な力強い響きが必要不可欠であり、この演奏によって改めて「レクイエム」におけるオーケストラの重要性を再確認させたくれたと思う。

 コープマンのピリオド楽器による演奏と、オルガンによるスエーデン放送合唱団の二つの特色を持った「レクイエム」を聴いて、この曲の「映像のコレクション」の全てをアップすることが出来たことを嬉しく思っている。前者は、この曲のピリオド演奏の最初期のものであり、交響曲の全曲演奏と共に日本で初めてこのスタイルで演奏され映像に残された没後200年のモーツアルトイヤーの貴重な記録であった。その後、ピリオド奏法ではガーデイナーやブリュッヘンらによる素晴らしい演奏が加わって、コレクションを充実させてくれた。後者のスエーデン放送合唱団の演奏は、唯一のオルガンの伴奏による「レクイエム」として、この合唱団の実力を示してくれたが、地方の小さな教会などでは「レクイエム」の演奏方法の一つとして、参考になる面白い演奏になるかも知れない。

(以上)(09/02/11)


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