(アップを急ぎたかった収集ソフト報告;映像ならではの珍しい隠れた名曲)
9-12-4、吉野直子のハープ五重奏による「アダージョとロンド」ハ短調 K.617、 08/01/28、東京JTアートホール、アフィニス、

−吉野直子の素晴らしいハープで演奏された名品「アダージョとロンド」をアップしようと取り組んでいたが、小品だったので、ホフマンのグラスハーモニカの演奏と、本荘令子のチェレスタとN響グループによる演奏などをそれぞれ比較して聴くことになった。結果的には、CDと映像を合わせた思わぬソフト紹介となったが、私にはピーター・マークと高橋美智子のCDが、他に例のない貴重な演奏であると感じさせられた。 −

(アップを急ぎたかった収集ソフト報告;映像ならではの珍しい隠れた名曲)
9-12-4、吉野直子のハープ五重奏による「アダージョとロンド」ハ短調 K.617、 08/01/28、東京JTアートホール、アフィニス、
(演奏)Hp;吉野直子、Ft;佐久間由美子、Vn;川田知子、Va;鈴木康治、Cl;山本裕康、
(08年12月17日、NHKBS2クラシック倶楽部の放送をBD-008にHEモードで収録)

 NHKのクラシック倶楽部BS2で「吉野直子の世界−ハープ五重奏−」が放送されていたが、その中に非常に珍しい一曲 「アダージョとロンド」ハ短調 K.617が含まれていた。この曲はK番号でお分かりの通り、モーツアルトの自筆作品目録には、1791年5月23日の死の半年前の日付を持ち、自身の手により「ハーモニカとフルート1、オーボエ1、ヴィオラ1、チェロのためのアダージョとロンド」と書かれた作品であった。このハーモニカとは、当時流行していたグラスハーモニカと言われた楽器のための作品で、現在では楽器博物館にしか残されていない楽器であった。モーツアルトは、当時有名だった盲目の女流グラスハーモニカ奏者キルヒゲスナーのために作曲したとされている。彼女はこの曲を加えたプログラムで、ウイーンの宮廷劇場で演奏会を91年6月と8月に行い、この曲を初演したとされている。
  今日ではグラスハーモニカの代わりにハープやチェレスタまたはグロッケンシュピールで弾いたレコードのほかピアノでも弾かれることがあり、今回アップしようと考えたハープの演奏を聴いていて、これらの珍しい映像が残されていたのを思い出した。データベースで確認すると、別添の通りグラスハーモニカとチェレスタによる2組の映像と幾つかの極めて懐かしいLPやCDの録音が残されていたので、ここでまとめてご報告しておきたいと考えた。



     最初の吉野直子のハープの五重奏では、オーボエがヴァイオリンに変更されていた。フォルテの合奏でアダージョが始まるが、ハープが答えるようにアダージョの主題を提示しながら進行し、やがてハープの音色にフルートが相づちを打つように進んでから、素晴らしい五重奏で結ばれていた。再び冒頭の合奏のアダージョが現れてからは、ハープとフルートがリードしながら見事な五重奏になってアダージョが終結した。吉野直子のハープは軽やかに一音一音丁寧に弾けるように弾かれており、それに答える佐久間由美子のフルートはやや暗い音色でハープを支えるようにゆっくりと吹かれていた。



  曲はフェルマータのあと典型的なロンド形式ABACABAの明るいロンドに入り、ロンド主題がいきなりハープによりアレグレットで軽快に提示され、フル−トがメロデイラインの五重奏となって主題が繰り返された。ハープとフルートが掛け合うように進行してから、第一の副主題がハープにより提示されフルートにより繰り返されて五重奏の部分が現れて、再びハープによりロンド主題に戻っていた。そして第二の副主題がフルートにより提示され、ハープのソロで再現された後に聞き覚えのあった第一の副主題が五重奏で顔を出し、最後に結びのロンド主題に明るく突入していった。



  吉野直子のハープ五重奏の演奏会では、ピエルネ作曲の「自由な変奏と終曲」作品51、ジョリヴェ作曲の「ノリスの歌」など、私が初めて聴く曲が演奏されていた。いずれも現代曲でハープとこれらの楽器の組み合わせを活かした五重奏曲であったが、私にはこれらのメロデイラインが欠如したような難しい曲にはついて行けない面があった。
  モーツアルトの原曲をハープで演奏すると、原曲の美しい持ち味は充分に示されていたし、ハープ独自の煌めくようなアルペッジョが活かされていた。しかし、他の楽器と比較すると、録音のせいもあるかもしれないが、ハープでは音量が少し乏し過ぎるせいか、後述する本荘令子のチェレスタや高橋美智子のグラスハープほどの高音の魅力溢れる輝くような響きは、残念ながら聞こえてこなかった。




  続いて、この曲を最初に映像で見た本荘令子のチェレスタによるN響のコンサートのアダージョとロンドK.617をご報告しよう。このN響の演奏会は、16年前の1993年11月11日、NHKホールでホルスト・シュタインの指揮によるコンサートであった。第一曲目は イモージェン・クーパーによるピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466(5-8-3)であり、続く第二曲目にこの曲が演奏されていた。この番組は94年1月9日、中村紘子さんが司会をした94年最初のN響アワーの1時間番組であった。写真で見るように、中央に本荘令子が位置し、左からFl;中野富雄、Ob;北島章、Va;川崎和寛、Ce;徳永兼一郎のメンバーであって、実に懐かしいメンバーが揃っていた。



  N響のピアニスト本荘令子さんが弾くチェレスタの強い響きで曲は始まったが、直ぐにチェレスタの微妙な響きの美しさに魅せられてしまい、相づちを打つように響く伴奏のフルートとオーボエの音に共鳴するように聞こえ素晴らしかった。そして後半になって弦楽器も加わった見事な五重奏となっていた。アダージョが終わると簡単なチェレスタのカデンツアがあって、直ぐにチェレスタがロンド主題を明るくテンポ良く弾き出した。フルートやオーボエとの掛け合いも美しく素晴らしい協演となっていた。なかでも最初の副主題でチェレスタが和音を重ねていく部分の美しさは喩えようもなく、後半の素晴らしい五重奏を導き出していた。本荘さんのチェレスタは、ピアノと同じようにテンポも音程も全く安定しており、伴奏楽器と快く重なり合って素晴らしい効果を挙げていた。



  このN響グループのチェレスタの響きに魅せられて、最初にこの曲を聴いたピーター・マークのチェレスタ(フリーメースン全集のCD)によるこの曲を取り出して比較してみたが、矢張りチェレスタの響きは格別に魅力的であった。このCDは特に録音が素晴らしかったせいがあるかもしれないが、ハープよりも後述するグラスハーモニカなどの演奏よりも演奏がしっかりと安定し、音の響きや重なりが魅力的で、私には三種の楽器の中では、チェレスタが最も好ましく感じられた。




続いて、モーツアルトがこの楽器のために作曲したとされるグラスハルモニカを用いて演奏した映像をご報告する。この楽器は水を張った沢山のグラスが並べられており、ペダルを踏むとグラスが回転して指で触りさえすれば音が鳴るようになっているとされ、今日では西欧の楽器博物館でなければ見ることが出来ない。しかし、この楽器の名手ブルーノ・ホフマン(1913〜1991)が演奏したCDや映像が残されていた。この映像は、1981年にクーベリックがバイエルン放送交響楽団とハ短調ミサ曲K.427を録音したシリーズのレーザー・デイスクに収録されていたもので、ホフマンがバイエルン放送交響楽団の仲間と演奏したものであった。これはこの楽器の残された唯一の演奏であろうが、良く見ると使用楽器は機械仕掛けのハーモニカではなく、後述する現在のグラスハープと変わらない構造のように見えた。



  ホフマンの演奏は、両手を使って指を広げてグラスに向かう真剣な表情の演奏であったが、思いっ切りゆっくりしたテンポで始まり、まるでグラスハーモニカの音に合わせて恐るおそる伴奏が弾かれている感じであった。グラスハーモニカは、時には鋭い響きがあったりして、不思議な魅力ある音色に最初は驚いたものの、楽器のせいかテンポが揺れており、安定しないままアダージョが演奏されていた。しかし、グラスハーモニカとフルートやオーボエの合性は良く弦の低音も安定していて、この楽器の音色を楽しませる面白い五重奏になっていた。









  ロンドの主題に入ってテンポが速まって、ホフマンは手を広げて楽器全体を動き廻るようにして弾きまくっており、手のひらがグラスに触れる音が雑音として聞こえるので驚かされた。良く澄んだ特有の音色はアダージョと変わらぬものの、時にはグラス同志が共鳴して激しい音が出るなどの変化が見られた。矢張りテンポが不安定であるのが気になったが、これは手の動きが大きいために、一音一音がピアノノのように安定せず、触れ方により音の減衰速度が微妙に変化し、テンポが揺れ動いてしまうこの楽器が持つ宿命のような感じがした。ホフマンの演奏はCDにも何種か残されているようであるが、私の持っているザルツブルガー・フェストコンサートという音楽祭の記録のCDには、グラスハーモニカのためのアダージョK.356(617a)という小品も演奏されていた。


グラスハーモニカの紹介に加えて、日本でこの原理を利用して開発されたグラスハープという楽器により、マリンバの名手高橋美智子が演奏した魅力的なCDについてもご紹介しておきたい。グラスハーモニカは楽器として一時は市民権を得ていたが、激しく演奏すると指先の微妙な振動が、時には感覚麻痺を生じさせ、ついには神経障害を引き起こすという例が続出するようになり、ドイツではこの天使の楽器による演奏が禁止されるに至って、この楽器は博物館入りとなっていた。しかし、かねてこの楽器に関心を寄せていた打楽器奏者の高橋美智子が佐々木硝子(株)と協力して、新たにグラスハープを製作し、再びこの種の曲が演奏されるようになってきた。ここに紹介するCDは、「グラスハープ・モーツアルト」というCD (KING-KICC-118)で、青島広志が指揮とチェンバロを担当したアンサンブル東京の珠玉のモーツアルト小品集であった。

  この曲集には、K617のほかに前述のK.356(617a)が含まれているばかりでなく、幻想曲ハ長調K.616aというわずか13小節の断片曲が青島広志の手により補筆・編曲されて演奏されており、ここに初CD化されている。グラスハープは写真で見るとおり、大小様々の水を入れたグラスに直接指を触れて音を出しているようであるが、特殊なガラスのせいかまさに天使の音が聞こえてくるような気がする。 高橋美智子のK.617 の演奏は、ホフマンのようにテンポが揺れるようなことは少なく、まさにこの楽器でしか表せない澄んだ高音の美しさを充分に聴かせてくれていた。

  全体を聴いてみて、チェレスタにせよグラスハープにせよ、これらの楽器の微妙な音色を表現するには矢張りCDの方が優れていると感じた。映像では、普段使われないこれらの楽器がどのように使われ演奏されるかを確認するために、矢張り、是非、見ておくべきだと思った。同じ曲が、ホフマンのグラスハーモニカの演奏と、ハープやチェレスタによる演奏でそれぞれ比較して聴けるなどとは余り思っても見なかった。今回、吉野直子のハープの演奏を収録して、CDと映像を合わせた思わぬソフト紹介となったが、私にはピーター・マークの演奏と高橋美智子のCDが、他に例のない貴重な演奏であると感じさせられた。

(以上)(09/12/10)


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