(最新のソフト報告;メスト指揮クリーブランド響のカーネギー・ライブ、)
9-12-1、ウエザー・メスト指揮クリーブランド管弦楽団の06年カーネギーホール・コンサート、ピアノ協奏曲ト長調第17番K.453、ピアノ;レイフ・オヴェ・アンスネスおよび2曲の伯爵夫人のアリア、ソプラノ;ドロテア・レッシュマン、06年10月04日、カーネギーホール、ニューヨーク、

−メスト率いるクリーヴランド管弦楽団は安心して聴けるしっかりした技術を持っており、アンスネスもレッシュマンも良いところを見せた申し分のないコンサートであって、後半に演奏されたウインナワルツはメストの腕の確かさを印象づけるものであった−

(最新のソフト報告;メスト指揮クリーブランド響のカーネギー・ライブ、)
9-12-1、ウエザー・メスト指揮クリーブランド管弦楽団の06年カーネギーホール・コンサート、ピアノ協奏曲ト長調第17番K.453、ピアノ;レイフ・オヴェ・アンスネスおよび2曲の伯爵夫人のアリア、ソプラノ;ドロテア・レッシュマン、06年10月04日、カーネギーホール、ニューヨーク、
(09年10月23日、クラシカジャパンの放送をBD-019にSPモードで収録)

  この映像は、ニューヨークのカーネギーホールの06/07年シーズン・オープニングに、ウエルザー・メストが音楽監督を務めるアメリカの名門、クリーヴランド管弦楽団が招かれたスペシャル・コンサートのライブである。メストのお国ものとなるオール・ウイーン・プログラムであり、ノルウエー生まれのアンスネスやドイツ出身のレッシュマンなど魅力的なソリストを迎えて、モーツアルトの協奏曲やアリアを始め、ウインナワルツやオペレッタ序曲に至るまで、お馴染みのウイーン風の名曲が楽しめるニューヨーク人にとって喜ばれそうな異色的なコンサートになっていた。
 曲目はズッペのオペレッタ「軽騎兵」序曲で始まり、アンスネスのピアノでピアノ協奏曲ト長調第17番K.453、ソプラノのレッシュマンが歌った2曲の「フィガロの結婚」の伯爵夫人のアリア、シュトラウスのワルツ「芸術家の生涯」、アンネンポルカ、喜歌劇「こうもり」序曲、と続く親しみやすいコンサートであった。メストは1960年リンツ生まれで、32歳の若さでロンドンフイルの音楽監督を務め、1995年からチューリヒ歌劇場音楽監督、2002年よりクリーヴランド管弦楽団、2010年より小沢征爾の後を継いでウイーン国立歌劇場の音楽総監督を務める予定とされており、現在最も注目されている働き盛りの指揮者の一人である。



  映像が始まると直ちに「軽騎兵」序曲の華やかなトランペットとともに、あの懐かしいカーネギーホールの正門前の道路の雑踏風景が映し出されていた。ホール内の客席が写り舞台が映し出されて、早速、ウエザー・メストが指揮台に登場して挨拶を交わし、直ちに第一曲目の「軽騎兵」序曲が始まった。冒頭のファンファーレのトランペットが柔らかに聞こえ、続く4つのホルンの重奏がふくよかに聞こえた。メストが振るとこうもエレガントに聞こえるものかと思い、私はこの曲がウイーンの曲だとは迂闊にも知らなかった。中間部にクラリネットのソロがあり、続く弦楽合奏の部分が歌うように美しく、曲は軽快に進行し、終わりにはコントラバス7本の威力あるフルオーケストラのトウッテイの迫力ある強奏があって、久し振りにこの楽しいオペレッタの序曲を聴いた。



  第二曲目はレイフ・オヴェ・アンスネスのピアノでピアノ協奏曲ト長調第17番K.453であった。この人は1970年ノルウエー出身のピアニストであり、コンクール出場の経験が無い地味な存在であったが、やっとここ最近になって日本でも彼の名前が知られるようになっており、このHPでは初登場である。05年にリリースされたノルウエー室内管を弾き振りした第9番と第18番の協奏曲のCDが極めて美しい境地を示しているとされて評判になっていた。メストと共に登場しピアノの前に座ったが、映像でも黒の服装で派手さを嫌う地味なタイプのピアニストであると見受けられた。
  この曲の第一楽章はアレグロのソナタ形式であるが、第二・第三楽章は、とても自由な雰囲気を持った変奏曲形式であり、フルートやオーボエやファゴットなどの木管楽器が特に活躍し、ピアノとの対話が特に美しい曲として知られている。



第一楽章は、オーケストラによる行進曲風の第一主題で流麗に始まるが、直ぐにフルートやオーボエのソロや合奏が続き、さらに木管の美しい音形が見事な橋渡しとなって第二主題が始まり、木管がここでも絶妙な応答を見せて結尾となった。やがて独奏ピアノが第一主題を美しく提示していくが、アンスネスのピアノは木目が細かく軽やかに聞こえる。続く第二主題もピアノが提示していくが、オーボエやフルートとピアノの対話が実に美しく、これが繰り返し繰り返し現れて提示部を形づくっていた。展開部ではピアノがさざ波のようにアルペッジョを奏でてピアノが中心になって展開を重ね、ピアノで新しいモチーブが美しく提示されて再現部へと突入していた。この展開部における幻想的なピアノの響きは、アンスネスの感性が滲み出ていたように感じた。カデンツアは譜面通りのモーツアルトのものがサラリと弾かれていたが、アンスネスは細部のニュアンスを大切にする素晴らしいモーツアルト弾きというイメージを得た。



  第二楽章はわずか5小節の序奏のような短い第一主題がオーケストラで提示され、フェルマータの後に続いて突然に、オーボエとフルートが競うように主題を歌い出し、ファゴットも加わって幻想的な雰囲気を醸し出す。これが変奏曲の主題提示のように私には思われ、この曲は続く3つの変奏曲とカデンツアの後の結びと、冒頭主題が5回現れる自由な変奏曲のように聞こえた。第一変奏はアンスネスによる独奏ピアノによる小刻みな遅めの変奏で、ピアノが終始リードしてお得意のリズミカルなパッセージを繰り返しながら後半はピアノと木管とオーケストラの三つ巴で進行していた。第二変奏はオーボエとフルートが主題を変奏してから、ピアノソロが引き継いで、それからピアノと木管が交互に対話を繰り返していた。第三変奏はオーケストラとピアノによる変奏で、ここではアンスネスのピアノが自由に駆けめぐり幻想的な雰囲気を高めながらカデンツアへと進んで、終曲となった。協奏曲のアンダンテ楽章としては、独自の風変わりな不思議な楽章であった。



    フィナーレは変奏曲であり、パパゲーノのアリアを思わせる鳥の囀るような軽快な主題がオーケストラで始まり、繰り返されて変奏曲の主題提示が始めに行われた。第一変奏は、満を持していたかのように独奏ピアノが軽やかに変奏し始めてここはアンスネスの独壇場であった。第二変奏は旋律がフルートで始まりピアノは早いパッセージで追いかけ、交互に進む変奏であった。第三変奏では、オーボエとフルートの活躍が目ざましく、モーツアルトが飼っていたムクドリの鳴き声を模倣しているような部分が聞こえていた。ここでは速いテンポのピアノとオーケストラや木管が複雑に絡み合って明るく華やかに推移していた。音色ががらりと変わる短調の第四変奏を経て、第五変奏は一転して行進曲調となるが、ピアノの堂々とした主題旋律が鮮やかであった。終曲はフィナーレと楽譜に書きこまれたプレストで、実に賑やかに躍動的に主題の楽想が盛り上り、ピアノも早いテンポで華やかに追従する充実したフィナーレであった。アンスネスのピアノはいつも明るく輝くように弾かれており、オーケストラや木管とのアンサンブルも自然に良く融け合っていた。



     終わると素晴らしい拍手が湧き起こり、メストとアンスネスが握手しながら拍手に答えていたが、何回か呼び出されて休憩に入っていた。客席には着物姿の日本人の姿もちらほら見えていた。モーツアルトの弟子であるバーバラ・ブロイヤー嬢のために書かれたこの曲は、第14番K.449とともに、一連のシリーズの協奏曲とは少し感性が異なる幻想的な雰囲気を持っているような気がするが、アンスネスという一見孤独風に見えるピアニストには、聞いていてとても似合っている曲のような感じがした。



  第三曲目はこのHPではお馴染みのソプラノのドロテア・レッシュマンが、メストと一緒に登場した。レッシュマンの伯爵夫人は、最新の二つの「フィガロの結婚」のDVDで見ることが出来る。このオペラの伯爵夫人の最近の位置づけについては、昔の過去を懐かしむ中年の伯爵夫人のイメージから脱して、最近では「セヴィリアの理髪師」のロジーナがスザンナとほぼ同年と考えると、このオペラの伯爵夫人は、まだ20歳代の若きロジーナであるべきであり、第三幕以降では作戦の司令塔たる役割を演ずる行動する伯爵夫人のイメージが求められている。この傾向は ヤーコプスの映像(2004パリ)(5-4-1)に始まり、それ以降のこのオペラを指揮する気鋭の指揮者や演出家に次第に取り入れられつつあり、レッシュマンが伯爵夫人を演じたアーノンクールのDVD(06年ザルツブルグ音楽祭)(7-10-5)パッパーノのDVD(06年コヴェントガーデン)(9-3-3)は明らかにこの傾向にある。彼女は90年代はまだスザンナ役だったのであるが、最近ではこのような解釈の影響もあって、まだ若いのに行動する伯爵夫人に仕立て上げられてしまっているような気がする。



 最初のアリアは、第二幕の冒頭に幕が開くと同時にオーケストラの美しい前奏の後に、物思いにふける伯爵夫人が歌い出すラルゲットのカヴァテイーナであり、「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」と悲しみを湛えながら静かに歌うアリアで、クラリネットの伴奏が美しい。レッシュマンはオペラでの深い悲しみに浸るよりも、演奏会風に、これからの生き方に明るさを見出すかのように晴れやかに歌っており、短いアリアながら大変な拍手で歓迎されていた。黒いロングドレスがとても似合っていた。
 二番目のアリアは、第三幕で一人で歌われる回想(アンダンテ)から希望(アレグロ)へと歌われる劇的なアリアで、オーケストラ伴奏によるレチタテイーボが朗々と激しく始まっていた。アリアは「楽しい思い出はどこへ」と美しく歌い出され、幸福な時を追想して現在の不幸を嘆いていた。繰り返しの後に第二部のアレグロに入って、苦悩する私に希望を与えてくれるなら、伯爵のあの無情な心を変えられるという希望を歌う発展するアリアに成長していた。レッシュマンはこのアリアも後半に力を込めて、回想から希望へと明るい声で力強く歌っていた。この勢いに押されるように、ここでも大変な拍手を浴びてレッシュマンは2度、3度と呼び出されて挨拶をしていた。もう一曲ぐらい歌わせてやりたい位の熱烈な雰囲気であった。



  続く曲はウインナワルツの部に入り、ワルツ「芸術家の生涯」作品316であった。オーボエで始まる序奏部が美しく、三拍子のワルツの部分に入って、お馴染みのメロデイが繰り返されて堂々たる風格のあるワルツとなっていた。続いて「アンネンポルカ」となり、これも人懐っこいお馴染みのポルカで大変な拍手を浴びていた。最後はオペレッタ「こうもり」序曲が演奏されて、本格的なウイーン風のスタイルに客席は拍手と歓声で湧き上がり、素晴らしいコンサートが終了していた。拍手は熱烈なのであるが、諦めが多いせいか習慣なのか、日本のようにアンコールは1曲もなくあっさりと終了していた。メスト率いるクリーヴランド管弦楽団は安心して聴けるしっかりした技術を持っており、アンスネスもレッシュマンも良いところを見せた申し分のないコンサートであって、後半に演奏されたウインナワルツはメストの腕の確かさを印象づけるものであった。

(以上)(09/12/05)


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