(レーザー・デイスク・ストックからのオペラ報告)
9-1-3、エリオット・ガーデイナー指揮、J.L.タミン演出、イングリッシュ・バロック・ソリイスト、モンテヴェルデイ合唱団によるオペラ「フィガロの結婚」K.492、1993年6月、パリ・シャトレ座、

−ガーデイナーの意図がその全体に細かく反映されており、新しさや新鮮さを感じさせる見どころのある映像。特に、ターフェルは反骨精神が豊かなフィガロの印象であり、ハグリーのスザンナは若くて可愛げのある機転のきいたスザンヌを演じて、息の合ったコンビを感じさせた−

(レーザー・デイスク・ストックからのオペラ報告)
9-1-3、エリオット・ガーデイナー指揮、J.L.タミン演出、イングリッシュ・バロック・ソリイスト、モンテヴェルデイ合唱団によるオペラ「フィガロの結婚」K.492、1993年6月、パリ・シャトレ座、
 (配役)伯爵;ロドニー・ジルフリー、伯爵夫人;ヒレヴィ・マルテインペルト、フィガロ;ブリン・ターフェル、スザンナ;アリソン・ハグリー、ケルビーノ;パメラ・ヘレン・ステイーブン、バルトロ;カルロス・フェラー、バルバリーナ;コンスタンツエ・バッケス、その他、
(ポリドール、POLG-1164-5、レーザー・デイスクより)

 1月号の第4曲目は、古いレーザー・デイスク・ストックからのオペラ報告であり、今回は素晴らしいと思ってきたエリオット・ガーデイナー指揮の「フィガロの結婚」K.492を取り上げてみた。この映像はパリ・シャトレ座における1993年6月のライブ映像であり、演出はガーデイナーも相当関わったであろうが、J.L.タミン演出とされている。オーケストラは、常連のイングリッシュ・バロック・ソリイストであり、合唱団もお馴染みのモンテヴェルデイ合唱団となっている。この映像の素晴らしさは、ブリン・ターフェルのフィガロとアリソン・ハグリーのスザンナによる新鮮なコンビにあり、清新・溌剌・躍動のモーツアルトのパトスと劇的な真実さを、ガーデイナーが巧みに表出したとレーザー・デイスクには書かれていた。これまでガーデイナー のオペラはすべてレーザー・デイスクで持っておりいずれも新鮮な印象を受けているが、今回がこのHPでは初登場であり、古楽器の響きとともにカラヤン・ベームの時代と変わった新しさが期待できるものである。このオペラのアップで「フィガロの結婚」は11本目をアップロードすることになったが、このオペラの映像ストックはまだ沢山あるので、楽しみにしていただきたい。



   この映像では、シャトレ座の広い舞台の背景にお城のシルエットが浮かぶ洒落た画面から始まり、直ちに舞台の前のオーケストラが写されて、ガーデイナーの指揮で序曲がいきなり軽快に開始された。古楽器特有のメリハリの効いた響きで早いテンポで威勢良く進み、これはいけると思わず期待が膨らむ。ガーデイナーは何と上着を脱いだシャツ姿で身体全体を使って颯爽と指揮をしており、序曲と共に出演者のリストが画面で紹介されていた。
 序曲が終わると直ちに、フィガロがお城のシルエットを背景に寸法を測りながら第一曲を歌い出しており、花飾りの付いたレースの帽子をスザンナが見せびらかしながら明るく二重唱が進んだ。そして幕が上がると何とお城のシルエットが消えて大きな椅子がある広いお城の一室が現れて、フィガロがこの部屋が便利だと得意げに歌い出す。この二重唱の中で、スザンナが伯爵の領主権復活の狙いを明かすと、フォルテピアノとチェロの伴奏でフィガロの怒りのレチタテーボが長々と始まって、引き続き「怒りのアリア」を歌い出す。ピッチカートが生き生きと鳴り、棒を手にしたフィガロの反骨ぶりは尋常でなく、伯爵の企みを壊そうと激しく歌って大拍手の歓声を浴びていた。若い可愛げなスザンナと大きな身体のくせに意外に敏捷なフィガロの組み合わせが、お似合いでうけていたと思われる。



   続いて舞台の地下から格好の良い帽子姿のバルトロと付け黒子が良く似合うマルチェリーナが登場し、バルトロが第4曲のアリアで自信ありげに「俺を信用しろ」とばかりに歌っていた。年増過ぎるマルチェリーナと若いスザンナの女同士の小競り合いの二重唱も、面白くワクワクして聴いていると、男っぽい衣裳のケルビーノが登場し、リボンを素速く取り上げてスザンナにまとわりついてきた。そして狂ったように「自分で自分が分からない」と、とてもよいテンポで見事に歌っていた。そこへ伯爵が登場したのでさあ大変。伯爵がスザンナを口説きだすと、部屋の周りをうろついていたバジリオが顔を出し、スザンナをからかいながらケルビーノが伯爵夫人を見る目つきがおかしいという。驚いた伯爵が立ち上がり大声を上げるのでさあ大変。スザンナは失神しそうになるが、椅子に隠れていたケルビーノも見つかり、「コシ・ファントッテ」のおかしな三重唱が続いていた。
 フィガロを先頭に村人たちの合唱が始まり、領主権の放棄を讃える合唱だったので伯爵はご機嫌であったが、フィガロがスザンナとの結婚を告げて花嫁への飾りを手渡そうとしたが、伯爵は上手に逃げてしまったので、一同は怒りだし子供たちまで花束を投げつける始末。続いて罰として連隊の士官に命令されたケルビーノに、発令の前に話があるとしてフィガロが「もう跳ぶまいぞ、この蝶々」を歌い出した。歌は朗々として貫禄があったが、洒落た格好ともお別れだとして、ケルビーノの顔に鬚を書き、軍服を着せ、サーベルと帽子を持たせた手荒な教育もしていた。ターフェルの歌は、先にバルトリとのコンビで紹介済み(2-7-1)であったが、ここでは特に後半はターフェルに自由に装飾を付けて歌わせて、名調子ぶりが光っており、盛んに拍手を浴びていた。




   第二幕は伯爵夫人の部屋で、夫人のカヴァテイーナで美しく始まる。澄んだ声で落ち着いてしっかりとアリアを歌っていた。フィガロが登場し、スザンナと三人で伯爵を懲らしめる計画を練り、ケルビーノを女装させる話から計画がまとまる。軍服姿のケルビーノが登場すると女二人は大喜び。早速、カンツオーネが始まるが、これが超特急のテンポで落ち着かなかったが、次第に調子を取り戻し後半では、恋の歌そのものになっていた。
 続くスザンナの着せ替えのアリアは、実に楽しく浮き浮きと歌われ、伯爵夫人も手を貸しながら、ケルビーノが女装されていった。スザンナが場を外して夫人とケルビーノが怪しくなりかけた時に、ドアが叩かれ伯爵の声が聞こえてきたので、さあ大変。疑心暗鬼の伯爵と当惑する夫人とスザンナのぎこちない三重唱となった。ドアを開けるため道具を取りに行った一瞬の隙に、スザンナがケルビーノを逃がそうと、あわてふためいた二重唱となり、ケルビーノがスザンナにちゃっかりキスをして窓から飛び下りて一目散。伯爵と夫人が部屋に戻ったところで、五場からなる長い長いフィナーレが始まった。




   夫人がケルビーノが隠れていると白状したため、大いに怒った伯爵との二重唱に続いて、スザンナがドアから「シニョーレ」とふざけながら顔を出して、驚愕する美しい三重唱となり、平謝りの伯爵と責めつける女二人との滑稽な三重唱が続いた。そこへフィガロが顔を出したので、伯爵は偽の手紙を突きつけるが、フィガロは知らぬと頑張ってしまったので、二人はあわや一発触発の状態。そこへアントニオが庭に飛び下りた男がいると駆け付けて四重唱から五重唱に発展する。まずはフィガロが自分が飛び下りたとビッコをひいて見せたが、続くアントニオが見つけた「紙きれ」の件で進退窮まった。しかし、女二人の機転で窮地を脱したものの、伯爵とは睨み合いが続いた。そこへ伯爵が待ち望んだマルチェリーナ、バジリオ、バルトロの三人が登場し、マルチェリーナがフィガロとの結婚の契約を履行して欲しいと訴えて、七重唱が始まって形勢は逆転し、伯爵側が優勢の盛り上がった緊張感の中で、第二幕の長いフイナーレが終了した。





   第三幕は伯爵の広い部屋で、伯爵が第二幕で次々に起こった出来事を考え直していると、スザンナがちゃっかり現れ、殿様の口説きに色よい返事をする二重唱が始まって、殿様をその気にさせ喜ばせていた。しかし、別れ際にフィガロに「訴訟に勝った」と耳打ちするのを聞いた伯爵は、騙されたと知り大怒り。伯爵の怒りの心情を歌うこのアリアが堂々と歌われて、フィガロとの結婚を妨害しようと決心させた。ここで曲順が入れ替わり、伯爵夫人が召使いと衣裳を取り替えるという惨めな心情を歌うアリア「あの美しい時はいずこに」を歌ったが、声が良く透りオーボエのオブリガートも美しく素晴らしい出来で、大拍手を浴びていた。




   訴訟の結論が出てフィガロは「金を払うか結婚をするか」どちらかと言うことになり、フィガロが窮地に立って結婚するなら両親の許しが要ると言い出して、自分の素性を説明しているうちに、何と右腕の痣があることが決め手となって、フィガロは盗まれたマルチェリーナの息子であることが判明した。二人が喜んで抱き合っているところへスザンナがお金を持って駆け付け、フィガロを平手打ちにした後、何とも珍妙な「マードレ」「パードレ」の六重唱が歌われて、二組のカップルが手を繋いで踊り出していた。
 続く「手紙の二重唱」は少しテンポが早かったが、伯爵夫人もスザンナも声が良く透り澄んでいるので実に美しい二重唱となっていた。そこで花束を持った村の娘たちの合唱があり、ケルビーノが女装して混じっていたが、駆け付けたアントニオと伯爵にケルビーノが捕まってしまう。そこへフィガロが顔を出したので、伯爵がケルビーノが窓から飛び下りたと白状したとフィガロを責め、伯爵が手を振り上げた所で結婚式の行進曲の音楽が始まり、フィガロは危ないところを救われた。
 伯爵と伯爵夫人が席に着き二組の結婚式が始まる。まず二人の村娘がお祝いの祝辞を二重唱で献げてから踊りの場面が始まるが、伯爵はスザンナから手紙を受け取ったため、踊りも上の空で、フィガロに手紙を読んでいる姿を悟られてしまう。そして、伯爵は今宵盛大な祝賀の宴を開こうと挨拶して、第三幕のフィナーレは終わりとなった。 


 

   第四幕は暗闇の中でバルバリーナのアリアで始まるが、ピンが見つからず困っているところへフィガロが駆け付け、ピンを見つけてスザンナが手紙を伯爵に渡したことと場所が松の木であることを彼女から聞きだしてしまう。ここでマルチェリーナとバジリオのアリアは略され、レチタテイーボだけになっていたが、さらにフィガロのレチタテイーボの途中からスザンナのアリアが始まるという順序の変更があった。伯爵夫人になりすましたスザンナがフィガロが隠れていることを知りつつ歌うこのアリアは、大袈裟な身振りでピッチカートの伴奏のもとに実に優雅に歌われ彼女の最高の場面であった。続いてフィガロが現れてスザンナの裏切りを怨んで歌うアリアが続いていた。この映像で初めて見た入れ替えであったが、よく考えるとこの方がごく自然であった。



     フィナーレでは暗闇でいろいろな人物が現れて活躍する。まずスザンナに化けた伯爵夫人が現れ、ケルビーノが見つけてからかい出す。しつこいケルビーノが夫人にキスしようとして、陰にいた伯爵にキスしてしまい、伯爵が平手打ちにするとそれが隠れていたフィガロに当たるという手の込んだ暗闇騒動が続いた。しかし伯爵が首尾よく夫人が扮するスザンナにやっと巡り会い、有頂天になってダイヤの指輪まで与えてしまった。それを見ていたフィガロが伯爵夫人に訴えるが、それがスザンナであることが声で気がつき、今度は二人で伯爵を懲らしめようと、大袈裟にラブシーンを演じてしまう。それを見て怒った伯爵が大声を上げて、伯爵夫人の不倫を咎め大騒ぎとなったが、別の場所から夫人が現れたのでさあ大変。自分の間違いに気がついた伯爵は夫人に平謝りとなって許しを請い、長い「たわけた一日」が終わりとなった。ガーデイナーはこのフィナーレをキビキビとしたテンポで軽快に進め、最後の出演者全員による合唱を盛り上げて終息させていた。




   以上の各幕の叙述は、この映像の特徴を進行に沿って言い表そうと努力したものであるが、ガーデイナーの「フィガロ」を見て、その全体にガーデイナーの意図が細かく反映されているようで、新しさや新鮮さを感じさせる素晴らしく見どころのある映像であると思った。 第一に登場人物のキャステイングであり、これほど各役にピッタリな歌い手が揃った映像は少ないと思う。主役の四人はお揃いであったが、無名に近いケルビーノは実に生き生きとしており、マルチェリーナもバジリオも味があって動きが良く、彼らが舞台を活性化させていた。第二に演出面では、間仕切りと大きな椅子だけの簡素な舞台造りにも拘わらず、工夫されたお城のシルエットも印象的で、地下からの出入りがあったり、随処で目新しさを感じさせていた。時代を反映した各人の衣裳も素晴らしく役どころを鮮明にさせていた。第三にガーデイナーの解説にあるように、第三幕と第四幕で曲順を変更していたことである。第三幕の変更は最近よく見かけているが、第四幕のフィガロのレチタテイーボを二つに分けて、その間にスザンナのアリアを挿入した試みは初めて見るものであり、見た目には自然であり分かりやすさを増していたように思われた。音楽学者で研究者でもあるガーデイナーの考え方が、現実の舞台に素直に反映され生かされた例であろうと思われる。

 ガーデイナーの古楽器オーケストラは序曲の始まりから特有のメリハリのある音を聞かせていた。早いテンポが多かったがよく考えられており、アンサンブルの多いこのオペラで実によい伴奏を付けていた。また、第三番のフィガロのアリアのように、レチタテイーボで時々顔を出したフォルテピアノとチェロの通奏低音が実に効果的であった。主役四人の歌唱力は素晴らしいものがあり、ガーデイナーは後半では自由に歌わせており、装飾の付け方で古楽器演奏の印象を強く植え付けていた。
 フィガロのターフェルは、反骨精神が豊かなフィガロの印象であり、スザンナのハグリーは若くて可愛げのある機転のきいたスザンヌを演じて、このコンビには息の合ったものを感じさせた。伯爵夫人の二つのアリアは素晴らしかったし、伯爵も堂々としておりこのコンビもよく似合って充分に役どころをこなしていた。




     最近、現代風の衣裳による「読み替え」の演出が増加して新しさを強調しようという傾向があり、その行き過ぎにはウンザリさせられることが多い。しかしガーデイナーのやり方は、リブレットに忠実でありながら読みの深さにより、目新しさや過去の舞台との違いを演出しており、その追求の仕方には素晴らしいものがあると思った。ガーデイナーのオペラ作品は今回が初めてであるが、その意味でこの「フィガロ」は、他の演奏家・演出者にも模範的なものと考えられ、他のオペラにも反映させて欲しいと思った。今のところガーデイナーのレーザー・デイスクは、「後宮(9100)」、「コシ(9209)」、「魔笛(9506)」などが残されているので、楽しみにしていただきたいと思う。

(以上)(09/01/24)


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