8-9-1、菊池洋子のピアノとアフラートウス・クインテットのコンサート−ピアノ五重奏曲変ホ長調K.452および木管五重奏曲変ロ長調K.589(弦楽四重奏曲をウイドラーが木管五重奏に編曲)−06年9月24日紀尾井ホール、

−菊池洋子のピアノとアフラートウス・クインテットのピアノ五重奏曲変ホ長調K.452は、菊池洋子の軽やかで透明なピアノの響きがオーボエやクラリネットなどの木管のひなびた響きに良く合い、とても気持ちの良い響きの演奏であった。−

8-9-1、菊池洋子のピアノとアフラートウス・クインテットのコンサート−ピアノ五重奏曲変ホ長調K.452および木管五重奏曲変ロ長調K.589(弦楽四重奏曲をウイドラーが木管五重奏に編曲)−、06年9月24日紀尾井ホール、(演奏者);Ob:ヤナ・ブロジュコヴァー、Cl:ヴォイチェフ・ニードウル、Fg:オンジェイ・ロスコヴェッツ、Hn:ラデク・バボラク、Fl:ロマン・ノヴォトニー、ピアノ:菊池洋子、

(07年5月1日、NHKBS103のクラシック倶楽部を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。) 

 このコンサート記録は、新進ピアニスト菊池洋子とアフラートウス・クインテット(木管五重奏団)の来日コンサート記録であり、06年秋に紀尾井ホールで収録されたハイビジョン映像である。菊池洋子はイタリアのイモラ音楽院で学び、02年のザルツブルグ国際モーツアルト・コンクールで日本人として初めて優勝してデビューしており、本場のザルツブルグが認めたピアニストとして評価されている。また、05年には写真の通り、ピアノ協奏曲ハ長調第21番K.467およびピアノソナタイ長調K.331を収録したSACDをリリースしており、若いモーツアルト弾きとしての評価が定着しつつある。
 一方のアフラートウス・クインテット(神の息吹を受けると言う意味)は95年にチェコフイルのメンバーを中心に結成された木管五重奏団であったが、97年ミュンヘン国際コンクールで優勝して以来ヨーロッパ各地で高い評価を得ている団体であり、現在では名門オーケストラの標記メンバーからなっている。この団体は、チェコフイルと関係の深い指揮者アルブレヒトの主催したモーツアルト・ガラコンサートのその4で、ピアニスト横山幸雄とこの曲を演奏(2-10-1)していた。従ってこの団体はこのHP2度目の登場であるが、このうちホルンのラデク・バボラクだけは、 バレンボイム指揮ベルリンフイルのコンサートでホルン協奏曲第一番のソリスト(6-11-1)として既に紹介済みであった。

 今回のコンサートの演奏曲目は、第一曲として弦楽四重奏曲変ロ長調K.589をウイドラーが木管五重奏曲に編曲したもの(映像では第2楽章略)、第二曲に菊池洋子が登場してピアノ五重奏曲変ホ長調K.452を、第三曲には全員によるピアノ六重奏に編曲された「テイル・オイレンシュピーゲルの陽気な悪戯」を演奏していた。
 始めの第一曲はアフラートウス木管五重奏団の5人による演奏で、いわゆる管楽四重奏に高音のフルートが加わった編成で開始されたが、曲は弦楽四重奏曲第22番変ロ長調K.589を木管五重奏に編曲したものであった。K.589 はまだこのHPでは未アップの曲で、弦楽四重奏曲でも馴染みの少ない曲を、いきなり最初に聴くことととなり大いに戸惑った。



 原曲の第一楽章は、ヴァイオリンが弱奏で優雅に先導する第一主題と、「プロシャ王」の特徴でチェロが先導する大らかな感じの第二・第三主題から構成される美しい旋律的な楽章である。編曲の構成の基本は、ヴァイオリン二部をフルート、オーボエ、クラリネットが分担し、ヴィオラ・チェロの二部をクラリネット、ファゴット、ホルンが分担していた。冒頭の第一主題は軽やかな第一ヴァイオリンの代わりにフルートとオーボエの合奏で開始され、ヴィオラ担当のクラリネットが直ぐにこれを模倣し、チェロ担当のファゴットが続いてこれらを受け継いでいくと言った仕組みで進む。一連の経過句のあとに、ファゴットが先導しクラリネットが三連符で追い上げる第二主題となり、この二つのフレーズが、5つの楽器を前後で変えながら上がったり下がったり、下がったり上がったりしてとても賑やかであった。そしてチェロの代わりのファゴットが第三の主題を朗々と歌い上げ、フルートが美しく模倣して提示部が作られていた。原曲あっての編曲であるが、この5重奏団の見事に連携したアンサンブルの響きは面白く、通常の木管四重奏よりもフルートとファゴットの活躍が目立っていた。
 長い展開部の後に再現部が現れるが、晴れやかに歌われる三つの主題が5本の楽器で変化されながら歌われる様子が面白く、この編曲は原曲の良さを充分に再現していると思った。



 第二楽章はライブでは演奏されたのであろうが、この55分番組では残念ながら割愛され、曲は第三楽章のメヌエットが始まった。ここではフルートが第一ヴァイオリンの代わりにメヌエット主題を提示して大活躍していた。面白いのはトリオであり、第二ヴァイオリンとヴィオラの伴奏型をファゴットとクラリネットが奏する上に、第一ヴァイオリンが弾くべきトリオ主題をフルートが美しく提示した後、フルートとオーボエが掛け合い風に気まぐれな変奏を行い実に印象的であった。
 フィナーレは軽快にフルートで始まるロンド主題が目立つ楽章で、この主題が順番に楽器を変えて忙しく現れていた。いかにもモーツアルトらしいアレグロで風のように一気に軽やかにこの曲を締めくくっていた。

 フルートが加わった木管五重奏曲はモーツアルトにはないので、初めて聴いたような演奏であったが、この編曲ではフルートが高音部をしっかり分担し、旋律の美しさが際立つ原曲の良さを充分に表現していた。モーツアルト時代の当時の木管アンサンブルのリーダーは殆どオーボエ奏者が占めていたので、主役をフルートにするような編曲がなかったのであろう。



   第二曲目のピアノ五重奏曲変ホ長調K.452の第一楽章は、素晴らしいラルゴの荘重な序奏で始まる。全員の合奏と静かなピアノのソロとが交互に繰り返される重厚なラルゴの始まりで、オーボエとピアノが歌い出し、ピアノの重い分散和音のもとでそれぞれ対等に現れる4つの管楽器がひとしきり歌い上げるが、菊池洋子のピアノが澄んでおり、ピアノと木管の重厚な和音と言い、異なった音色の木管の個々の響きと言い、全体が見事に調和した音を聞かせる。呟くようなピアノの短いカデンツアの後に、対照的に早いアレグロ・モデラートでピアノが第一主題を明るく弾き始め、オーボエが輝くように歌い始めるが、決して早過ぎなく、ピアノの切れの良い優美なパッセージが続いて快調そのものに、木管群が交互にピアノと主題を重ねていく。ドルチェでピアノで始まる第二主題もピアノと木管群が交互に応答しあって主題を進め、ピアノの技巧的なパッセージが続き素晴らしい提示部が続いていた。菊池洋子のピアノは軽快で木管の音と弾むように調和しエレガントそのものに聞こえた。繰り返しは省略されて、第一主題による短い展開部を経て再現部に入るが、ピアノと木管との合性は良く、軽快にこの楽章を終えた。



 第二楽章では第一主題がオーボエで始まり、ピアノがこれに加わって優雅に進行し、ピアノとオーボエが入れ替わって美しく継続する。やがてピアノの波を打つような分散和音に乗ってクラリネット、オーボエ、ホルン、ファゴットの順に主題を歌い出し、ピアノと木管の調和した響きが実に美しい。繰り返しを省略して進む長い展開部でも、ホルンが朗々と新しい主題を提示し、ピアノと木管の合奏が続く部分も素晴らしく、やはり中心をなすピアノの音色とテンポの良さが重要であり、モーツアルトが最高の作品と手紙した会心の作品であることを改めて思い起こさせる。
 フィナーレではABACBAと続く典型的なロンド形式で、ドルチェでピアノにより軽快にロンド主題が飛び出し、オーボエで繰り返された後、ピアノと各楽器が合奏で楽しく語らいながら進行する。Bの主題もC の主題もオーボエが先行してピアノが技巧を見せながら追いかけるように華やかに進むが、この楽章の終わりに長大なカデンツアが用意されていた。オーボエとクラリネットが先導し、ホルンとファゴットが参加し、最後にピアノが加わって、全員合奏で思い思いに吹き鳴らすカデンツアは珍しいだけに聴き応えがあり、再びロンド主題に戻ってこの軽快なフィナーレが終了した。



 見るからに息の合ったピアノ五重奏曲が終わり、お互いに顔を見合わせながら満足げに立ち上がりご挨拶をしていたが、菊池洋子の軽やかで透明なピアノの響きとオーボエやクラリネットなどの響きが良く合った気持ちの良い演奏であった。同じアフラートウス・クインテットでの横山幸雄の演奏(2-10-1)と聞き比べてみたが、今回の演奏の方がテンポが良く、各楽器がしっくりと良く絡みあった落ち着いた演奏のように思われた。また、最近アップした レヴァインのピアノとウイーン・ベルリンアンサンブルによる同曲(7-6-3)についても改めて聴き直ししたが、レヴァインは第一楽章も第二楽章も提示部の繰り返し部分をしっかり演奏しており、その分だけ重厚な味わいのする演奏であると感じた。



 このコンサートの終わりには、リヒアルト・シュトラウスの「テイル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」Op.28がピアノ六重奏版で演奏されていた。この編曲のライブは初めてのものであったが、ホルンを始めとして5本の木管のそれぞれに見せ場があり、面白い編曲であった。とにかくピアノがオーケストラの代わりをするピアノ中心の編曲であり、ピアニストの大変な技巧と先導が必要に見えたが、菊池洋子は一番若いのによく頑張って、肝心要の役を上手くこなしていた。終了後盛大な拍手で迎えられ、彼女は大変な役をこなして、恐らく面目を施したに違いない。全員のにこやかな挨拶と笑顔で終わった快いコンサートであった。

  (以上)(08/09/06)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ




名称未設定