8-8-2、二つのモテット「エクスルターテ・ユビラーテ」K.165の映像記録
−エデイタ・グルベローヴァによるクリスマス・リサイタル(1994)およびタチャーナ・コロヴィーナN響出演記録(1991)より−

−グルベローヴァのクリスマスコンサートは、コロラトウーラの技巧的な曲が取り上げらた格調高いコンサートで、彼女の円熟した豊かなヴェテラン歌手の抑制のきいた透明な声が聞きものであった。また、コロヴィーナの若さ溢れる懸命な熱演も、私が最初に見たこの曲のライブの演奏だったので、極めて思い出深い演奏であった−

8-8-2、二つのモテット「エクスルターテ・ユビラーテ」K.165の映像記録
−エデイタ・グルベローヴァによるクリスマス・リサイタル(1994)およびタチャーナ・コロヴィーナN響出演記録(1991)より−

(演奏)グスタフ・シェークヴィスト指揮、ストックホルム室内管弦楽団、シェークヴィスト室内合奏団、ソリスト;エデイタ・グルベローヴァ、1994年12月、聖マリア・マグダレーナ教会、ストックホルム、および、大友直人指揮、NHK交響楽団、ソリスト; タチャーナ・コロヴィーナ、サントリー・ホール、
(1997年12月クラシカジャパンクリスマス特集(NO239) および1991年5月26日のN響アワー(NO39)の放送を、S-VHSテープにアナログ録画)

 8月号の第二のソフトは、データベースにおいて「エクスルターテ・ユビラーテ」K.165の残された二つの映像をアップするため、いずれも古いS-VHSテープにアナログで記録された映像であるが、ここで取り上げるものである。この二つの映像のアップロードによって、このモッテトK.165の「映像のコレクション」に収録された全9映像がアップされ、一応、完結することになる。初めの映像は、エデイタ・グルベローヴァが歌った演奏で、彼女のクリスマス・リサイタル(1994)から収録されており、第二の映像はタチャーナ・コロヴィーナがN響に出演(1991)して記録されたものである。



 初めのグルベローヴァのクリスマス・リサイタルは、ストックホルムの聖マリア・マグダレーナ教会で1994年12月に収録されたもので、グスタフ・シェークヴィスト指揮でストックホルム室内管弦楽団とシェークヴィスト室内合奏団による演奏であった。演奏曲目は、ヘンデルのメサイアやアンセムからの小品が4曲、モーツアルトのヴェスペレK339から「ラウダテ・ドミニム」とこのモテットK.165のほか3曲が歌われた45分ほどのリサイタルであった。約15年前の演奏であるので、グルベローヴァはゆとりのある豊かな表情で円熟したヴェテラン歌手としての力量を見せていたが、クローズアップされた表情では衰えを見せない若さすら感じさせていた。

 モーツアルトのヴェスペレK339から「ラウダテ・ドミニム」は、このリサイタルの3曲目に歌われていた。この天上的な美しさを湛えた旋律がソプラノソロで静かにオーケストラ伴奏で歌われると、思わず祭壇に向かって手を合わせたくなるような不思議な感覚が芽生える。合唱がこれをゆっくりと「栄えあれ」と繰り返していき、再びソプラノソロが見事に盛り上がりを見せて、神への敬虔な賛歌を見せながら見事に終息した。この曲はいつ聴いても素晴らしいと思うが、やはり教会の中で歌われるのが最も相応しく、グルベローヴァの細い透明な声がこの曲に良く合っていると感じさせた。



 モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」K.165は、このクリスマス宗教曲集では最も大きい曲で、リサイタルの最後に歌われた。第一楽章はオーケストラのトウッテイにより軽快に始まるが、弦の和音にオーボエが相づちを打つような第二主題が面白く、明るく前奏が終わってから、ソプラノが輝かしい声で「喜びなさい」と朗々と歌い出す。グルベローヴァは独特の美しい細い声で歌っていたが、近くで見るとまるで楽器のように体の奥底から声を出すような独自の歌い方をしているように見受けられた。コロラトウーラのフレーズが続き、彼女は譜面を見ながら慎重に声をコントロールしながら歌っていた。カデンツアは短いもので、余裕のせいか、声を抑えて歌っているような形ばかりの地味なものであった。



 オルガンの伴奏で静かにソプラノの透き通るようなレチタテイーボがひとしきり続いた後に、弦楽器だけで第二楽章の歌うようなアンダンテが始まり、二つの主題の提示部が終えて、独唱が始まる。グルベローヴァの声は実に透明で、ゆっくりしたテンポで第一主題を歌い、続いてなだらかに下降するような第二主題を快いテンポで歌って、コロラトウーラの部分が続き、この歌謡的なアンダンテの楽章を見事に歌い上げていた。簡単ならららで歌ったカデンツアのあと、切れ目なく第三楽章のハレルヤが軽快に勢いよく始まる。明るく喜ばしい曲調が溢れる華やかな軽やかな楽章である。グルベローヴァは、声を張り上げてハレルヤと繰り返しながら高らかに歌い、コロラトウーラの技巧を見せながらこの素晴らしいアレグロを喜び一杯の表情で仕上げていた。



   このグルベローヴァのクリスマスコンサートはこの曲で終わりとなったが、トランペットが伴奏して競い合うように歌う二重唱のような曲が三曲もあり、トランペットとソプラノとの歌い合わせの妙を聴かせていた。合唱団と室内オーケストラで半分を占めてしまうほどの狭い教会のクリスマスコンサートであったが、いずれもグルベローヴァの力量を発揮させるべき技巧的な曲が取り上げられており、いわゆる俗っぽいクリスマス曲は含まれていない格調高いコンサートであった。中でもトランペットと競い合う三曲は、モーツアルトの二曲よりもソプラノの高度な技巧とキメの細かな高音を要求して、グルべローヴァの素晴らしい歌唱力を聴かせるもので面白かったので、曲名をここにご披露しておこう。

1)ヘンデル;オラトリオ「サムソン」から「輝けるセラフィムを」、
2)ヘンデル;アン女王の「アンセム」から「聖なる光の永遠の源」、
3)パーセル;トランペットを吹き鳴らせ。


 第二曲目のモテット「踊れ、喜べ、」K.165は、タチャーナ・コロヴィーナという若いソプラノがNHK交響楽団の定期コンサートで歌ったものである。この映像は91年5月26日のN響アワーという編集された番組で収録しているため、演奏時の情報がないのが残念である。分かっていることは、この曲の終了直後に海老沢敏先生が、「モーツアルト、ちょっと耳寄りの話」と言うタイトルで、質問者の森女史を相手に作曲年を早わかりする方程式;{Y(年齢)=X(K番号)/25+10、ただし、K番号は100以降に適用する。}という数式の解説を行っていた。そしてこれでその日のN響アワーは終了していた。



 この映像を見ると、指揮者はまだ童顔の大友直人氏であり、調べてみると氏は1958年生まれで、桐朋学園在学中に既にN響の指揮研究員になり、22歳でN響を指揮して指揮者としてデビューしていた。従って、この映像は、1980〜1791年間のものと言うことが分かる。タチャーナ・コロヴィーナはグーグルでも、ヤフーでも検索してもヒットしないし、名前のスペルがハッキリしないので、インターネットではこれ以上検索不能である。従って、このソプラノ歌手を知るにはNHKに尋ねるしか方法はないが、果たしてこういう問い合わせにNHKは応えてくれるであろうか。



 映像はオーケストラによる第一楽章の第一主題からストレートに始まる。若き大友直人の指揮振りはゆっくりしたテンポで軽やかにそして柔らかな弦の音で開始していた。続く第二主題の弦に答えるような二本のオーボエが印象的であり、懐かしい顔ぶれのオーボエが揃って吹いていた。ソプラノのコロヴィーナがソロで第一主題を歌い出し、第二主題に入ったところで、突然録画が中断し再開したところは、カデンツアの途中からであった。原因は分からないが、真に残念ながら、やむを得ないことであった。
 バロックオルガンの低い響きで、第二楽章初めのソプラノソロのレチタテイーボが始まる。コロヴィーナが両手を結んで胸に当てながら、祈るように静かにレチタテイーボを歌っていた。第二楽章は展開部のない簡潔な協奏的ソナタ形式か、弦五部とオルガンによる美しい第一・第二主題がアンダンテで前奏のように美しく提示されてから、コロヴィーナが「私たちに平安を与えてください」と静かに両手を合わせて優しく歌い、続いて祈りが届くかのようになだらかに下降する第二主題が平穏に歌われた。コロヴィーナは、若さ溢れる表情でやや不安定な面を見せながらも抑えるのが精一杯の様子を見せながら歌っていた。再現部に入っても祈るような歌い方は変わらなかったが、最後のカデンツアでは声を張り上げてこの曲の最高音を出して、声に余力のある所を見せていた。



 続けてテンポが急変してオーケストラの前奏の後に、明るく晴れやかなテンポでハレルヤがソプラノのソロで開始された。この時を待っていたかのように、オーケストラとソプラノソロとが互いに競い合うように順繰りに歌い出し、華やかな曲調でコロラトウーラの技巧を発揮しながら輝かしくハレルヤと神への賛歌が繰り返される。コロヴィーナは、若い力を爆発させるようにここでは全力で声を張り上げて歌っていたが、多少の乱れも若い声が吹き飛ばしてくれたように思われた。

 この映像はアンコールもなくあっけなく終了したが、このソプラノのタチャーナ・コロヴィーナの若さ一杯の元気溢れる演奏が、私には非常に印象に残る演奏であった。長い間忘れたような存在であったが、久し振りで取り出して、改めて聴き直してみると、当時のことがハッキリと思い出される。それは、この名曲は名だたる名ソプラノが競って録音したLPやCDで馴染んでいたにも拘わらず、私には初めて見て聴いたライブのソプラノ協奏曲だったからである。演奏会形式のスタイルであったので、第二楽章の前に入る美しいレチタテイーボを除けば、初めて見る歌の協奏曲そのものだったことと、まるで器楽のソリスト並みにカデンツアで朗々とした声で歌う姿を見て、フルオーケストラに負けずに肉声を張り上げる若いソプラノの懸命な姿に、単純に驚異を感じたものであった。

 この2組のモテット「エクスルターテ・ユビラーテ」K.165のご紹介を終えて、私のデータベースでは、全29組の中に9映像があり、その全てを見てきたことになり、この曲の「映像のコレクション」は完了したことになる。映像の9組のうち教会で歌われたものは3組あり、今回のグルベローヴァ、前回のオジェーとシェーファーの映像があり、いずれもヴェテランの味を聴かせる素晴らしいものであった。教会で演奏されたものは第二楽章の冒頭のレチタテイーボの響きが美しく、宗教曲らしさを強めているものと思われる。
 演奏会形式のものでは、バルトリとウイーンフイルの生誕250周年祝賀コンサートのものがあり、これは当日現地で聴いてきた演奏であるが、立ち上がりが声に固さが見られたものの尻上がりに調子が良くなってきて、ハレルヤでは万雷の拍手を浴びた快演であった。彼女はメゾソプラノに近いので、力強さはあるが声にやや透明感に欠ける点があるものと思われる。新しい映像では、幸田浩子のハイビジョンの美しい映像が出たが、オーケストラが小編成なので異質に不自然に聞こえ、むしろ新しいSACDの演奏の方が、オーケストラの響きが良く、声の伸びも艶やかで好ましいと思われる。しかし、映像でもオーケストにさえ慣れれば、充分に楽しめるものと思われた。  以上の通り、この曲には多彩な多くのソプラノによる映像が沢山あり、この曲を充分に楽しませてくれたことをご報告して結びとする。

(以上)(08/08/03)


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