8-7-3、06年グラインドボーン音楽祭の「コシ・ファン・トウッテ」K.588、イヴァン・フイッシャー指揮エイジオブ・エンライトメント管弦楽団、ニコラス・ハイトナー演出、2006年6月27日および7月1日収録

−この映像は、オーケストラは古楽器演奏であるが、フィッシャーの終始一貫した淀みのない軽快な音楽の進め方が魅力的であり、また演出はリブレットに忠実なスタイルであったが、四人の若い男女の性格描写が非常に強い活気に満ちた美しい舞台であった−

8-7-3、06年グラインドボーン音楽祭の「コシ・ファン・トウッテ」K.588、イヴァン・フイッシャー指揮エイジオブ・エンライトメント管弦楽団、ニコラス・ハイトナー演出、2006年6月27日および7月1日収録、
(配役)フィオルデリージ;ミア・ペンション、ドラベラ;アンケ・フォンドウンク、グリエルモ;ルーカ・ビサローニ、フェランド;トピー・レヘテイプー、デスピーナ;アインホア・ガルメンデイア、アルフォンゾ;ニコラ・リヴェンク、
(07年05月07日、NHKBS102CHによる放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。) 


 7月号の第三曲目は、06年グラインドボーン音楽祭で上演されたイヴァン・フィッシャー指揮、エイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団、ニコラス・ハイトナー演出のオペラ「コシ・ファン・トウッテ」K.588である。この演奏は、07年5月にNHKBS102で放映されたもので、これまでアップする機会に恵まれなかった映像である。最近のグラインドボーンのオペラと言えば古楽器色が強い現代的な新しい演出であるかのように思われるが、この演奏はオーケストラが古楽器集団だけにそのような響きが強いものの、演出は簡素な現代風な衣裳ながらリブレットに忠実な舞台であり、伝統的なものをベースにした演出と言えよう。
 指揮者のイヴァン・フィッシャーはウイーン国立歌劇場でも常連のヴェテランであり、私は05年のザルツブルグ音楽祭でこの指揮者のウイーンフイルとの「コシ」を一度見ているが、早めのテンポでぐいぐいとオーケストラを引っ張っていく気持ちの良い演奏であった。6人の主役達は、いずれもこのホームページ初出の面々であるが、いずれも歌唱力・演技力ともに問題なく、楽しい舞台を造り上げていた。若い二組の男女の歌も良く動きもスピード感があり、特にアルフォンゾ役のニコラ・リヴェンクとフィオルデリージ役のミア・ペンションが素晴らしくこのオペラを引き立てていた。




 テインパニーが響きオーボエが美しく歌い出して序曲が始まり、古楽器的響きが強く耳につく中で、軽快に弦が流れ出し木管がユーモラスに応答する明るく楽しい序曲であった。弦の速いテンポの前奏とともに第一幕の幕が開き、場所は古くさいカフェー風のところ。軍服姿の二人と老人とが早口で言い争いをして互いに治まらないが、賭けようと言うことになって一挙に話がまとまり、二人はもう勝ったつもりでセレナータの鼻歌が出る始末。オーケストラがこれを助長するように響き楽しい劇が始まった。カフェーの壁を取り払うと、そこは海の見える日だまりの一室で、金髪と黒髪の女二人が寝転がってロケットを見せ合いながら惚気て歌う魅力的な二重唱がアンダンテで歌われた。アレグロになってアモーレが続き、この手相では結婚が近いと喜んでいた最中に、アルフォンゾが沈んだ顔で登場。二人のお相手は突然の出征だと告げたのでさあ大変。驚きの五重唱となり、女達が別れるなら殺してと大騒ぎするので男二人は大満足であった。




 太鼓の音とともに合唱団が小旗を振って現れ、出征の時を知らせると、第9番の「毎日お手紙を」と女達は泣き崩れ、必ず返事をと誓い合う音楽が何と美しいことか。静かなピッチカートに乗って、真剣にアデユーと歌う女二人の様子が真面目なだけに可笑しかった。 再び合唱団が行進曲を歌うと、男達はあっと言う間に出征してしまう。第10番の「風よ穏やかに」の三重唱も女達の真面目な気持ちを載せて、何と美しいことか。この「コシ」の醍醐味をにやにやしながら味わっている間に、場面が変わってデスピーナが登場し、朝食のココアをペロリと失敬した。その時、二人の姉妹が血相を変えて部屋に戻ってきた。心配するデスピーナを突き放すようにして、デラベッラが「一人にして欲しい」と半狂乱のアリアを歌い出した。訳を話してもデスピーナが一向に驚かずに、「男や軍人に貞節さをお望みですか」と逆に忠告するので、二人はなお一層いきり立つ。
 アルフォンゾはデスピーナをまず二重唱で買収し、変装した男二人がデスピーナに見破られないかと紹介するうちに四重唱となり、騒ぎで出てきた姉妹にアルフォンゾの親友と紹介された男二人が求婚し始めると六重唱となった。姉妹はそのしつこい失礼な求婚騒ぎに腹を立て、フィオルデリージが貞節を歌うアリア「岩のように」を激しく歌って二人を撃退した。このアリアも、先のデラベッラのアリアも、二人が真剣で真面目さに溢れた熱唱で、鬚面の変奏した男二人を寄せ付けないので、これから先がどうなるか楽しみであった。男二人はこの調子なら賭に勝ったも同然とばかりに、大笑いのふざけたアリアをそれぞれ続けて歌って、アルフォンゾを怒らせ上機嫌であった。





 第一幕のフィナーレに入って、女二人の部屋で「二人の運命が一瞬のうちに変わった」と素敵な伴奏の中で二重唱を歌って嘆いていると、突然、音楽が一変し、男二人が飛び込んできた。恋の苦しみから解放されたいと女二人の前でいきなり毒を飲んでしまい、大袈裟な茶番劇が始まった。デスピーナを呼ぶ女達。早く助けなければと二人を介抱するが、次第に馴れ馴れしくなってきたと心配する男達との四重唱が続いていると、デスピーナのお医者さんが現れ、メスマー博士風の荒療治が始まる。バネのように飛び起きた二人は、辺り構わず介抱者の手をつかんで放さずに言い寄り、まるで半病人。失礼の度が強すぎると怒る女二人に、さらに口づけをと迫り過ぎたので、真面目な女二人は怒り出し、腹を立てて逃げ出してしまい、騒々しいしつこい四重唱の中でやや乱暴な幕切れで第一幕が終了した。





 第二幕は女二人の部屋で始まり、真面目すぎる二人をデスピーナが解きほぐそうと、長いレチタテイーボで教育し「女が15にもなったなら」とアンダンテで歌い出した。そしてアレグレットに入って表情豊かに浮気を奨めるので、やり手のデスピーナに会場から笑いと拍手が起こった。「噂が立ったら私のせいにすれば」という言葉に反応したドラベッラが、一段と声を高めて「私は黒髪がいいわ」と歌い出すと観客は大喜び。その後甘い鼻歌混じりのふざけた二重唱となり、会場も大笑いとなって、雲行きが変わってきた。
 場面は海辺の庭園となりアルフォンゾの誘いで優雅な木管の調べでセレナードが始まった。女二人の前で男二人が真面目に「そよ風よ」と二重唱を歌い、続いて合唱団が甘くセレナードを歌った。詫びる言葉しかない男二人に対し、少し機嫌を直し様子が変わった女二人の明るい笑顔に、戸惑う男二人が驚いて口もきけない様子。これを見てデスピーナが手を貸すと、女二人は気を許して、どうやら新しいカップルがいつの間にか出来た様子で、女性の方がリードして散歩しながらぎこちなく語り始めるようになった。






   ドラベッラの方は、言い寄るグリエルモの甘い言葉に安心して、もう恋人気取りになってしまい、タイミング良く差し出したハート型の贈り物を受け取ってしまった。フェランドを気にしながらどうぞと歌い出すグリエルモに、ドラベッラは頂きましょうと応じて二重唱となって歌っているうちに、いつの間にか首に掛けていた絵姿まで変えられてしまった。一方のフィオルデリージの方は、私の心の平和を乱すので、フェランドに言い寄るのは止めてくれと断り、一人になって「心の過ちをどうかお許し下さい」とアダージョでロンドをゆっくりと歌い始めた。2本のホルンのオブリガートが、次第にフェランドに心を惹かれるようになった微妙な反省の気持ちを表すよう歌い、彼女はアレグロに入ってその苦しみを訴えるような高音やコロラテウーラの技法をもって自分の苦しさを歌い上げた。このフィオルデリージの自分への厳しさと、低音から高音までを駆使した素晴らしい歌い方に、場内から凄い拍手と歓声が沸き起こっていた。



 フェランドがフィオルデリージは完璧だといってグリエルモに報告し、僕のドラベッラはと問うと、自分のロケットを見せられて、フェランドは半狂乱。困ったグリエルモは、女どもは時には酷い仕打ちをすると、フェランドを慰めるアリアを歌った。一方のフェランドは、裏切りには復讐だと怒ってカヴァテイーナを歌い出すが、それでも僕は彼女を愛していると悔しがった。アルフォンゾは勝負はこれからだとして、次の作戦を立て始める。
 ドラベッラがご機嫌でロンド風のアリアで恋の楽しさを歌うので、フィオルデリージは恋人を裏切らず、軍服を着て戦地に行こうと悲壮な決意をし、「間もなくあの人の胸の中」とアリアを歌い出した。そこへフェランドが登場し、「僕には死しかない」と歌いながら刀を取り上げて胸に当てると、さすがのフィオルデリージも陥落し、グリエルモの見ている前で悲鳴のようなオーボエの伴奏とともに、フェランドの腕の中に捉えられ抱きしめられてしまった。
 賭けに勝ったアルフォンゾは、得意げに二人を従え「コシ・ファン・トッテ」と三人で合唱しながら、姉妹を懲らしめるためもう一芝居しようということになった。



   第二幕のフィナーレは、軽快な伴奏に乗ってデスピーナが二組の婚礼の食卓の用意を急がせ、合唱団がこれに応え、アルフォンゾも指揮をしていた。合唱団が祝福あれと歌い出すと、二組が揃って登場し着席してから、ピッチカートの伴奏に乗って嬉しい四重唱となり乾杯となった。そしてフィオルデリージが心を込めて喜びを歌い出すが、何と美しい曲であろうか。やがてフェランドが加わって二重唱となり、デラベッラも加わってカノン風の三重唱となるが、一人ショックの大きいグリエルモは女狐めと怒っていた。
 そこへ公証人が登場し結婚証書を読み上げサインが終わると、突然、あの行進曲が始まり合唱が聞こえてきた。アルフォンゾが見に行って恋人達が帰ってきたという。さあ大変。男二人をまず隠し、公証人を追い払い、必死で片付けをしたところに、軍服姿の恋人達が姿を現した。作り笑いをして向かえる女二人に、男二人は顔色が悪いがどうしたと問いかけているうちに、公証人がデスピーナであることが分かり驚く女二人。結婚証書を見つけられ、裏切りだと攻められて、女二人は観念し死に値すると謝り、剣で刺してくれと平謝りとなった。しかし、男二人が鬚を付けてアルバニア人になって姿を現すと、女二人は初めて騙されていたことが分かり、大騒ぎとなった。しかし、アルフォンゾがそれを押さえて、確かに私が欺いて悪かったが、お陰で恋人達は利口になったと説明する。女二人は酷い人と言いながらも償いをすると言い、その言葉を信じようという六重唱になってここでは円満な大団円の結びとなった。



 このグラインドボーンの最新の「コシ・ファン・トッテ」は、新らしい演出と演奏で戸惑うのではないかと心配していたが、終わってみればオーケストラは古楽器演奏であるものの、演出はリブレットに忠実なスタイルであり、二人の若い男と女の性格描写が非常に強い演出であると感じた。この映像の特徴の第一は、フィッシャーの終始一貫した淀みのない軽快な音楽の進め方であり、テンポの良さや浮き出るような木管の調べなど好感が持てる指揮振りであって、省略も通常行われる2曲(第7番および第24番)だけで正統的な演奏であった。 第二に海辺の陽の当たる庭園など舞台は脚本通りの演出であったが、通常よりも主役達の性格や動きが強く出されていたという印象を得た。とりわけ二人の男達のしつこ過ぎるくらいの求愛や女達の激しすぎる拒絶反応などが印象に残り、アリアにも強く反映されていた。そのため、歌の素晴らしさに劇の面白さが加わって、非常に楽しい舞台が続いたように思われた。途中の経緯はどうであれ、最後には元の鞘に収まって終わるという伝統的な枠組みの中で、若々しく活発に歌われスピード感のある演技が行われていた。

 歌手陣はこのHPでは初出の方ばかりであったが、フィオルデリージのミア・ペンションの凛とした歌い方や演技が魅力的であったし、そのお相手のグリエルモ役のルーカ・ビサローニが演技や歌唱力ともに男らしい魅力を持っていた。また、劇の進行役でもあるアルフォンゾ役のニコラ・リヴェンクが堂々として充分な重みを持っていたし、若い女二人をコロリと説得してしまうデスピーナ役のアインホア・ガルメンデイアが体当たり的な歌と演技で舞台に明るさと笑いをもたらしていた。
 この映像は、これで9本目のアップロードとなるが、やはり説得力があり活気に満ちた美しい印象に残る舞台の一つであったと思う。

(以上)(08/07/19)


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