8-7-1、ネヴィル・マリナー指揮、スイス・イタリア語管弦楽団によるオール・モーツアルト・コンサート、
(曲目)歌劇「魔笛」序曲K.620、フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)、および交響曲(第39番)変ホ長調K.543、ガロワFl、ピエールHp、2005年国際会議場(ルガーノ)、

−ネヴィル・マリナーの珍しい映像であり、フルートとハープの協奏曲K.299では、いかにも上品なフランス風の雰囲気が漂うような優美な演奏に終始していたし、変ホ長調の交響曲K.543では余り格式張らずに自然体の雰囲気で軽やかで穏やかなペースの演奏であった−

8-7-1、ネヴィル・マリナー指揮、スイス・イタリア語管弦楽団によるオール・モーツアルト・コンサート、
(曲目)歌劇「魔笛」序曲K.620、フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)、および交響曲(第39番)変ホ長調K.543、ガロワFl、ピエールHp、2005年国際会議場(ルガーノ)、

(08年04月17日、クラシカジャパンCS736CHの放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)


 7月号の第一曲目は、ネヴィル・マリナー指揮のスイス・イタリア語管弦楽団によるオール・モーツアルト・コンサートであり、曲目は初めの第一曲が歌劇「魔笛」序曲K.620である。第二曲目は、フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)であり、この曲は演奏機会が少ないのでこのHPでは初出である。第三曲目は交響曲(第39番)変ホ長調K.543であり、マリナーが2005年にスイスのルガーノにある国際会議場で指揮をして収録されたクラシカジャパンによる新しい放送である。
 05年といえばマリナー(1924〜)の81歳の時の映像であるが、画面では少しも衰えを感じさせず、優雅に演奏を楽しんでいるかのように指揮をしていた。フルートとハープの協奏曲K.299では、フルートのガロアもハープのピエールもこのHPでは揃って初出であり、マリナーの指揮振りもあって、終始穏やかで優雅な演奏が楽しめた。交響曲第39番変ホ長調では、序奏部のテンポが気になるところであったが、32分音符の弦の部分だけを早くした伝統的ものとの折衷を図るような進め方であり、全体が早めで伸び伸びとした明るい演奏であった。会場の照明のせいか画像は、写真で見られる通り全体として暗く赤っぽい映像で、05年の演奏にしては古さを感じさせる映像であったのが残念であった。



 ネヴィル・マリナーのモーツアルト・コンサートは、第1曲目が歌劇「魔笛」序曲で開始された。堂々たる三和音でゆっくりと始まり、対照的に弦のアレグロが素速く進行し、その最中でフルートやオーボエが快く歌うとても威勢の良い颯爽とした序曲であった。お年が81歳とは思えないさすがマリナーと思わせる格好の良さや軽快さを持った華麗な指揮振りには驚かされた。

 続いて第2曲目は、このホームページでは初出のフルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)であり、フルートはパトリック・ガロア、ハープがファブリーチェ・ピエールという男性奏者であった。第一楽章では、独奏楽器を含んだオーケストラのトウッテイにより堂々と第一主題が賑やかに始まり、華やかな経過部を経てから、ホルンにより先導する第二主題が弦楽器によりピッチカートの伴奏で軽やかに奏せられて、オーケストラによる提示部が終わる。マリナーは短い指揮棒を持ち穏やかな指揮振りを見せており、この第二主題の弾むような優雅なテンポは特有のものに思われた。


 やがてフルートが主旋律をハープが分散和音を弾きながら二つの独奏楽器が第一主題を弾き始めるが、フルートが絶えずリードしハープが控えめな姿が、作曲の対象となった父のフルートと娘のハープの協演を思わせて微笑ましい。続いてフルートがハープを従えて新しい技巧的な主題を奏してから、美しい落ち着いた第二主題が二つのソロ楽器で始まるが、この二つの楽器の音色の違いが際立っており、前例のないどんな楽器の組み合わせに対しても素晴らしい音楽にしてしまうモーツアルトの凄さを感じさせた。展開部では新しい主題がフルートとハープの順に力強く提示され、二つの楽器が互いに激しく絡み合って、フルートのトリルが鋭く響き印象的な展開部であった。終わりのカデンツアでは、ハープのアルペッジョに乗ってフルートが技巧を尽くしており、同時にハープにも見せ場があって、二つの特徴ある楽器を際立たせていた。映像ではガロアのフルートが余力を持って自在に動き回るに対し、ピエールのハープはハープという楽器のせいか窮屈な動きに止まっているように見え、極端に異なった二つの楽器による協奏曲の難しさを思い知らされた。



 第二楽章は弦楽器だけの伴奏によって、ゆっくりと美しい第一主題が提示されると、直ちに独奏楽器のフルートとハープにより艶やかに繰り返されていくが、取りわけハープの分散和音が実に美しい。続いてフルートにより第二主題が提示されていくが、その後半の弦楽器に続いてフルートとハープの三つ巴となった優美な姿とその展開が、映像の形で見事に把握されており、この曲にしかない艶やかな味わいが得られたのは幸運であった。この楽章の再現部では、ガロアとピエールは繰り返しのソロには聴き慣れない装飾音を付けて余裕のあるところを見せていた。最後に二つのソロ楽器によるカデンツアが置かれ、ここでも両楽器の技巧が明示されていたが、この楽章が二つの楽器で消えるように閉じていたのが非常に印象的であった。
   この曲のフィナーレのロンド楽章では、フランス趣味が溢れていると指摘されているが、ソリストの二人はまさにフランス育ちであり、この典雅なフランス風のサロンミュージックには最適と思われた。明るい軽快なロンド主題が早めのアレグロでオーケストラのトウッテイで示され一応の転結を見せた後に、ハープがソロで新たな主題を提示し、これにフルートと見事なデユオを見せながら素晴らしい展開を見せた。続いて第一のエピソードがフルートで軽やかに登場すると、ハープと管がこれを受けて繰り返し盛り上がってから、ロンド主題が二つのソロ楽器に登場する。そして伸びやかな感じの第二のエピソードがフルートで表れ、さらに展開されいろいろな主題が見え隠れしてから短いカデンツアを経て、再び軽快なロンド主題が戻って颯爽とフランス風の軽快な楽章が終結した。



 第三曲目は交響曲(第39番)変ホ長調K.543 である。マリナーは付点リズムの付いた和音で始まる序奏部をゆっくりと開始するが、32分音符の弦の部分は譜面通り一息でさらりと演奏する進め方で、整然と力強く進行した。アレグロの第一主題ではテンポを早めず落ち着いて進行し、有名なファンファーレ以降になってキビキビとした軽快なアレグロが現れる。柔らかな弦で始まる第二主題は優雅そのもので、ヴァイオリンと管との対話が美しくピッチカートのリズムがとても軽快であった。これ以降も淡々とした穏やかな指揮振りで進行し、この整然とした落ち着きのある軽快な響きが、老指揮者マリナーの持ち味であることを強く感じさせた。

 第二楽章は二部分形式の穏やかなアンダンテであるが、弦の合奏による素朴な主題がマリナーにより静かに提示され、次第に穏やかなトーンで展開されていく。木管により導かれる中間部では、木管と部厚い弦楽器との対話が繰り返されていくが、カノン風の木管の深遠な合奏の響きが印象的であった。マリナーの落ち着いた指揮振りがここでも淡々と進められ、モーツアルトの諦めに似た楽想の変化や高揚が見られるような気がした。続くメヌエット楽章では、堂々としたメヌエット主題が力強い響きで始まるが、マリナーは整然と抑え気味に進行させていた。トリオの二つのクラリネットによる優美なデユオはと実に美しく、それに答えるフルートが絶妙であり、楽しさを深めていた。マリナーはここでも体を殆ど動かさず、短い指揮棒を上下に振るだけの手慣れた落ち着いた指揮振りであった。


 フィナーレのマリナーによる軽やかな早い出だしは一転して軽快であり、進行するにつれフルオーケストラによって躍動する素晴らしい音の世界を作り出していた。この楽章には第二主題でのフルートとファゴットの美しい対話、展開部における高弦と低弦との鋭い対立など聴かせどころが散在しているが、マリナーは余りメリハリを付けずに穏やかなペースでこの軽快なアレグロの華麗な響きを引き出していた。

 このコンサートは1時間余りで終了したが、コンサートの印象はオーケストラは異なるが、CDで活躍しているマリナーのいつもの姿がごく自然に画面に現れたような映像であると感じた。マリナーは80歳を超えているが、指揮を取る姿は背筋が伸び、動きは少ないが短い指揮棒をこまめに動かす格好の良いものであり、音楽は整然としてバランスが良く暖かみのある演奏であった。フルートとハープの協奏曲では、いかにも上品なフランス風の雰囲気が漂うような優美な演奏に終始していたし、また、変ホ長調の交響曲では余り格式張らずに自然体の雰囲気で、軽やかに穏やかなペースで指揮をしていた。放送局に所属するスイス・イタリア語管弦楽団は、このHPでは久し振りの登場であったが、実力のある団体であり、このコンサートを盛り上げていた。しかし、会場のせいかこの映像の画面が暗く、オーケストラの全体の姿が良く捉えられず残念であった。



 マリナーは、交響曲全集を初め、セレナード全集、ブレンデルとのピアノ協奏曲全集などの他、オペラでもCDに沢山録音している。彼のこの一連の活動は、1959年に創設したアカデミー管弦楽団(Academy of St. Martin in the Fields)の指揮者とコンサートマスターを務めて、上記の一連の録音を精力的に行ってきた。しかし、不思議なことにこのグループの映像は少なく、私の記憶ではまだアップしていないが、ザルツブルグ州立劇場で1989年1月に収録されたオペラ「羊飼いの王様」K.208が残されているだけである。モーツアルト週間では常連の団体であったので、古いモーツアルト週間の記録を辿れば、映像がもっと残されているかも知れない。

(以上)(08/07/12)


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