8-6-3、ホルスト・シュタイン指揮ハンブルグ歌劇場O&Ch.ピーター・ユステイノフ演出による歌劇「魔笛」K.620、1971年、ロルフ・リーバーマン制作映画作品、

−今となってはスピード感に乏しい古い映像であると感じたが、映像初期の貴重な基本的オペラ映画である。こういうリブレットに忠実な教科書的なしっかりした正統的な映像のお陰で、現代のくずれた表情過多な演出にも耐えることが出来る−

8-6-3、ホルスト・シュタイン指揮ハンブルグ歌劇場O&Ch.ピーター・ユステイノフ演出による歌劇「魔笛」K.620、1971年、ロルフ・リーバーマン制作映画作品、 (配役)ザラストロ;ハンス・ゾーテイン、タミーノ;ニコライ・ゲッダ、弁者;フィッシャー・デイースカウ、夜の女王;クリステイーナ・ドイテコム、パミーナ;エデイット・マテイス、パパゲーノ;ウイリアム・ワークマン、パパゲーナ;キャロル・マローン、ほか (07年発売のDVD、ドリームライフ DLVC-8023より)

 6月号の第三曲目は、最近入手した「魔笛」のDVDであるが、ホルスト・シュタイン指揮のハンブルグフイルと歌劇場合唱団による1971年の映像である。音声はモノラルであり、映像も白黒のようなカラーで始めから古さを感じさせていたが、良く見ていくと最近では珍しいライブでない「オペラ映画」とでも言うべきものであった。映像の初期の頃は、舞台上演ではなく、オペラの音楽に合わせて口を動かしながら映画としてスタジオ撮影したものであり、演出は声優として有名なピーター・ユステイノフであった。映像の崩れを少なくするため、半分ほどの声量で歌って表情を美しく保つように工夫され、そのせいかライブと異なってミスもなく、歌も演技も辻褄が合っており、装置も衣裳も演技もオーソドックスな演出であった。
 若きフィッシャー=デイスカウが弁者として登場したり、エデイット・マテイスが可憐な表情でパミーナを歌い、クルト・モルが鎧の兵士2であったりして驚くが、今となっては、スピード感に乏しい古い映像であると思った。しかし、こういう教科書的なしっかりした正統的な映像のお陰で、現代のくずれた表情過多な演出にも耐えることが出来るので、むしろその時代を反映した貴重な基本的映像であると前向きに考えたいと思う。



 序曲がいきなりゆっくりとしたテンポで始まるが、音はモノラルで貧しい。画面はキラキラ光る魔法の笛の絵が示され、音も音域は狭いが歪みがなく堂々とした正統的な響きの演奏であった。そのためか見ているうちに音や映像の質の悪さにすっかり慣れてしまい、古さ故の欠陥とは感じなくなるのが面白い。序曲が終わり画像が暗闇となって、雷鳴とともに第一曲が開始され、タミーノが双頭風の大蛇に追われて逃げ場を失い失神してしまう。そこへ三人の従女が登場し手にした槍で大蛇を倒してしまい、王子を見守りながら言い争いをするが、実に女らしい争いで微笑ましい。黒ずくめの従女たちは表情が豊かで魅力的であり、早くも映画方式の良さが現れていた。映像は42インチに拡大してもまずまずのクローズアップ画面が得られていた。
 そこへ笛を吹きながら鳥籠を背負ったパパゲーノが、軽やかな足どりで登場し踊りながら第二曲を歌うが、感じが出ていて成功していた。パパゲーノの嘘がばれて三人の従女が懲らしめ、タミーノには手鏡を渡す。タミーノの第三曲のアリアは表情をつけた上出来のアリアであったが、画面ではにやつきながら歌っており、ライブの方が真剣味が出ると思われた。ゲッダはLPのクレンペラー盤でもタミーノを歌っていた。



   パミーナを救おうというタミーノの声で、轟音とともに夜の女王が登場し、暗闇の中で歌い出すが、顔だけにライトが当たり直立不動で苦しみのアリアを歌い、後半のアレグロではコロラトウーラの美声を発揮していた。ムムムの五重唱が続き「魔法の笛」を渡されたタミーノと「銀の鈴」を頂いたパパゲーノの二人が「お城はどこ」と尋ねると、三人の童子達が導くので従えと言われた。場面が変わってモノスタトスがパミーナを捕らえて二人きりになったときに偶然パパゲーノと顔を合わせ、互いの怪人振りに仰天する。そしてパパゲーノはパミーナと逃げ出すことになり、二人で美しい二重唱を歌うが、マテイスの歌や仕草は非常に自然で、これぞ最高のパミーナであると感心させられた。



 第一幕のフィナーレに入ると、風船に乗った三人の童子たちに導かれてタミーノが現れ、雄々しく行動せよと諭される。タミーノは神殿の前で堂々と振る舞いフイッシャー・デスカウが扮する老僧と押し問答をし、パミーナを奪ったのは事実だが、女性に騙されていることを示唆された。暗闇の中でパミーナは?と問えば、無事でいると合唱の返事。感謝の意味で笛を吹くと、動物たちが出てきて踊り出し、パミーナと呼びながら繰り返し探し求めると、パパゲーノの笛が近くで答え出してきた。その喜びも束の間、パパゲーノとパミーナはモノスタトス一行に取り囲まれ捕まってしまうが、「銀の鈴」を鳴らすと一行は踊り出して逃げ去ってしまう。女王から頂いた笛と銀の鈴は、急場を助けてくれる凄いお宝であった。
 テインパニーに支えられてトランペットが行進曲を始めると、ザラストロが登場し、ザラストロ万歳が始まった。ザラストロを前にして、パミーナは「真実を」語ると怖くないと、急に王女のように堂々と振る舞い、逃亡は罪であろうがモール人に愛を強いられてと語り出すと、お前を自由には出来ないし、母親には渡せないとザラストロに諭される。モノスタトスがタミーノを連れて現れ、ここで初めて二人は顔を合わせた。ザラストロがモノスタトスに「足の裏77回打ち」を命じ、タミーノとパパゲーノには試練の道場へと命じて、ザラストロ万歳の大合唱の中で長いフィナーレが終幕となった。



 映像では直ぐに第二幕の行進曲が始まり、僧侶達が集まってきて集合し、やがて三つの和音が響いてザラストロが中央に登場する。ザラストロがイシスとオリシスの神に祈りを捧げ、幾つかの問答の後に、「二人に叡智の心を与えたまえ」とアダージョの有名なアリアを歌い、威厳に満ちた典礼を主導し、合唱がフォローしていた。タミーノとパパゲーノが暗闇で登場し、雷鳴の凄さに驚いていると、二人の僧侶が誓いを守れるか確認するが、パパゲーノは若いパパゲーナに会えると聞いて渋々試練に参加した。二人の僧侶は沈黙を守り、女の企みから身を守れと訓戒の二重唱を歌ったが、直ぐに槍を持った怖い顔の三人の従女が現れ話しかけた。しかし、何とか口を訊かずに退散させ、二人は次の試練へと向かった。
 場面が変わって、パミーナが寝ているところへモノスタトスが現れ、満月の月明かりの中で早口のアリアを歌い悪戯しようとすると、そこへ突然夜の女王が顔を出した。女王は若者が裏切ったのを知り、怖い顔でパミーナにナイフを手渡し、最後の手段としてこれでザラストロを刺せと命令し、「拒めばもはや我が子ではない」と激しく第二のアリアを歌った。最初のアリアよりも声が伸び伸びとしており、声量があって期待通りであった。母が去り、パミーナがナイフを手に呆然としていると、モノスタトスが事情を知ってパミーナを脅し始めたところへ、ザラストロが現れて一喝して追い払う。パミーナが母を助けてと懇請するとザラストロはこの清い殿堂では「復讐せず善意で返す」と歌ったが、これが実の娘のパミーナを説き伏せているような、慈愛に満ちた実に素晴らしい朗々としたアリアであった。



 パパゲーノが暗闇の中で18歳と2分の年の婆さんをからかっているうちに、三人の童子が風船に乗って現れ、第16番の三重唱を歌いながら、笛と銀の鈴を二人に手渡し、食事を勧め、沈黙を守ることを教えた。タミーノが笛を吹くと、パミーナが現れるが、二人は冷たく沈黙を守り通すと、パミーナは「無視は死よりも辛い」と絶望のアリアを歌っていた。フルートのオブリガートがアリアの美しさを高めていた。やがて三つの和音が鳴り響き僧侶達の合唱が始まり、神々への祈りの合唱に続いた。そこへザラストロが現れ、タミーノにはさらに試練が続くと告げ、試練に向かうタミーノと、別れを嘆くパミーナと、彼女を励ますザラストロとの三重唱が続いた。一人になったパパゲーノが、ワインにありつきご機嫌になって銀の鈴に気が付き、それを鳴らしながら有名なパパゲーノのアリアがグロッケンシュピールの伴奏で始まった。このグロッケンシュピールは響きがとても美しく、三回も響き渡り、歌と歌い手の良さもあって、極上の楽しめる場面となっていた。この後に、パパゲーノが若くて美しいパパゲーナをチラリと見るというオマケが付いていた。



 第二幕のフィナーレに入ると、三人の童子の空飛ぶ船からの美しいアンダンテの三重唱が始まり、三人は短剣を持って様子がおかしい絶望のパミーナを見つけて監視した。そしてタミーノのところに行こうとパミーナに声をかけると、彼女は気を取り直して飛行船に乗り込み、四重唱になって進んでいった。場面が変わり大きな岩山の前で鎧甲を着けた二人の大きな衛兵が獄門を守っており、タミーノが到着すると、死の恐怖を超えて進めば地から天へ登ることが出来ると二重唱で告げた。タミーノが「開け、獄門」と出発しようとしたところにパミーナが駆けつけ再会する。二人が話をしても良いことが分かり、「タミーノね」「パミーナか」「ああ、ようやく」と話が始まり、弾むピッチカートに乗って、パミーナが先導させてと神殿に向かう。タミーノに笛の由緒を話し、笛を吹いてと頼み、二人は手を取り合ってタミーノが笛を吹きながら、始めに火炎の獄門で試練を受け、次いで水流の獄門へと進んだ。試練を克服すると、合唱団が勢いよく凱旋、凱旋と叫び、二人の勝利を祝福し神殿へと迎え入れた。



 一方、パパゲーノは見かけた可愛いパパゲーナを笛を吹きながら探していたが、どうしても見つからないので首を吊ろうとするが、三人の童子に銀の鈴を鳴らしてご覧と声をかけられ、「パ、パ、パ、」の二人の感動的な出会いの瞬間が始まった。何と微笑ましい光景であろうか。オペラ「魔笛」の真髄は、先の二つの試練とここの二人の出合いにあるように思われた。場面が変わって、モノスタトスに先導されて、夜の女王と三人の従女が復讐をしようと潜んできたが、雷雨や稲妻により叩きつぶされ、悪者の世界が太陽の世界へと変転され、大団円が始まった。目映いばかりの神殿の前で、壮麗な大合唱によりタミーノとパミーナは、イシスとオシリスの神々が祭られたに祭壇で、全員の祝福を受けて歓迎され、感謝を捧げつつ結びとなった。実に盛り上がりが素晴らしい大団円であった。



 この映像は、ドイツの子供達にも喜ばれることを目的とした極めてオーソドックスな「魔笛」であり、リブレットに忠実な素晴らしい作品である。ライブでないので、見ていてハラハラする場面はないが、カメラワークがあらかじめ計算されており、ミスや乱れはないが、ライブと異なって動きにスピード感がなく、何か迫力に欠ける感じがした。音声がモノラルで、音が寂しく感じた部分が多かったが、歪みがないので慣れれば忘れてしまうこともあった。それは、この演奏のオリジナルのホルスト・シュタインの録音が、音楽的に極めて優れていることによるものであろう。  この映像の素晴らしさは、パミーナのマテイス、ザラストロのゾーテイン、パパゲーノのワークマンなどの主役の活躍によるものであり、歌手と演技を両立させることの難しさを感じさせた。個人的な好みを言えば、王子タミーノがもっと若々しく覇気があり、出来れば「魔法の笛」を吹くぐらいの演技をしてくれれば、全体の印象が大分異なったものになったと思われる。

  (以上)(08/06/25) 


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