8-6-2、バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団によるミサ曲ハ短調K.427「グレート」、およびアヴェ・ヴェルム・コルプスK.618、モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」K.165、

−バーンスタインの表情も亡くなる半年前の姿には見えず、テンポを落とした心に響くような演奏スタイルには、彼の到達した最晩年の深々とした瞑想的で哲学的な独自の世界が垣間見られるようだ−

8-6-2、バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団によるミサ曲ハ短調K.427「グレート」、およびアヴェ・ヴェルム・コルプスK.618、モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」K.165、
1990年04月05日、ヴァルトザッセン修道院付属教会、(ソリスト);アーリン・オジェーS、フレデリカ・フォン・シュターデMs、フランク・ロバートTn,コルネリウス・ハウプトマンB、
(91年10月発売のレーザー・デイスク、ポリドールPOLG-1046より)

 6月号の第二曲目は、レーザー・デイスクの最高の名盤であるバーンスタインのハ短調ミサ曲K.427および二曲の小品アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618とモテット「踊れ、喜べ」K.165(158a)を今は亡きアーリン・オジェーのソプラノで収録されたものである。先月号のガーデイナーのハ短調ミサ曲のところでも述べたが、これはかねて 「私の大好きな個性豊かな三つの映像」として紹介済みのものであった。このバーンスタインの映像はミュンヘン郊外のヴァルトザッセン修道院付属教会で収録されたものであり、他の二曲の映像もこの教会で同時に収録されたものであるが、この人気の高い3曲の教会音楽が、美しい奥深い教会で、素晴らしい指揮者やソリストと優れた合唱団やオーケストラを得て残された記念碑的な基本的映像として、どうしてもアップロードしておきたかったものである。モーツアルトの珠玉の宗教曲の名品を、映像でじっくり味わうのに相応しい気品の溢れた最高の心暖まるデイスクであった。



 このLDでは、第一面に2曲の小品、第二面にハ短調ミサ曲が収録されており、同じ教会でオーケストラ、合唱団とも同じ配列で演奏されていた。どういう順序で演奏されたかは分からないが、ここでは収録順に聴いていくことにした。LDではまず、ヴァルトザッセン教会の遠景が写され、近所の湖面に映る教会の塔が写され、続いて内部の豪華な祭壇が写されていたが、その前には合唱団が既に整列しており、まさにライブの演奏が始まらんとする雰囲気であった。



 第一曲目は「アヴェ・ヴェルム・コルプス」K.618であるが、バーンスタインが入場し、指揮者が静かに瞑目している顔がクローズアップされ、一息入れてから静かにゆっくりとしたテンポでアヴェ・ヴェルムが厳かに開始された。大合唱団の抑制された合唱の響きが静かに教会全体に拡がって、厳粛な雰囲気が立ちこめる。恐らくこれほどゆっくりしたテンポで、これほど大勢の合唱団で歌われたことは少ないであろう。祭壇の前で瞑目しながらゆっくりと指揮をとるバーンスタインの指揮振りには、深く祈るような敬虔な姿が写されており、その想いが見ているものにも直ちに伝わってくるようなごく自然なアヴェ・ヴェルムであった。今は亡きバーンスタインを偲ぶに相応しい名品の一曲であると深く感じ入った。



 第二曲目は、これも今は亡きアーリン・オジェーのソプラノで歌われたモテット「踊れ、喜べ」K.165(158a)であった。この映像はこの曲の最初に見た映像であり、オジェーの朗々とコロラチューラの技巧を駆使する堂々たる歌い方に、「ソプラノのための協奏曲」というイメージを私に植え付けさせた映像であった。
 オーケストラによる心地よい序奏で開始しオーボエが輝くようにひとしきり相づちを打ってから、オジェーが笑みを浮かべながら悠々と歌い出した。オジェーの声はハイソプラノではないが、初めから明るくとても豊かであり、まさにソプラノ協奏曲であるかのようにオーケストラを伴奏にして、またオーボエの伴奏と競い合うかのように、コロラチューラの技巧が発揮されていた。歌いながら終始笑みが出る余裕が見え、また指揮するバーンスタインも軽快に楽しげにリズムを取っており、演奏者の気持ちを素直に表す映像の良さが滲み出ていると感じた。最後のカデンツアは短いものだったがこの曲の最高音が出され、オジェーが貫禄を見せていた。


 オルガンの伴奏で短いレチタチーボが歌われて、厳粛な気持ちにさせられてから、第二楽章は弦楽器で落ち着いたテンポの前奏の後に、朗々としたアリアがゆっくりと開始され、明るく美しく歌われ、変奏されながら繰り返されていき、祈るような雰囲気が高められていた。バーンスタインは実に穏やかな表情を見せ、曲の流れに浸っているように見えた。この楽章にも短いカデンツアがあり、難なくクリアーしてから、直ぐに第三楽章のお馴染みのハレルヤが始まる。ハレルヤの明るく軽やかなテンポに乗ってオジェーは笑みを浮かべながらゆとりを持ってコロラチューラの転がすような技巧を発揮していた。このハレルヤではオジェーの声が一段と瑞々しく、オーボエと競いながらハレルヤが繰り返されると、聴いている側も盛り上がり最高の気分であった。
 歌い終わるとバーンスタインとしっかりと握手を交わしていたが、ライブなのに教会の中のせいか拍手が入らぬまま映像は終了した。



 映像の第三曲目のバーンスタインのハ短調ミサ曲については、実は「私の大好きな個性豊かな三つの映像」の一つとして、写真入りで既にソフト紹介を行っていた。他の二つは、クーベリックとルチア・ポップのものおよびガーデイナーと若きボニーとフォン・オッテーの映像で、いずれも同じ頃にレーザー・デイスクで揃って発売されたものであった。このハ短調ミサ曲の紹介文を見ると、簡潔であり、しかもそれぞれの演奏の特徴を比較できるように、そして登場した美人歌手達の写真も添えて、要領よく書かれていたので、ご参照いただきたい。しかし、ここでは三つのレーザーデイスクのミサ曲の素晴らしさが入手順に並列して説明されているだけであった。

   これまでハ短調ミサ曲については、5種類の映像を見てきた。上記の三つの映像の他に、  リリングのライプチヒの映像(2-1-1)、および クイケンのラ・プテイット・バンドの古楽器による映像(4-5-1)である。この有名なハ短調ミサ曲については、映像としてはこれら5つのものしか残されていないようであり、しかも残念なことに、最も新しいものがガーデイナーの映像(1991)であり、既に演奏されてから17年経っている。個人的には活躍が著しいアバドやアーノンクールあたりに新録音を期待したいところであるが、如何なものであろうか。ここで、コレクションの映像の全てをアップロードしたと言う意味で、この曲の「映像のコレクション」の完成を、取りあえず、宣言しておきたいと思う。



 このホームページの目的は、素晴らしい映像を紹介するのが狙いであり、押しつけがましい個人的な好き嫌いや好みを述べることにいつも躊躇するのであるが、ここでこれら優れた5つの映像の中で一番わたしの好みに合致する映像はと問われれば、このバーンスタインの映像と言わなければならない。このレーザーデイスクには、他には見られない今回紹介した珠玉のような二つの作品が含まれているほか、この教会の素晴らしい雰囲気が代え難い良さを持っており、演奏時においてもライブでありながら拍手のない厳粛そのものの様子であった。バーンスタインの表情も亡くなる半年前の姿には見えず、立って指揮をしており、テンポを落とした心に響くような演奏には、彼の到達した最晩年の深々とした瞑想的で哲学的な独自の世界が垣間見られるように思われる。

(以上) (08/06/05) 


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