8-5-2、ガーデイナー指揮イギリス・バロック管弦楽団による「レクイエム」ニ短調K.626およびミサ曲ハ短調K.427「グレート」、1991年12月5日、バルセロナ、

−ガーデイナーの指揮による見事な古楽器奏法と、少人数ではあるがモンテヴェルデイ合唱団の優れたアンサンブルがききものであり、また、若さ溢れるボニーとオッターの二人の美人ソリストたちの素晴らしい歌唱力を味わうことが出来る−

8-5-2、ガーデイナー指揮イギリス・バロック管弦楽団による「レクイエム」ニ短調K.626およびミサ曲ハ短調K.427「グレート」、1991年12月5日、バルセロナ、カタルーニャ音楽堂、(ソリスト);バーバラ・ボニーS、フォン・オッターMs、ロルフ・ジョンソンTn,アラステア・マイルズB、モンテヴェルデイ合唱団、
(92年発売のレーザー・デイスク、PHLP-5830より)

 5月号の第二曲目は、エリオット・ガーデイナーが常連のイギリス・バロック管弦楽団をスペインのバルセロナの教会堂で指揮した「レクイエム」ニ短調K.626およびミサ曲ハ短調K.427「グレート」のライブ・コンサートを収録したものである。クラシカジャパンではこの2曲を繰り返し放送してきたが、そのオリジナルは今回のレーザー・デイスクによるものであった。この演奏の特徴は、何と言ってもガーデイナーの指揮による少規模のオリジナル楽器による見事な古楽器奏法を味わえることであり、また、人気歌手の若さ溢れるボニーとオッターの二人の美人ソリストたちの歌唱力と、少人数ではあるがモンテヴェルデイ合唱団の優れたアンサンブルがききものであった。その上、通常は2枚に収められる長大な名曲が、ここではLDの裏表に2曲が収められ、その割安感もコレクターにとっては大変な魅力であった。



 レクイエムでは、アイブラー&ジュスマイアー版とジャケットに明記されており、ガーデイナーが手を加えたところはないようである。この演奏は、全体的には早めのテンポで響きが明快であり、自然な流れで拍節とリズムを強調した躍動感が溢れる演奏であり、合唱が見事にコントロールされて純粋なハーモニーの美しさを聴くことが出来る。  またハ短調ミサ曲では、アロイス・シュミット&エリオット・ガーデイナー版と明記されており、曲数は通常と変わりないが細部の点でガーデイナーの手が入っているようである。この演奏は、特に二人のソプラノの温もりのある歌唱が魅力的であるばかりでなく、オーケストラにも暖かい歌を歌わせている点にあり、合唱の美しさも加わって素晴らしいミサ曲を聴かせてくれている。

 この5月号をアップしてから気が付いたのであるが、実は ガーデイナーとボニー・オッターの「ハ短調ミサ曲」については、「私の大好きな個性豊かな三つの映像」の一つとして、写真入りでソフト紹介を行っていた。他の二つは、クーベリックとルチア・ポップのものおよびバーンスタインとオジェー・シュターデのもので、いずれも同じ頃にレーザー・デイスクで揃って発売されたものであった。これらのうちガーデイナー盤だけが、大曲「レクイエム」K.626が収録されていた。
 このハ短調ミサ曲の紹介文を見ると、簡潔であり、しかもそれぞれの特徴を比較できるように、そして登場した美人歌手達の写真も添えて、要領よく書かれていたので、ご参照いただきたい。ここでは重複を避けて「レクイエム」についてだけ述べたいと思う。



 素晴らしい彫刻に彩られたカタルーニャ音楽堂の舞台は広々としているが、レクイエムの演奏としては、ピリオド演奏のせいかオーケストラは小規模であり、合唱団の数も少なめである。オーケストラと合唱団の間に4人のソリストが位置し、合唱団は左手に女性が11人、右手に男性が17人の編成であった。ソリストは当然なのかもしれないが、合唱団も誰一人譜面を見ないで歌うプロ集団であった。
 「イントロイトス」はバセットホルンのくすんだ静かな響きにファゴットの音がが重なって厳かに始まったが、バセットホルンは折れ曲がった古い楽器であった。トロンボーンの鋭い響きに続いて合唱が始まり、古楽器演奏特有の弦の鋭い響きの伴奏とノンビブラートの歌い方が耳に付く。厳粛な斉唱が堂々と進み、モツレクを聴いているという感慨が沸いてくる。ボニーのソプラノは声は細いがとても澄んで聞こえ、続いて大合唱団による力強い歌声が連続し厳かな雰囲気に浸っていた。
 「キリエ」に入ってテンポは幾分早まり、男声合唱に続いて女声合唱が追いかけるように始まり、フーガの形で早めに進行する。合唱のそれぞれの声部の重なり合いが小人数なのでとて澄んでおり、終わりのキリエの大合唱も堂々として壮大に歌われて、さすがこの合唱団はと、水準の高さを感じさせた。



 「セクエンツイア」に入って、始めの「デイエス・イレ」では、激しい勢いの大合唱で始まり、トランペットとトロンボーンが激しく吼え、弦が鋭くうねりるように進んで、女声と男声が交互に激しくぶつかるようにリズミックに進行していた。一転して「トウーバ・ミルム」では、古楽器のトロンボーンのくすんだソロが厳かに響き、バスがアンダンテでじっくりと朗々と歌い出し救われたような感覚を覚える。次いでテノール、アルトの順に続き、最後にバーバラ・ボニーがノンビブラートで透き通るような声で歌い上げていた。
 激しいオーケストラとトロンボーンの前奏の後に、「レックス」の大合唱が続き、リズムの激しさが特徴。ガーデイナーが歌いながら激しく指揮をしており力強く進行するが、最後のソプラノ合唱の「お許し下さい」の悲痛な声が祈るように聞こえ印象的であった。「リコーダーレ」では、バセットホルンの微妙な音色の前奏に続いて、アルトとバス、ソプラノとテノールとが順に厳かにゆっくりと歌い出す。中間部から非常に平穏な響きの深みのある四重唱となり、厳かな素晴らしい雰囲気を醸し出していた。



 「コンフターテイス」では、全オーケストラの荒々しい伴奏で激しい男声合唱に続いて、救いを求めて悲鳴のように聞こえる女声合唱が対照的に繰り返され、4声が一緒になって「私の最後を看取ってくれ」と悲痛な叫びを上げ、激しく胸に迫るものがあった。続いて「ラクリモサ」がヴァイオリンの切々たる音で静かに始まるが、ガーデイナーは冷静に淡々と進め、合唱が少しずつクレッシェンドで次第に高まりを見せ、終盤にバセットホルンとトロンボーンが厳かに響いて最後の燃焼に達していた。終わりのアーメンの合唱が実に厳かに結ばれ、起伏の多かったセクエンツイア全体が締めくくられていた。



 ガーデイナーの指揮振りは、古楽奏法に徹しており、随処に急緩・強弱のメリハリの効いた響きを聴かせてくれたが、指揮台の上に立ち指揮棒を持った動きの速い指揮のスタイルは、例外的な存在に見えた。レクイエムは、あのアーノンクールでも感情のこもった劇的な演奏をしがちであるが、ガーデイナーは余り感情に溺れずに常に冷静に、むしろ淡々とした指揮振りを見せていた。イギリスバロック管弦楽団(English Baroque Soloists)とモンテヴェルデイ合唱団は、いずれも人数は少ないが少数精鋭のプロ集団という感じで、恐らくバッハのカンタータなどの宗教曲の演奏で鍛えられたグループであろう。モーツアルトのウイーン時代の宗教曲2曲を自信を持って演奏していた。また、バーバラ・ボニーやフォン・オッターなど91年頃は若さ溢れる売り出し中の年代であったろうが、自信に溢れた素晴らしい歌唱力を感じさせ、ソリスト陣の資質の高さを感じさせるレクイエムであった。

(以上)(08/05/07)


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