8-5-1、オーボエのシェレンベルガーの指揮とNHK交響楽団によるオールモーツアルト・コンサート、
(曲目)管楽セレナード変ロ長調「グラン・パルテイータ」K.361(370a)、「イドメネオのバレエ音楽」K.367、および交響曲(第40番)ト短調K.550、指揮とオーボエ;シェレンベルガー、

−元ベルリンフイルのオーボエ奏者、シェレンベルガーがオーボエと指揮とを担当した、異色的なプログラムのオール・モーツアルト・コンサート。「一人二役の妙技」を発揮して、いつものN響とは異なった速いテンポの爽やかな演奏を聴かせてくれた−

8-5-1、オーボエのシェレンベルガーの指揮とNHK交響楽団によるオールモーツアルト・コンサート、(曲目)管楽セレナード変ロ長調「グラン・パルテイータ」K.361(370a)、「イドメネオのバレエ音楽」K.367、および交響曲(第40番)ト短調K.550、指揮とオーボエ;シェレンベルガー、サントリーホール、N響定期第1615回、08年2月20日、
(08年03月19日、NHKBS103CHの放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。) 

 5月号の第一曲目は、今年の08年2月20日にサントリーホールで開催されたNHK交響楽団の定期第1615回でのオールモーツアルト・コンサートである。元ベルリンフイルのオーボエ奏者、シェレンベルガーがオーボエと指揮とを担当して、まず初めに管楽セレナード「グラン・パルテイータ」変ロ長調K.361(370a)を演奏したのが異色的であり、次いで休憩後、彼の指揮で珍しいやはりオーボエが活躍する「イドメネオのバレエ音楽」K.367が演奏され、最後に交響曲(第40番)ト短調K.550をクラリネットが含まれない第一稿の初版で演奏したものであり、これも極めて珍しいと言える。
 はじめの「グラン・パルテイータ」では、N響の首席管楽プレイヤーズたちとコントラバスが勢揃いし、シェレンベルガーは第一オーボエと指揮を兼ねていた。テンポが早めの整然とした見事なアンサンブルを見せた演奏であり、指揮者としての存在感が示された演奏であった。彼は古くから指揮者としての研鑽を積んできたようであるが、ト短調交響曲では、彼の意図するアンサンブルを重視した仲間意識に溢れた演奏スタイルを成功させており、またメヌエットのトリオでもレントラー風の地方色を発揮させるなど、新たな試みが行われ、新鮮な響きを聴かせてくれた。



 このコンサートは、NHK放送のN響アワーでも「一人二役の妙技」として取り上げられ、池辺さんの解説とシェレンベルガーへのインタビューが行われ、なかなか面白かった。シェレンベルガーの経歴を調べてみると、1948年ドイツで生まれ育ち、71年ケルンのオーケストラで活躍し、80年にカラヤンに認められてベルリンフイルの首席オーボエ奏者を1980年から2001年まで務めてきている。それ以降、ソリスト・室内楽奏者・指揮者として活動し、ハイドン・アンサンブル・ベルリンという室内楽団(ザルツブルグのモーツアルト週間の常連であった)の指揮者を勤めてきた。17歳の時に指揮者コンクールで入賞したほど指揮が好きであり、オーボエをやりながら指揮者になることを何時も考えており、オーボエ奏者として年金生活に入りたくなかったという。指揮者としては年齢的にまだ若く、オーケストラと一緒になって一つのチームとして音楽を造り上げることを目指すという。音楽の背景を重視し、自分の気持ちを共有する仲間とともに、独裁者ではなく、仲間の一員としての指揮者でありたいという。このコンサートは、オーボエ奏者としてまた指揮者として、彼の言葉通りのオーケストラのアンサンブルを重視したコンサートであった。



 このコンサートの第一曲目は、管楽セレナード「グラン・パルテイータ」変ロ長調K.361(370a)であった。シェレンベルガーは第一オーボエ奏者として、向かって左側に陣取って指揮を兼ねていた。13人の配置は、オーボエの隣はファゴット、バセットホルン(バス・クラリネット)、クラリネットが右端になるように二人ずつ並んで8人が半円形で前列に並び、後列は中央に4人のホルンと、左手にコントラバスが位置していた。もう一人のオーボエ奏者(最近CDを出して売り出し中の)池田昭子さんの話では、一緒に協演したことは大変勉強になった。多くの演奏者と協演を楽しむようにリーダシップを取っていたという。
 第一楽章は、シェレンベルガーの一吹きでトウッテイによる堂々たる響きの序奏で始まり、早すぎないテンポでしっかりと進め、対照的にクラリネットで始まるアレグロの第一主題は、キビキビとしたテンポで軽やかに始まった。第二主題はバス・クラリネットで提示されるが、旋律は第一主題と同じ形で楽器の音色と調性を変えたものであり、続いてオーボエとホルンへと引き継がれていた。そのせいか展開部では新しい主題がクラリネットで始まり各楽器に引き継がれていた。シェレンベルガーのリードにより各楽器は非常に伸び伸びとしており、明るく晴れやかにこの楽章を終えていた。



 第二楽章は二つのトリオを持つ大型のメヌエットで、シェレンベルガーが皆の準備を待ってトウッテイで堂々と始まり整然と進行するが、終結部ではクラリネットの甘いソロで仕上げられていた。第一トリオはシェレンベルガーの特徴か非常に速いテンポでクラリネットとバスクラとが四重奏を行うが、4本のクラリネットの音色の響きが微妙に美しく極めて印象的だった。再びトウッテイでメヌエットが奏された後に、第二トリオはファゴットの細かな伴奏でシェレンベルガーのオーボエが実に美しいソロを歌い出し、ホルンが相槌を奏で素晴らしい効果を上げていた。第三楽章は映画「アマデウス」で有名なアダージョであり、シェレンベルガーの左手の合図でホルンの静かな伴奏のもとでシェレンベルガーの第一オーボエが高らかに歌い出し、続いて第一クラリネットが、そして第一バスクラリネットが歌い出し、心に浸みる微妙な音色でゆっくりと語り継いでいた。バスクラリネットの深い響きが印象的で、モダン楽器なりの特徴が出ていた。



 第四楽章は再び二つのトリオを持つ大きなメヌエットであり、トウッテイで明るく始まるメヌエット主題に対しその後半をオーボエがソロで受け止める形で進み、第一トリオでは二つのクラリネットの暗い前奏に続いて暗い響きが全体を覆っているのに反し、第二トリオではコントラバスのピッチカートに乗ってオーボエが明るく歌い出す対照的なものであった。第五楽章は再びアダージョのゆっくりした楽章であるが、中間部ではがらりとテンポの速いアレグレットになり再度アダージョが繰り返される三部形式。アダージョではクラリネットとオーボエが重なり合いながら三拍子でゆっくりと歌っていくのに対し、アレグレットではファゴットの小刻みな伴奏に乗ってバスクラリネットがおどけるような旋律を歌っていた。シェレンベルガーはアダージョとアレグレットを対比させながら明るく歌うように進めていた。第六楽章はアンダンテでで始まる主題と六つの変奏曲であるが、シェレンベルガーは各楽器の特徴が発揮できるよう伸び伸びと歌わせており、特にオーボエが大活躍する第五変奏では素晴らしい活躍を見せていた。第七楽章はユーモアを持った溌剌としたロンド主題が飛び出すロンド楽章のフィナーレであり、シェレンベルガーは勢いよく進めていた。ロンド主題を挟んだ二つのエピソードもシェレンベルガーのお得意なコントルダンス風の早い舞曲で、速いテンポで一気にこの楽章をまとめ上げていた。

 この管楽セレナード「グラン・パルテイータ」K.361のシェレンベルガーによる演奏は、指揮者と第一オーボエ奏者を兼ねる数少ない演奏で、これまで専門の指揮者を省いた演奏は、オルフェウス室内合奏団とアンサンブル・ゼフィローの二団体の演奏しか見当たらない。N響の管楽グループとの臨時的な編成で、この長大なセレナードをまとめ上げるのは大変な力量が必要であると心から敬意を表したい。N響アワーで池辺さんが「一人二役の妙技」と名付けた意味が良く分かる「グラン・パルテイータ」であった。



 このコンサートの第二曲目は、オペラ「イドメネオのバレエ音楽」K.367である。この曲は、演奏機会の少ない曲であるが、このホームページでは、 リッケンバッハ指揮のスイス・イタリア語放送管弦楽団の演奏(3-3-3)に次ぐ二度目のアップロードとなる。この曲については、新全集に2版あることを先に述べていたが、リッケンバッハの演奏がオペラ「イドメネオ」の改訂者ハーツによる2曲の版(1972)であるに対し、今回のシェレンベルガーの演奏はバレエ音楽改訂者ヘックマンによる5曲の版(1963)を用いていた。

 第一曲目は「シャコンヌ」でトウッテイによる威勢の良い三和音で華やかに始まるアレグロで、聞き覚えのあるメロデイが非常に速いテンポで進む。トランペットとテインパニーが良く響き、二本のコントラバスを持った中規模のオーケストラであるが、非常に賑やかで活気がある。やがてパ・ドウ・ドウの落ち着いた部分となり、冒頭の三和音のアレグロに戻ってからパ・スルーの踊りの部分となり、オーボエが一段と明るく歌ってから、再び冒頭のアレグロに戻る。フェルマータの後にラルゲットに入り、パ・スルーの踊りが続き、速いテンポのシャコンヌのアレグロに入って踊りが続いた後、冒頭の三和音のアレグロに戻って一気に終結した。決まった形式にとらわれない自由な踊りが繰り返される長い曲であった。



 第二曲は「パ・スルー」で、フランス序曲風にラルゴで荘重に開始するが、直ぐに軽快なアレグレットが続き、最後にピュー・アレグロになる華やかな忙しいバレー曲であった。
 第三曲は「パスピエ」で、2つのオーボエと弦楽器のによるゆったりとしたフランス風舞曲で、3/8拍子の16小節の愛らしい舞曲が、二つのパ・スールを挟んで繰り返し反復されていた。フランス風の優雅なトリオを持つメヌエットのようであった。
 第四曲は「ガヴォット」で、16小節の優しい舞曲が4回、少しづつ形を変えて反復されるもので、三番目では大きく形を変え、各声部が主題をカノン風に模倣していくものであった。新全集のオペラ「イドメネオ」の第一幕の終わりの「インテルメッツオ」の第8番行進曲の後に、第8番aとして、この「ガヴォット」が組み込まれているが、通常は除かれて演奏されているようだ。
 第五曲は「パッサカリア」で、ソット・ヴォーチェで始まる三拍子の優雅な踊りの主題が2回繰り返されてからパ・スールが始まり、再び優雅な主題に戻ってからバレエやパ・ドウ・ドウに入り、最後に再び優雅な主題に戻って結ばれた。冒頭の「シャコンヌ」と関連づけられている自由な踊りの曲であった。
 このバレエ音楽は、オペラでは現在殆ど演奏されたことがないので、どのような形で演奏されるか不明であったが、このような演奏会形式で聴いても、管楽器が良く活躍する優雅な曲が続いており、バレエ組曲のような演奏スタイルであった。シェレンベルガーがこの曲を取り上げたのも、特にオーボエが活躍するからであろう。彼は早い軽快なテンポで全体の調和を取りながらキビキビと指揮を進めており、N響の皆さんとも良く馴染んでいる様子が窺えた。パッサカリアが静かに終わると、凄い拍手で迎えられ、活躍が目覚ましかったオーボエ首席の茂木さんが立ち上がって挨拶をしていた。



   このコンサートの第三曲目は、交響曲(第40番)ト短調K.550であった。冒頭に述べたとおり、シェレンベルガーの特徴は、クラリネットが含まれない第一稿の初版で演奏していた。それは、第二版よりもオーボエの出番が多いからであろう。また、この曲が短調の作品で、ともすれば哀愁を帯びた暗い感情を表す作品とされる演奏が多かったのに対して、この演奏では全体的にテンポが非常に速く、暗さよりも颯爽とした軽快さを感じさせ、重厚な演奏が多いN響がひと味異なった繊細で軽やかな演奏を行っていた。

 第一楽章は軽快な弦の合奏の第一主題で始まるが、何と早いテンポで軽やかに進むのだろうか。これは新しい新解釈だと感じている間に曲はどんどん進行する。N響の構成は、4本のコントラバスが正面右奥に陣取り、木管やホルンが正面後方に配置される標準的な編成で、総人数は50〜60人くらい。厚みのある弦楽合奏を聴かせるN響の弦が、まるで風のように軽くよどみなく疾走する。やがて第二主題に入ってフルート、オーボエやファゴットが活躍を始め、初版で演奏していることに改めて気がつく。全体の繰り返しでもこのスピード感は変わらず、展開部の手前の小休止では一息つくが、展開部の導入主題の繰り返しやうねりの勢いは変わらず、さらりと展開されていくところは、この演奏の特徴か。再現部に入り再び二つの美しい主題が繰り返されていくが、シェレンベルガーは手慣れた指揮振りで、テンポを崩さず最後まで進めていた。終わってみれば、暗さとか深刻さとかとは無縁のむしろ大らかで爽やかな感じが残ったが、これは私だけの感覚であろうか。



 第二楽章もやや早めのテンポであるが、ここでも軽やかな美しい弦楽合奏で始まり、弦は非常に繊細で透明感があり、うねるように繰り返されて進んで行く。やがて、第二主題に入り、弦から管へ、管から弦へ、上昇したり下降したりするパッセージが実に美しく響くが、ここではまさにシェレンベルガーのお得意で、フルート、オーボエ、ファゴットが絶えず登場し歌い出す様子が画面でクローズアップされ、改めて非常に繊細できめの細かな弦と管の合奏のアンサンブルの美しさを味わうことが出来た。第三楽章のメヌエットでは、軽やかな弦楽合奏でここではむしろゆったりとしたリズムで堂々と進む。出だしの三小節のフレーズがカノン風に何回も繰り返されて進行して行きむしろ重さを感じさせていたが、小休止の後のトリオのテンポの早さに驚きを感じた。メヌエットと対照的に弦が速いテンポで進み、管楽グループが合わせるように歌い、締めくくりのホルンもさらりと速いテンポで納めていた。この軽くて早いトリオとメヌエットの緩急緩の組み合わせがこの演奏の特徴であろうか。フイナーレ楽章では、速いテンポのアレグロで第一主題が飛び出し軽快なテンポで進行して見事な合奏を繰り返していく。やがてなだらかな第二主題が弦だけで始まって淀みなく進行するが、オーボエが明るく歌い出してホットさせる。展開部では冒頭の主題が弦で何回も繰り返され、管でも繰り返されていくが、爽やかな疾走感は崩れずむしろ心地よいスピード感でこの楽章を終結した。

 シェレンベルガーのト短調は、明るく疾走する暗くないト短調であり、弦と管のアンサンブルを重視したきめの細かな演奏であり、始めは速いテンポでどうなるか心配させたが、終わってみれば爽やかな感じを残す後味の良い演奏であった。このコンサートはオーボエという楽器を軸に、シェレンベルガーというオーボエ奏者兼指揮者による技量を際立たせたオールモーツアルト・コンサートであった。彼にはモーツアルト週間で、アンサンブル・ウイーン=ベルリンのオーボエ奏者、或いはハイドン・アンサンブル・ベルリン室内楽団の指揮者としてライブで聴いたこともあり、モーツアルト通として特に親しみを覚えたN響とのコンサートであった。

(以上)(08/05/23)


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