8-4-2古楽器演奏による二つの「グラン・パルテイータ」K.361(370a)
フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによる「グラン・パルテイータ」K.361、およびアンサンブル・ゼフィロによる「グラン・パルテイータ」K.361、

−ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによる活力ある整然とした古楽器演奏と、アンサンブル・ゼフィロによる個々の楽器演奏の自由度が高い古楽器演奏の二つの「グラン・パルテイータ」−バセットホルンの鄙びた音が珍しかった−

8-4-2、フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによる「グラン・パルテイータ」K.361、およびベートーヴェン、交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」、1996年、 (96年発売のレーザー・デイスク、PHLP-9042より)

およびアンサンブル・ゼフィロによる「グラン・パルテイータ」K.361、2005年1月28日、王子ホール、第一Ob;アルフレード・ベルナルテイ、第一Cl;ロレンツオ・コッポラ、
(07年9月19日NHKBS103 クラシック倶楽部のHV放送をS-VHSテープにデジタル録画)

   4月号の第二曲目は、レーザー・デイスクによる器楽曲の紹介であり、今回はフランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによるセレナード「グラン・パルテイータ」K.361である。このベートーヴェンの「英雄」交響曲とペアになったLDはかねて古楽器演奏の新しいものとして評価の高かったものであり、改めてここにご紹介する価値があると考えている。私はこの映像で、モーツアルトの時代の折れ曲がったような形のバセットホルンの実演奏を初めて見て、こういう音が出るのかと感心した覚えがあるが、こういうところはCDでは気が付かない映像ソフトの良さが現れている。
 この曲の成立年代については過去に諸説があったが、新全集の校訂者は1783年の終わりか1784年の始め頃としており、ウイーンで管楽器アンサンブル「ハルモニー」が流行した時期と考えられている。 



 セレナード「グラン・パルテイータ」K.361(370a)の演奏では、ブリュッヘンは少し高い椅子に座り、13人の演奏者を見渡すようにして、棒を持たずに両腕を細かに動かして指揮を取っていた。演奏者は、前列に左から2クラリネット、2バセットホルン、2ファゴット、2オーボエと並び後列中央に4ホルン、右奥にコントラバスが配置されていた。解説者の宇野功芳氏は「この新盤は長年の渇を癒すに充分な、極め付きの名演奏」と評している。確かに、コントラバスを加えた重厚な響きは、古楽器特有のアンサンブルの妙があり、ブリュッヘンがこの名曲を取り上げた意図が滲み出ているように思われた。
 第一楽章はラルゴの序奏部とアレグロ・モルトのソナタ形式の主部から成る。曲はゆっくりした力強いトウッテイで始まりクラリネットが柔らかな独奏パッセージで応える序奏部で始まり徐々に緊張感を高めて終息してから、主部のアレグロの第一主題が開始されるが、ブリュッヘンは実に遅いテンポで序奏を開始し、アレグロの第一主題は対照的に早めのテンポで軽快に進めていた。この軽やかなリズム感はブリュッヘン節であると宇野さんが述べている。第一主題はクラリネットとファゴットで現れるが、この第一クラリネットのホープリッチは日本でも活躍していた見覚えのある奏者であった。この主題はくすんだ暗い音を出すバセットホルンでも現れ、さらにオーボエとホルンでも明るく現れて、古楽器による音色の微妙な変化や違いがとても面白かった。



   第二楽章はメヌエットであるが、特徴のある二つのトリオがある大型なもの。トウッテイで強弱の応答が繰り返される堂々たるメヌエットであり、ブリュッヘンは強弱の対比を強めて強調するようにし、整然としたリズムを取っていた。第一トリオは二つのクラリネットと二つのバセットホルンの四重奏であり、バセットホルンの転げ回るような低域の伴奏が面白かった。また、第二トリオはファゴットのおどけた伴奏の下でオーボエが悲しげに歌い、再び高らかにメヌエットのリズムがトウッテイで繰り返されていた。
 第三楽章は深い響きを持つアダージョで短調の中間部を持つ三部形式。繊細なリズムを持った伴奏の上でまず第一オーボエが高らかに歌い出し、続いて第一クラリネットが、そして第一バセットホルンの三声部が微妙な音色で心に浸みる歌を歌う。映画「アマデウス」での場面が思い出されるが、ブリュッヘンの演奏はもっと暗くて重い響きがする。中間部では短調の転調により音色が変化するが、やはり沈んだ暗いアダージョであった。

 第四楽章は再び二つのトリオを持つメヌエットであるが規模は小さい。速いテンポで全奏で始まりオーボエがこれを受けて伸びやかに歌う素朴なメヌエットに対し、第一トリオでは二つのクラリネットの前奏に続いて全奏で暗い旋律を繰り返す。第二トリオではオーボエがソロでベースのピッチカートに乗ってレントラー風の舞曲を奏で、再び速いテンポの素朴なメヌエットとなった。
 第五楽章はロマンツエと名付けられたアダージョで、第三楽章と同様に短調の中間部を持つ三部形式。主部はクラリネットとオーボエが重なり合いながらゆっくりと歌い出し、組み合わせを変えて他の楽器が繰り返していく三拍子のアダージョに続き、中間部では二拍子のアレグレットにがらりと変わり、ファゴットの伴奏でバセットホルンがおどけた旋律を奏でていた。ブリュッヘンはアダージョとアレグレットを対比させるように明るく歌わせていた。



 第六楽章はアンダンテで始まる主題と六つの変奏曲であり、各楽器が特徴を生かすように作られている。主題はクラリネットで提示されてから、第一変奏ではオーボエが主体の変奏となり、第二変奏ではバセットホルンとファゴットがオクターブでパラフレーズする。第三変奏では力強い全奏のあとにクラリネットが独奏し、第四変奏では短調となって合奏で寂しげな穏やかな雰囲気となる。第五変奏はアダージョとなってバセットホルンの伴奏でオーボエが明るく歌い出し、第六変奏ではアレグレットとなって快活なおどけたメヌエット風の変奏で明るく終結した。ブリュッヘンは各楽器が伸び伸びと歌えるように落ち着いたテンポで楽しげに指揮をしていた。
 第七楽章はアレグロ・モルトのロンド形式。ピアノの連弾曲K.19dの主題に似た軽快な ロンド主題が速いテンポで駆け巡る生き生きとしたフィナーレで、ブリュッヘンは始めから勢いよくどんどんと進める。このロンド主題に挟まれた二つのエピソードはいずれも元気の良いコントルダンス風の早い舞曲で、一気呵成に進行し、最後にロンド主題で明るく快調に終結していた。



 このブリュッヘンの18世紀オーケストラのプレイヤー達の演奏を聴いて、私は真に実力のある古楽器集団の演奏は、モダン楽器に負けないくらいの迫力ある力強い演奏が可能であるとともに、モダン楽器にない古楽器だから出来る枯れた微妙な雰囲気のアンサンブルが楽しめることを知った。これはブリュッヘンの統率力と18世紀オーケストラの実力によるものであり、この「グラン・パルテイータ」においても、裏面に収録されている「英雄」交響曲においても当てはまっていた。古楽器演奏ではバセットホルンが活躍するので18世紀当時と同じ状況が再現できるが、楽器博物館でしか見たことがなかった折れ曲がったバセットホルンを流暢に操り、時にはソロも吹く奏者達を見て驚きを禁じ得なかった。ブリュッヘンの活力をこの曲に与えた活きの良い整然とした演奏に敬服するとともに、18世紀の時代の煌びやかな音色を再現したプレイヤー達に敬意を表したいと思う。

 ここまで書いてきた時に、私はふとごく最近N響定期でベルリンフイルのオーボエ奏者シェレンベルガーが指揮とオーボエを吹いたコンサートを思い出した。日付けを確かめると1615回定期08年2月20日サントリーホールで、この「グラン・パルテイータ」K.361と、「イドメネオのバレエ音楽」K.367およびト短調交響曲K.550というプログラムであった。それと同時に、イタリアの管楽合奏団、古楽アンサンブル・ゼフィロによる日本公演の「グラン・パルテイータ」を収録してあったことを思い出した。この演奏は07年9月19日のNHKBS103のクラシック倶楽部で、どういうコンサートであるか不明であるが王子ホールでこの曲のみが収録されたライブであった。いずれも一見しただけの記憶であったが、古楽器の良いアンサンブルの演奏であったと思っていた。
 私のデータベースではこの最新の2曲を含めて考えると、K361はCDを含めると全部で12演奏あるが、既にアップした金さんとデーヴィスのものと、今回のブリュッヘンのLDの他にこの2種類の最新映像を加えると、映像は全部で5種類となり、いずれもこの曲に相応しい魅力的な演奏ばかりで素晴らしいコレクションとなっていた。N響定期シェレンベルガー指揮のオールモーツアルト・コンサートは、5月号の最新録音として8-5-1として取り上げる予定である。従って、ブリュッヘンを聴いた直後の状態で、今回古楽アンサンブル・ゼフィロの映像をアップすれば、5月号における「グラン・パルテイータ」K.361のアップ後の「映像のコレクション」では、5演奏で少ないがこれで完結することとなる。




 このようなことから、引き続き古楽アンサンブル・ゼフィロにとる「グラン・パルテイータ」K.361(370a)を、ブリュッヘンの演奏と比較するような形で一楽章ずつ聞き比べ見較べながら丁寧に聴いて見ようと考えた。この団体は1989年に設立されており、管楽ばかりでなく弦も加えたオーケストラとしても世界的に精力的に活躍していると紹介されていた。今回の映像は、どういうコンサートであったかは不明であるが、05年1月28日の王子ホールにおける来日公演を収録している。曲は第一オーボエのアルフレード・ベルナルテイが統率しており、彼が率いて会釈をしてからトウッテイで開始された。楽器の配列は左側からオーボエ、バセットホルン、中央にコントラバス、ファゴット、およびクラリネットの順に並び、後列には左右に台を置いて、4つのホルンが二人づつ並んでいた。
 第一楽章ではブリュッヘンの演奏が指揮者と一体になって序奏をゆっくりと開始し、ラルゴからアレグロの第一主題に移行するあたりの整然とした進行にスケールや迫力の上で並々ならぬものを感じたが、ゼフィロでは第一オーボエの統率の下に開始されてはいるが、全員が立って演奏するせいか各人が自由に体を動かしながら演奏するので、整然さには欠けているが、各人がアンサンブルを大事にしながら一生懸命に演奏している様子は良く分かった。この楽章ではやはりブリュッヘンの存在というか統率力の確かさなどを感じざるを得ず、ラルゴでの盛り上がりの緊張感の凄さなどが特に目についた。しかし、ゼフィロではこのような意識した緊張感はないが、自由に伸び伸びとやっておりこういう雰囲気も演奏には大切であると感じた。やはり、珍しい楽器である二種類のバセットホルンの姿に特に目が惹かれたが、この楽章では合奏ばかりでこれという出番はなかった。



 第二楽章はトウッテイで始まる壮大なメヌエットであるが、ゼフィロでは第一トリオで二つのクラリネットと二つのバセットホルンの美しい四重奏が目立ち、いぶし銀のように古めかしいバセットホルンがしっかりと低音部を支え、時にはソロの出番もあった。ブリュッヘン盤ではトウッテイの整然さと強弱の変化の付け方が強調され音質がやや硬質に感ずるのに対し、ゼフィロではメヌエットに自由な生き生きとしたメリハリが効いており、二つのトリオではそれぞれの楽器が柔らかに響き各人が装飾を入れるなど自由な振る舞いが目についた。
 第三楽章ではゼフィロの画面の進め方がソリスト主体に写り、第一オーボエ、第一クラリネット、第一バセットホルンの順に写されたのでとても分かりよく素晴らしいアダージョを楽しめた。ゼフィロでは全体よりも個々の楽器が自由に伸び伸び演奏していたので明るい楽章にすら思えたが、ブリュッヘン盤では全体が沈んだ暗さを持って整然と進行しており、大きな開きがあった。ゼフィロでは再現部ではオーボエやクラリネットが装飾をつけて歌い過ぎていたようにも感じ、指揮者の存在が重要だと考えさせられた。



 第四楽章は二つのトリオを持つメヌエット。ゼフィロでは速いテンポで伸び伸びとメヌエットのリズムを刻んでおり、暗い表情の全奏の第一トリオに対し第二トリオでは軽く弾むようなピッチカートに乗って全員が楽しげに歌い交わしていた。一方のブリュッヘン盤では、対照的に強弱のアクセントが強い整然としたメヌエットであった。
 第五楽章はアダージョであり、ゼフィロでは全奏で非常にゆっくりと甘美な旋律が歌い継がれていくのに対し、中間部では向かって左側のシュタートラー型の第一バセットホルンが対照的に速いテンポでアレグレットのリズムを刻んでいた。ブリュッヘン盤ではアダージョの全奏の分厚い音の響きが顕著であり、一糸乱れぬ整然とした進行が見事であり、アレグレットでも緩やかなテンポで、二つの演奏の違いが極端に現れた楽章であった。

 第六楽章の変奏曲楽章では、ゼフィロでは実に軽快なテンポでクラリネットが明るく主題提示をしており、第一変奏のオーボエの変奏がこれと対照的に鮮やかな響きを見せ、続く各楽器のソロの伸びやかさが目立っていた。第四変奏のいわゆる「ため息音形」も実に美しく現れ、第五変奏で目立ったオーボエのソロも見事な冴えを見せ、充分満足できる賑やかさを持っていた。ブリュッヘン盤と異なって整然さには欠けるが各楽器の自由な変化があり特徴が良く出ているように感じ楽しかった。
  第七楽章では、ゼフィロは全奏で軽快そのもののロンド主題が流れ出し、速いテンポで新しい主題が顔を出して行き、目まぐるしい勢いで進行する。この点ではブリュッヘン盤とも全く共通しており、素晴らしいテンポで明るくロンド主題でこの楽章を終結していた。このクラシック倶楽部という番組は55分が放送の持ち時間であるが、54分になって曲が終わるというぎりぎりの時間で曲が収まっていた。



 13人の演奏者を必要とするこの曲で指揮者なしの演奏は今回のゼフィロが初めてであったが、ブリュッヘンの指揮による整然とした18世紀オーケストラの演奏と較べると、13人の個性が出た自由なゆとりのある演奏に見えた。しかし、この曲が生まれた18世紀の時代は、指揮者などがいない時代であったので、このような演奏スタイルでまずまずの演奏が楽しめ、しかも古楽器で演奏されていたことは、当時の演奏を偲ぶに充分意味のあることであろうと思われた。実際、用いられていた二種類のバセットホルンは、極めて珍しいもので、それだけでも貴重な価値があるものと思われる。

(以上)(08/04/10)


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