8-4-1、アンドレ・プレヴィンとNHK交響楽団によるオールモーツアルト・コンサート、(曲目)「フィガロの結婚」序曲、ピアノ協奏曲(第24番)ハ短調K.491および交響曲(第36番)ハ長調K425、指揮とピアノ;アンドレ・プレヴィン、N響定期第1595回、07年9月8日、NHKホール、

−今回の映像の協奏曲と交響曲が、NHK会員アンケートのソリスト編と指揮者編の一位と二位に選ばれていたが、このプレヴィンの二つの演奏は、実に心温まる穏やかな悠然とした演奏であり、誰しもが心惹かれる親しみやすさが滲み出ていた−

8-4-1、アンドレ・プレヴィンとNHK交響楽団によるオールモーツアルト・コンサート、(曲目)「フィガロの結婚」序曲、ピアノ協奏曲(第24番)ハ短調K.491および交響曲(第36番)ハ長調K425、指揮とピアノ;アンドレ・プレヴィンN響定期第1595回、07年9月8日、NHKホール、
(07年10月22日、NHKBS103CHの放送を、D-VHSレコーダーのHVモードで、S-VHSテープに5.1CHデジタル録画。) 

 4月号の第一曲目の最新のオールモーツアルト・コンサートは、NHK交響楽団とアンドレ・プレヴィンの指揮とピアノによる07年9月の来日演奏で、曲目は第一曲が「フィガロの結婚」序曲、第二曲がプレヴィンの弾き振りでピアノ協奏曲ハ短調(第24番)K.491、第三曲が交響曲第36番ハ長調「リンツ」K.425であった。
 去る08年3月16日と23日の池辺晋一郎氏のN響アワーにおいて、07年1年間のN響定期会員によるアンケートでソリスト編と指揮者編のベストテンを紹介していたが、ソリスト編では何とこの番組のピアノ協奏曲ハ短調K.491がベストテンのトップに選ばれており、また指揮者編の第二位がこの番組のリンツ交響曲K.425が選ばれて再放送されていた。この演奏は当初からハイビジョンの5.1CHで放送予定がなされていたので、D-VHSのHVモードで録画しており、最高の録画が行われ素晴らしい演奏であると喜んでいたが、まさか競争の激しいアンケートのベストテンの1位・2位に選ばれるとは思いもしなかった。私のデータベースでは、プレヴィンの「リンツ」は初録画であるが、24番の協奏曲はこれで何と4度目の収録で、N 響とは2度目であり、彼はこの曲を非常に得意にしているものと思われる。今回はこのコンサートにN響会員がどこに惹かれたのかに注意しながら、この素晴らしい演奏を存分に楽しみたいと考えた。



 コンサートの第一曲目は「フィガロの結婚」序曲で、軽やかな弦楽器の小刻みな合奏で静かに始まり、木管が合図をしてから大きく呼吸をするようにオーケストラが鳴り響く。プレヴィンは高めの椅子に座り、右手に短い指揮棒を持って両手を使って指揮をしており、5.1CHの素晴らしい響きが部屋全体に広がる。コントラバスが2本で中規模な編成であり、柔らかな弾んだ響きが快く、穏やかな親しみやすい演奏であった。1929年のお生まれであるから80歳近くで、軽くリズムを取るような指揮振りで、楽しみながら指揮をしているのが表情に表れていた。指揮は全く問題はないが、体を揺ってゆっくりと歩く姿から果たしてピアノは大丈夫かなと心配になった。序曲の後、ピアノを正面に移動させるために、暫しの中断があった。



 第二曲目は、ピアノ協奏曲ハ短調(第24番)K.491であり、第一楽章はハ短調の暗いアレグロ楽章、第二楽章はラルゲットの珍しいロンド形式、第三楽章はハ短調の変奏曲形式で出来ている。舞台の中央に聴衆に背を向けてピアノが置かれ、オーケストラがピアノを囲むように左右に並び、木管グループは中央にピアノと向かい合って並んでいた。  第一楽章はオーケストラにより重々しく始まるが、プレヴィンの指揮は非常にゆっくりしており、第一主題の特徴ある減7の跳躍も半音階の動機もむしろ穏やかに響き、明るい感じで第一主題が進められた。独奏ピアノによるアインガングは、ゆっくりと丁寧に高音を際立つように弾かれてから、ピアノで第一主題を提示して、速いパッセージでどんどん進む。満を持して現れた第二主題が独奏ピアノで玉を転がすように現れ、オーボエが繰り返してからピアノが独自の旋律で速いパッセージをこなしていくが、先月号で聴いたランランが天上を見上げながら勢いよくピアノを弾いていたのに対し、プレヴィンはピアノの鍵盤を見つめながら確かめるように丁寧に弾いていた。
 アインガングの主題で始まる展開部もプレヴィンのピアノが先導しており、早い技巧的なパッセージも何とかクリアーして、管弦楽と掛け合いながら盛り上がりを見せていた。左手が空くと手を挙げて指揮をしようとリズムを取るのは、指揮者としての執念かと思わせた。再現部では、プレヴィンのピアノと木管やオーケストラとのアンサンブルがとりわけ美しく響いていたように感じられた。カデンツアはプレヴィン独自の暖かみのある心のこもったもので、第二主題まで含まれた長いものであった。

 

 第二楽章では独奏ピアノがひとりで呟くようにロンド主題を歌い出し、澄みきった透明なピアノの世界を醸し出し聴くものをウットリさせる。やがて、オーボエとファゴットが語りだし、ピアノが主題を変奏しながらこの対話に加わって、これにオーケストラも加わって対話の輪を広げ、ピアノとオーケストラが渾然一体となった響きを見せ、プレヴィン独自のアンサンブルの世界のように聞こえた。二度目のロンド主題の後でも、2本のクラリネットが新しいエピソードを奏でピアノやオーケストラと混ざり合って夢のような美しいアンサンブルの世界を繰り広げた。この楽章の素晴らしさは、老境に達したプレヴィンならではのアンサンブルの美しさにより、比類ない世界へと高められたように感じられた。
 フィナーレでは変奏曲の主題がオーケストラで威勢良く始まる。プレヴィンは早めのテンポを取り主題が繰り返されていくが、第一楽章で印象的だった減七の跳躍音程はこの主題でも生かされていた。最初の変奏は独奏ピアノの早いテンポで変奏が行われたが、木管とピアノが受け答えする偶数の変奏と独奏ピアノが活躍する奇数の変奏とが交互に組み合わされていた。第二変奏では木管とピアノが、また第四変奏ではクラリネットとピアノが競い合うように活躍し、第六変奏ではオーボエが新しい主題を提示してピアノがこれを反復していた。また、第三変奏では付点リズムによるピアノが力強く弾かれ、第五変奏では主題の対位法的な呟くようなピアノの動きがプレヴィンらしさを示し、第七変奏では短いカデンツアまで用意されで独奏ピアノが華やかに飾り付けていた。この楽章もピアノが全ての変奏に彩りをつけるプレヴィン独自のフイナーレであった。



 このピアノ協奏曲ハ短調は、プレヴィンが自らのペースで指揮をし、自らのピアノで自らの音楽を語ったプレヴィン独自の協奏曲であった。どの楽章もゆとりのある穏やかな音楽が流れ、まさに80歳に近い巨匠だから到達できたであろう暖か味の溢れた天国に近い境地をさ迷うような豊かなアンサンブルの世界が繰り広げられた。聴衆全員によるオーケストラの皆さんを含めた大変な拍手が湧き起こり、プレヴィンはにこやかに応えていたが、ピアノと一緒に良く歌った木管グループを起立させ、次いで全員で拍手に応えていた。

 第三曲目は交響曲第36番ハ長調「リンツ」K.425であった。モーツアルトが1783年にコンスタンツエを連れてザルツブルグに里帰りしてウイーンへの帰路、リンツに3週間ほど滞在したときに、世話になったリンツの伯爵のために演奏会を行うことになり、手持ちがないため急遽この地で数日の間に作曲したとされる。ザルツブルグ滞在中は殆ど作曲をしていなかったモーツアルトが、溢れるばかりの楽想をこの曲のために一挙に焚きつけたものとされており、流れ出る楽想を次から次へと譜面に書き付けたような淀みのない明るい伸び伸びとした旋律美に溢れた交響曲である。舞台の楽器編成を見ると、コントラバスが3台になったほか弦楽器が数人増加していた。




 序奏の冒頭は重い付点リズムを持った荘重なアダージョの序奏がゆっくりしたテンポでユニゾンで開始され、続いてヴァイオリンが美しい旋律を奏で管が引き継いでその後もゆったりと堂々たる歩みで進行し、重い響きで序奏を終える。一転して第一主題が軽快なアレグロ・スピリトーソで明るく晴れやかに開始され、続いて行進曲風のリズムでぐいぐいと軽快に高まりを見せながら進行する。プレヴィンは全てを心得た面持ちで、軽快そのものに第一主題を伸びやかに進め、続いて優雅な第二主題が走り出し、実に溢れるばかりの旋律美で流れるように進行した。プレヴィンは指揮をしながら時々上手くいったとばかりに笑みを浮かべながら指揮しており、手慣れた手つきで生き生きと楽しみながら指揮をしていた。展開部では新しい主題が弦楽器で登場しオーボエなどにより繰り返されて堂々と進んでいくが、プレヴィンはここでも優雅に伸び伸びと指揮をしており、やがて型どおりに初めのアレグロが再現されていた。



 第二楽章では、優美で荘重感を持った第一主題が厳かにゆっくりと登場し豊かな気持ちにさせてくれるアンダンテであった。プレヴィンのゆったりした優雅な指揮ぶりが音の響きにも現れており、続く第二主題でもテインパニーに導かれるように弦楽器主体で厳かに進行し、アンダンテで目につくトランペットやテインパニーの姿が珍しく見えた。展開部で低弦とファゴットで繰り返し現れる旋律が深く響き極めて印象的であった。第三楽章は、明るく堂々とした感じの舞曲のメヌエットであり、その後半部はモーツアルトらしく明るく厳かに響きわたっていた。プレヴィンは大きくリズムを取りながら、楽しむように指揮を取っていた。トリオではややくすんだオーボエのソロが印象的であり、弦楽器がこれを引き継ぎ、再び木管が繰り返していく優雅なもので、メヌエットとの対比が鮮明な素晴らしい楽章であった。フィナーレは整然とした快活なプレストで、第一主題、第二主題と次々と新しい主題が出て目まぐるしく変化しながら一気に進む明るい楽章である。プレヴィンの指揮棒の一振り一振りで軽快に躍動するように進み、N響との息が合った疾走するモーツアルトの楽想が浮かび上がる。指揮者を中心にしてオーケストラ全体が一体となって躍動していく様は、映像と音楽が混然一体となって実に見応えがあった。



 プレヴィンの指揮するこの二つの協奏曲と交響曲が、会員アンケートの一位と二位に選ばれたことを少し考えてみたい。ベストテンではモーツアルトの曲はプレヴィンのこの2曲しか選ばれておらず、モーツアルトの演奏がそもそも少なかったため、この演奏がとりわけ印象深かったことが挙げられるかも知れない。しかし、このプレヴィンの二つの演奏は、実に心温まる穏やかな悠然とした演奏であり、誰しもが心惹かれる親しみやすさが滲み出ていたように思われる。アレグロからでもアンダンテからでも、また、変奏曲やメヌエットからでも、いろいろな側面からプレヴィンのもつ優しさと親しみやすさがはっきりと聞こえてくる。これが老境に入ったプレヴィンだから出来るごく自然な姿の飾り気のない素直なモーツアルトなのであろう。

 ピアニストとしてのプレヴィンは、レパートリーは限られているようであるが、 2曲のピアノ四重奏曲(1-3-2) 3曲のピアノ三重奏曲(7-7-1)などが既にこのホームページでアップロードされており、ソリストとしてよりもアンサンブルを得意としたピアニストであったが、このハ短調のピアノ協奏曲においても、木管楽器やオーケストラとのアンサンブルを重視した弾き方をしていた。終わりにプレヴィンと一体になって見事なオーケストラの華麗な響きを聴かせたN響の皆さんを讃えなければ片手落ちであろう。協奏曲においては独奏ピアノとの見事なアンサンブルを見せ、交響曲においてはプレヴィンの指示通りに堂々たる力強い響き見せていた。終わりにこの映像の写真は、ハイビジョン画像を静止させ新しいデジカメで撮影しており、ハイビジョンならではの木目の細かい写りとなっている。

(以上)(08/04/05)

        
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