8-3-3、06年モーツアルト・イヤーのミラノ・スカラ座の「ドン・ジョバンニ」K.527、06年10月、ミラノ・スカラ座、グスターボ・ドウダメル指揮、ペーター・ムスバッハ演出、

−見慣れない現代風の暗い舞台で違和感を覚えた場面があったが、それらを越える歌手陣の頑張りがあり、スカラ座の層の厚さを思い知らされたと同時に、それを引き出した新鋭指揮者ドウダメルの若々しい生き生きした指揮振りが注目された−

8-3-3、06年モーツアルト・イヤーのミラノ・スカラ座の「ドン・ジョバンニ」K.527、06年10月、ミラノ・スカラ座、グスターボ・ドウダメル指揮、ペーター・ムスバッハ演出、
(配役)ドン・ジョバンニ;カルロス・アルバレス、レポレロ;イルデブランド・ダルカンジェロ、ドンナ・アンナ;カルメラ・レミージョ、ドンナ・エルヴィーラ;モニカ・バチェッリ、ドン・オッターヴィオ;フランチェスコ・メーリ、ツエルリーナ;ヴェロニカ・カンジェミ、マゼット;アレックス・エスポージト、騎士長;アッテイラ・ジュンほか、
(07/12/15、クラシカジャパンの放送を、DーVHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)
 

 08年三月号の第三曲目は、モーツアルトイヤーの最新オペラで、ミラノのスカラ座から「ドン・ジョバンニ」K.527をお届けする。指揮者はベネズエラ出身の25歳の新鋭グスターボ・ドウダメル(Gustavo Dudamei 1981〜)がスカラ座での初デビューであり、また演出はオペラ界の風雲児とされるベルリン国立歌劇場芸術監督のペーター・ムスバッハ(Peter Mussbach)であった。このコンビがプレミエで大喝采と大ブーイングを浴びたとクラシカジャパンの案内書には書かれていた。レポレロのダルカンジェロとアリア集のツエルリーナのカンジェミはこのHPで既にお馴染みであったが、他のスタッフの歌と演技が初めてなので、どんな「ドン・ジョバンニ」になるか楽しみであった。一見したところでは、現代風の新しい演出ではあるがM22を見慣れたものには騎士長以外は違和感は余りなく、大ブーイングの意味が良く分からなかった。恐らく殆ど伝統的な演出しかなされないスカラ座では、ドウダメルの音楽がフレッシュ過ぎて聞こえ、見慣れない簡素な現代風の演出と、リブレットとは異なる騎士長との争いによる地獄落ちの場面などに驚いたからとしか思えなかった。このあたりを、今回はもう少し丁寧に見てみたいと考えていた。



 徹底した暗い舞台の中で拍手が聞こえ序曲が開始されたが、堂々として風格のある響きであった。画面では歌手の紹介が始まっており、途中から若々しい風貌の指揮者ドウダメルが写し出され、鋭い目でオーケストラ全体を見渡しながらきめの細かい手さばきの指揮ぶりであって、キビキビした早い弦楽器の動きと歯切れのよいオーケストラの響きで好感の持てる序曲であった。暗い画面の中でレポレロに照明のスポットが当たり、ぶつぶつ文句を言いながら見張り番をしているうちに、下着姿のドンナ・アンナと上半身が裸で胸毛が見えるドン・ジョバンニが激しく争いながら登場し、取っ組み合いの姿になった。そこへ騎士長が決闘だと言って登場したが、体格は大きいが坊主頭でメガネをかけた騎士長だったので、イメージがダウンした。 舞台は大きい壁があるだけの飾り気なしの簡素なもの、時代は背広姿の現代風で、場所は特定できない。壁の影からドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、倒れている騎士長の前で、オッターヴィオがドンナ・アンナに復讐を誓っていた。場面にはドン・ジョバンニとレポレロが登場していたが、ドンナ・アンナの召使いなどは一人も姿を見せず、何と騎士長の遺体をレポレロが片付けていたのは初めて見るイメージ違いのショッキングな舞台であった。「女の臭いがする」というドン・ジョバンニの言葉とともに、断髪の髪をした若若しいエルヴィーラが白いスクーターに乗って壁の裏から登場し、恨みの第三番のアリアを歌った。近づいてきたドン・ジョバンニに驚いてここぞと長い恨み言葉で攻撃したので逃げられてしまい、ここでレポレロの「カタログの歌」が始まる。アレグロの早口のアリアからアンダンテになって、ダルカンジェロのさえた歌い振りが目立って、会場は大拍手となった。



 自在に動く壁の陰から大勢の男女が祭りの歌を合唱しているうちに、ドン・ジョバンニに出合ったツエルリーナが狙われるが、マゼットが「抵抗のアリア」を歌って反抗したため、皆に連れ出されてしまう。二人になったドン・ジョバンニとツエルリーナが「手を取り合って」の見事な二重唱を美しく歌い合って、暗がりの中へ「アンデイアーム」と歌いながら行こうとする所へ、エルヴィーラが傘を持って現れ、「逃げなさい」とアリアを歌って二人を引き離そうと邪魔をした。ドン・ジョバンニが「運の悪い日だ」とぼやいている所へアンナとオッターヴィオに出合ってしまう。そこに再びエルヴィーラが来て二人に警告をする四重唱となるが、その別れ際にドン・ジョバンニがアンナに「アミーチ・アデイオ」と囁いたことから、ドンナ・アンナは自分を襲い父を殺した男は彼だと気が付く。その激しいレチタテイーボとアリアが素晴らしかったので大拍手となった。続いてオッターヴィオが第10番aの追加アリアを歌うが、声が悲壮感に溢れ感情を込めてゆっくり歌われたので素晴らしい出来。いつも扇子を持って登場する気になる存在であったが、個性的な美声のテノールと見た。素晴らしい拍手で客席が沸いた。
 続いて暗闇の中で歌われるドン・ジョバンニの「有頂天のアリア」が威勢よく歌われ、ツエルリーナが機嫌の悪いマゼットに対しコケットリーに歌う「ぶってよマゼット」も上出来で、二人の争いの中でフィナーレに突入した。



 フィナーレでは、三人の「黒いサングラスの人」によって冒頭に歌われる「正義の神よ、守りたまえ」が三人のそれぞれの声の持ち味がよく出て素晴らしい出来。三人にどうぞご自由にとの案内があった後、ドン・ジョバンニの格好の良い「自由万歳!」のひと劇があってから、舞台にオーケストラの団員がぞろぞろと楽器を持って登場して、素晴らしいメヌエットが始まる。踊りが賑やかになり次第に音楽が高調してくるうちに、ツエルリーナの「助けて!」の叫び声で皆が集まってきて大騒動。レポレロを犯人に仕立てようとするドン・ジョバンニに対して、オッターヴィオが凄い剣幕でそんな茶番で騙されないぞと詰め寄り、大混乱の中で第一幕の終幕となった。
 このオペラの始めの部分で、騎士長のイメージが合わなかったり、現代の新しいスクーターが出てきたり、暗すぎて良く分からなかったりして、私には好ましくない部分がいろいろあったが、進むに連れてドン・ジョバンニとレポレロがしっかりしており、他の歌手たちの歌唱力も個性的で優れているし、オーケストラによる生き生きして音楽面が充実しているのに気が付き、次第に集中して見つめている自分に気が付いた。





 第二幕はレポレロとドン・ジョバンニとの速いテンポで言い争う二重唱で始まるが、金貨4枚でレポレロは機嫌を直し、洋服まで交換してエルヴィーラの召使いを狙うことに協力してしまう。ドン・ジョバンニがエルヴィーラの信じ易い心を利用して、甘い歌を歌って泣き落としてしまう可笑しい三重唱の後に、マンドリンの伴奏でカンツオネッタを歌い出し、終わりには舞台の上に横になって歌う熱演振りを示していたが、そこへマゼット一行が乱入してきたので残念ながら中断されてしまった。暗闇の中で、マゼットがレポレロの格好をした怪しい男に殴り倒され、悲鳴をあげているところにツエルリーナが駆けつけ、第18番の「薬屋の歌」を歌って慰めるが、マゼットの不機嫌は直らず立ち去ってしまう。
 レポレロとエルヴィーラが出口を探しているところに、アンナとオッターヴィオと鉢合わせし、そこでレポレロがマゼットとツエルリーナに捕まって六重唱となり、エルヴィーラが「夫を許してください。」「許さない。」で正体をやっと現したレポレロ。驚く皆の前で変装を解き、平謝りのアリアを歌って詫びた後に、逃げ出してしまう。ここでオッターヴィオの第21番の美しいアリアが始まり、声がピタリで格好も良く素晴らしかったので大拍手。続いてエルヴィーラが第21番bのレチタテイーボとアリアを歌い、これも上出来で大拍手を浴びていた。
 場面が変わって夜の2時にドン・ジョバンニがレポレロと出合って、洋服を交換しレポレロをからかいながら高笑いしていた所に、背後の黒壁の陰から突然アダージョで「お前の笑いも今夜限りだ」という厳粛な声が聞こえてくる。驚く二人が振り向くと、騎士長の石像が現れ、レポレロが主人の命令で石像を食事に誘うと石像が頷いたのでビックリし、驚いたドン・ジョバンニが「話すことが出来れば返事して欲しい」と石像に頼むと「行こう」と返事をしてまたビックリ。二人は不気味になって逃げだしてしまい、食事の支度へと向かって一休み。そこへドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、結婚を遅らせて酷いと攻めるオッターヴィオに対し、アンナはレチタテイーボで「酷いなんて言わないで」と応え、ロンドに入ってラルゲットでは「不親切な女と思わないで」と歌い、コロラチューラが入るアレグレットでは「またいつの日か」と歌って、大拍手を浴びていた。



 威勢の良いオーケストラの前奏でフィナーレが始まるが、オーケストラの木管合奏団が舞台に登場して椅子に座って勢揃いして第一曲目の「コザ・コーラ」が始まる。ドン・ジョバンニは立ったまま大きな鳥の足の肉にかぶりついており、レポレロは前掛け姿であった。ドン・ジョバンニは第二曲目の「漁夫の利」でワインのマルツイミーノ酒をがぶ飲みしていた。第三曲目の「もう飛ぶまいぞ」に入って、レポレロの盗み食いを咎めていると、突然、エルヴィーラが入ってきて「生活を変えてください」とドン・ジョバンニにしつこく迫る。女万歳!・ワイン万歳と取り合わぬド・ジョバンニも、逃げ出したエルヴィーラの悲鳴に驚き、レポレロに調べさせる。「石像がドアをノックしている」との声とともに、序曲の冒頭の大和音が響き渡り、石像が登場してきた。石像は重大な話があると迫り、俺の招待に応ずるかどうか、今度はお前の番だ、回答せよと迫る。ドン・ジョバンニは、臆病ではない、恐ろしくない、行こうと返事をし、石像が約束の印に握手をしようと言ったときに、石像に持っていた剣で斬りつけていた。しかし、石像も剣で切り返し、ドン・ジョバンニの剣を振り払い、腕で首を締め上げて、苦しませ絶叫させて、大音響とともに消え去ってしまった。セリフは通常に流れていたが、赤い炎を暗示する照明の中で、剣で闘い合い、挙げ句の果てに取っ組み合う二人の新しい演出に驚いているうちに、ドン・ジョバンニの絶叫とともに地獄落ちは終わった。結果的に、十分に効果のある演出と思われた。
 明るい歌声とともに合唱が始まり、呆然と残されていたレポレロが他の5人に経過を説明し、それぞれがこれからの行き方を語り合っていた。合唱団もこれに加わって、全員が舞台の上で重なり合うように座り込んで大合唱の中で結びとなった。最後に若い指揮者ドウダメルが満足したような顔付きを見せたが、そこで自然に出たガッツポーズが笑顔とともに極めて印象的であった。





   この映像は最初に見たときの印象と、繰り返して見た後の印象とでは大いに違いがある映像であった。第一幕の終わりでも述べたが、第二幕でも最初には騎士長の姿がひ弱に見え迫力の無さを感じたし、剣で争う場面も不自然に感じ、リブレットと異なると冷ややかに見ていた。しかし、二度・三度と見返すうちに不自然なものに慣れて見過ごせるようになると、全体を支配している音楽の良さに改めて気が付くようになる。   鬚面で胸毛のドン・ジョバンニも、ドスの効いた声のレポレロも、お洒落で格好の良いオッターヴィオも歌が上手く優れていた。細めの声がよいドンナ・アンナも、若くてお洒落なドンナ・エルヴィーラも、田舎娘らしいコケテイッシュなエルヴィーラも、それぞれ個性的で良い歌を歌っていた。当初は騎士長一人が場違いな印象を受けていたが、暗闇に慣れメガネ姿も許せるようになると、最後の初めて見る地獄落ちも、こういう場面があっても良いと許せるようになってきた。オペラの国イタリアのトップのミラノ・スカラ座の底知れぬスタッフの層の厚さを感じさせる舞台であった。



 始めから終わりまで暗い画面の中の物語であったので、そのためいつもより写真が良く撮れていない。しかし、このオペラは夜の暗い話ばかりなので、照明を上手く使うことによって、場の設営や小道具などの説明用具が一切省略されていた。始めは舞台が非常に貧弱で説明不足に感じたが、慣れてしまい状況が把握できるようになると、余り違和感は感じなくなった。私はこのように至って鈍感なタイプであるが、しかし、自分の好みにセンシテイブな人であれば許容度に違いがあるので、そうはいかなくなるであろう。この舞台のプレミエの時に評価が大きく分かれたのは、恐らく以上のような好みの違いが表に出たものと思われる。

(以上)(08/03/22)


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