8-3-2、モーツアルト生誕250年祝賀コンサート・イン・北京、06年1月27日、北京紫禁城コンサートホール、 (曲目)「コシ・ファン・トッテ」序曲、交響曲第25番ト短調K.183、「フィガロ」及び「ドン・ジョバンニ」よりアリア2曲、ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491、

−コンサートの前半は堅苦しい雰囲気であったが、ラン・ランが登場してからは、会場が熱狂的な様子に変わり、聴衆に訴えるように弾く演奏振りに、3曲のアンコールが要求された、まさにラン・ランの一人舞台のコンサートであった−

8-3-2、モーツアルト生誕250年祝賀コンサート・イン・北京、06年1月27日、北京紫禁城コンサートホール、 (曲目)「コシ・ファン・トッテ」序曲、交響曲第25番ト短調K.183、「フィガロ」及び「ドン・ジョバンニ」よりアリア2曲、ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491、
(演奏者)ロン・ユー指揮チャイナ・フイルハーモニー管弦楽団、チェン・ユアン(Br)、ピアノ;ラン・ラン、
(08年01月15日、クラシカジャパンの放送を、DーVHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 クラシカジャパンでは、08年1月にモーツアルト生誕250周年を記念した2都市、ベルリンと北京での祝賀コンサート・ライブが二つ放送された。前回の2月号ではベルリンでのコンサートをご報告しているので、今回の第二曲目は、北京でのコンサートをご報告するものである。ロン・ユー(Long Yu)の指揮、チャイナフイルの演奏であったが、コンサートに女優のような司会者が現れて、曲の説明や演奏者を中国語と流暢な英語で紹介するなど珍しい風景が展開されていた。
 コンサートは「コシ・ファン・トウッテ」序曲で始まり、交響曲第25番ト短調、続いてチェン・ユアン(Chengye Yuan)というバリトンによりアリアが2曲歌われてから、本日のメインであるラン・ラン(Lang Lang)のピアノ協奏曲第24番ハ短調が演奏された。ラン・ランは中国の最大の人気ピアニストであり、協奏曲を見事に弾いていたが、それ以降にアンコールが3曲も続き、実力を見せつけるとともに、人気の高さを示していた。



 暗い画面であるが、第一曲の「コシ・ファン・トウッテ」序曲がロン・ユーの指揮のチャイナフイルハーモニーで始まるが、このHPでは中国内のコンサートは初出であり、全てが珍しい。この指揮者は1964年上海生まれの若き巨匠と紹介されており、映像では見覚えのある方であった。オーケストラは大編成であり、正面右側にコントラバスが5台並んでいた。序曲は激しい和音のリズムと輝くようなオーボエのソロで開始されるが、暗い画面を良く見ると弦楽器には若い女性が多い楽団と見えた。序曲は木管楽器の明るい響きで整然と進み、最初の手馴らし曲としてはまずまずの調子であったが、録音のせいか全体が重く、もう少し弾むような軽やかさが欲しかった。聴衆の拍手も不揃いで盛り上がりがなく、舞台との距離が離れているように感じられた。



 第二曲目は、交響曲第25番ト短調K.183(173dB)であり、映画「アマデウス」の始まりをふと思い浮かべるが、ロン・ユーの指揮ぶりは意外なほどに荒々しさはなくゆっくりとしたテンポで開始され、オーボエのソロも穏やかに聞こえる。続く弦楽器のトレモロと鋭い音形や4本のホルンのファンファーレ風の推移主題も激しさはなく、むしろじっくりと重々しく進行させていた。おどけた感じの短い第二主題も優しく聞こえ、弦が良く揃っており無難な感じであるが何か物足りなさを感じた。短いながらも激しい筈の展開部も荒々しさはなく再現部に移行していたが、ここでは繰り返しは省略され何となく盛り上がりを欠いたまま第一楽章が終わっていた。



 この楽章では、弦楽器とファゴットとの対話によってどもるように穏やかに進行する哀愁を帯びた主題に始まるアンダンテで始まるが、続けて第一ヴァイオリンが軽快にスタッカートを刻む軽やかな主題が現れて、三部形式の第一部を構成していた。ロン・ユーはここでもゆっくりしたテンポを取っており、弦楽器が良く揃ってとても美しかった。続く第三楽章では、三拍子の分厚い弦楽器の合奏で進行する力強いフォルテとピアノの対比が鋭いメヌエットで楽章であるが、ロン・ユーは余り強弱の変化をつけない温和しい穏やかな指揮ぶりであった。中間部の管楽器だけによるトリオではオーボエを中心に明るく響き四つのホルンの合奏が聴きものであったが、映像では二つのホルンしか写されず期待が損なわれた。フィナーレは軽快なテンポで始まる威勢のよいアレグロの楽章であるが、シンコペーションの動機が現れるなど第一楽章とよく似ており、続く第二主題も調子のよいアレグロで軽快に一気に進行するフィナーレであった。ロン・ユーはテンポはよいのであるが、オーケストラの弾むような弾力のある勢いが不足気味で全体が重いトーンの演奏であり、若さ溢れる躍動感のあるト短調交響曲のイメージには残念ながら結びつかなかった。



 第三曲目は「フィガロの結婚」から第三幕のアルマヴィーヴァ伯爵のアリアであり、チェン・ユアンというバリトンが出てきて、スザンナの捨て台詞を聞いて「勝っただと」と怒って歌い出すレチタテーボから始まった。このオーケストラ伴奏付きの叙唱とアリアは、ザルツブルグの06年生誕記念演奏会でもトーマス・ハンプソンにより歌われていた。ユアンはレチタテーボの後にこの重々しいアリアを朗々と歌っておりまずまずの出来であったが、ハンプソンに較べるとやや線が細く、イメージの点でも損をしていた。続く第二曲目は「ドン・ジョバンニ」より第一幕の第11番のアリアで、通称「シャンペンの歌」として知られているプレストの早いアリアであった。ユアンはここでも元気よく早口で歌っていたが、歌のふざけた内容から見ると表情が硬く、残念ながらただ歌っているという印象しか受けなかった。終わってから大変な拍手で迎えられ、花束贈呈なども行われていた。



 プログラムの第四曲目は、ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491 であり、ピアノの準備が済むと司会者が出てきて、モーツアルトのピアノ協奏曲のうち最も情感に溢れた曲と解説し、次いでラン・ランを現代の優秀なピアニストの一人として紹介していた。
 実はラン・ランのこのハ短調協奏曲は05年のモーツアルト週間で一度聴いたことがあった。ノリントンの指揮でカメラータ・ザルツブルグが祝祭劇場で演奏したもので、超満員のお客さんを彼一流の派手なヴィルテイオーゾ的なピアノで酔わせた演奏であった。今回はじっくり映像で見て、彼のピアノの不思議な魅力を探ってみようと楽しみにしていた。
 オーケストラの厳粛な暗いユニゾンの響きで開始されるこの曲は、いろいろな動機を持った長い第一主題を持っており、この主題が反復されて部分動機が展開されて第一部を終える。この曲の独奏ピアノの登場はオペラのアリアのように燦然としており、ラン・ランのピアノは、一音一音際立たせるようにゆっくりと現れて強烈に印象づけた後に、第一主題の動機を繰り返しながら疾走する。一休みした後にゆっくりしたペースで独奏ピアノにより第二主題が登場するが、この主題はピアノによる叙情詩で実に印象深く丁寧に弾かれて、繰り返すオーボエやフルートが見事な響きを見せていた。そして続いてオーボエが先導する新しい主題が現れてピアノがこれを模倣し、第一主題による動機によりピアノが技巧的なパッセージを続け、ラン・ランが体を揺すりながら見事に弾きまくっていた。ピアノのアインガングの主題による展開部でもピアノの技巧的なパッセージが続くが、ラン・ランは強弱・緩急を明確にしたメリハリのあるピアノを聞かせていた。カデンツアでも自在に見事な技巧を見せて十分にピアニスト・ラン・ランの存在感を見せつけるものであった。



 ラン・ランのピアノで夢を見るように美しく始まる第二楽章は、優美な旋律を木管が繰り返し、続いてピアノが存在感を示しながら美しいアリアを歌うラルゲットであったが、何とこれがロンド主題。ラン・ランはピアノを大きく響かせここぞとばかりウットリと歌わせて表情豊かに楽しむように弾いていた。続いてオーボエとファゴットが対話するように歌う第一のエピソードが現れ、ピアノと弦とが繰り返し、木管群と対話するように進行した後、再びロンド主題がピアノで現れる。第二のエピソードもクラリネットによる木管群が提示し、ピアノと弦楽合奏が繰り返し変奏していくパターンであったが、最後に現れたロンド主題では、ラン・ランは装飾音符をつけたり、変奏風に崩して弾いたりして、大袈裟に聴衆に訴えていたのが気になった。
 フィナーレはアレグレットの主題による八つの変奏曲であり、オーケストラによって主題が示された後に、速いテンポのピアノが第一の変奏を始める。この変奏曲ではピアノとオーケストラと木管群が交互に変奏をするものであるが、独奏ピアノにはピアノのいろいろな技法が工夫されて配置されており、ラン・ランの腕の見せ所となっていた。第一変奏の素速いパッセージ、第三変奏の付点音符のリズムによるおどけたしかし力強い変奏、第五変奏の独奏ピアノのポリフォニックな技法による変奏などが楽しめ、第七変奏の後にはカデンツアまであって、ラン・ランは自由にマイペースで弾きまくっていた。彼の指の動きには確かに天才的なものがあり、鍵盤を見なくても自由に正確に弾ける独自なものを持っていると思わせた。



 演奏が終わると大変な喚声とともに拍手が湧き起こり、花束が贈呈されても鳴りやまず、拍手は足踏みとともに次第に手拍子が揃うようになりアンコールを求めて騒然となっていた。ラン・ランはピアノソナタ第10番K.330の第三楽章をアンコールとして弾き始めた。この演奏で、彼のピアノの音がクリアで、強弱のメリハリの効いた粒だちのよい音を意識しており、彼は思いきりよく弾くので、聴衆には強烈な印象を与える演奏になるのであろうと思われた。演奏が終わってもアンコールを求める拍手が続き、ラン・ランはショパンのワルツ第二番作品34の1と告げると聴衆は大喜び。これが思わず踊り出すような大袈裟な素振りで弾かれたまさに「華麗なる大円舞曲」であって、ピアノの強弱の変化の付け方が実に上手であり、大衆にアピールする術を生まれながらに備えているピアニストであると感じた。この曲が終わってもまだ会場は騒然としており、ラン・ランは「ザ・グッド・ライフ(中国伝承曲)」の曲名を告げて、もの凄い勢いでこの曲を弾き出した。初めて聴く速い曲であったが、ラン・ランには子供の頃から弾いている目をつぶっても弾けるお国の曲と見えた。
 最後に出てきた司会者の言葉では、このコンサートはモーツアルト生誕記念の24時間コンサートの一部のようであり、「引き続きモーツアルトをお楽しみ下さい」と挨拶をしていた。このコンサートの始めの頃は場内は堅苦しいコンサートであったが、ラン・ランが出てきてからは雰囲気ががらりと変わり、聴衆からは大スターに憧れるような熱烈な眼差しとどよめきを感じさせる熱気がみられ、最後のアンコール風景ではロックやジャズのスターにアンコールを強請するような熱狂ぶりであった。

(以上)(08/03/12)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ




名称未設定