8-2-3、06年モーツアルト・イヤーのミラノ・スカラ座の「フィガロの結婚」K.492、06年2月、ミラノ・スカラ座、ジェラール・コルステン指揮、ジョルジュ・ストレーレル演出、

−スカラ座の「フィガロ」は初めてであったが、名演出家ストレーレルの25年前の演出を用いており、リブレットに忠実な伝統的な美しい舞台が素晴らしく、歌唱・容姿・演技の三拍子揃ったダムロウとダルカンジェロが見ものであった。主役以外もスタッフが優れ、さすが舞台経験の多いスカラ座のスタッフだと感心させられた−

8-2-3、06年モーツアルト・イヤーのミラノスカラ座の「フィガロの結婚」K.492、06年2月、ミラノスカラ座、ジェラール・コルステン指揮、ストレーレル演出、
(配役)フィガロ;イルデブラント・ダルカンジェロ、スザンナ;デイアナ・ダムロウ、伯爵;ピエトロ・スパニョーリ、伯爵夫人;マルチェラ・オルサフテイ・タラマンカ、ケルビーノ;モニカ・バチェッリ、ほか
(07/12/08、クラシカジャパンの放送を、DーVHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)
 

 2月号の第三曲目はモーツアルトイヤーの最新オペラで、ミラノのスカラ座から「フィガロの結婚」をお届けする。クラシカジャパンでは、有り難いことにミラノスカラ座の06年生誕250年記念オペラ公演として、07年12月8日(土)に「フィガロの結婚」K.492および12月15日(土)に「ドン・ジョバンニ」K.527の放送を行った。前者のダルカンジェロ(フィガロ)とダムロウ(スザンナ)のコンビは必見であり、また、後者でもダルカンジェロがレポレロを歌っているが、指揮者は初めての人たちである。「ドン・ジョバンニ」は3月号でお届けする予定である。スカラ座では、ストレーレルの伝統的な演出を試みており、ザルツブルグ音楽祭のM22を見た目には新規さはないが、スカラ座の落ち着いた声やアンサンブルを楽しむオペラ作りが期待できるものである。考えてみると、ムーテイのダ・ポンテ三部作のCDをもっていたが、これはウイーンフイルを振ったウイーン国立歌劇場の録音であり、スカラ座のフィガロの映像は、今回が初めてのようである。



 指揮者のジェラール・コルステンが入場し序曲が軽快に開始された。画面は非常に暗いがオーケストラは弦も管も良く鳴っており、浮き浮きした気分で序曲を聴きながら開幕を待つことが出来た。横開きの幕が開いて第一幕の開始。大きな椅子が中央にある舞台で、ダムロウのスザンナが中央の椅子に座り、フィガロが壁の寸法を測りながら二重唱が始まる。二人の衣裳は時代風で、二人の声も格好もマスクも良く、仲の良い第一曲の二重唱が終わると、続けてデイン・デインの二重唱となり、スザンナがイヤよと言いだし、伯爵の企みが語られる。残されたフィガロは興奮して、チェロの伴奏付きのレチタテイーボの後に、激しいピッチカートに乗って「もし踊りを踊るなら」と歌い出す。ダルカンジェロのフィガロは独特の奥行きのある太い声で朗々と歌って拍手を浴びていた。



 若作りのバルトロとお似合いのマルチェリーナが登場し、バルトロが堂々と仇討ちのアリアを歌う。スザンナのババア発言でうるさいマルチェリーナを撃退したところに、男の子のスタイルがよく似合う可愛い帽子のケルビーノが登場し、テンポ良く明るく早口のアリアを歌い大きな拍手を浴びていた。そこへ伯爵が現れたのでさあ大変。伯爵がスザンナを口説いているとバジリオが登場し、ケルビーノがうろついているとスザンナを責め、伯爵夫人とのうわさ話をするので伯爵が怒って姿を現し、面白可笑しい三重唱となる。そして隠れていたケルビーノが見つかって大騒ぎ。バジリオに「コシ・ファン・トウッテ(女は皆、こうしたもの)」と思わず言わせた実に愉快な場面が続き、軽快に筋書き通りに話が進んだ。
 フィガロが目論んだ伯爵の初夜権廃止を讃える村人たちの合唱が二回繰り返された後、伯爵からケルビーノが連隊の士官に任命され、フィガロから「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」と少し手荒なアリアの祝福を受けた。ダルカンジェロはマーチのリズムでトランペットの響きと共に堂々と歌い、終わりにはカデンツアのように高らかに歌う部分もあった。





 第二幕は伯爵夫人の部屋で始まり、夫の浮気を嘆く夫人の「愛の神よ」と祈る貞淑なカヴァテイーナが歌われたが、歌も容姿も見事な夫人役であった。続いてケルビーノがスザンナのギター伴奏で「恋とはどんなものかしら」とカンツオーネを歌うが、とても声が良くドンピシャリの出来だったので大きな拍手を受けていた。引き続きスザンナの歌うケルビーノの着せ替えのアリアで伯爵夫人も楽しんでいたところへ伯爵の大声が聞こえてびっくり仰天。伯爵と夫人との口論の二重唱に始まり、スザンナが加わって三重唱になり、ケルビーノが窓から飛び下りるスザンナとの「早く。早く」の二重唱も面白く、第二幕のフィナーレに入っては面白い重唱が次から次へと連続し、複雑なストーリーに戸惑うばかりであった。



 始めに伯爵と夫人の押し問答の二重唱に始まり、「シニョーレ」と部屋から出てきたスザンナが加わった女二人が伯爵を平謝りさせる三重唱が続く。そこへフィガロが登場し伯爵に偽手紙の件でフィガロが攻められる四重唱となり、そこへベランダから人が飛び下りたとアントニオが飛び込んできて、おかしな五重唱となった。最後にマルチェリーナがバルトロ、バジリオとともにフィガロと結婚か裁判かだと伯爵に訴える七重唱となり、大いに盛り上がって長い長い重唱劇が幕を閉じた。登場した八人が個性的であり、役どころを得た歌のアンサンブルが見事で、さすがスカラ座と唸らせる見事な進行劇であった。



 第三幕は、伯爵の部屋にスザンナが伯爵夫人の気付け薬を取りに現れ、伯爵との二重唱で始まる。スザンナを口説こうとする伯爵に対し、スザンナの気を持たせる曖昧な返事に伯爵は苛立つが、スザンナの甘え声と仕草が絶妙で伯爵は騙される。別れ際にフィガロに訴訟は勝ちだと囁いた声が伯爵に悟られて、伯爵は第17番の大怒りの復讐のアリアを歌い出すが、これが見事に歌われて大きな拍手があった。一方、裁判が終わり判決が出たが、フィガロが自分は高貴な家柄の身分で親の承認がいると異議を申し立て、右腕に絵文字の刻印があると言い出したことからマルチェリーナの息子であることが分かり大騒ぎ、バルトロがフィガロの父親であることも分かる実に珍妙な六重唱となって大笑いで、一件落着となった。



 場面は変わって伯爵夫人が悩みながら昔を懐かしむ第19番の美しいアリアを歌い出し、後半のアレグロではスザンナと衣裳を替えて伯爵を懲らしめようとその決意を歌って大歓声を浴びていた。夫人は続く「手紙の二重奏」でスザンナに手紙を書き取らせるが、これが同じモチーブを二人のソプラノが繰り返す魅力溢れる二重唱となってその見事な歌いぶりに満場を沸かせていた。結婚式を祝うための村の娘たちによる花束の贈呈の合唱があって、行進曲とともに第三幕のフィナーレが始まって二組の結婚式の場面となり、娘たちの祝福の二重唱や踊りの音楽が続いていたが、花嫁のスザンナから伯爵に手紙が手渡され伯爵を喜ばせて幕となった。



 第四幕は、悲しげなバルバリーナの第23番のカバテイーナで始まるが、この舞台では省略されることが多い第24番のマルチェリーナのアリアと第25番のバジリオのアリアが歌われており、続くフィガロとスザンナのアリアを含めると、夜の薄暗い庭園の場面で5つのアリアが学芸会のように連続して歌われていた。久し振りで聴くマルチェリーナのアリアは、「牡ヤギと牝ヤギはいつも仲良し」という楽しいアリアであり、最後はアレグロで明るく結ばれていた。また、バジリオのアリアは、「ロバの皮」の面白い教訓的なアリアで、アンダンテで始まり、中間部はメヌエットのテンポで歌われ、アレグロで終結する気難しいアリアであった。
 第26番のフィガロのアリアは、スザンナの裏切りを知って恨んで歌う複雑な気持ちを歌うアリアで、ダルカンジェロが堂々と男らしく威勢の良いトーンで歌っていた。また第27番のスザンナのアリアは、伯爵夫人になりすまして「とうとうその時が来た」と歌うレチタテイーボに続いてオーボエのオブリガートと静かなピッチカートに乗って歌う美しいアリアで、ダムロウがこの時とばかり高い声を張り上げて歌い大拍手を浴びていた。



 フィナーレに入って暗がりの庭園内でドタバタ劇が始まる。伯爵夫人扮するスザンナをケルビーノが見つけてからかい始め二重唱となるが、それを伯爵が見つけケルビーノに平手打ちするが、隠れていたフィガロにそれが当たって大笑い。伯爵は夫人が演ずるスザンナを捉まえ、有頂天になって口説きながら指輪も渡してしまう。フィガロは暗闇で新妻の浮気をいらいらしながら耐えていたが、舞台はきめ細かく進行していた。しかし、フィガロがスザンナ扮する伯爵夫人を見つけ、声でスザンナであると分かり、騙された振りをして伯爵夫人を口説き始めたので、見事に平手打ちを喰らい二人はそこでやっと仲直り。そして、暗がりの伯爵の前で、二人はラブシーンを演じてしまう。それを見た伯爵が夫人の不倫を暴くために大声で皆を呼び寄せてしまう。そして「お許し下さい」と謝る二人に対し、伯爵は皆の前で「絶対に許さない」と叫んでしまう。そこへ伯爵夫人扮するスザンナが現れ、スザンナ扮する伯爵夫人とともに衣裳を脱ぐと初めて、自分の間違いであることに気が付いた。「奥方よ、赦しておくれ」の伯爵の平謝りの姿を見て、伯爵夫人も伯爵の顔を立て、全員めでたしのハッピーエンドとなったが、舞台では暗闇の中で全員の動きを良く追っており、見事に映像に捉えられていた。



 06年のこのスカラ座の「フィガロの結婚」は、イタリアの名演出家故ジョルジュ・ストレーレルの演出を用いており、この演出のプレミエは何と1981年であるという。25年経っても色褪せないリブレットに忠実な美しい舞台と、歌唱・容姿・演技の三拍子揃ったダムロウのスザンナとダルカンジェロのフィガロが見ものの舞台であった。伯爵と夫人も堂々として立派であり、ケルビーノも歌も姿も十分に魅力的であって、これらの主役の他にもバルトロ・マルチェリーナ・バジリオ・バルバリーナなども揃って活躍して見事なアンサンブルを見せており、さすが舞台経験の多いスカラ座のスタッフだと感心をした。また、指揮者コルステンは、このHP初出であったが、中庸を得た安心できる指揮ぶりであり、アリアの省略のない忠実な演奏と歌手を伸びやかに歌わせるテンポの良さなどが、私には大変好ましかった。
 最近の舞台上が簡略化された演出では、余りリブレットに忠実な動きが期待できないが、さすがこの演出では複雑な第4幕のフィナーレなどを実に丁寧に演じており、私はこうしたきめの細かな配慮の行き届いた舞台が大好きであり、安心して舞台に浸ることが出来た。
 イタリアでは、ミラノの他にローマやヴェネチア・ナポリなどの歌劇場が特に有名であり、さすがオペラについては底が深い国だといつも感心している。

(以上)(08/02/22)


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