8-2-2、モーツアルト生誕250年祝賀コンサート・イン・ベルリン、06年1月27日、ベルリン国立歌劇場、(曲目)ヴァイオリン協奏曲(第五番)イ長調「トルコ風」K.219、「フィガロ」、「魔笛」などよりアリア4曲、ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488、交響曲第40番ト短調K.550、ほか、

−指揮とピアノのバレンボイムの代役として登場した若きアシスタントのサレムクールは、素晴らしい力量を発揮して満員のベルリン歌劇場を沸かせ大変な歓迎を受けた。見事な楽壇デビュー・コンサートであり、これからが多いに楽しみな存在である−

8-2-2、モーツアルト生誕250年祝賀コンサート・イン・ベルリン、06年1月27日、ベルリン国立歌劇場、(曲目)ヴァイオリン協奏曲(第五番)イ長調「トルコ風」K.219、「フィガロ」、「魔笛」などよりアリア4曲、ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488、交響曲第40番ト短調K.550、ほか、(演奏者)ニコライ・ツナイダー(V)、シルヴィア・シュヴァルツ(S)、トーマス・クワストフ(Br)、ジュリアン・サレムクール指揮とピアノ、
(08年01月16日、クラシカジャパンの放送を、DーVHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 08年2月号の第二曲目は、クラシカジャパンにおいて08年1月16日に、モーツアルト生誕250周年を記念した2都市での祝賀コンサートのライブが二つ放送されたので、早速、アップするものである。 第一はベルリン歌劇場管弦楽団によるコンサートで、バレンボイムが指揮振りをする予定であったが、開演30分前に倒れたため、その代役のサレムクールの指揮で、ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調、自らの弾き振りでピアノ協奏曲第23番イ長調、交響曲第40番ト短調などが演奏された。第二は北京での記念祝賀コンサートであり、ラン・ランのピアノとロン・ユーの指揮、チャイナフイルの協演で、交響曲第25番ト短調、ピアノ協奏曲第24番ハ短調、などが演奏された。これは3月号でお届けする予定である。これでウイーン、ザルツブルグ、プラーハ、ベルリン、北京など5都市の1月27日の記念コンサートが揃ったことになる。肝心の東京がないのが残念である。
 ベルリンの祝賀コンサートは標記の通り大変な盛り沢山の曲目が並び、ピアノとヴァイオリンの協奏曲、ソプラノとバリトンのアリアが4曲、序曲と交響曲が並ぶモーツアルト・ガラに相応しいサービス満点の内容であった。バレンボイムがどういう病気の状態であったのか一切知らされていないが、代役を務めたのが彼のアシスタントのジュリアン・サレムクールであり、ピアノの弾き振りを含めての代役であるから、有名なバーンスタインのワルターの代役以上のものであろう。



   コンサートの第一曲目は、最後のオペラ「テイト帝の慈悲」K.621序曲であった。祝典オペラに相応しく二管編成の堂々たる序曲であるが、三本のコントラバスを底辺とした中規模な編成のオーケストラを、指揮者サレムクールはゆったりとしたテンポをとり、右手に指揮棒を持ち両手を細かく動かして体全体で若々しく指揮をしていた。その姿から気になる頭の薄さは、若禿げであろうと想像した。時折現われる2本のフルート、オーボエ、クラリネットなどが競うように協演していた。この序曲をコンサートで聴くことは珍しいが、オーケストラは良く鳴り、最初の小手調べの曲としてはまずは無難の出来であった。舞台を良く見ると、舞台後部にまで客席を設けたすし詰めのような満員の状態で演奏されており、このお客さんが代役指揮者に満足できるかどうか、大変なコンサートだと思った。



 第二曲目はヴァイオリン協奏曲(第五番)イ長調「トルコ風」K.219 であり、ヴァイオリニストのニコライ・ツナイダーはこのHPでは初めての方であった。見るからに大柄な若い優しそうな人で、手にしたヴァイオリンが小さく見えていた。曲はキビキビしたサレムクールのテンポで弦楽器により第一主題が始められ、続いて第一ヴァイオリンにより第二主題が軽やかに進められて提示部をフェルマータで終える。ここでツナイダーの独奏ヴァイオリンがアダージョで美しいアインガングを弾きながら堂々と登場してから、生き生きとした第一主題を軽快に弾きだした。見かけと違い細い優しそうな音色で始まり、アレグロへの素速い切り替えが素晴らしい効果を上げていた。ソロによる第二主題の提示も甘く軽やかで続くオーボエとの重奏が美しく、どんどんと軽快に発展をしていく。独奏ヴァイオリンだけが目立つ展開部を経て再現部に突入していたが、カデンツアは長い技巧的なものを弾いていた。



 ソリストが汗を拭っているうちに、第二楽章の甘い第一主題がオーケストラでゆっくりと始まり、直ぐに細やかな第二主題も提示されひとしきり演奏されてから、独奏ヴァイオリンがおもむろに第一主題を弾き始める。しかし、早くも変奏を加えながら弾いており、歌うような第二主題も独奏ヴァイオリンのペースでどんどん進行する。端正なマスクのソリストは、この楽章の甘い主題をきめ細かくウットリとした表情で弾いており、その思いが伝わってくるようであった。この楽章の長いカデンツアもヴァイオリンの甘い音色を際立たせるものであった。
ロンドーと書かれたフィナーレは、テンポ・デイ・メヌエットと指示されてメヌエットの三拍子のリズムで独奏ヴァイオリンにより始まり、オーケストラが繰り返していたが、新しい明るい主題が次々にソリストにより提示され、A-B-A-C-Aとロンド形式で進んでいた。ところが途中から突如としてアレグロに変わりトウッテイに続いて独奏ヴァイオリンが急速なメロデイを弾き始め、繰り返されて曲調が一転してからトルコ風のリズムを持った活発なスタッカートの主題が現れ、繰り返されて聴くものを驚かす。再びアレグロに戻ってから再度トルコ風の主題が現れて一層印象を強めていた。このフィナーレはソリストのペースで進み、最後のメヌエット主題をソリストが弾いて穏やかに曲は終了したが、このソリストは大柄で堂々としている割りには、きめの細かい美しい音色を持ったヴァイオリニストであると感じた。大変な拍手で迎えられ、指揮者と共に二度舞台に呼び戻されて、第二曲目が終了した。



 第三曲目は、「フィガロの結婚」第四幕の第28曲スザンナのレチタテイーボとアリア「とうとう嬉しいときが来た−恋人よ早くここへ」であり、真っ白なドレスを着たソプラノのシルヴィア・シュヴァルツが指揮者と共に登場した。満面の笑みを浮かべたシュヴァルツが挨拶をし、早速オーケストラ伴奏でご存じの馴染みやすいレチタテイーボが始まり、やがてピッチカートの伴奏に乗ってアリアを歌い出す。オーボエのオブリガートが実に美しく、ソリストも落ち着いたテンポで笑みを浮かべながら朗々と歌い切った。オペラの中ではこのアリアはふざけた演技の中で歌われるが、演奏会形式で単独でこのアリアが歌われると、「恋人を真面目に讃歌して早く会いたい」と言う祈りにも似たアリアに聞こえて、モーツアルトの多面性を示す材料であると面白く感じた。ただ1曲だけなのに、舞台は再び大変な拍手に巻き込まれ、オーケストラの楽員からも拍手があって大変な賑わいであった。ここでプログラムの前半が終了した。



 第四曲目は、サレムクールのの弾き振りでピアノ協奏曲第23番イ長調K.488であった。客席に背を向けるようにして中央にピアノが置かれ、指揮者兼ソリストが登場した。サレムクールはピアノの前に立ち、第一ヴァイオリンによるお馴染みの美しい第一主題を静かに誘い出しフルートやクラリネットで反復させるが、さすが慎重に譜面を見ながらの指揮ぶりであった。続く第二主題も同様に進み、ひとしきりオーケストラが続いてから独奏ピアノの登場となったが、サレムクールは、何事もなかったように手慣れた感じでピアノを弾き出した。さすがにスコアを前にしていたが、独奏ピアノは多少自由な形で反復を重ね、続くフルートなどとの応答も見事であった。独奏ピアノが活躍し技巧的なパッセージが続く展開部も無難にこなし、再現部ではすっかり落ち着きを見せて立派な代役振りを見せていた。カデンツアは、いつもの譜面通りのものでこれもまずまずの弾きぶりであった。



 第二楽章はどもるように聞こえるシチリアーノのリズムで独奏ピアノが開始されたが、これはもはやサレムクールのペースであってゆったりと穏やかに進み、続くクラリネットで始まりフルートが重なる豊かな主題も独奏ピアノに渡されて実に美しく響く。後半の木管とピアノとの応答も、ごく自然に装飾音や変奏が加えられて、立派なピアニスト振りを見せていた。フィナーレはロンド形式でいきなり独奏ピアノがロンド主題を弾きだし第一ヴァイオリンで反復されるが、独奏ピアノが次から次へと新しい主題を弾き始める変則的なロンド形式のよう。サレムクールはピアノを弾いたり指揮をしたり忙しいが、すっかり自分のペースで進め、素晴らしい盛り上がりをみせてフィナーレを完成させた。弾き終えて笑みを浮かべながら挨拶する姿は堂々としており、観衆は大騒ぎでこの新人ピアニストの突然の出現を讃えていた。途中から足踏みの合奏も始まるなど場内は大変な興奮状態でこの指揮者兼ピアニストを褒め讃えていた。



 第五曲目はバリトンのトーマス・クワストフのアリアで、バス・アリアK.612「この美しい手に」、「魔笛」から第20曲パパゲーノのアリア「恋人か女房が欲しい」の他、シュヴァルツと一緒に「パ、パ、パ」のアリアが歌われた。クワストフはこのHP初出であるが、アーノンクール・チューリッヒOPの「フィデリオ(2004)」で大臣のドン・フェルナンド役を演じていたので良く記憶している。サリドマイドの病魔に屈せず、踏み台の上で朗々と歌う姿には、圧倒されて思わず釘付けにされる。この日はまず、コントラバスのオブリガートを持つバス・アリアで始まり、ユーモアを伴うコントラバスのやや過激な前奏に続いて、アンダンテで始まる「この美しい手に」とアレグロで結ばれる明るいアリアが歌われ、その堂々たる歌いっぷりに満場から大拍手を浴びていた。続くパパゲーノのアリアは、指揮者サレムクールのチェレスタのおどけた伴奏で、上機嫌の表情で三番まで歌われ、皆が楽しめる愉快な曲のせいもあって大変な拍手を浴びていた。彼はこのベルリンのオペラ座では、大変な人気者であると見えた。一度舞台を去ってから、アンコールの形でシュヴァルツと「パ、パ、パ、」のアリアが歌われたが、これも大人気の二重唱であり二人の呼吸が見事に合った楽しい出来栄えであったので、満場を沸かす大変な拍手を呼び、指揮者、オーケストラ、観客が一体となった素晴らしいコンサート劇が繰り返されていた。



 最後の第六曲目は、交響曲第40番ト短調K.550であった。 指揮台に上がると同時に速いテンポで弦楽器が動き出し、いわゆるため息の動機をもつ第一主題が始まり、どんどんと進行する。一端休止してから始まる第二主題も同じように速いテンポで進み、余り情緒的にならないあっさりした演奏であった。良く見るとコントラバスが4台となり、クラリネットが活躍しているので、第二版による演奏であった。この勢いは冒頭の動機の対位法的な繰り返しとなる展開部においても変わらずに一気呵成に進んでいた。指揮者として初めて登場するサレムクールの若さをアピールするテンポの速い新鮮な第一楽章であった。
 第二楽章もやや早めのテンポで始まるが、弦の重なりがうねるように進むアンダンテであった。やがて第二主題があらわれて、フルート、オーボエ、ファゴットなどが明るく響き、美しさを感じさせる楽章となった。続く第三楽章では弦楽器による重苦しい主題がカノン風に繰り返される風変わりなメヌエットであり、ここでも早めに力強く進行していた。トリオでの弦と木管との対話が美しく、オーボエ、フルート、ファゴットにより明るく歌われ最後にホルンが重々しく仕上げをしていた。フィナーレでは、速いテンポの弦の合奏で軽快に始まり、素晴らしいスピード感で疾走していた。伸びやかに弦で提示される第二主題も急速なテンポで進行し、颯爽とした新鮮味のあるフィナーレで終息した。
 サレムクールの指揮振りは、この曲のメランコリックな曲調などを余り意識せず、全体を早いトーンでごく自然に疾走した新人らしい明るいト短調シンフォニーであった。



 最後の交響曲が速いテンポで終了しその余韻が残る中で、賑やかなガラ・コンサートが終了したが、大変な拍手で観衆に迎えられ、出演者全員が舞台に再登場し、花輪の贈呈などがあり、名残が尽きないコンサートであった。開演前は代役による演奏で心配なコンサートであったが、終わってみれば新進指揮者兼ピアニストのサレムクールの登場を祝福するコンサートに様変わりしていた。
 私はザルツブルグの06年のモーツアルト週間(末尾の1月30日のコンサート(9)参照)で、バレンボイムがウイーンフイルと弾き振りの予定のコンサートで、バレンボイムの急病による代役のコンサートを経験している。その時は指揮者はホーネックに変わり、3台の協奏曲と22番の協奏曲の独奏ピアニストには、A.ロンクイッシュという若手ピアニストが代役となっていた。今回のように、二役の一人による代役は、極めて珍しいものと思われ、サレムクールの力量には敬意を表したいと思う。

(以上)(08/02/18)


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