平成20年9月分

(レーザー・デイスク・ストックからのオペラ報告)
8-10-3、ネヴィル・マリナー指揮アカデミー管弦楽団のオペラ「羊飼いの王様」K.208、ジョン・コックス演出、1989年1月、ザルツブルグ州立劇場、M週間におけるライブ、

−このオペラ初演時の宮廷での舞台を模したスタイルで、簡素な舞台の割りには衣裳がとても凝っていて色彩豊か。マリナーの指揮も生き生きとしており、何よりも5人の主役が揃っていたため、充分に満足できる劇場用の祝典セレナータであった。−

(レーザー・デイスク・ストックからのオペラ報告)
8-10-3、ネヴィル・マリナー指揮アカデミー管弦楽団のオペラ「羊飼いの王様」K.208、ジョン・コックス演出、1991年1月、ザルツブルグ州立劇場、M週間におけるライブ、
(配役)アミンタ;アンジェラ・マリア・ブラーシ、エリーザ;シルヴィア・マクネアー、タミーリ;アイリス・ヴァーミリオン、大王;ジェリー・ハドリー、アジェール;クラエス・H・アーンシェ、
(フィリップスPHLP-7801(070 329-1)、レーザー・デイスクより)

 10月分の第三曲目は、古いレーザー・デイスク・ストックからのオペラ報告であり、 8-10-3として、サー・ネヴィル・マリナー指揮アカデミー管弦楽団、ジョン・コックス演出のオペラ「羊飼いの王様」K.208、を取り上げた。この映像は、1989年1月のモーツアルト週間において収録され、生誕200年のモーツアルトイヤーにおいてレーザー・デイスクとして初めて発売されたライブ演奏であり、このオペラ初演時の宮廷での舞台を模したスタイルでザルツブルグ州立劇場で収録されている。このオペラの映像は、この演奏が最初のものであり、レーザー・デイスクが発売されて以来、非常に貴重な珍しい映像として重宝がられてきた。また、マリナーの指揮する映像も珍しいものであった。配役もアミンタ役のアンジェラ・マリア・ブラーシが熱演をしており、エリーザ役のシルヴィア・マクネアーおよびアレクサンダー大王役のジェリー・ハドリーなどが好演していた。以上のような珍しさを持つレーザー・デイスク(フィリップスPHLP-7801(070 329-1))であったので、早めに取り上げたものである。


 この祝典オペラは、ウイーンのヨーゼフ二世の弟マクシミリアン大公がパリ旅行の帰路にザルツブルグに立ち寄ったことを記念して、大司教コロレド伯が大公歓迎のプログラムとして上演された祝典劇であり、この種の作品には「アルバのアスカニオ」K.111、「シピオーネの夢」K.126、「テイト帝の慈悲」K621などがある。リブレットはメタスタージオの作であるが1751年の旧作であり、この原作の三幕を二幕につめ、多くのアリアをレチタテイーボに変えて、同じ筋を追いながらも簡略化を図ったものとされている。  あらすじは、シドンの正当な王位継承者であるアミンタは、その事実を知らずに羊飼いとしてシドン近郊の村に住み、貴族の娘エリーザと恋仲にある。一方、マケドニアのアレッサンドロ大王は、シドンの暴君を追放しその王位を正当な後継者に復させようとしていたが、アミンタがその人であることをシドンの貴族で部下のアジェーノルから知らされた。アジェーノルは追放された支配者の娘タミーリと恋仲にあるが、タミーリは大王を恐れてエリーザの家に羊飼いとして隠れていた。大王は探していた先王の娘タミーリがアジェーノルから元気であることを知らされ、アミンタとタミーリを結婚させて、シドンの国を与えようと決意した。しかし、タミーリからアジェーノルを愛していると迫られ、エリーザからもアミンタなしでは生きていられないと直訴され、羊飼いの姿で現れたアミンタからは、王位をタミーリに譲り自分はエリーザとともに羊飼いに戻りたいという申出を受けた。大王は突然の申し出に驚いたが、彼らの無欲な純愛の心を賞賛して、改めてアミンタにはエリーザを妃としてシドンの王とし、アジェーノルとタミーリには別の王国を約束するという英断をしたため、大王の善政を讃えた盛大な祝典劇の素材となっていた。
 

 マリナーの姿が見え、イタリア風の軽快な序曲が始まった。その途中で、18世紀の貴族社会の絵で飾られた豪華な幕が上がり、主役5人が全員舞台に登場し挨拶をした。宮殿の一室に設けられたような仮舞台であり、登場人物達は舞台の周りで腰を掛けて休んで出番を待っていた。序曲はアレグロからアンダンテイーノに入りそのまま、第一幕のアミンタのアリアが始まった。舞台はシドン郊外の麗らかな牧場を模して、模型の羊が二頭飾られていた。6/8拍子のパストラル風のアンダンテイーノのアリアで、羊飼いのアミンタは可愛いエリーザはどこだろうとのどかに歌っていた。そこへエリーザが現れ二人は恋を囁くが、大王が王位継承者を捜していることと、エリーザの母が二人の結婚を許してくれたことを話し、軽快な恋の喜びを明るく歌うアリアを歌った。曲はダ・カーポ・アリアでカデンツアのついたコロラチューラの伸びやかなアリアであった。続いてアミンタはしみじみと自分の幸せな毎日を考える長いレチタテイーボを歌った後、第三曲目のアリアを歌う。アリアはヴァイオリン協奏曲第三番K.216の第一楽章の開始主題に似たオーケストラ伴奏の後に、羊飼い賛歌を優雅に歌うものであった。このアリアは、アレグロに続くグラツイオーソの三部形式の大型のアリアであり、アミンタのブラーシはエリーザよりも小柄であるが、歌唱力が素晴らしく大いに存在感を発揮していた。



 そこへ大王と部下のアジェーノルが登場し、アミンタに声を掛けていたが、アミンタの無欲で純真な言動に心を打たれ、これぞ探し求めていたシドンの王の後継者であることを知って、大王は第4曲の王たるものの心構え説くアリアを堂々と歌っていた。このオペラの主人公のアレッサンドロ大王のジェリー・ハドリーは、1952年アメリカ生まれでヨーロッパで活躍をはじめた時期に当たり、期待通りのリリックなテノールの貫禄を見せていた。二人が退場するとき、アジェーノルは、羊飼いの女に声を掛けられるが、それが動乱後不明になっていた先王の娘タミーリで彼のかっての恋人であった。二人は愛の気持ちを互いに確かめ合い、アジェーノルは心が変わっていないことを告げる美しい愛の歌を歌った。弦楽器の伴奏で歌うアリアは、実に美しく、まさに愛のセレナードであると思われた。一方のタミーリは、彼を見送りながら神への感謝の意を込めて、第6曲の再会出来たことを喜ぶアリアを嬉々とした調子で歌っていた。舞台にはエリーザとアミンタが登場し、エリーザが両親の結婚の許しを得たことを喜び合っているところに、アジェーノルが現れ、アミンタを王と呼び、あなたこそシドンの王位継承者であることを告げた。二人は突然の話に面食らいながら、喜びの反面二人の間を妨げる悲しみもあると複雑な思いを込めながら、第一幕のフィナーレとなる二重唱を歌った。二重唱はアミンタの複雑な思いとエリーザの心配とがそれぞれレチタテイーボで歌われてから、アンダンテの二重唱となり、さらにはアレグロのニ重唱に発展する大型のフィナーレに相応しいアリアであった。







 チェンバロの伴奏で大王が滞在するテント村へエリーザが入ろうとして、アジェーノルに出合い、アミンタに会いたいと言うレチタテイーボで第二幕が始まるが、王のアミンタには軽々しく会えないと拒絶され、彼女は「バルバロー(酷い人)」と悲しみのアリアを歌い出し、次第に怒りのアリアになり激しく繰り返された。エリーザを見かけたアミンタは、羊飼いの服装で出てくるが、アジェーノルには王らしく振る舞えと忠告され、大王には王らしい服装に着替えよと命令された。大王は「加害する積もりはないのに、先王の娘タミーリが逃亡したのは残念だ。」とアジェーノルに所在を尋ねると、彼は安心して先刻所在が分かったばかりと答えた。すると大王は、「それは良かった。早速、タミーリに会いたい。そしてアミンタとタミーリを結婚させて、シドンの王位を継がせよう。」と大喜びして、素晴らしい第9曲のアリアを歌い出した。これはオーボエとフルートをオブリガートとする軽快なコンチェルタンテのアリアで、甘いテノールのコロラチューラを聴かせる素晴らしいもの。大王のハドリーは朗々と歌い上げ素晴らしい拍手を浴びていた。大王の考えで恋人を失うことになるアジェーノルはガッカリで悲痛な思いであったが、大喜びの大王の命令なので諦めざるを得ないと考えた。

   エリーザと気易く会えず、これが王座というものかと知らされたアミンタは、それどころか王の命令でタミーリと結婚させられることを聞き、物思いに沈みながらしみじみとエリーザを思って第10番のアリアを歌った。この曲は終始ヴァイオリンの美しいオブリガートがついた全曲の中でも最も美しいエリーザを思う優しい気持ちを歌うアリアであり、ブラーシの声とオブリガート・ヴァイオリンとが協奏曲のように掛け合う部分が素晴らしかった。とりわけ最後の独奏ヴァイオリンと絡みあったカデンツアが見事であり、この曲もヴァイオリン協奏曲第3番K.216の作風に影響を与えているような気がした。




 アミンタが去り、絶望しているアジェーノルのところへアミンタとタミーリが結婚するという噂を聞いたエリーザが駆け込んできた。アジェーノルは「その噂は本当だ。大王が本気で、アミンタも大王の命には逆らえない。」と答えると、エリーザは驚いて泣きながら去った。続いてタミーリも噂を確かめに来た。彼女はアジェーノルが自分をアミンタの妃にすることに同意したのが不満であり、せめて自分の結婚式には出席してくれという。それはひどいというアジェーノルに対し、彼女はいきり立って「ひどいのはどっち、私を人に譲ったのはあなたでしょう」と第11番のアリアを歌った。グラチオーソの充実した伴奏を持ったロンド形式のアリアで王女姿のタミーリは堂々として歌っていた。一番苦しいのはアジェーノルであり、王の命令には逆らえない苦しみをこのオペラでは初めてのハ短調の第12番のアリアで悲痛な声で歌っていた。




   場面が変わって、アレッサンドロ大王のもとでは、アミンタとタミーリの結婚と即位の式典の準備が始まっていた。大王は羊飼いの新しい王を祝福するため、神々への祈りを捧げる第13番のアリアを歌い、私の願いを聞き入れ給えと高らかに歌っていた。  そこへタミーリが駆けつけ、大王への挨拶もそこそこに私はアジェーノルを愛していると彼の前で説明し、また、エリーザからも私は子供の頃からアミンタなしでは生きられないと直訴された。思わぬことに驚く大王の前に、昔の羊飼いの姿で現れたアミンタから、自分は王位をタミーリに譲り、エリーザとともにもとの羊飼いに戻りたいという。







 これを聞いて彼らの純粋な愛の気持ちと無欲な正直な心に深く感心した大王は、自分の思いついた決意を変更し、改めてアミンタにはエリーザを妻とした上でシドンの王位を与え、王女タミーリには恋人のアジェーノルと結婚させた上で別の国を与えようと宣言した。かくて混乱の地シドンには、心美しい羊飼いの王がめでたく誕生して、大団円のヴォードヴィルとなり、大王の英断を讃え大王に幸いあれと願う5人の登場人物全員によるめでたしめでたしの5重唱のフィナーレが始まった。このアンサンブルはモーツアルトらしい力強い色彩的なもので、何回か繰り返される5重唱の間にはアミンタとエリーザの喜びの二重唱や、男性二人の二重唱、女性三人による三重唱などが入り、男声も女声も全て高音という不利な条件を克服した緻密なアンサンブルで造られており、終わりに再び5重唱となって盛り上がりを見せて終息した。終わっても拍手が絶えない盛大な終幕であった。



 久し振りで古いLDの「羊飼いの王様」を見たが、簡素な舞台の割りには衣裳がとても凝っていて色彩豊かであり、何よりも5人の主役が揃っていたため、充分に満足できる劇場用の祝典セレナータとなっていた。マリナーのオペラはCDではいくつかあるが、映像ではこれがただ一つの作品であった。作曲期間はわずか6週間しか与えられなかった作品のようであるが、モーツアルトは数年前に作曲した祝典セレナータの「アルバのアスカニオ」K.111、「シピオーネの夢」K.126などよりも遙かに充実した作品を書き上げていた。中でもヴァイオリン協奏曲第三番の冒頭部に似たアミンタの第3番のアリア、アジェーノルが歌う第5番のアリア、第一幕フィナーレの第7番の二重唱、大王の歌う第9番のアリア、ヴァイオリンのオブリガートがついた第10番のアミンタのアリア、フィナーレの第14番の五重唱などはいずれも力作であり、後期のオペラに現れるアリアの片鱗を味わうことが出来た。歌手陣ではアミンタ役のマリア・ブラーシが抜群の出来であったが、彼女はどうしたのかこの曲以降のモーツアルト・オペラには見当たらず、残念に思っている。

(以上)(08/10/20)


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